非国民通信

ノーモア・コイズミ

光は失われるばかりなのだろうか

2011-07-13 22:47:26 | ニュース

 たまに光っているものもありますが、自販機から明かりが落とされて久しい今日この頃です。昔から左派ですとパチンコの代わりに自販機とかコンビニの深夜営業なんかを叩く人が散見されたように記憶していますが、震災後の節電ムードの中、自販機は軒並み照明を落とさざるを得なくなっているようです。まぁ、真昼の屋外であれば必要はないでしょうし、屋内でも電力需要のピークとなる時間帯は節電に協力してくれないとまずいことにもなりますから、ある程度は理解できます。ただ、夕暮れ以降はどうなのでしょうか。電力需要のピークを過ぎた夜間にまで照明を落とす必要があるのか、別に灯火管制が敷かれているわけではないのですから、自販機が暗い夜道を照らしてくれたって良いはずです。そうならないのは電気代を節約したいのか、それとも節制ムードに棹さして世間の反感を買うのを恐れているのか、ともあれ夜道は暗いままです。

 あるいは以前にも触れましたが、私が給与振込先として使っている地元の銀行は、節電のためとして長らく店舗外のATMを全面停止していました。そしてATMが再開したかと思いきや、今度は「短縮営業」と称して「電力需要のピークと重なる時間帯」だけATMを稼働させるという、節電の面では全く意味がない愚行に走っていたものです。夜、私が地元に帰ってくる頃にはATMは閉まっています。電力需要のピークが終わるのに合わせてATMも閉めてしまう、それが節電のためと言うのですから馬鹿げた話です。でも世間的にはそういうものなのかも知れません。夜間の稼働の方が何となく「ムダっぽい」イメージがあって、夜間の稼働を止めることで「節電に協力している」かのごときイメージを作っている、そう言うところも少なくないでしょう。


節電で照明消え…パンク修理中はねられ3人死傷(読売新聞)

 8日午前2時30分頃、東京都江戸川区西一之江の首都高速7号下り線で、乗用車から降りてパンクの修理をしていた千葉県市原市五井東、会社員佐藤富士夫さん(51)ら3人が後方から来たタクシーにはねられた。

 この事故で、佐藤さんは全身を強く打って死亡。40歳代と60歳代とみられる男性2人も重傷を負った。

 警視庁は、タクシーを運転していた板橋区常盤台、運転手梅坪利二三容疑者(61)を自動車運転過失傷害容疑などで現行犯逮捕。容疑を同過失致死傷に切り替えて調べている。現場は節電のため、照明灯が消されており、梅坪容疑者は「直前まで(3人が路上にいることに)気付かなかった」と供述しているという。

  さて、例によって節電のためと称して照明灯を落とされた深夜の路上で悲劇が起こりました。電力需要が少なく節電の必要が全くない時間帯に照明灯を落とすという「パフォーマンス」のために、リスクが増大している典型的な例と言えます。夜に明かりを煌々と照らしていれば、それこそ「ムダ」と見なされやすい、その傾向はなおさら強まるばかりなのかも知れませんが、ムダと呼ばれようと必要なものは必要なのです。原発事故後は科学的であることを放棄した人も多いですけれど(代わりに陰謀論系ジャーナリズムや週刊誌的な煽り報道が信奉されるようになりました)、何が必要で何が必要でないのか、その辺は冷静に考えて欲しいところです。


地上の暗黒--燈火管制と法 水島朝穂 『三省堂ぶっくれっと』No.121

 灯火管制は、「敵機」に対して、みんな一丸となって「地上の暗黒」をつくろうという「運動」である。しかも、室内の電灯に覆いをつけるなどの比較的簡単な作業で、市民も「参加」できる。だが、自分勝手な輩が一人でもいて、電灯をこうこうと点けていたら、みんなが「目標」になる。「光を出す奴は非国民」。「市民の規律と徳義心」が発揮され、市民の相互監視・統制は勢いを増す。

 

・・・・・

 

パナソニックが「節電本部」。働き方を工夫、午前4時半始業など(日経BP)

 節電本部は、ピーク電力の15%削減に向けて、自家発電の新規導入、省エネ診断の実施、勤務時間の移行などを実施する。2007年から実施している省エネ診断に加えて、「働き方まで見直す」(宮井役員)のがポイントだ。事業所の特性に合わせてそれぞれ節電対策を推進する。

 例えば、施設照明などを生産するパナソニック電工の新潟工場は、午前8時50分~午後5時15分としている勤務時間を見直す。午前4時35分~午後1時と午後4時~午前0時25分の2班に分けて、ピーク時間帯にかかる午後1時~午後4時までラインを停止する。電子部品などを扱うインダストリー営業本部は、8月6日~21日の16日間、在宅勤務や直行直帰の勤務形態を推奨し、東京・品川などにあるオフィスを一斉に閉鎖する。

 一方こちらは、日中の明るい時間だけATMを稼働させるという某銀行の馬鹿げた自称節電策とは異なり、肝心要のピーク時間帯にラインを停止されるという、力業ではありますが効果は抜群の節電計画が紹介されています。節電という面ではまさに決定打とも言うべきプランには違いありません。ピーク時間帯に工場のラインが止まれば、電力のやりくりは随分と楽になること請け合いです。ただ、そこで働く人はどうなるのでしょうか。「働き方まで見直す」などと言えば聞こえは悪くありませんけれど、実際にやっていることは午前4時からの早朝勤務と、夜中の12時過ぎまでの深夜勤務というシフト制です。今まで9時から5時までの勤務シフトだったのが、いきなり早朝と深夜のシフトに切り替えられるとあらば、働く人の負担は当然ながら激増します。体調を崩す人もいれば、家族との生活に支障を来す人も出てくることでしょう。節電に励むと言えば世間のウケは悪くないのかも知れませんが、そこで負担を負わされているのは従業員だということは、もうちょっと意識されて欲しいところです。

 残念なことに福島の原発事故以降、かつて左派として振る舞っていた人の多くは労働者のことを考えるのを止めたかに見えます。それもまた流行というものなのでしょうけれど、反原発論の盛り上がりの中で、原発を罵り恐怖を煽り立てる姿勢の強弱が競われるような有様です。電力不足の煽りを受けて生活に不自由する弱者は元より(健常者には過剰に見える明るさや便利さも、障害を抱えている人にはどうでしょうか)、深夜や休日の労働に駆り立てられたり失業の危機にされされる労働者について、かつて左派として振る舞っていた人の大半は黙して語ろうとしません。経済的な苦境のために自ら死を選ぶ人が万を数えるにも関わらず、雇用=経済のことを慮るのは原発事故の被災者を軽視することであるかのごとく扱う人の声も日に日に猛々しさを増すばかりです。結局のところ一口に「左派」と言っても必ずしも労働の問題に関心が高いとは限らない、ただ左派コミュニティ内部での流行を追いかけているだけの人も多かったのでしょう。

 むしろ労働に纏わる普遍的な問題が、あたかも原発に特有の問題であるかのごとく矮小化して語られるケースも目立ちます。業務内容が求人時の説明とはかけ離れていたり、下請け孫請けと中抜きされていく過程で現場作業員の取り分が仕事に見合うものでなくなったり、あるいは職場の安全管理体制に不備が多く自分の身は自分で守るしかない状況だったり等々、こういうことは日本の労働市場全般に関わる問題のはずですが、これがどうも原発に固有の問題であるかのごとく語る人もいるわけです。原発にネガティヴなイメージを与えるには、そういうやり口が好ましいのかも知れません。ただ、原発を「犯人」にすることで原発は潰せても、働く人が搾取されたり危険にさらされる状況を変えることが出来るのかどうか、大いに首を傾げるばかりです。

 電力会社社員を犯罪者のごとく罵る人々もいます。まぁ、今までの公務員叩きと構造は一緒で橋下辺りの言う「公務員」「職員」を「電力会社社員」に置き換えただけみたいなところもあって進歩がないなと思ったりもしますけれど、公務員叩きの不合理を指摘する人に比べて電力会社社員への誹謗中傷を批判的に見る人がどれだけいるでしょうか。もしくは、犯罪加害者にも守られるべき人権はあると訴えてきた人の中で、いったいどれだけの人が電力会社社員にも労働者としての権利はあると語れるでしょうか。公務員なり犯罪加害者なりJAL社員なり「嫌われ者」に対するバッシングには異議を唱えてきた人でも、電力会社社員に関してはどうやら見捨てようとしているようです。安易に人員整理や労働条件の不利益変更、年金受給額の削減を認める前例を作ってしまうことは労働者全体にも大いなる不利益をもたらすこととなるわけですが、今や左派も労働者のことを考えるのを止めているとしたら救いはありません。

 

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2 コメント

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反原発は国民統合の象徴 (Ben)
2011-07-14 01:17:09
派遣村、格差、貧困論から無縁社会を経て、今は反原発が「左派」の方々のトレンド、もっと下世話に言えばメシの種なんでしょうね。まぁ、ご苦労様なことです(苦笑)。
左翼の私にも、ちょっと目まぐるしすぎてついていけません。派遣法改正に少し期待していたのですが、どこへ行ってしまったんでしょうか?もう労働者の問題にはまったく興味がなくなってしまったのかなあ。
あ、でも反原発運動はいまや「右も左もない国民運動」なので、山本太郎も菅原文太も安心して参加できるし(彼らがアメリカの核の傘や在沖米軍にも反対しているのか寡聞にして知りません)、「八紘一宇」を唱える強面の方々も参加しているんでしょうね。
放射能の拡がりに国境はないのだから、本当に原発に反対したいなら中国、韓国、台湾等々の反原発団体と「連帯」(左翼臭い言葉ですね!)しなきゃ意味がないわけですが、彼らにその発想はまったくないでしょうね。
逆に万一中国や韓国の原発から放射性物質がやってきたら、狂信的なレイシズムに火が付くんだろうなということは、高い確率で予想できると思います。


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Unknown (非国民通信管理人)
2011-07-14 23:33:01
>Benさん

 左派は左派なりに流行を追いかけているところもあるのでしょうね。福島で事故が起こっても雇用や労働に関わる問題が消えたわけでもないのに、今や「脱原発が第一」で、脱原発のために国民の生活を悪化させていようがお構いなしの状況ですから。鬼畜米英ならぬ鬼畜東電とでも言うべきか、共通の「敵」を前に左右が連帯しているような有様ですけれど、今のようなノリがどういう末路を迎えるかは、歴史から学べるような気がします……
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