職場の酒席で上司を批判 「4階級降格は妥当」 逆転敗訴で上告 札幌高裁判決(北海道新聞)
職場の懇親会での発言を理由に、管理職の部長から四階級降格の処分を受けたのは違法だとして、空知土地改良区(滝川)の総務部長だった男性(58)が地位確認を求めた訴訟で、札幌高裁(末永進裁判長)は、男性の請求を認めた一審判決を取り消し、「管理職は酒席でも節度ある言動が必要」として、男性の請求を棄却した。男性は高裁判決を不服として二十九日、上告した。
改良区は同年十二月の理事会で、男性の発言を理由に「管理職としてふさわしくない」として、管理職の総務部長から管理係長に降格させた。
男性は札幌地裁滝川支部に地位確認を求め提訴し、「酒席での役員批判を理由に四階級も降格させるのは裁量権の逸脱で違法」などと主張。改良区は「発言は職場秩序を乱すもので、総務部長の素質に欠ける」と反論した。
これに対し、高裁判決は「懇親会の費用は改良区が負担しており、職務に関連がないとは言い難い」とした上で、「総務部長には酒席でも節度ある言動が求められる」とした。さらに、男性が二十年以上前に酒席での口論を理由に降格処分を受けたことも挙げ「今回の発言は管理職としての適正も欠き、係長への降格は裁量の範囲内」とし、処分は妥当とした。
上司に意見した部下が不興を買ってなんと4階級もの降格処分、この処分の撤回を求め訴訟に発展したものの、高裁では請求を棄却と。そうそう、現場の人間と違って役員はお飾りの名誉職の場合が多いから、たいていは仕事の邪魔なんですよね。役員がしゃしゃり出てきたせいで仕事に支障を来した経験のある人は少なくないのではないでしょうか。そりゃ言いたいことの一つや二つはあるでしょうねぇ。
しかるに世の中には上司を何よりも大切にする会社、組織はままあるわけでして、上司のご機嫌を取るのも仕事の一つになっているケースがしばしば。上司が思いつきで怒り出せば頭を下げて何とか話を合わせ、上司の妨害をやり過ごしながらきっちりと自分の仕事を進めるのが会社で要求される能力の一つでもあります。
教皇無謬説なんて概念がありますが、頻繁にお目にかかるのは上司無謬説、上司の言うことに誤りはなく、上司の言葉は絶対の真理、もし上手くいかないのであればそれは上司の指示が間違っていたのではなく部下が上司の指示をどこかで間違えたからであり、その責任は部下にある。上司は常に正しく、上司と部下の意見が食い違うのであればそれは部下の誤りを意味する。ゆえに上司は下からの声に耳を傾ける必要などなく、ただ下へと指示を下せばよい、そして下は上へと意見する必要などなく、ただ上を仰ぎ見ていればよい、と。
さて、犬が人を噛んでもニュースにならないが人が犬を噛めばニュースになる、この論法と同じ論理でしょうか、上司が部下を批判するのはニュースになりませんが部下が上司を批判したら大問題に発展したのが今回の事件です。上司から部下への公私にわたる誹謗中傷、人格攻撃や暴力行為なんてのは珍しくありませんが、それに対して「節度ある言動が求められる」云々の口実で4階級も降格されるケースはあり得るのでしょうか? わたしは私でそれなりにいろいろな職場を渡り歩いてきましたが、部下が上司を面前で批判することが許されている会社は見たことがありません(陰口は別ですよ)。それから上司が部下を日常的に罵倒する会社は珍しくありませんでしたが、それを理由に上司が処分を受けるようなケースは見たことがありません。
被告である改良区側は「発言は職場秩序を乱すもので」と主張していますが、そこで乱されたという職場秩序とは何だったのでしょうか? これがもし、上司が部下を批判したのであったなら「管理職としてふさわしくない」という発想が出てきたでしょうか? それこそ発言内容が不当な侮辱であったとしても、それを気にする方がおかしい、そんな風に判断されるのではないでしょうか。
そもそも、部長から係長までの降格、逆に係長から無精まで昇進するのにどれだけの時間が必要であったかを考えてみていただきたいのですが、この処分の重さは異常です。いったい何がこの一件をそこまで重大視させるのでしょうか? 絶対に犯されてはならない秩序として上下関係があり、批判とは常に上から下へと行われるもの、その上下関係が崩されることがあってはならない、許されてはならない、そんな意識が働いているのではないでしょうか。部下が上司を批判しただけでこれほどの降格人事、それを高裁が承認する、ここに「上」の「下」に対する恐れと後ろめたさ――すなわち白人農場主が黒人奴隷に抱いていたのと同じ感情――を感じたのは私だけでしょうか?