大手企業ばかり考えている就活生は、志望業界の中堅、中小企業にも目を向けてほしい。今回、『就職四季報2021年版』(優良・中堅企業版)から、従業員数が1000人未満の中堅企業を対象に、平均年収700万円以上、かつ新卒3年後定着率80%超の企業を抽出。「平均年収が高く離職者が少ない中堅企業」として紹介したい。
(中略)
ランキングに掲載した会社の新卒採用数は少なく、2016年の同平均は11.8人だった。採用が1人の会社も4社ある。新卒採用や入社後の教育は、一般的に負担のかかるもので定着率も大手企業に比べて低い。その中で、3年後定着率が高い会社は、働きやすい職場環境を整備するとともに、人材育成を行っているものと推察される。
ランキングに掲載した会社のうち、上場していない会社は73社あり、未上場企業でも定着率の高い会社はある。大手企業ばかりにエントリーするのではなく、中堅企業まで視野を広げ、キラリと光る会社を見つけてほしい。
こちらは「就職四季報」なる情報誌の編集長が書いたという記事ですが、いかがでしょうか。曰く「就活生は~中堅、中小企業にも目を向けてほしい」とのこと、就活業界では決まり文句の一つですけれど、それが就活生の役に立つかどうか疑問に感じないでもありません。中小企業に人を押し込みたい人の立場からはともかく、実際に働く人にとっては……
そもそも引用元で挙げられている「中堅、中小企業」は規模こそ大企業でないかも知れませんが、中途採用を目指すような人にとっては完全に高嶺の花、というレベルです。名前が出ているのは例外的な優良企業揃いで、この辺のクラスの企業を看板に掲げて「中堅、中小企業にも目を向けて」と説くのは、それこそ典型的な羊頭狗肉と言えますし。
根本的な問題は、こうした「中小でも優良」な会社は引用元でも認められているとおり、「採用数が少ない」ことです。「大手企業は狭き門、狙いは好条件の中小・中堅」と、訳知り顔で語る就活評論家は枚挙にいとまがありませんけれど、では中小に目を転じればどうなのか、少なくとも「中小でも優良」な企業に限れば、それもまた大企業同様の狭き門です。
当たり前のことですが、離職率の低い会社とは、人員補充の必要性に迫られることがない会社でもあります。逆に離職率の高い会社であれば必然的に、継続的な人員補充を必要とします。単純に企業規模が大きければ、相応に人員補充=採用の機会も大きいことでしょう。しかし企業規模が小さいにも関わらず採用数が多いとしたら、そこには何があるのでしょうか?
3年後定着率が高い――要するに辞める人が少ない会社であれば、代わりの人を新たに採用する必要はありません。それは企業規模に関わらず優良企業の条件の一つと言えますが、やはり企業規模に限らず「狭き門」へ繋がるわけです。反対に辞める人が多ければ、その分だけ代わりの人員募集も多い、「採用意欲が高い」会社となりますけれど、そういう会社を勧める人がいるならば、ちょっと警戒した方がいいと思いますね。
前にも書きましたけれど、ウチの会社の親会社は新卒一括採用ですが、私の勤める子会社の方は通年・中途採用です。親会社の方は離職率が低いので4月の一斉入社でも困らない一方、子会社は離職率が高いので、年間を通して人員補充を行っています。そして親会社は教育体制も整っているので新卒を一から育成していますが、子会社の方は経験者採用が専らです。
当然ながら親会社の方が「狭き門」であり、子会社の方は私のような氷河期世代のあぶれ組でも中途では入れたりするわけです。じゃぁ、子会社の方が狙い目かと言えば、そうでないことは誰にでも分かることでしょう。入社難易度の差は、会社の質の差でもあります。中堅・中小に目を向ければ解決するような問題は何一つありません。
優良でもマイナーな会社や小規模な会社なら簡単に就職できるというのであれば、話は簡単です。そういう会社を探すのも学生にとっては一苦労かも知れませんが、結局のところ優良な会社とは離職率の低い会社であり、離職率の低い会社である以上は採用数も少なくなる、企業の規模が小さいほどかえって「狭き門」となるわけです。中小に目を向けることでは、何も解決しません。