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ノーモア・コイズミ

NATOの真意と、どこまでもナイーブな日本

2023-09-24 22:08:01 | 政治・国際

ポーランド、ウクライナにこれ以上武器供与せず 首相(AFP BB)

【9月21日 AFP】ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ(Mateusz Morawiecki)首相は20日、自国の防衛に専念するため、ウクライナへの武器供与はこれ以上行わないと述べた。

 ポーランドはウクライナ産穀物の輸入をめぐって同国と対立し、この発表の数時間前にはウクライナ大使を呼び出していた。

 モラウィエツキ首相は、穀物輸入をめぐる不一致にもかかわらず、ウクライナを支援し続けるのかという記者の質問に対し、「わが国はウクライナにこれ以上武器を供与しない。ポーランドの武器の近代化を進めるからだ」と答えた。

 

ポーランド大統領、首相の「武器供与停止」発言打ち消し(AFP BB)

【9月22日 AFP】ポーランドのアンジェイ・ドゥダ(Andrzej Duda)大統領は22日、ウクライナへの武器供与をこれ以上行わないとする前日のマテウシュ・モラウィエツキ(Mateusz Morawiecki)首相の発言について、誤って解釈されたと主張した。

(中略)

 だがドゥダ大統領は首相の発言について、「最悪の形で解釈された」「ポーランド軍を近代化するために現在購入している新しい兵器は、ウクライナに供与しないという趣旨だったのだろう」と民放テレビTVN24に語った。

 ポーランドは、米国や韓国をはじめとする国々との間で多数の複数の武器調達契約を結んでおり、韓国にはK2戦車やK9自走榴弾(りゅうだん)砲を発注している。

 ドゥダ大統領は「米国と韓国から新兵器を受け取れば、ポーランド軍が現在使用している兵器を放出することになる。おそらくウクライナに供与することになるだろう」と述べた。

 

 現代においてウクライナと呼ばれる地域には、かつてキエフ公国という「ルーシ(ロシアの古名)」の中核国家が存在しました。これがモンゴル(タタール)によって滅ぼされた後にモスクワを中心としてロシア国家が再興を果たすわけですが、タタールが衰退した後にキエフ周辺を支配するようになったのはロシアではなくポーランドでした。ウクライナが現在の西部国境を獲得するに至ったのは独ソ戦によるポーランド国家の消滅を経てのことで、歴史的には因縁浅からぬ間柄でもあります。今でこそロシア憎しで結びついている両国にも、そうした歴史はあるのですね。

 ウクライナからの農産物はアフリカではなく専ら欧州方面に輸出されています。その結果として東欧では農産物の価格が下落、自国産業の保護のためウクライナからの輸入に制限を課す国も出てきたところで、ポーランドもその一つに加わったわけです。結果としてウクライナとポーランドで非難の応酬が展開され、それが冒頭の首相発言につながり、反ロを重視する大統領が釈明する展開になったと言えます。

 まぁ落ち着いてみれば、どちらも同じようなことを述べているのかも知れません。結局のところ「最新鋭の兵器は送らない」「新兵器へのリプレイスで不要になった旧式の兵器を送る」という点では今まで通りのウクライナ支援が継続されるだけ、何も変わるものではないのでしょう。ただ暗黙裏の了解であったことが明言されるようになった、というのは新しいとも言えます。今までもこれからも、表向きはウクライナ支援に全力と見せかけつつ、その実は在庫処分品みたいな旧式兵器ばかりを送る、この構図を政府首脳が認めたわけですから。

 アメリカによる支援もまたゼレンスキーの望むがままではなく、射程の制限された兵器や一世代前の兵器に限定して送り込むなど、決して最新の兵器を最大量で支援してきたものではありません。表向きは紛争の激化を避けるためとされていますが、実際のところはウクライナ人の犠牲などアメリカにとってはどうでも良い、自国兵器の更新の妨げとなるような古い兵器を体よく処分して、そのついでにロシアを損耗させれば十分という判断の結果でしょう。アメリカもポーランドも他の国も、概ね似たようなものです。

 ゼレンスキーはイラン・イラク戦争当時のサダム・フセインと立場がよく似ています。しかしアメリカを後ろ盾としてきたサダム・フセインが最終的にはアメリカの敵となったように、ゼレンスキーの将来がどうなるかは誰にも分かりません。かつてアメリカはイスラム武装勢力に武器を供与し訓練を施し、アフガニスタンでソ連と戦わせてきました。このイスラム戦士の中からはアルカイダが生まれ、アメリカへのお礼参りに訪れたのはよく知られるところです。昔年のソ連はモンキーモデルと呼ばれる性能を落とした兵器を同盟国に配備していたと言われますが、現代のNATO諸国も当時のソ連政府と同じ心配を抱えているのでしょう。

 そもそもウクライナは2014年のクーデター以前は選挙によってロシアと協調姿勢の政権が成立していたわけで、決して反ロシア一辺倒の国ではありません。NATOの靴を舐める政権が有権者の怒りを買って、外交方針がひっくり返ることだってあり得ます。それ以前にウクライナは中国と関係が深い、ソ連製の空母を中国に売却するなどソ連時代の兵器開発技術を中国へと譲渡してきた実績が豊富です。加えて汚職も多く、今なお兵器の横流しで逮捕される政府や軍の関係者は後を絶ちませんが、発覚していないものだって多いことでしょう。

 加えて戦場では損傷した兵器がロシアによって鹵獲されることもあります。もしウクライナに最新鋭の兵器が送られたなら、NATO諸国は二重三重の技術流出のリスクに晒されることになるわけです。そうなると必然的にゼレンスキー陣営へ送られる兵器は限定されてくる、今さら中国やロシア、闇市場に流れたとしてもそこまで痛くはない旧式の兵器が専ら送られることになる、だからポーランドの首相と大統領が口を揃えるように「新しい兵器は送らない」「これまで使っていた古い兵器を送る」ことになると言えます。

 結局のところNATO諸国もゼレンスキー政権への支援には一線を引いているところがある、決して全力ではなく自国を優先する意識を残しているのが実態です。しかるに日本はどうでしょうか? 欧米の右派が自国第一主義の姿勢を強める中で、日本の右派は今なおアメリカ第一主義に止まっている、アメリカの覇権を守るため、アメリカ「陣営」の勝利のために自国の利益を蔑ろにしてはいないでしょうか? 日本の外交方針は左右どちらの観点からも間違っている、しかも間違った方向への誘導を大学教員が先頭に立っているところもある、経済だけではなく国際政治の面でも日本は立ち後れた国になってはいないかと危惧するばかりです。

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日本の未来を憂う

2023-09-20 21:35:31 | 政治・国際

突然の首脳宣言合意 日本政府関係者「聞いてない」「ふざけるな」(毎日新聞)

 10日閉幕した主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、採択が危ぶまれていた首脳宣言が初日の討議の途中に発表されるという異例の展開で、日本政府も対応に追われた。

(中略)

 モディ氏の発言の真偽を確かめると、会議室にいた外務省幹部は「発言を聞いていないので知らない。少なくとも、私がここに来るまではまとまっていなかった」と驚いた表情で話した。

 ホテルにいたある交渉関係者は、首脳宣言の案は見たというが「合意したなんて一切聞いていない。対外発信の前に我々には知らせてほしい」と話した。そして一言、「驚いた。ちょっとふざけるなという感じだ」とこぼした。

 

 さて先日はG20サミットが開催されたわけですが、首脳宣言が初日に発表されるなど異例の展開もありました。この首脳宣言、どうも政府関係者によると日本の与り知らぬところで決まったようです。まぁ日本政府に外交上の意思はない、アメリカの意向に沿うだけの国を相手に合意を取り付ける意味などないと判断されたのでしょう。アメリカがインドを友好国と見なせば日本もそれに倣うだけですから、日本を蔑ろにしたところで何かが変わるものでもありません。

 なお採択された首脳宣言では第8条に「ウクライナにおける戦争に関し(Concerning the war in Ukraine)」と記されています。日本のように一方の立場で参戦している国ですと「ロシアによるウクライナ侵略」みたいな表現になるのに対し、インドが議長国として採択した宣言は至って客観的な表現に収まっています。実際に私もブログ上では「ウクライナを舞台とした戦争」と可能な限り中立の表記に努めてきただけに、インド政府のバランス感覚にはうなずけるところです。

 現実問題として、2013年から2014年にかけてウクライナでは反ロシア派によるクーデターがあり、反クーデター勢力と西側諸国の承認を得たクーデター政権による内戦が続いていたわけです。この内戦にロシアが直接介入を開始したのが2022年で、あたかものそのときから戦争が始まったかのようなミスリーディングが日本国内では繰り返されて来ました。そしてNATO諸国はクーデター政権の2代目であるゼレンスキーへの大々的な支援によってロシアと戦う役割を担わせています。

 まず第一に反ロシア派のウクライナ人と親ロシア派のウクライナ人の戦いがあり、日本政府は前者を支援し行者に制裁措置を科してもいるところです。そして大きな枠組みとしてはウクライナを傭兵国家に仕立て上げるNATOとロシアの戦いがあります。これをロシアとウクライナの二国間の戦争であると見なすことは現在に至るまでの背景から目を背けることに他ならず、平和を希求すればこそ絶対にあってはならない振る舞いであると言えるでしょう。

 日本の報道を見る限り、キエフ政権の軍隊は太平洋戦争当時の日本軍のような勢いで着実な勝利を重ねているようです。ただ不思議なことに長期的なスパンで見ると膠着状態は続いたまま、戦局が大きく動く様子はありません。国内主要メディアの伝えるところが正しいのであればロシア軍は甚大な損失を被っており、NATOとキエフ政権の軍隊によって壊滅させられていてもおかしくないはずですが、なぜ事態には目立った進展が見られないのか、それは考えられる必要があります。

 これもやはり偏向報道のたまもので、ゼレンスキー陣営に関しては軍の被害が報道されない、あたかも民間施設だけが破壊されたかのように日本のメディアでは伝えられているところが大きいでしょう。逆にロシア側は軍の被害だけが尾ひれを付けて伝えられるわけです。現実には戦争である以上、お互いに無傷ではいられません。双方の軍に損耗が生じるのは当たり前のことなのですが、上記の偏向報道の結果としてロシア側だけが一方的に軍を失っているように見えてしまうと言えます。

 そうでなくとも日本は気持ちの上では戦争当事国、キエフ政権側に立った一方的なプロパガンダを垂れ流し続けてきました。報道当初は真偽のほどが分からないものも大半は実体を伴わないことが後に明らかになったわけですが、このデマを垂れ流してきたメディアや大学教授連中が糾弾を受けた事例を私は知りません。結局のところ、ロシア側を貶め、NATO陣営の士気を鼓舞するようなものになっていれば何でも受け入れられている、それが我が国の戦時報道の実態ではないでしょうか。

 現実に向き合う、というのは日本人の最も苦手とするものなのかも知れません。ウクライナを舞台にした戦争においては典型的で、ひたすらゼレンスキー陣営の大本営発表をそのままに喧伝することに努めてきたのが我々の社会であると言うことが出来ます。しかし日本が「国際社会」と呼び反ロシアで盛り上がっている白人サークルは世界における少数派に過ぎない、日本が「グローバルサウス」などとレッテルを貼っている国々こそが多数派として力を付けている中で、我が国の立ち位置はこれで良いのかと、大いに未来を憂うばかりです。

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謎の世論調査

2023-09-13 23:09:55 | 政治・国際

内閣支持率「38.7%」で“下げ止まり”の背景と、若い世代ほど岸田内閣に“厳しい”実像【JNN世論調査解説】(TBS NEWS DIG)

JNNの最新の世論調査で5月から3か月連続で下落していた岸田内閣の支持率が先月から1.6ポイント上昇し38.7%となった。なぜ上昇に転じたのか。TBS政治部・世論調査担当デスクが解説する。

 

 ……政治部の担当デスクが解説する云々との触れ込みなのですが、引用元を読んでも理解に苦しむところは多いです。まぁ国民の生活水準を低下させても支持を失うとは限らない、むしろ人気を博することも多いですので、内閣支持率の下げ止まりについては、それらしき理由を列挙されれば格好は付くでしょうか。しかるに以下の「性別・年代別」の支持率に関しては納得のいく説明は見当たりません。

 これを見ると30代女性が突出して高い支持率を記録しています。俄には信じがたいところもありますが30代女性の過半から支持を得ているのであれば、一概に若者世代の内閣支持率が低いとは言えないでしょう。もちろん「TBS政治部・世論調査担当デスク」からすれば「30代女性は若者じゃない」のだとは思います。ただ、20代までは男女ともに支持が低迷しているにも拘わらず、子育て世代でもある30代に入ると支持率が急上昇する、特に女性では支持率が一気に倍増しているわけです。この世論調査が本当に実態を反映しているのであれば、大いに注目されるべき結果と言えます。

 これが世論調査対象の偏りが生んだ一時的な事象なのか、それとも継続して見られるものなのかは大いに興味深いところ、今後の推移を見守るため、このブログに引用することで記録しておきたいと思います。もし他社の世論調査や次回以降の調査でも類似の結果が見られるようであれば、岸田内閣の評価についても少し再考しなくてはならないのかも知れません。

 なお、こちらの世論調査結果も面白いです。例によって引用元に納得できる説明は見られませんが、30代男性では62.5%もの賛同を得られているライドシェアが40代男性になると33.0%の賛同に止まるなど、急減を見せています。女性でも30台未満の間は53.8%と賛成が過半数を占めていますが、30台に入ると37.9%まで賛成意見が急降下するわけです。男性は39まで、女性は29までが怖いもの知らずで、それぞれ40代、30代に入ると急に警戒感が強まったりするのでしょうかね。

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自称・国際社会と本当の国際社会

2023-08-27 23:02:03 | 政治・国際

 先日はBRICS首脳会議が開催され、既存5カ国に加えてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEと6国の正規加盟が決まりました。元は2000年代に新興国とされた4カ国の頭文字を並べただけの造語であったBRICSが、今このように公式な首脳会議の場となったのを見るのは感慨深いものがあります。新加盟国を加えた11カ国は人口規模でアメリカとその衛星国の合計を大きく上回り、いずれは世界経済をも牽引していく可能性を秘めていると言えるでしょう。

 アメリカの傘下にある国々とそうでない国々との陣営対立が深まっていく一方、中東で反目していたイランとサウジアラビアの国交が正常化されるなど独立国サイドでは平和を志向する動きも見られます。我が国はアメリカとその衛星国ばかりに目を向け、それを「国際社会」と呼んできました。しかるに日本の眼中にない本当の多数派である国々の間では緩やかな連帯の動きが広がっているわけです。地理的な塊でもある北米やヨーロッパ諸国はさておき、アジアにおける日本の孤立が少なからず心配ですね。

 日米欧の排他的仲良しグループの強みは、技術や経済、軍事力において先行してきたことです。そして先行してきたが故に少ない人口規模でも世界における優越的地位を長らく保ってきました。ただ衰退が続き経済面で隣国の後塵を拝するようになった日本を筆頭に「先進国」と新興国の差は縮まる一方であり、それが将来的に維持されることはないでしょう。だからこそアメリカは経済制裁や禁輸措置を通してライバルとなり得る国家の発展阻止に力を注いできたと言えますが、これもいつまで保つかは怪しいものです。

 ウクライナを舞台とした戦争において、短期的にはNATOが勝利を得ることは出来るのかも知れません。しかし将来的にはどうでしょうか。拡大を続けてきたNATOですが、アメリカを盟主と「しない」多数派の国々が経済力や技術力を高めていく中では、相対的な地位の低下を避けることは出来ません。今のまま排他的仲良しグループであり続けるのか、それともアメリカに服さない国々との共存を受け入れるのか、いずれは選択を迫られることになるはずです。

 BRICS諸国には足並みの乱れが見られると、日本のメディアからは指摘されることが多いでしょうか。それは独立国同士なのだから当たり前と言えなくもありません。確かに我が国が属しているサークルは異なり、アメリカという明確な宗主が存在し、何事もアメリカの決定に従って行動する、アメリカの敵か味方かで善悪を決める価値観を共有しています。アメリカの衛星国から見ればBRICSの在り方は異質であり、バラバラの方向を向いた寄せ集め集団に思えてしまうのでしょう。

 ただ、それがBRICSに限らぬ独立国の集まりの良さだと私は考えています。現在のNATOを中心とした覇権主義においては誰もがアメリカへの服属を求められる、アメリカに是認されればそれは裁けない存在となり、アメリカに敵視されればそれが「国際社会」における悪として扱われてしまいます。しかしBRICSに議長国はあっても盟主はいません。中国もインドもロシアも、いずれも自国の主権に拘り相互に牽制し合う間柄です。特定の国の一存で国際社会における善悪が決まるのではなく、大国が相互に尊重と牽制し合う中を是々非々で物事が判断される、それこそがあるべき姿ではないでしょうか。

・・・・・

 原発処理水の海洋放出を契機に、中国が日本製品の禁輸措置を強めたことが話題を呼んでもいます。野村哲郎農林水産相曰く「(全面的な禁輸は)全く想定していなかった」とのことですが、これはいくら何でも物事を都合良く考えすぎだったのではないでしょうか。以前にも書きましたとおり、中国政府が本音で安全面を懸念しているとは考えられません。ただ日本はアメリカの意向に沿って中国への敵視政策を続けている、軍拡や禁輸措置をエスカレートしているだけに、当然ながら中国政府としても黙認してはいられないわけです。

 近海で米軍が軍事演習を行えば、それに応じてミサイル発射実験が行われるのと同じことです。中国側が輸入したがっているものを輸出規制の対象にしてきた以上は、その意趣返しとして日本側が輸出したがっているものに規制をかけられる、このぐらいは誰だって予想できていなければなりません。日本政府にとってアメリカの決めた反中政策は絶対的に正しいものであり、そこに反発を受けることなど想像も出来なかったとしたら、あまりにも間が抜けすぎています。もう少し日本は、欧米「以外」の国々へと真摯に向き合う姿勢が必要なのではないでしょうかね。

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ウクライナだけじゃない

2023-08-06 22:49:13 | 政治・国際

五輪=ウクライナのフェンシング選手が特例招待、握手拒否し失格(ロイター)

[28日 ロイター] - フェンシング女子のウクライナ代表オリガ・ハルランに28日、国際オリンピック委員会(IOC)から来年のパリ五輪出場を保証する書簡が送られた。

五輪で複数のメダルを獲得し、世界チャンピオンにも輝いたことのあるハルランは、27日にミラノで行われた世界選手権のサーブル個人1回戦で、ロシア出身のアンナ・スミルノワと対戦。スミルノワは中立の立場で出場していたものの、ハルランは試合後の握手を拒否し、失格となっていた。

フェンシングのルールでは、対戦相手との握手が義務で、違反した場合は一番処分の重い「ブラックカード」を提示される。

 

 ここでは競技のルールに違反したウクライナの選手が「特例で」五輪出場を約束されたことが伝えられています。アメリカやイスラエルの侵略でスポーツのルールが変わることはありませんが、ロシアによる侵攻であればルールは変わるわけですね。あるパレスチナ出身のサッカー選手は、これまで競技の場で反戦を訴えることを禁じられていたことに触れ、「サッカーと政治を混ぜないルールだと言っていたのに、ヨーロッパのある国で起きたことで、サッカーと政治を混ぜてもいいということになった。」と託ちましたが、当然の反応と言えます。

参考、なぜパレスチナ人選手は“戦争反対”バナーの前に立たなかったか?「誠実さもなければ、公平さもない」

 ただ今回のルールに反したウクライナの選手には同情しないでもありません。ウクライナ人に自由はないのですから。成人男性は出国禁止、ロシア語は禁止、大統領に賛同しない政治家は身柄を拘束され、ロシア非難に加わらなかったという理由で選手が協会から永久追放処分を下される、ロシア人選手の出場する大会への参加は政府の判断次第で禁止、それがゼレンスキーの支配するウクライナです。選手にも故郷での生活があり、家族もいる以上は表だって独裁者の意向に抗うことは難しいでしょう。もしスポーツマンシップに則りロシア人選手と握手を交わしたならば、彼女やその家族がウクライナでどのような立場に置かれるか──それは考慮されるべきなのかも知れません。

 

「私だけ助かっていいの」 罪悪感に苦しむウクライナ難民(AFP BB)

【7月29日 AFP】ウクライナから隣国モルドバに避難したラナ・リセツカさん(32)は、紛争から逃れた人々の心のケアに取り組むプログラムに参加している。「助かった」自分を許し、人生を立て直している最中だ。

 リセツカさんは、ロシアによる侵攻開始直後に7歳の息子を連れてモルドバに来た。最初の数か月は、いわゆるサバイバーズ・ギルト(生存者罪悪感)に苦しめられてきた。

「自分が安全なのは分かっていても、祖国や親を裏切ったという罪悪感を感じる」

 

 いっぽうこちらは国外に逃れたウクライナ人の話です。モルドバも今日では反ロシア派で鳴らしていますけれど、その実は単一民族国家を目指す中でロシア系住民だけではなくウクライナ系住民とも対立してきました。結果としてロシア系住民とウクライナ系住民で多数派を構成する「沿ドニエストル共和国」が生まれたわけですが、この成立にはロシアだけではなくウクライナからの軍事支援もあったことは今こそ意識されるべきでしょう。そんなロシア人とウクライナ人が共存する沿ドニエストル共和国ではなく、対立陣営であるモルドバ中央政府の方でウクライナ難民を迎えているというのが興味深いところです。

 一方でウクライナからの「避難民」は日本でも盛んに受け入れられているわけですが、この中にも「私だけ助かっていいの」 との罪悪感を抱く人はいるのでしょうか。まぁ、生活に余裕が出てきたら多少は考えて欲しいとも思います。現実問題として日本が受け入れてきたのはウクライナ人だけ、アジアやアフリカから難を逃れてきた人の受け入れは拒んできたのですから。祖国の混乱や弾圧を逃れ、庇護を求めてさまよう人は世界中にいます。そんな中で「ウクライナ人だけ助かっていいの」という思いは、人道の見地からは抱かれても良いでしょう。

 多くの日本人はウクライナ支援を通じて差別に親しんできた、というのが私の思いです。アジア・アフリカからの難民を拒み続ける一方で、我々の社会は官民共にウクライナ「避難民」の支援を競ってきました。これは議論の余地のない差別ですが、差別であることを認める代わりに、それを正当化するロジックを作り出すことに力を注いできた人も多いのではないでしょうか。他の国からの難民を拒む理由、ウクライナ人だけを限定的に支援する理由、それを創作し自らを正当化し続けることで我々の社会は差別の論理に慣れ親しむようになった、と言うことが出来ます。

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野党共闘

2023-08-06 20:47:15 | 政治・国際

埼玉知事選、大野元裕氏が再選確実に 与野党の県組織から支持幅広く

 埼玉県知事選は6日に投開票され、無所属で現職の大野元裕氏(59)が再選を確実にした。知事選には、共産党公認で党県書記長の柴岡祐真氏(39)と、無所属で音楽制作業の大沢敏雄氏(69)の新顔2人も立候補していた。

 大野氏は、自民、立憲民主、日本維新の会、公明、国民民主の各党県組織から支持を得ていた。

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異論の許されない国と、それを支援する国

2023-07-30 23:24:16 | 政治・国際

 たとえば日本において中国との友好を訴える政党が活動を禁止され、その党首が監獄送りにされるようなことがあったなら、我が国の政治的自由や民主主義は保たれていると言えるでしょうか。ウクライナではロシア寄りと見なされた野党の活動が禁止され、野党トップが身柄を拘束されても来ました。少なくとも私はゼレンスキーの支配するウクライナの現政府を民主的とは見なしませんが、それでも政府見解に従えば日本とウクライナは価値観を共有しているようです。

 

ウクライナ大統領、汚職と裏切り「容認せず」 議員などの逮捕受け(ロイター)

[25日 ロイター] - ウクライナのゼレンスキー大統領は25日のビデオ演説で、公職者の汚職や裏切りを容認しないと強調した。兵士採用担当の地方職員が多額の横領容疑で逮捕されたほか、議会議員にロシアに協力した容疑が浮上したことを受けた。

ロシア軍の侵攻に対する防衛で兵器の確保が急務となる中、「議会議員や裁判官、軍関係者、その他の公職者が国家と対立することを誰も許さないだろう」と訴えた。

この日は南部オデーサ(オデッサ)の兵士採用機関のトップが約500万ドル相当を横領した容疑で逮捕された。地元メディアはこの高官の一族がスペインで不動産を取得したと報じていた。

このほか、南東部のロシア占領地でロシアに協力した疑いのある議員が反逆容疑で逮捕された。

ゼレンスキー氏はまた、議員らに対し、欧州連合(EU)加盟に向けた措置に関する法案を「私利私欲」のために支持しない行為をもはや容認しないと表明。「ウクライナにその時間はない」と強調した。

 

 もちろん暴力装置である軍には国家に従う義務がありますし、被雇用者である公職者にも憲法や法律の範囲内で上からの指示に従う責務があります。しかし議員や裁判官はどうでしょう。もし日本において岸田総理が議員や裁判官に対して「国家と対立することを許さない」、「軍拡に向けた法案を支持しない行為をもはや容認しない」などと表明したら、流石におかしいと思う人もいるはずです。しかしゼレンスキーがやることならば何であれ、多くの日本人はこれを是認してしまうわけです。

 ゼレンスキーとは何かを考えたとき、端的に言うならば「東欧のサダム・フセイン」あたりが適切でしょうか。最後はアメリカによって滅ぼされたフセインですが、元々はアメリカの後援を受けてイランと戦う、いわば価値観を共有する同志であったことを忘れるべきではありません。アメリカのためにイランと戦っている限りにおいてフセインが西側諸国から肯定される存在であったように、ゼレンスキーもまたNATOの代理戦争の担い手であることによって許されていると言えます。

 実態としてアメリカを宗主国と仰ぐことが民主主義と呼ばれる要件になっているにせよ、字義通りの「民主主義」であるためには政治家には異論を語る自由が保障されねばなりません。ウクライナの政治家であってもゼレンスキーに服従しなければならない謂れはない、自身の思想信条に沿って時には反対の意思を示すことが認められるべきです。そして司法(裁判官)もまた独立した存在でなければならず、それがゼレンスキー政権の意向と対立するものであろうとも、時にはNOと言わねばならないことがあるはずです。

 まぁ日本の場合は総理大臣が自らを「立法府の長」と称するなど、立法・行政・司法が独立せず三位一体を構成する珍しい国ですから、この点では議員や裁判官に自身への賛同を要求し反対を許さないゼレンスキーの姿勢は、日本人にとって受け入れやすいのかも知れません。政権交代が起こっても政策的な転換が何も行われないなど、我が国は政治的な対立の少ない国でもあるだけに、対立とは権力争いに過ぎず、危機においては挙国一致であるのが当然と思い込んでしまうところもありそうです。

 ただゼレンスキーとは意見を異にする議員や裁判官の中には決して私利私欲のためではなく、良心に則って大統領に反対して来た人も少なからずいることでしょう。ロシアの軍事作戦に協力したとして国家反逆罪で逮捕されるウクライナ人もまた多くいます。ドネツクやルガンスクで2014年からクーデター政権と戦ってきた人々だってウクライナ人です。

 もしゼレンスキーが「朕は国家なり」と思い込んでいるのなら、ゼレンスキーに反対する人は国家と対立していることになるのかも知れません。しかしウクライナはウクライナ人のものであって、ゼレンスキーのものではありません。良心を持ってゼレンスキーに反対している人もまたウクライナ人であり、そうした人々の声を尊重してこそ真の民主主義と言えるでしょう。果たしてゼレンスキーを無批判に支持してきた日本にとって民主主義とは何か、それもまた問われます。

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全面的に正しい

2023-07-09 22:26:44 | 政治・国際

中国外交トップ王毅氏、日韓に連携呼び掛け 「欧米人にはなれない」(CNN)

香港(CNN) 中国外交トップの王毅(ワンイー)共産党政治局員は3日、日本と韓国に対し、「アジアの再生」へ向けた中国との連携を呼び掛けた。

中国東部の青島で開催された日中韓のフォーラムで、出席者らに語った。

欧米人の大半は日中韓の区別ができないと指摘し、「どんなに髪をブロンドに染めても、鼻の形をとがらせても、欧米人には決してなれない。自分たちのルーツがどこにあるのか知る必要がある」と訴えた。

フォーラムは2011年から毎年開催されている。王氏は開会式のあいさつで日韓両国に、アジアの価値観を広めて「戦略的自主性」を育て、地域の一体性と安定を維持し、冷戦思考の再来に抵抗するよう呼び掛けた。「地域の運命はわれわれの手の中にある」とも強調した。

 

 ここに引用した王毅氏の発言は全面的に正しく、自らを名誉白人と思い込みアジア人を蔑視してきた日本人は頭を垂れて聞くべきでしょう。明治以来、脱亜入欧を国是としてきた我が国にとっては欧米こそが仰ぎ見る存在であり、反対にアジア諸国は見下してきた、植民地支配を図ることこそあれ、共に手を携えるパートナーとして向き合ってきたとは言いがたいわけです。

 かつての日本は幸運に恵まれアジアにおいては「侵略する側」であり、戦後は経済力や技術力において抜きん出た存在でした。しかし四半世紀の停滞によって日本の地位は低下を続け、国全体の経済力は中国に大きく引き離され、一人あたりの給与水準も韓国の後塵を拝するようになったのが現在です。欧米諸国の排他的な仲良しサークルの末席に座って喜んでいる場合でないのは火を見るより明らかでしょう。

 ウクライナを舞台にしたロシアとNATOの戦争が始まって以来、我々の社会が誰に対して同胞意識を持っているかは今まで以上に鮮明になったと言えます。ウクライナという同じ宗主国に仕える同胞の国で起こった出来事を人類の悲劇と受け止めてきた人は多いわけですが、しかるに中東を含むアジアやアフリカに目を向ければ侵略戦争なんて日常茶飯事です。アジアやアフリカの存在を無視してきた人ほど、ロシア側の行動に大きく反応したのではないでしょうか。

 日本はウクライナからの出国者を「避難民」と呼んで諸手を挙げて迎え入れてきました。一方でアジアやアフリカから難を逃れ日本に辿り着いてきた人々に関しては頑なに受け入れを拒み、入管で死亡させることも珍しくありません。日本にとってウクライナ人は助けるべき同胞であっても、ミャンマー人やスリランカ人は違うわけです。

 ただ世界人口80億人の中で、ロシア・ベラルーシを除いた欧米の人口は10億人程度、今も世界を牽引しているとは言え相対的な地位は低下を続けています。だからこそバイデン大統領はアメリカの支配的地位を維持すべく衛星国を糾合しライバルの封じ込めに血道を上げているのですが、その「アメリカを再び偉大な国にする」ための外交戦略は軍事・経済の両面で衝突を引き起こすものでしかなく、それは「制裁を課す側」の国の経済にも少なからぬダメージをもたらしていると言えます。

 それでもなおアメリカの覇権を維持するべく極東の番犬として日本は軍事大国を目指すのか、あるいは不毛な対立を止めてアメリカの支配に服さない国との共存共栄を目指すのか──利害を考えるのであれば、取るべき道は一つです。ただ人を動かすのは利害よりも信念、政治家ともなれば尚更です。日本の国是は脱亜入欧、欧米が世界を支配する体制を守るため、我が国はアジアにおける対立を積極的に深めていくものなのかも知れません。

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Suzerain

2023-06-25 22:49:42 | 政治・国際

 先代のアメリカ大統領であるトランプを一言で表すのであれば「支離滅裂」でしょうか。この辺は安倍晋三と同じで止まった時計でも1日に二度は正しい時間を示すように、一貫して間違った政策を採り続ける人よりは評価されるべきと思います。では現大統領であるバイデンはと言えば、「MAGA」でしょうか。アメリカを再び偉大な国に──衛星国を糾合してアメリカに従わない国との対決姿勢を強めていくバイデン以上に、この言葉が似合う人はいません。

 

日本の防衛費増額「私が説得した」、バイデン氏が岸田首相への働きかけ示唆

 【ワシントン=田島大志】米国のバイデン大統領は20日、カリフォルニア州で開いた支持者集会で、日本の防衛費増額を巡り「私は3度にわたり日本の指導者と会い、説得した。彼自身も何か違うことをしなければならないと考えた」と述べた。自ら岸田首相に増額を働きかけたことを示唆したものだ。

 北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に対国内総生産(GDP)比2%の防衛費確保を求めている。日本は非加盟だが、バイデン氏は「日本も巻き込むことができると思っていた。日本が欧州での戦争に関心を持ったのはいつ以来か」と述べ、日本のウクライナ支援強化も自ら引き出したものだとアピールした。

 

 そして日本の国是は何かと言えば、「アメリカ第一主義」と考えられます。外交方針は一貫してアメリカの意向に沿ったものですし、経済運営についてもしばしばアメリカの介入を受け入れ自国の不利益を厭わないのが日本の政治です。宗主国たるアメリカの国益を何よりも優先してきた、そうした面では日本こそが「アメリカ第一主義」の先達であり、トランプのごときニワカ政治家とは異なる正真正銘の実践者であると言うことが出来ます。

 同様にこれはバイデンのMAGA戦略の一環でもあるわけです。アメリカの最も忠実な衛星国である日本の軍備を増強することで、アメリカ側は何ら自ら負担することなく反中・反ロの包囲網を強化することが出来る、これを成果としてバイデンが支持者に誇るのは至って自然なことでしょう。ただ日本政府も一応は自国で判断している体裁を守りたい意向があるようで、アメリカ政府への形式的な申し入れだけは行っているそうです。

 先般は元・参院議員の「ガーシー」氏が逮捕されました。本人の振る舞いはさておき、国会への「出席」がそんなに必要なのかどうかは疑問に思いながら推移を眺めていたのですが、結局は芸能人の暴露話で世間を騒がせることあれ、国会議員として知りえた日本とアメリカの密約を暴露するようなことはなく短い議員生命を終えたわけです。もし仮に政府が国民に隠していることを暴露して捕まったのであれば、氏の当選にも意義はあったと言えるのですけれど。

 もっとも「隠された真実」なんてものは滅多に存在せず、密約と呼ばれるものも知る気がある人には普通に知られている、単に注目する人が少ないだけというケースが大半です。例えば山上容疑者による銃撃事件が起きる前から、安倍(岸)家と統一教会の深い関わりは何度となく警告されてきました。しかし世間がそれに注目することはなかった、銃声が放たれて初めて国民の関心が集まっただけの話です。アメリカが何を日本に指図してきたかなんてのも、そういう類ではないでしょうか。

 日本政府はアメリカへの無二の忠誠を披露し続けているところですが、その行く末は日本自ら考えるべきです。かつては日米欧の排他的仲良しグループこそが先進国の集団であり、世界を支配するだけの力を有していたかも知れません。しかし中国やインド、南米やアフリカ諸国は急速な発展を遂げ、日米欧の相対的な支配力は低下の一途を辿っています。だからこそバイデンはアメリカの覇権を維持すべく衛星国を糾合して中国やロシアに退治してきたわけですが、それもいずれは限界が来ることでしょう。

 どれほど日米欧の自称・国際社会が一致団結したところで、人口規模で見た場合に多数派を占めるのは、対ロシア制裁の非参加国です。どれほどバイデンが悪あがきしようとも、アメリカの覇権が終焉を迎えるまでは決して長くないことでしょう。その時にアメリカ一辺倒で尽くしてきた日本がどうなるのか、アメリカからは吸い尽くされ、グルーバルサウスと見下してきた国からは距離を置かれ、孤立した衰退国家として哀れな老後を送る姿が見えないでもありません。

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ウクライナ人とウクライナ人が対立しているのであって、ウクライナ人とロシア人は少し違う、という話

2023-05-21 22:59:32 | 政治・国際

「私たちの間に戦争はない」ロシア人とウクライナ人がサッカーリーグ結成、避難先のジョージアで(ロイター)

ロシアのウクライナ侵攻後、旧ソ連のジョージアに逃れたロシア人やウクライナ人らがアマチュアサッカーリーグを結成し、国籍の違いを超えた絆が生まれている。

ロシアがウクライナに侵攻してまもなくジョージアに逃れたロシア人とウクライナ人の有志が、首都トビリシでアマチュアサッカーリーグを結成した。その名は「フットビリシ」。

記者「戦争は全く関係ない?」
選手のイェホルさん「私たちの間に戦争はない」
選手のスタニスラウさん「でも戦争は常に頭から離れない」
選手のバシリーさん
「私たちは冗談を言い合い、親しみを込めてからかい合っている。この方が話題にしやすいのだ。もちろん、みんな自分がなぜここにいるのか理解している。私たちはお互いをサポートし合っている。それが私たちをこのクラブに引きつけるのだ。サッカーを超えたコミュニティなんだ」

フットビリシには現在、約700人の選手が所属しておりジョージア人、ロシア人、ウクライナ人、その他の外国人が集まっている。

ジョージアは、ウクライナでの戦争や徴兵、弾圧から逃れる移住者の最重要避難先の一つとなっている。ジョージアは、ロシアやウクライナを含む国々の人にビザなしでの入国を認めている。

ドネツク出身のロディオンさん
「外国にいると、コミュニケーションが取れる人を探すでしょ。ジョージアでも言葉の壁がある。これはスポーツイベントでありながら、人と出会い、話すこともできる。試合の後は、散歩したり、バーに行ってビールを飲んだりする。そのための環境は十分に整っている」

 

 この記事を読む前提として知っておくべきは、ウクライナでは成人男性の出国が禁じられていると言うことです。ロシアから国外に出た人は概ね合法的に出国したものと思われますが、ゼレンスキーの支配するウクライナから若く健康な男性が脱出するのは合法ではありません。それでも敢えてウクライナから逃れた人は当然ながらゼレンスキー政権とは反対の方向を向いていると推測されます。ではどちらと同じ方向を向いているかと言えば、ロシアの方……ということにもなるのでしょう。

 元よりインタビュー対象として登場するのが「ドネツク出身のロディオンさん」です。ドネツクと言ったら2014年のクーデター政権に対抗して立ち上がった地域の中核の一つであり、対立しているのはロシアではなくキエフ政権の方でもあります。地域に住む人の考え方も一様ではないにせよ、親ロシア派の拠点都市の出身者からすれば「ロシアとの間に戦争がない」のは当然であり、意外でも何でもない結びつきと言えるでしょう。

 根本的に対立しているのはウクライナ内部の反ロシア派と親ロシア派であって、必ずしもロシアとウクライナとではありません。今に至る根本的な原因は反ロシア派が選挙で選ばれた大統領を暴力によって追放して実権を掌握したことにあり、そのクーデター政権を承認しない親ロシア派との間で武力衝突が始まった、NATOを後ろ盾とする反ロシア派に対して窮地に追い込まれた親ロシア派の「後ろ盾」の国が集団的自衛権の行使に踏み切っただけです。

 ゼレンスキーの支配に服する反ロシア派のウクライナ住民がウクライナ人であるのと同様に、その支配を受け入れない親ロシア派住民もまたウクライナ人であることを、しばしば日本国内の報道は忘れさせようとしていると言えます。つまり日本のメディアに登場するウクライナ人は一様にゼレンスキー信奉者であり、ロシアに勝つまで戦いを続けることを支持しているわけです。

 しかし反ロシア派だけが本当のウクライナ人なのでしょうか? ロシア軍と行動を共にし、キエフ政権から反逆罪に問われているドンバス地方の住民はウクライナ人ではないでしょうか? とりあえずロシアによるドネツクなど4州の併合を承認するのであれば、彼らはロシア人であってウクライナ人ではなくなるのかも知れません。しかし4州の併合を認めず、該当地域をウクライナ領として扱う政府方針に従うのならば、その地域の住人がいかなる政治信条の持ち主であろうとウクライナ人として扱うべきと言えます。

 「ジョージア」というアメリカの属州であることを宣言したかのような恥ずかしい名前の国では、かつてサアカシュヴィリという強硬な反ロ主義者が大統領に君臨していました。この人も結局は権力を失うのですが、その後なんとウクライナから国籍を付与されてオデッサの州知事に任命されます。オデッサもまた親ロシア派の強い地域であり、その押さえ込みがウクライナのクーデター政権では急務だったため、「同志」が起用されたものと推測されています。元グルジア大統領もウクライナ人になったりするのですが、いったいウクライナ人とは何なのでしょうね?

 今回のウクライナを舞台にしたNATOとロシアの戦争の中で、隣接する沿ドニエストル共和国の存在が注目されることもありました。この沿ドニエストル共和国はモルドバ中央政府との戦いを経て形成されたものですが、そこにはロシア系住民だけではなく、ウクライナ系住民も住んでいますし、ロシア語の他にウクライナ語もまた公用語として定められています。元より今の地位を勝ち取る上で軍事的な支援を行ったのはロシアだけではなく、ウクライナもまた兵員を送り込んでいました。ロシアとウクライナが手を携えるのは、決して珍しいことではないのです。

 近年は反ロシア派が政権を掌握したことでウクライナは二つに割れています。そして日本を始めとする西側諸国は反ロシア派だけをウクライナの代表として扱ってきました。しかしそれはウクライナの片面でしかありません。日本が目を背けてきた親ロシア派もまたウクライナの国民であり、ロシアとではなく同国の反ロシア派と対立している、そうした現実にこそ目を向ける必要があります。もし日本が公正であろうとするのなら、一方の陣営にのみ肩入れするのではなく、異なる政治的立場のウクライナ人をも尊重する必要があるのではないでしょうかね。

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