非国民通信

ノーモア・コイズミ

会社は特別な人ばかりを欲しがるけれど

2010-06-30 22:55:03 | 編集雑記

 職務経歴書の書き方で、通り一遍のアドバイスの一つとして「キャリアを通じて自分がどんなことを学んできたか~」「キャリアの中で自分がどのように会社に貢献したか~」みたいなことを書くべしというものがあります。私がキャリアを通じて学んだことといえば「社会人の常識とは、会社の数だけある」くらいですかね。ある会社で「社会人の常識」として擦り込まれることが別の会社では叱責の対象となるなんてのは、それこそ当たり前のことですから。とはいえ、この辺は採用側からすれば減点要因なのかも知れません。どの会社でも、自分のところの社内ルールこそ「社会人の常識」に沿ったものだと信じて疑わないものです。絶対に正しいと信じている、そして正しいものとして社員に教え込んでいる「社会人の常識」を、相対化して眺めるような振る舞いはある種の冒涜のようなものにもなるのでしょう。

 職務経歴について、具体的なエピソードを交えて書けと言われます。サンプルを見ると、「どんな風に会社に貢献したか~」みたいな空々しい話が連ねられているわけです。自分が主導して業務改善を成し遂げた、自分の活躍で会社の業績拡大に繋がった等々、どうした華々しいエピソードが、職務経歴書のサンプルの中には事欠きません。しかし私には思われるのですが、「本当に」そんな華々しい活躍をした人は、果たしてどれだけいるのでしょうか。職務経歴書のサンプルに書かれるような「特別な」活躍をした人なんて、それこそ例外中の例外であって、「平凡な」人は「平凡な」仕事しかしていないはずです。「特に大きな問題もなく、与えられた仕事をこなしました」ぐらいの人が圧倒的多数であって、職務経歴書のサンプルのようなエピソードを持つ人など、そう滅多にいるはずがありません。実際、周りを見渡しても、そんな「特別な」活躍をした人など滅多にお目にかかれないわけで。

 そういえば新卒予定の求職者の場合ですと、だいたい半分くらいの人はサークルの副部長でバイトリーダーであるなんて話も聞きます。もちろん、本当にサークルの副部長やバイトリーダーとして活躍してきた人などごく少数でしょう。ですが、その辺は採用する側が確かめようのない、簡単に自称できる世界です。自称しやすい「会社へのアピールポイント」として「サークルの副部長」と「バイトリーダー」が定番化しているのでしょう。でも自称副部長も自称バイトリーダーも、本当のところは特にアピールすることもない「平凡な」人ですよね?

 就業環境は厳しくなるばかり、昨今の新入社員ともなると、それこそ数十人、下手をすれば数百人の中から選び抜かれた、正真正銘の「特別な」人であるケースも多いはずです。何十倍もの競争率がある中をくぐり抜けたからには、「平凡な」人とは違う、「特別な」逸材に違いありません。しかし、特別な逸材であるはずの新入社員への世評を見ると、どうも芳しからぬところがあります。そりゃ先行世代が後から来る世代を叩くのは人類誕生以来おそらく一度として絶えることのなかった慣習ではあるでしょう。「今時の若い者は~」「ゆとり世代は~」みたいな論調は、どれだけ時代が進んでも永遠に続いてゆくものです。しかし、今時の新入社員は数十倍の競争率の中から選び抜かれた「特別な」存在のはず、同世代の「平凡な」人とは違って先行世代のお気に召す逸材でなければおかしいはずです。それなのに世評は相変わらずのままであり、世代一般への批判が選び抜かれた存在であるはずの新入社員全般にも当てはまるとしたら、たぶん何十人、何百人の応募者の中から「特別な」一人を選んだつもりでも、実際は「平凡な」人しか選べていないと言うことなのだと思います。

 採用が絞られている時期に正社員として新たに入ってくる人を見ると、よくもまぁ狭き門をくぐり抜けてきたものだと感心しないでもないのですが、しかし何十倍もの競争率を勝ち抜いてきた人であるにもかかわらず、意外に「平凡な」人だったりするわけです。採用側は「特別な」人を欲しがり、「特別な」人を選んだつもりでいるかも知れませんが、実際に集まっているのは「平凡な」人である、強いて言えば就職活動として自分をアピールする能力が「特別」であったぐらいの人しか集められていないのではないでしょうか。

 実際のところは「平凡な」人で十分であるはずです。全員が「特別な」才能の持ち主であることを必要とするのは、よほど「特別な」会社だけです。たとえば社員の世代構成がピラミッド型になっているのなら、そして将来的にもピラミッド型の世代構成が続くのであれば、新人社員=後の幹部社員(もしくは役員)ということになりますから、新人社員に「特別な」存在であることを求めたくもなるでしょう。しかし、社会全体がピラミッド型の世代構成ではなくなって久しい以上、ピラミッド型の世代構成を将来的にも維持できる会社というのは例外になる、安定した会社であるほど、社員の世代構成はフラットなものになるわけです。そしてフラットな世代構成である以上、同じ世代の中でも会社の幹部となるのは一握りにしかならなくなります。幹部になるのが一握りで、他の人は「平凡な」仕事を続けるとしたら――初めから「平凡な」人を集めても良さそうなものです。求職者に誇大広告を競わせるようなやり方はエスカレートするばかりですけれど、それは完全に時代錯誤と言えます。

 

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みん主連立政権?

2010-06-29 22:56:29 | ニュース

 みんなの党に関しては消費税増税に反対している側にカウントしようとする人も見かけるのですが(主として逆進課税論者)、「今は」増税しないと言っているだけで、将来的に増税するときになったら消費税増税あるのみという点では、民主党や自民党と変わるところがないと思います。「今は」消費税を上げない、財源はムダ削減で捻出できる――みんなの党はこう言っているわけですが、まさに衆院選前の民主党の主張と瓜二つではないでしょうか。みんなの党も与党に回れば、民主党と同じ道を辿るに違いありません。

 このブログでは前々から、民主党と最も政策的な距離が近いのはみんなの党であると書いてきました。元より民主党と国民新党並びに社民党の間で共有できるのは「自公政権打倒」という旗印くらいで政策面では相容れない部分が多すぎる、自公政権が倒れた今となっては政策面の不一致がクローズアップされざるを得ません。そうなると必然的に「自公政権打倒」という賞味期限切れの軸ではなく、政策面の一致という軸での連立の可能性も高まってくるわけです。

「一緒にやっていける」枝野幹事長、みんなとの連携期待(朝日新聞)

 民主党の枝野幸男幹事長は27日、東京都内で記者団に「みんなの党の皆さんとは行政改革や公務員制度改革について、かなりの部分が一致していると思っているので、政策的な判断としては一緒にやっていける」と語り、参院選後のみんなの党との連携に期待感を示した。

 一方、たちあがれ日本の園田博之幹事長は同日のNHK番組で、菅直人首相が呼びかけた消費増税をめぐる超党派協議について「財政は待ったなしであり、社会保障制度も崩れてしまう。だから、国会の場での議論に我々は参加する」と明言。さらに「自民党も参加すべきだ」と述べ、各党の幅広い参加を促した。

 民主党とみんなの党の政策的な一致に関してはあまり言及する人が多くなかったように思いますが、選挙戦を目前に控えた段階になって民主党内から連携を匂わせる発言が出てきました。感情的な対立はさておき、政策面では最も無理のない組み合わせです。今までは同じ方向を向きながら「我こそが真の改革派だ、我々だけが本当にムダ削減できるのだ/○○党の改革はニセモノだ」みたいに構造改革派内部で本家争いしている状態でしたけれど、選挙結果次第では「同じ理想を共有するもの同士、協力していきましょう」ということになるのかも知れません。

 新内閣発足時、菅が選んだ閣僚人事に通底しているのは「病的な官僚嫌い」だと書きました(参考)。ある程度、規模の大きい政党であれば隅から隅まで政策面で一致することはありえない、多少は「ズレ」もあるところですが、「官僚嫌い」という点ではズレのない人選だったように思います。枝野とみんなの党の間でも政策があらゆる局面で一致しているわけではないはずですが、枝野にとっての最優先事項であろう官僚(並びに公務員)への攻撃という面では、みんなの党が最も共通点の多いパートナーなのでしょう。

 「たちぽん」と私が勝手に略しているところの「たちあがれ日本」に関しては、その発足時に園田博之の動向がキーになるかも知れないと書きました(参考)。自民党色が強く、かつポピュリズムには遠い平沼と与謝野では昨今の政治の潮流に乗ることなどできまいと思われた一方で、自民党一辺倒ではなく(新党さきがけ経由)前出の枝野や前原といった民主党議員ともパイプのある園田博之は政府与党に絡みうると、そう考えたわけです。図らずも、時代が見えていない党代表とは別に、園田が連携に含みを持たせるような発言を見せました。そう言えば党結成時には「強い経済、強い財政、強い教育、強いふるさと」を掲げていた党でもあります。菅の語る「強い経済、強い財政、強い社会保障」とも、根本的な発想では意外に近いところにいるのかも知れません。

 なお、みんなの党サイドの反応は現時点では芳しくないようです。本音は知りませんが、選挙前は与党に対して批判的な態度を崩したくないのでしょう。民主党への不満の受け皿として支持率をのばしてきた政党でもありますし。

みんなの党・渡辺代表、民主党と連携ないと明言(読売新聞)

 みんなの党の渡辺代表は28日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見し、同党との参院選後の連携に民主党の枝野幹事長が意欲を示したことについて、「民主党と一緒にやることはない。一緒にやりたいなら(民主党が支援を受ける)公務員の労働組合と縁を切ってから言ってきてほしい」と述べ、現時点では連立参加を含め、民主党との連携はないとの考えを明言した。

 ……と、こういう批判?の声は前々からあるだけに、民主党サイドが連携を模索する上でどういう対応を取るのか見物なのですが、しかるに枝野の現状認識はどのようなものでしょうか。27日のテレビ番組に出演した枝野は「国家公務員の労働組合が支持しているのは、大部分が共産党だ。国家公務員の組合で民主党を支持しているところはほとんどない」などと事実無根の発言を行い、国公労連が抗議の談話を発表する事態を招いています(参考)。枝野の頭の中では民主党は公務員労組とは関係がない、関係があるのは共産党だみたいなことになっているのかも知れませんが、それは単なる枝野の願望です。なんというか、どうしようもない人だと思います。

 

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成長なき財政再建?

2010-06-28 22:53:13 | ニュース

1.菅政権は財政再建と経済成長の両立を目指す方針を明示。財政赤字削減のカギとなる対策は何だと思いますか?

消費税の増税    10.8%
その他の増税    2.4%
むしろ減税    6.4%
公務員削減    30.6%
公共事業の削減    4.6%
その他の歳出削減    8.4%
景気刺激策    8.4%
緩いインフレターゲットの設定    5.2%
複数の政策ミックスが必要    18.6%
(一部省略、6月28日時点)

 こんなアンケートもあるわけですが、どうなんでしょうね。まず設問が微妙な気がします。「菅政権は財政再建と経済成長の両立を目指す方針を明示」とする一方で「財政赤字削減のカギとなる対策」だけが問われているわけですが、財政再建だけではなく「財政再建と経済成長の両立」の鍵となるものを考えさせるべきではないでしょうか。経済成長なんてどうでもいい、とにかく財政再建だと、そういう発想は民意の中にこそ強いのかも知れませんけれど。

 基本に立ち戻って考えると、「財政再建と経済成長」はむしろ歩調を合わせるものであって、片方だけが進むというのはかなり歪なもの、双方が共に進むか、あるいは共に後退するのが「普通」であるように思われます。欧米諸国の場合は概ね、国債の残高が減ることで財政健全化が進むのではなく、分母となるGDPが増大することで国債のGDP比が一定内に収まる、それで財政健全化しているようにも見えますし、経済成長の面で完全に外需頼みの状況を続け、GDPがロクに伸びなかった日本では経済と財政の双方が共に後退してきたわけです。経済成長を抜きにして財政再建だけが進むなど、本来ならあり得ない話なのではないでしょうか。

 経済成長の時代は終わったと、そう断言する声は政財界にも根強く、収益性の高い産業へとシフトするよりも製造業にしがみつくことの方が是とされる風潮にも全く揺らぐところがありません。世界の中で日本だけが経済成長を止める、そういう時代は今後とも続けられそうです。アンケート結果を見ても、ダントツの1位は公務員削減です。「複数の政策ミックス」というどちらにも解釈できる項目を別とすれば、2番手に上がるのは消費税増税(第一生命研究所の試算では実質GDPを0.55%押し下げるとのこと)、「人」に対する支出を削り、成長ではなく増税によって財政再建を目指す、それが最大公約数的な日本のビジョンなのかも知れません。

 必要な予算であろうがお構いなしに、とにかく歳出を減らすことで財政の「辻褄を合わせる」ことも一応は可能です。それをやったのが大阪の橋下ですね。結果として有権者からの賛意は得られたようですが、それで大阪の暮らし向きはどうなったのでしょうか。財政再建ばかりが重視されているように見える昨今ですが、何のための財政再建なのか、とにかく借金はダメだみたいな感情論で財政再建優先になっているのではないか、あるいはこれ幸いと公務員削減やカイカクなどを迫るために財政の危機が煽られてはいまいか、そんな気がします。

 

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議員を減らしたところで

2010-06-27 23:02:15 | ニュース

枝野氏「過半数なら民主だけで衆院定数削減」(読売新聞)

 民主党の枝野幹事長は25日、参院選公約で掲げた衆院比例定数の80削減について、「参院でも過半数を頂ければ、民主党だけで議員定数を削減できる。臨時国会に法案を提出したい」と述べ、参院選の結果、民主党が参院の単独過半数を確保すれば民主党だけでも法改正に踏み切る考えを示した。

 主立った党が挙って議員定数の削減を掲げている昨今ですが、どうなるんでしょうね。枝野は過半数を取れば民主党単独でも法改正に踏み切ると鼻息を荒くしていますけれど、野党だって規模の大きいところは議員定数削減に関して全く同じ方向を向いているだけに、民主党の単独過半数でなくともその気になれば定数削減の法改正は可能でしょうし。まぁ政策面で一致する党とは感情的な対立がある(あくまで国政レベルの話ですが)、一方で連立を組んでいる党とは政策面で全く逆の方向を向いているのが民主党です。その辺のパワーバランス次第で進んだり遅れたりもするのでしょう。

 さて、議員定数削減を与党が率先して唱えているわけです。なんのために? 理由の一つには「経費削減」みたいなのも挙げられているようですが、それだったらまず政党助成金を削減もしくは廃止するなどの議論が出ても良いはずです。しかし、あくまで議員定数の削減であって政党助成金など話題に上らない辺り、必ずしも「金」の問題ではないと見るべきなのかも知れません。経費削減はオマケであって、より重要なのは議員削減なのだと。

 議員が減ることで何かが良くなる、政治なり社会なりに好影響があるとは思えませんし、民主党もその辺を具体的に言及したことはないはずです。では何のための議員削減なのか? その辺はあくまでパフォーマンス、あるいは言い訳に過ぎないのでしょう。消費税増税によって「国民にだけ痛みを負わせるのか」みたいな反発もあるだけに、国会議員の数を減らすことで「議員側も痛みを負っている」と、逃げ道を作っておきたいものと思われます。この辺は首相就任後、真っ先に給与返上をアピールして見せた安倍晋三と同じですね。自分も「痛み」を背負ったんです、決して国民にだけ痛みを負わせるワケじゃありませんよ、と(もっとも民主党のような大政党にとっては議員定数を減らした方が過半数を取りやすくなりますので、党としてはむしろ楽をしようとしているフシもあります)。

参考、安倍晋三の真似なんてよしなさい

 議員定数が減ったところで、それによって国民の暮らしが良くなるはずもないのですが(少数派の声が届かなくなることで、より目配りの聞かない政治になることはあっても!)、一方で支持の獲得には繋がってしまうところもあるのでしょう。議員の経費を削ったところでそれが国民に戻ってくるわけでもありませんけれど、それでも議員の取り分が減ることに喝采の声を上げる人は決して少なくなさそうです。結局、国民が嫌っている何か「悪い奴」をやっつける、そういう姿勢が有権者を惹きつけるのであり、そうした風潮に迎合するポピュリズムもまた横行していると言えます。なぜ議員定数を削減しなければならないのか、本来問われるべきところが棚上げされたまま、「ウケが良いから」と言うだけで進められてしまうのでしょう。今や政治の主眼は、いかに有権者の「ご機嫌を取るか」ですから。

 

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しわ寄せはいつも末端に

2010-06-26 11:08:27 | ニュース

消費税引き上げのしわ寄せは末端に?
中小下請けの悲哀と「益出し」に奔走する日本企業の未来(DIAMOND online)

 もうすぐ参議院選挙が行なわれるので、メディアやインターネット上での政策論議が、かまびすしい。議員や役人を養うための俸給は税金から支払われているのだから、納税義務を果たしている国民なら誰もが国を批判できる資格を持っている。批判できるとはいっても「いうはやすし」である。政治や行政は特に「叩きやすい」ので、それが顕著になる。

 メディアやネットなどを通して相手を論駁(ろんばく)する様を見ていると、アメリカの経済学や経営学の教科書から得た知識の多寡を競い合う「コピーバンド合戦か」と錯覚してしまうことがある。相手を否定してばかりいないで、オリジナルの理論体系などを自ら創造する努力を少しはしてみてはどうか、と思うのだが。

 聞きかじった程度の浅薄な知識の多寡を競い合う「コピーバンド合戦」は科学技術関連とか軍事関連でも盛んですが、とりわけ顕著なのが経済系なのかも知れませんね。そもそも今回の引用記事を掲載しているメディア自体が、典型的な類ではないかとも思いますけれど。まぁその辺はさておき、この引用記事での指摘には頷けるところもあります。

 大手メーカーの甲社と長く取引している中小下請けメーカーの乙社は、甲社の新製品に合わせて取引総額100万円での部品製造を請け負った。甲社からのコスト削減要求は厳しく、100万円の受注価格は乙社として採算ギリギリである。

 乙社が消費税込みで105万円の見積書を提出しようとしたところ、甲社からは「消費税分は当然のサービス(値引き)だ」とダメ出しされた。泣く泣く消費税込みで100万円の見積書を提出したところ、甲社からは「バカな見積書を出しては困る。100万円から消費税5%を差し引いた95万円が、当社からの発注価格だ」と言い渡された。

 これで驚いてはいけない。実際に甲社から乙社へ振り込まれた金額は、95万円よりも数百円少なかった。甲社に問い合わせたところ「銀行の振り込み手数料だ」と返答された。振り込み手数料を下請け側が負担するのは「商慣習」なのだそうである。

 このような価格交渉を「3たたき」と呼ぶことがある。乙社から納入された部品について、甲社のほうから難癖を付けたり、検収遅れを言い訳にしたりして支払いを遅延させる行為を含めると「4たたき」や「5たたき」になる場合もある。中小の下請けメーカーは常に、叩かれ続けるのだ。

 消費税率が例えば10%に引き上げられた場合、10%相当のサービス(値引き)を強要される中小企業は、死活問題になるであろう。役所に訴え出ればいい、などというのは、実務を知らない人々の評論だ。

 上記の話は、甲社が期日に支払いを行なってくれたので、「まだマシなほう」なのである。現実はもっと厳しい。

 ……で、こういう指摘が続くわけです。あまり露骨にやるところは減ってきているでしょうけれど、コストカットの美名の元に無理を押し通す会社も多いと思います。在庫を下請けに持たせることで自社の在庫を常に必要な分量に調整するという「カンバン方式」が賞賛され続けているのですから、コスト削減努力や消費税相当分も下請けに負わせるような「カイゼン」も大いに推奨されているのではないでしょうか。

 ここは消費税に的を絞って考えてみたいのですが、この消費税という税、納税者と還付対象者ははっきりしているものの、「負担者」は意外に曖昧だったりします。建前上、販売者が顧客から消費税相当分の金額を受け取り、その金額を納入するということになっているわけですけれど、ここで例示されたような甲社と乙社の取引の場合はどうでしょう? 手続きとして消費税を「納税」するのは乙社です。では、消費税を「負担」しているのが購入者である「甲社」かと言えば、あくまで定義上はそういうことになるのですが、実態はかなり疑わしいはずです。

 たとえばジャスコでニラ¥105(本体価格¥100 消費税¥5)を買ったとしましょう。これですと販売店が価格に消費税分を上乗せしており、「客」が消費税を負担している、受け取った消費税分を販売店が間接的に消費税を納めているイメージが湧くと思います。では、近所の中華料理屋で回鍋肉定食¥680だったらいかがでしょう? もちろんこの場合にも消費税はかかっているわけですけれど、何となく店側が消費税を負担しているようにも見えてはこないでしょうか。

 この辺の傾向は消費税の総額表示(税込み金額による表示)が義務化されたときに強まりました。6年ほど前からでしょうか、昨日までは¥19800(税込20790)と表示していたものを、最初から¥20790と表示しなければならなくなったのです。当時は店員をしていたので徹夜で値札の張り替えをした記憶がありますが、ともあれこの総額表示によって消費税相当分が隠されてしまうだけに、本体価格までなんだか値上がりしたように見えてしまうという問題が発生しました。そうなると売上が落ち込む可能性もある、だから表示金額は変えたくない――そういう思惑から、¥19800(税込20790)で売っていた商品を税込¥19800に値下げするなんてことも少なくなかったわけです。この場合ですと、消費税相当分を負担しているのは客というより、小売店と見なした方が実態を正確に捉えていると言えそうです。

 消費税を「納税」するのは、販売した人です。仕入れにかかった消費税は「還付」されるのですが、この還付金を受け取るのは仕入れた人です。では消費税を「負担」するのは誰かというと、そこが極めて曖昧なのです。定義上は購入者が負担することになるわけですけれど、ここまで挙げてきた例を思い起こしてください。実質的に「立場の弱い人」が負担しているところも否定できないのではないでしょうか。そして引用記事の甲社と乙社の場合を考えてみましょう。最終的に、乙社が95万で納入し(簡略化のため、うち消費税は5万とします)、甲社が国内の顧客に200万で販売した場合は以下のような形になります。

乙社:¥95万で乙社に販売 → 納税額 ¥5万

甲社:¥95万で乙社より仕入 → 還付金 ¥5万
   ¥210万で顧客に販売 → 納税額 ¥10万

 しかるに、国外の顧客に販売、つまり輸出した場合は消費税はかかりませんので、当然ながら納税を求められることもありません。では甲社が乙社より仕入れた製品を2万ドルで輸出した場合の納税額はどうなるでしょうか。

乙社:¥95万で乙社に販売 → 納税額 ¥5万

甲社:¥95万で乙社より仕入 → 還付金 ¥5万
   $2万で顧客に販売 → 納税額 ¥0

 還付金は通常通りに受け取れますので、輸出が多いと支払う納税額を還付金が上回ってしまうわけです。現にトヨタやキヤノンは何千億、何百億という単位で受け取る還付金の額が納めた税額を上回っています。この額は消費税率が上がれば上がるほど増えていきますので、輸出企業にとっては消費税が上がった方が好ましい、だから財界筋は消費税を迫ったりもするのでしょう。立場が強く、輸出が多い企業にとって消費税など痛くもかゆくもない、上手くすれば収入を増やせる機会ですらあるのですから。仕入れにかかった消費税への還付を止める、あるいは輸出分の仕入れにかかった消費税相当分の還付を止めるなどしても兆単位で財源は捻出できるはずですけれど、それでも消費税率の引き上げあるのみとばかりに突っ走ろうとするのは、「立場の弱い人」により重く負担して欲しいからだと言うほかありません。

 

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市場に魅力がない

2010-06-24 22:57:04 | ニュース

 「飲めば一生、病気にかからなくなる薬が発明されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

 ……こういうなぞなぞを聞いたことはありますでしょうか。有名なものなのか、ローカルなものなのかは知りませんが、ちょっと考えてみてください。なぜ「飲めば一生、病気にかからなくなる薬」は売れなくなってしまったのでしょう? 答えは、「みんな薬を飲んで、もう病気の心配はなくなったから」です。では応用編です。

「壊れにくく高品質な電化製品が発売されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

「高品質で壊れにくい自動車が発売されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

パナソニック採用の8割外国人 大学生就職深刻になる一方だ(J-CAST)

 日本人大学生の就職難が深刻化する一方で、外国人採用を増やす企業が相次いでいる。国内市場で成長が見込めず、アジアや新興国で事業を強化するためだが、日本の大学生の前途はますます厳しい。

 カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでは、2010年の国内新卒採用者約200人のうち、外国人が約100人だった。11年も国内新卒採用約600人のうち、半数を外国人にする。

 ユニクロが外国人採用を拡大する背景には、海外出店の加速がある。10年8月期上期(09年9月~10年2月)に海外で売上げが倍増し、営業利益は4倍以上となった。5年後には海外事業規模が日本を越えるようにしたいと考えている。

 まずユニクロの例が挙げられています。新卒採用の半数は外国人枠だそうで、これは人件費抑制を狙った新興国の現地採用ではなく、国内採用の話です。人件費が安いから(現地で)外国人を雇うのではなく、敢えて日本国内で外国人(国籍が日本でないだけ、日本生まれで日本育ちの在日外国人は、どちらの枠で扱われるのでしょうね? 新卒採用ですから、外国人=留学生という扱いでしょうか)を優先的に雇っているわけです。つまりコスト削減のためではない、コスト削減のためではなく、海外市場を視野に入れての採用です。国際競争のためにと低賃金は致し方ないみたいな風潮が強いですけれど、どれだけ低賃金を受け入れても雇用が限られるときは限られるということなのでしょう。

参考、日本とは対照的

 中国ではストライキが相次いでいて、今までのように低賃金での労働力確保は難しくなっていると伝えられていますが、一方で撤退を考える企業はほとんどないとも聞きます。理由は、中国市場に魅力があるから。中国市場に魅力がある以上、労働コストが高くなっても中国での事業を続けると考える企業が多いわけです。そして海外市場に魅力があるから、低コストな人材確保ばかりではなく、海外市場向けの人材確保に力を入れる、ユニクロのような会社も多いのでしょう。裏を返せばそれは、日本市場に魅力がないから、国内市場に魅力がないから国内で切り盛りするための人材確保が二の次にされるということでもあります。

   パナソニックの場合、10年度新卒採用1250人のうち海外で外国人を採用する「グローバル採用枠」は750人だった。11年度は外国人の割合を増やし、新卒採用1390人のうち、「グローバル採用枠」を1100人にする。残る290人についても、日本人だけを採るわけではないという。大坪文雄社長は『文藝春秋』10年7月号のなかでこうした方針を示し、「日本国内の新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず海外から留学している人たちを積極的に採用します」と述べている。

   同社は中期経営計画で、3年後の売上高を10兆円に設定している。このうち海外での売上げ比率を現在の48%から55%まで引き上げる考えだ。これは海外市場で年間5兆5000億円売ることを意味し、達成すれば海外での販売が国内市場を上回ることになる。2018年度には海外比率を60%以上まで伸ばしていく考えで、裏を返せば、日本の比重が急速に減っていくことになる。外国人採用枠の拡大は、グローバル化を図る上で、日本人よりも外国人が必要と判断したためだ。

 パナソニックの場合は、ユニクロと違って現地採用に近い形が中心のようです。ただ日本国内の採用は抑制方向にあるだけに、こちらの方が日本の求職者にとってはより深刻と言えます。しかしまぁ、特に自動車とか家電製品とか、その辺を主力とし続ける会社の海外流出は避けられないのかも知れません。自動車や家電製品がすぐに壊れるから定期的に買い換えなければならないとか、新製品が出たら古い製品を捨てて新しいものにどんどん買い換えるような消費文化の強い社会であるならともかく、すでに自動車や家電製品など「もの」が行き渡った国で、今まで以上に売上が伸びるなんてことはあり得ないですから。

 そうなったとき、進むべき道は二つあります。一つは、まだ国内に普及していない何か新しいものを生み出すこと、もう一つは、まだ自社製品が普及していない新たな市場に販路を見いだすことですね(それができなければ潰れるだけです)。アメリカの有名企業には前者も少なくない、つまり時代に合わせて主力商品を変えることで発展を続ける企業も多々ありますし、日本の企業だって過去にはそうやって大きくなったところも珍しくなかったはずです。しかるに、昨今の日本企業の場合は後者のパターンが圧倒的に多いように思われます。業態を変えない、「ものづくり」の美学を貫き通すために、業態を変えずに生きる道を選ぶ、そうして海外進出=雇用流出という結果を導いてはいないでしょうか。

 結局のところ、日本は給与所得の減少が続いて購買力は落ちるばかり、心許ない社会保障も相まって貯蓄性向が極めて強く、その上「もの」は普及している、日本の製造業の花形である自動車と家電製品を必要としていながらまだ購入していない人の数など限られているわけです。この三重苦にきっちり対応して、日本の市場としての魅力を取り戻さないことには国内雇用の継続的な増大など見込めないでしょう。欠けているのは企業の強さや個人の努力であるよりも、市場の魅力なのです。

 

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阿久根は今日も最先端

2010-06-23 23:05:17 | ニュース

市議に日当制、「年収」40万…阿久根市長また専決(読売新聞)

 鹿児島県阿久根市の竹原信一市長は18日、市議報酬の日当制導入、法人市民税や固定資産税の引き下げなど、3件の条例制定、改正を専決処分した。

 竹原市長は議会に諮らないまま、職員や市議らのボーナス半減などの専決処分を繰り返しており、市議会(16人)の反市長派市議12人は「手続きを無視した悪政」と反発。22日にも伊藤祐一郎知事に対し、地方自治法に基づく是正勧告を行うよう求める。

 市によると、従来の市議報酬は月額制で、月26万3000円~37万1000円が支給されている。夏と冬のボーナスを合わせると年間支給額は360万円程度になる。

 今回、竹原市長は日額1万円の日当制を導入し、定例会や各委員会などに出席するごとに支給すると決めた。年間出席日数は平均約40日。ボーナスもなくなるため、市議の年収は40万円程度になるとみられる。施行日は7月1日。議員報酬の日当制は福島県矢祭町が導入している。

 市税条例や手数料条例の2条例も改正した。来年4月から、法人市民税の税率を現行の14・7%から12・3%に、固定資産税の市税分の税率を1・4%から1・2%にそれぞれ引き下げる。税収の減額幅は年間計約1億6000万円になる見込み。さらに、今年8月からは、住民票の交付手数料などを現行の300円から200円に引き下げる。

 さて、久々の阿久根市ですが、相変わらず最先端を走っている感じです。先日は民主党が法人税引き下げ方針を打ち出してきたわけですけれど、その辺もまた阿久根市の後追いに過ぎません。日本の政治の未来を具現化した存在である阿久根市では、市長の独断で法人税減税が決定されたようです。住民票の交付手数料も100円ほど下げられたそうで、この辺が市民向けに「改革の成果」としてアピールされるのかも知れませんが、そう頻繁に利用するわけでもないサービスの料金をジュース1本分だけ下げられたところで、ねぇ?

 ちなみに阿久根市の市議会議員の報酬はボーナス込みで360万円程度だとか。お金のためなら上京してサラリーマンやった方が良さそうですけれど、それでも議員なんてやるのは郷土愛の故でしょうか。しかるに、この程度の議員報酬でも目の敵にする人はいるもので、これまた市長の独断で議員報酬は日額1万円に下げられたそうです。年間出席日数は平均約40日と伝えられていますが、このまま市長の独裁が許され議会がマトモに開かれないとなれば限りなく0に近づく可能性も考えられます。

 そうなると議員報酬なしでも議員として活動できる人、つまりは有閑階級だけが議員を務めることになりますけれど、こういうところには目をつぶるのが市民感覚というもので、そうした市民感覚が竹原という狂人に権力を与えてもいるのでしょう。この手のむやみやたらと無償奉仕的な働き方を求める、低い報酬で働くことを求める感覚に関してはまた個別に考えてみたいと思いますが、ともあれ国政レベルでも民主党を筆頭に主だった党はことごとく議員削減を訴える、議員をムダと見なしているわけです。阿久根だけではなく日本全体の傾向として、議員の存在がムダ、それに支払われる報酬がムダと考えられている、その行き着く先が阿久根市で具現化されていると言えます。

 たしかにまぁ、この市長の暴走を止められない時点で市議会議員は役目を果たせていないと言えるのかも知れません。暴政に歯止めをかけるのも政治家の大切な役割ですから。しかし、この竹原市長やその支持層、並びに議員定数削減を競い合っている政党の政治家やそれに賛同している人々にとって、政治家の役割って何なのでしょうか。阿久根の場合は、定例会や委員会などに「出席」することに対して報酬が支払われるようです。他所の自治体でも「○○日しか出席していないのに、○○円も報酬を受け取っている~」みたいな批判は頻繁に耳にしますね。してみると、議員の仕事は「出席」であると、そう認識されているのでしょうか。そりゃ議会や委員会を欠席してばかりいる議員は問題かも知れませんが、「どれだけ出席したか」で議員の働きを評価するような人に、政治を語って欲しくないと思います。

 

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第三の道

2010-06-22 23:01:07 | 非国民通信社社説

 この頃は菅直人が「第三の道」などと言い出したわけですが、少なくとも日本において「第三の道」みたいな言い方をされるものの大半は、基本的に従来路線の継続に過ぎないものばかりであるように見えます。菅の「第三の道」にしたところで、要は消費税を上げて法人税を下げる、その点では従来路線から僅かなりとも外れていないのですから。「自称・第三の道」は実質的に「第一の道」でもあります。

 経済において「右」と位置づけられる立場は、基本的に「企業寄り」で「逆進課税」を増税の選択肢とします。企業が成長すれば、それが国民にも還元されるとのブードゥー理論に基づき企業を優遇する、そのために規制緩和する、法人税を下げる、その財源として逆進課税(消費税、あるいは竹中が構想していたという人頭税)を持ち出す等々。一方で経済における「左」の立場は、「弱者寄り」で「累進課税」を主張するわけです。これがそれぞれ、第一の道、第二の道とも言えるでしょう。では、正真正銘の「第三の道」があるとしたら、それはどうなるでしょうか。

 実は第一の道と第二の道、「右」と「左」で被っているところがあります。それは「弱い企業」に対する態度ですね。決して労働者側に付くことはない経済右派は強弱にかかわらず企業側に立つ、しかるに経済左派は企業か労働者かではなく、強弱における「弱い」側に付く傾向にあります。ですから両者とも「弱い企業」には意外に甘いところがあって、それが最低賃金を巡る扱いにも影響してきたところもあるでしょう。人件費を最低賃金ギリギリに抑え込まなければ成り立たない「弱い企業」を、それぞれ理由は違えど両者は共に守ろうとしてきたわけです。

 「弱い」立場に寄り添う左派の結論が、累進課税に落ち着くのは当然と言えます。一方で企業側に寄り添う右派としては法人税を下げたくて仕方がない、そこで法人税の減税分を補う別の財源を探すとなると、消費税しかないということになるのでしょう。ただ、露骨に「法人税減税の穴埋めのため」と言い出すとさすがに聞こえが悪いですから、色々とツッコミどころ満載の空論で正当化を図るのが通例です。

 消費税をゴリ押しする建前の一つとしては、「消費税は安定財源だ」なんて代物があります。所得税だってそんなに不安定には見えませんけれど、まぁ法人税に比べれば安定財源とは言えるのかも知れませんね。確かに法人税は不安定財源、なにしろ法人税は利益に対する課税ですから、黒字の企業からしかとれない、不況で赤字の企業ばかりになったら法人税は劇的に落ち込んでしまいます。ですから財政再建の面からすれば景気に左右されやすい法人税は扱いにくいのでしょう。ただ不況時には税収が減って好況時には税収が増えるということは、見方を変えれば「不況になったら自動的に減税、好況時には自動的に増税」「赤字の時は免税、儲かっているときだけ払えばいい」税金ということでもあります。景気対策の面では、法人税中心の構造は一概にマイナスとは言えないでしょう。

 それでも安定財源が欲しいというのなら、消費税の他に所得税だってありますし、「税」という名目にこだわらなければ社会保険料だってあるわけです。とりわけ欧州諸国に比べると著しく低い水準に据え置かれている社会保険料の事業者負担分には引き上げの余地が大きいはずで、敢えて「第三の道」を探るなら、この社会保険料の事業者負担分の引き上げも視野に入れるべきではないでしょうか。「消費税を社会保障目的の財源に~」などと、かつて消費税率が5%に引き上げられたときと似たようなことを平然と宣う鳥頭には事欠かないですけれど、社会保障の財源とするなら徴収した社会保険料(もう一個くらい新たに項目を作っても良いでしょう)を福祉全般に回していく方がまだ使途が明確になりそうな気もしますし。

 ただ企業負担を絶対に増やしたくない右派にとっては元より、左派にとっても社会保険料の事業者負担の引き上げはハードルの高いところもありそうです。なにしろ法人税は儲かっている企業だけが払うもの、ロクに利益の上がらない「弱い企業」にとっては上がろうが下がろうがあまり関係がないのに対し、社会保険料は黒字だろうが赤字だろうが納めなければならないものです。ゆえに「弱い企業」にとって法人税の増減は重大事ではないが(むしろ消費税増税による消費の落ち込みの方が心配事になりかねない)、社会保険料の事業者負担の増大は深刻な危機にも繋がります。最低賃金の引き上げのように。

 もちろん経済においても左派は無策ではありませんので、最低賃金の引き上げに耐えられない企業には何らかの支援をするなど対処案も考えられているわけです。仮に社会保険料の事業者負担を引き上げるとしても、その引き上げに耐えられない「弱い企業」には同様に支援する辺りの対策は、即座に上がってくるでしょう。もっとも、この「弱い企業」をどう扱うか、弱者として守るべき対象と見るか、それとも冷酷に切り離すことも考えなければならないのか、その辺はまた別の機会に取り上げてみたいと思います。

 

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なぜ菅の語る軽減税率は信用できないのか

2010-06-21 22:57:57 | ニュース

軽減税率や還付、前提 消費増税、首相が条件表明(産経新聞)

 菅直人首相は20日、超党派で消費税引き上げをめぐり論議する場合、低所得者の負担を軽減するため、食料品など生活必需品の軽減税率のほか、税の還付が前提条件になるとの考えを表明した。

 首相は東京都町田市などで街頭演説し、社会保障財源の一部を赤字国債で調達しているとした上で「このまま借金を増やして大丈夫かということが問われている」と強調。その上で「消費税の逆進性をなくすため、軽減税率や税の還付をしっかりやることを前提として、野党と大いに議論したい」と述べた。

 菅/民主党の消費税増税プランの中で目新しいところがあるとしたら、この軽減税率になるわけですが、その実現の可能性については大いに疑わしいところがあるように思われます。今日はその軽減税率の実現性と、逆進性緩和は本当に可能かを考えてみましょう。

 たしかに、軽減税率を設けることで消費税の逆進性を緩和させることはできます。ただ、税の還付となると微妙なところがあるはずです。おそらく生活必需品を購入する際に支払った消費税を翌年度以降に還付するというものになると推測されますが、本当にカツカツの日々を過ごしている貧困層からすればどうでしょう? 多少なりとも可処分所得に余裕がある「中の下」辺りより上の人からすれば、「先に多めに消費税を支払わされたとしても、来年になれば戻ってくるから良いか」で済むかも知れません。しかし、本当にギリギリの生活をしている人に対して、「来年になったら還付するから」と多めに税を取り立てるとしたら、これは弱者イジメに他ならないでしょう。「還付」ではなく、消費税支払い分を先に給付するぐらいしないと、消費税による逆進性は緩和できないものなのです。

 民主党の枝野幸男幹事長は20日のNHK番組で「消費税は基本的に社会保障に回す。社会保障財源が10兆円くらい埋まらない部分について、あと5%くらい(増税が)必要だ」と述べ、増税分を社会保障財源に回す考えを表明した。

 この枝野の発言からは、菅/民主党の消費税増税プランがいかに考えの足りないものかがよく見えてくるような気がします。「本当に」消費税増税分を社会保障に回したとして、それでも「10兆円くらい」では現状の社会保障費の「埋まらない」部分を埋めることしかできないわけです。たまに「消費税を増税しても、その分を社会保障に回せば逆進性など発生しない」と言い張る人を見かけますけれど、計画されているのは社会保障を上積みするどころか、現状を維持する程度でしかありません。一人親世帯ともなると、所得再分配の結果として余計に貧しくなるほど逆進性の強い日本の社会保障であるにもかかわらず、それを維持するために消費税というさらなる逆進性を付け加えるとしたら、世界に類のないウルトラ逆進国家のできあがりですね。参考、貧困層をより貧しくする日本の歪んだ所得再配分(東洋経済)

 そもそも、本当に「10兆円くらい」の税収が、枝野の言う「5%くらい」の消費税増税で賄えるのでしょうか。現時点では消費税5%で、9.6兆円の税収があります。消費税増税で消費が冷え込まなかったとして、これを単純に2倍できれば、10兆円程度の税収は見込めるのかも知れません。しかるに菅が言う軽減税率を、本当に逆進性を緩和できる程度に実行したらどうなるでしょう? 以下は各国の消費税率と、税収を示したものです(図表はどちらも財務省のサイトより)。

 まとめると、以下の通りです。

       消費税率  消費税税収
  日本    5.0%  6.9%
 イギリス  17.5% 13.7%
 ドイツ   19.0% 14.2%
 フランス  19.6% 14.6%
スウェーデン 25.0% 17.4%

 軽減税率のない日本では消費税率の1.4倍程度の租税負担率となる一方で、軽減税率を設けている国では消費税率の0.75倍程度の租税負担率にしかなっていないことがわかるはずです。スウェーデンに至っては消費税率が日本の5倍もあるにもかかわらず、消費税の負担は日本の3倍を下回っています。つまり逆進性を緩和するのに十分なだけの軽減税率を設けると、消費税の税収は単純には伸びないわけです。仮に英独仏並みの軽減税率を設け、その上で消費税を10%に上げたとすると、見込まれる消費税税収は7.5%程度にしかならず、従来の6.9%から、0.6%程度しか税収は増えず、これでは財源としては使えません。歳入に換算すれば、「消費税10%-軽減税率」で見込まれる税収増は1兆円以下です。枝野の言う、現状維持に必要な「10兆円くらい」には届かないどころかカスリもしません。それでも本当に10兆円を消費税増税によって捻出する計画だとしたら、それは軽減税率は実質的に放棄することを意味しています。軽減税率は掛け声だけで、逆進性はそのまま、そうやって10兆円の税収を見込み――その分だけ法人税を下げる予定なのでしょう。

 

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菅は大ばか

2010-06-20 22:58:52 | ニュース

参院選へ街頭論戦はや熱く 首相の消費税構想、野党批判(朝日新聞)

 菅直人首相(民主党代表)は19日、さいたま市と千葉市で街頭演説し、24日公示・7月11日投開票の参院選に向けた遊説をスタートさせた。首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を訴え、野党党首も街頭などで首相の「消費税10%」発言を批判。論戦が熱を帯びてきた。

 さて、菅が自民党と足並みを揃えて消費税10%を掲げてきたわけです。一応、軽減税率に言及することで逆進性に配慮するそぶりを見せてはいるものの、消費税率は10%と明言しながら軽減税率に関しては具体的な数値は全く出てこないだけに、その辺は立ち消えになりそうですね。そもそもマトモに軽減税率を設けたら消費税の税収は大して増えなくなってしまうだけに、財源として消費税を考えているなら軽減税率が実現される可能性は低い、菅がごく短期間だけ言及していた所得税の最高税率と同様、軽減税率も立ち消えになってしまうことでしょう。

 自民党の谷垣禎一総裁は福島市での演説で、自民党が掲げた消費税率10%を「参考にする」と語った首相を「無責任」と批判。首相が求める消費増税に向けた超党派協議について「ばらまきのマニフェストを全部引っ込めて、国民と契約したが債務不履行で申し訳ないと言ってくれなければできない」と語った。

 菅は「超党派の議論を」と繰り返し強調してきました。具体的には、その数値を参考にすると明言した相手である自民党のことを指しているようです。自民党と手を携えて消費税増税に踏み切ることで、それが反発を買ったときのために予防線を張っているのでしょう。「消費税増税は民主党の独断で決めたことではなく、超党派で決めたことだ!」と。しかるに谷垣は、与党が負うべき責任を分担させられるのは嫌だと、そんな立場のようですね。共に消費税増税を掲げるもの同士、手を携えていきましょうということにはならないようです。地方行政レベルでは黄金コンビのくせに。

 さらに雇用創出に絡み、日産自動車のカルロス・ゴーン社長を名指しで批判。「首切りのうまい経営者は優れた経営者であるはずだと言ってたくさんの給料をもらっている。国は国民をリストラすることはできない。国民全体を考えたら、リストラする経営者ほど立派だという考えは大間違い」と語った

 引用の順番が前後しますが、菅はこんなことも言っています。ただ、それを言うなら公務員削減を自民党やみんなの党と競い合っている民主党/菅だって大間違いではないでしょうか。国民は国の従業員ではなく、出資者=株主に擬せられるもので、国にとって従業員と言えるのは、まさに民主党が削減に血道を上げている公務員であり、国会議員なのですから。社員を「ムダ」と見なしてリストラするのと、公務員や議員、その他諸々の公共機関をムダと呼んで切り捨てるのと、いったい何が違うというのでしょうか。

 確かに「リストラする経営者ほど立派だという考えは大間違い」です。リストラはあくまで手段であって、目的ではありませんから。リストラの有無にかかわらず経営再建できれば経営者としては立派、リストラの有無にかかわらず経営再建できなければクズです(左記は一般的な目線=経営者目線で考えた場合/労働者目線で考えると評価基準はまた別のものになります)。国政運営も同様、ムダ削減は手段の一つに過ぎません。何のためにムダ削減するのか、その目的を果たせたかどうかで判断されるべきでしょう。しかるに菅の率いる民主党こそ、ムダ削減を掲げることで人気を集めてきたとしたら、菅/民主党はゴーン以上に非難を浴びてしかるべきです。

 首相は19日の街頭演説の時間の大半を経済・財政政策に割いた。中でも財政再建に力を入れ、「これ以上借金を積み重ねたらギリシャのように財政が破綻(はたん)し、予算や税率を決める権限もすべて外国任せになる」などと指摘した。

 またまた引用の順番が前後しますが、なんと言いますか自民党議員の発言として紹介されても納得してしまう代物ではないでしょうか。曰く「予算や税率を決める権限もすべて外国任せになる」だとか、「日本が外国に乗っ取られる! 日本が危ない!」というわけですね。国士様は大変です。しかしどうやって外国が日本の予算や税率を決める権限を握れるというのでしょうか。借金のカタに? それは無理ですよね。だって日本の国債はほとんど国内調達、つまり日本政府は「国民」に借金をしているわけです。外国からお金を借りているわけではありません。ならば債権者(お金を貸している人)が、債務者(お金を借りている人)を支配することになったとしても、それは「国民」が「政府」を支配することになるだけです。

 それ以前に日本は世界一の対外債権を有している、世界で最も「外国にお金を貸している国」でもあります。しかもギリシャのように他国と連合を構成しているわけでもない孤立した国です。EUの一部であるギリシャの場合はEUが管財人の役目を務めざるを得ませんが、良くも悪くも日本は日本でしかありません。それでも「外国任せ」になるとしたら、政府がどこか他国に干渉したがる国の言いなりになったときぐらいでしょう。「外国任せ」になるとしたら、それは借金のせいではなく、政府与党が無能で怠慢だからです。正直、今の時点で十二分に無能で怠慢な民主党や現野党第一党に任せるくらいなら、外国任せにした方がよほど上手く行くような気がしてなりませんけれど……

 

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 ちなみに本当に財政破綻の可能性があるのかどうか、財政再建を急ぐ必要があるのかについては、下記フィナンシャル・タイムズのコラムが参考になります。
日本は本当に公的債務問題を抱えているのだろうか?(フィナンシャル・タイムズ)

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