非国民通信

ノーモア・コイズミ

ここだけ民営化路線とは正反対

2010-10-31 22:59:25 | ニュース

空き缶の持ち去り禁止条例に論争 野宿者「生きる糧だ」(朝日新聞)

 資源ごみをめぐり、京都市が指定業者以外の回収を禁じる廃棄物処理条例の改正案が28日、市議会で可決された。回収前の空き缶を持ち去って転売する業者が相次いだためだが、缶集めで暮らすホームレスの支援団体が「生きる糧を奪うな」と反発。市はホームレスに仕事を紹介する支援策も決めた。同様の条例は各地で施行、検討されており、行政の対応が注目されている。

 回収が禁じられるのは、街角の集積所に出される空き缶、びん、ペットボトルなどの資源ごみ。条例改正のきっかけは、金属価格の高騰を背景に、空き缶を無断で集め、転売しているとみられる業者が目立ったためだ。市民からは「業者らしき車が大量に缶を持ち去った」「市指定の有料ごみ袋で出す意味がない」といった苦情が寄せられていた。

 市が指定業者に空き缶を売却する収益は年間1億円前後で、財政難の市にとっても貴重な財源。来年4月に施行される改正条例では、指定業者以外の資源ごみ回収や持ち去りが禁じられる。ただ、違反者に対する罰金や過料などの罰則規定はない。

(中略)

 京都市内では、資源ごみ回収日の朝になると、空き缶を徒歩や自転車で集めて回るホームレスが少なくない。鴨川の河川敷で暮らす男性(66)は週3日、空き缶を集めて暮らす。転売すると1キロ70~100円になる。「禁止されたら収入がなくなる。不況が続き、高齢では仕事も見つからない」とこぼす。

 今なお「民間でできることは民間に」とか「民業圧迫だ!」とか喧しく、その辺は事業仕分けでもこれ見よがしに叫ばれているわけですが、資源ゴミの回収はどうなんでしょうね。民間人並びに民間の業者が資源ゴミを収集する一方で自治体もまた回収に当たる、そして一つの収益源にもなっているとのこと、官民で利益を争うような場面であればそれこそ財界並びに業界団体側から民営化を推し進めるよう圧力がかけられてもおかしくないところです。そうならないのは資源ゴミを回収している業者側やホームレスが政治的に弱いからでしょうか。

 転売目的の回収ともなりますと、高値で売却できるものだけを持ち去って金にならないゴミを散らかしていったりもするのではないかとかも懸念されるのですが、幸いにしてそういった苦情は寄せられていないようです。代表的な苦情として紹介されたのは「業者らしき車が大量に缶を持ち去った」「市指定の有料ごみ袋で出す意味がない」辺りで、まぁ実害はないですよね? 捨てたゴミを業者が持ち去ることで何か不利益を被るのか、苦情を寄せてきた市民には逆に聞いてみたいぐらいです。

 まぁ資源ゴミ収集がホームレスの収入減になっているとはいえ、それを容認し続けるよりももうちょっとマシな仕事を世話した方がお互いのためになるところもあるのかも知れません。ただ、市が決めたという「ホームレスに仕事を紹介する支援策」は果たしてアテにできるものなのでしょうか。昨今は若年者はおろか新卒者の就労すらままならないだけに、高齢のホームレスでも採用される仕事がどれだけあるのか懐疑的にならざるを得ないわけです。要支援者にしたところで「ホームレスを続けて空き缶を拾っていた方がマシ」なレベルの仕事を押しつけられるのは御免でしょうし。

 責任を持って安定就業させることができるのならいざ知らず、そうでないのに資源ゴミ回収を厳格化してホームレスを締め出してしまうようなら、ちょっと順序が違う気がします。まず先にホームレスの生活再建があって、それが上手く行けば空き缶拾いで日銭を稼ぐ必要がなくなる、そうなってからゴミ回収のルールを厳格化するのが筋というものでしょう。しかるに今時の就労環境で確実に空き缶拾いよりもマシな仕事を自治体が世話できるとも思えないだけに、生活保護などの社会保障手当がどうしても必要になります。しかし、その辺も自治体は渋ることが予測されますから円満な解決は著しく遠そうです。

 大阪府内では6市が資源ごみの持ち去りを条例で禁止し、河内長野市と茨木市では違反者に罰金を科している。河内長野市では08年に20万円以下の罰金を科す条例を施行したところ、紙類や缶、びんの回収量が増えたという。同府箕面市も、空き缶などの資源ごみの持ち去りを禁じる条例改正案を12月議会に提出し、来年度中の施行をめざす。

 厚生労働省がまとめたホームレスの自立支援に関する基本方針では、自治体に対し「アルミ缶回収など職種の開拓や情報提供を行う」と支援策を示している。

 ちなみに先行して資源ゴミの持ち去りを禁止、独自に罰則を設けている自治体もあるそうです。一方で厚労省の見解としては「アルミ缶回収など職種の開拓や情報提供を行う」とのこと。ここで挙がった自治体とは正反対ですね。どういう意図があってのことでしょうか。察するに厚労省サイドは十分な公的支援をしない/できない代わりに既存の小銭稼ぎを黙認する方針なのでしょうか。初めに禁止ありき、罰則ありきの自治体に比べればマシな方かも知れませんが、これはこれで無責任な気もします。



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年は取りたくないもの

2010-10-30 22:59:55 | ニュース

日航、操縦士130人に白紙の乗務予定 2カ月連続で(朝日新聞)

 会社更生手続き中の日本航空は25日、パイロット約130人に対し、再び「白紙」の乗務スケジュール(11月分)を渡し、自主退職を促した。リストラ対象者の「乗務はずし」は10月に続いて2カ月連続。日航は目標の削減数に届いていないとして、客室乗務員約140人とあわせた計約270人の希望退職者を、11月上旬をめどに改めて募集する。それでも退職者が集まらない場合、整理解雇に踏み切る方針だ。

 パイロットは社内規定により、乗務しない期間が60日を超えると、シミュレーターによる復帰訓練が必要になる。2カ月連続で乗務を外されたパイロットは、資格のうえでも、乗務復帰が遠のいたことになる。

 日航は9月以降、全職種で計1500人を目標に、おおむね45歳以上を対象に、希望退職(退職日は11月30日)を募集してきた。

 パイロットの削減目標は約370人。日航は55歳以上の機長や45歳以上の副操縦士を対象に、10月からの乗務を外すなどして退職を促してきた。だが応募を締め切った22日の段階で、目標を約130人下回ったため、応じなかったメンバーに改めて白紙のスケジュールを突きつけた。

日航CAにもリストラ包囲網 「残っても仕事はないよ」(朝日新聞)

 会社更生手続き中の日本航空が、パイロットだけでなく一部の客室乗務員にも、乗務から外して自宅待機させる勤務表を渡し、自主退職を迫っている。締め切りを11月9日まで延ばし、対象年齢を42歳まで下げたが、50歳以上や病欠者への退職要求は一段と強まっている。

(中略)

 客室乗務員で面談の対象になったのは約680人。会社から「残っても仕事はない。何をするつもり?」「整理解雇になったら、高齢のあなたは一番に対象になる」「お客様が、年齢が高い人にサービスを受けたいと思いますか?」と言われた人もいる。

(中略)

 労組「日本航空キャビンクルーユニオン」(CCU、856人)は、「会社による組合差別が背景にある」と訴える。 日航が退職目標に足りないとしている客室乗務員は140人。これは、会社側と対立してきたCCUに所属する50歳以上の組合員数とほぼ一致する。会社寄りの組合では、50歳以上は管理職になっており、対象者はほとんどいないのと対照的だ。

  しばしば経済誌では「中高年の既得権益を守るために若年者の雇用が犠牲にされている」みたいに書かれているものですが、現実の世界でこういった実質上の整理解雇の標的にされてきたのは、言うまでもなく中高年でした。今回の日航の例も典型的で、首切りの対象とする基準はまさに年齢に置かれているわけです。年齢が高いだけで経済誌からも会社からもぼろくそに言われるとしたら、いやはや年なんて取るものじゃありませんね。

 ちなみに副操縦士である場合は45歳が分かれ目になるのに対し、機長の場合はこれが55歳に設定されています。またCAの場合でも管理職になっている人はリストラ対象から外れているようで、つまり出世していれば会社に残れるようです。なんだか、中央省庁の世界を思い起こさせてくれますね。出世した人は官僚組織に残り、出世コースから外れた人は退職を迫られる――もっとも官僚の場合は退職を迫るにしても別の就職先を世話する慣行があるわけで、民間企業の場合に比べれば雇用側が責任を果たしているフシはありますが。

 日本的雇用の特徴として新規採用の、主として男性であり総合職である正社員=幹部候補生になっているところがあると思います。これで従業員の世代構成がピラミッド型になっている場合、基本的に年齢が下がるほど人が多くなる、年上の社員にとっては後輩の数が多くなりますから、必然的に会社に長くいる人は後進を率いることが求められます。そうである限りにおいて、正社員=幹部候補生という図式も辻褄が合ってしまうわけです。しかるに少子化でピラミッド型の世代構成は望めなくなった、さらに女性が仕事を続けるようになったことで必然的に中高年比率が高くなってくると、中高年社員から見た若手社員の数は相対的に少なくなる、部下として率いるべき後輩の数も少なくなってきます。結果、いつまでも副機長止まりだったり50を過ぎても非管理職の人も増えてくるわけで、こういう人がお荷物呼ばわりされて退職を強要されているのでしょう。

 非正規雇用にしても似たようなところがあって、「雇い止め」ならぬ「雇い替え」とでも呼ぶべき行為が珍しくありません。つまり、労働力が不要になったから契約を打ち切るのではなく、労働力は引き続き必要だけれど、今いる非正規社員にトウが立ってきたから若い人に入れ替えようとか、そういう思惑で契約を打ち切り、新たに別の人を雇い入れるなんてことがよくあるわけです。年は取りたくないものだとつくづく思わざるを得ませんが、こういう雇用の在り方が果たして持続可能なものなのか、色々と疑問を感じるところです。

 これまた経済誌では、無能な中高年のクビを切れるようにしろ、そうすれば人材が流動化して好転するみたいな与太が平然と垂れ流されているわけです。現状でも社員の解雇ぐらいどこでも普通に行われているじゃないかというツッコミはさておき、この流動化とやらが「自分に」プラスになると思えるのは、本当に有能であり会社側からも評価されているごく一部の人か、あるいは自分は本当は有能なのだと自惚れているだけの人と言えます。ネット上で知ったかぶりを披露している連中の大半は後者でしょうね。一方で「普通の」もしくは「平凡な」人は、冒頭の日航で起こっているような状況に追い込まれるわけです。新人はあくまで幹部候補生として採用し、出世コースから外れた人はどんどん会社から追い出していく、これもまた日本的雇用を延命させる手段になるのかも知れません。もっとも人件費削減で利益を確保した会社がいくら増えても社会全体は停滞するように、出世コースから外れた人を会社から排除していくような経営で会社単体が儲かるようになったとしても、やはり社会全体で見るとマイナスにしかならないわけですが。



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人のフリ見て何とやら

2010-10-29 23:00:27 | ニュース

【世界おもしろ法律事典】都市住民>農民 「命の値段」は半分以下(産経新聞)

 中国江蘇省北部の新沂(しんぎ)で9月16日、BMWを運転していた湖南省出身の男(33)が、路上で3歳の男児を死亡させた“交通事故”が地元社会を震撼させた。

 監視カメラに記録されていた画像を分析した警察当局によると、男は自分が運転するBMWが男児を轢いたことに気付いたが、救急車を呼ぶどころか車を動かして男児をさらに3回、故意に轢いて死亡させた。

 この男はBMWの持ち主に月給1500元(約2万円)で雇われた運転手だった。警察の調べに対して男は「(事故被害者の)治療費より死亡させた方が安い」と開き直ったため、警察は容疑を殺人罪に切り替えて男を刑事勾留した。

 中国の「道路交通安全法実施条例」などでは、死亡事故を起こした場合、最高3年の懲役が科せられる。都市部住民が交通事故で死亡した場合、賠償金は53万元(約690万円)ほど。だが、ケガをさせた場合の医療費や慰謝料は死亡時の10倍を超えるという。

 事故を起こしたら殺した方が安い、という恐ろしい発想が中国にはびこっているようだが、この事件で改めて注目されたのは「戸籍による賠償金の差」だ。

 中国では出身地や親の戸籍によって、都市部住民と農村部住民とに戸籍が明確に区別されている。

 死亡事故の場合、被害者が都市戸籍なら賠償金は53万元ほどだが、農村戸籍なら24万元と半分以下に減額される。ケガをさせた場合も慰謝料は半分以下だ。

 賠償金や慰謝料の算出は被害者の収入がベースになるが、まず都市か農村か、戸籍の差で命の値段が決まるところが恐ろしい。死亡した3歳児は都市戸籍だったとされる。

 「恐ろしい」などと、さも義憤を感じている風を装った記事なのですが、しかるに見出しは【世界おもしろ法律事典】とあります。「恐ろしい」などと言いつつ、その実はおもしろがっているのではないか、不謹慎ではないかとツッコミをいれたくなるところです。とりあえず死亡事故の賠償金の方が負傷時の医療費並びに慰謝料よりも「安上がり」と判断されてしまう状況は大いに問題があると思われますが、もう一方の争点である「戸籍による賠償金の差」はどうなのでしょうか。

 中国の現行法では戸籍によって賠償金額が区別されるそうで、引用元の記者は「戸籍の差で命の値段が決まるところが恐ろしい」と述べています。確かに、それもまた問題のある制度には違いありません。ただ日本の新聞社の人間である以上、こうした差別的取り扱いを他人事のように語って欲しくはないものです。何しろ似たような事例や主張は日本でも普通に存在するのですから。

参考1、法の下の不平等

参考2、司法のお墨付き

 たとえば障害者を事故死させてしまった場合、障害を理由に「将来の収入を想定できない」として賠償金額を大幅に減額するなんてことがあります。あるいは雇用形態の違いを理由に非正規労働者の逸失利益は低く見積もるべきではないかと主張する裁判官なんかもいるわけです。中国では戸籍の違いによって命の値段に差を付ける、これが産経記者にとっては「恐ろしい」ことのようですが、では日本はどうなのか? 障害の有無や雇用形態の違いによって、あるいは性別の違いや親の社会的地位の違いによって命の値段に差を付けてきた日本の制度もまた、「恐ろしい」と評されるにふさわしいと思われます。

 とかく「愛国」を語る人ほど、自国の現実からは目を背けがちです。隣国の粗探しに余念がない一方で、自国に関してはただ夢を見ているだけ、そういう人も多いのではないでしょうか。ここで伝えられている中国の現行法には少なからず問題があるわけですが、似たような問題を日本もまた抱えていることを果たして引用元の記者は把握しているのかどうか、何かと疑わしく感じられます。自国が同様の問題を抱えていることを自覚できていれば今回の事例を反面教師にもできるのでしょうけれど、自国の実情に無知であったり、あるいは自国を棚上げしているばかりですと、単なる悪口で終わってしまうものです。



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他人の就職を世話する仕事

2010-10-28 22:57:57 | ニュース

就職できない大学生が3割 “大留年時代”到来の悪夢(DIAMOND online)

 9月下旬。東京・青山の高層ビルでは、合同会社説明会が開催されていた。

 「イオンさん、セブン&アイさんなど流通各社を50社以上回りましたが全滅でした」

 地場の中堅スーパーの採用担当者にこれまでの就職活動実績を問われた都内中堅大学の女子学生が伏し目がちに答えている。

 斜め後ろのブースは、一般には不人気な、生・損保の電話セールス会社が陣取っていたが、時間指定の整理券をもらわないと説明会に参加できないほど、希望者が殺到していた。


(中略)

 この合同説明会を開催したアクセスヒューマンネクスト社は、「去年の1.5倍、一昨年の2倍相当の学生が来たし、一流大の学生もいる。今年の就職状況の厳しさは、尋常ではない」と指摘する。

(中略)

 大学生の就活を支援する就職予備校の大手「内定塾」には、4年生の就活の厳しさを目の当たりにして、希望者が殺到している。昨年、年間で200人だった3年生の希望者はすでにこの半年で600人と満杯状態だ。しかも、「昨年までほとんどいなかった就職留年組が1割を占め、その半分は親が申し込んできた。早慶、一橋など一流大学も少なくないから、今年の就職状況がそうとう厳しいのは間違いない」という。

 中途採用者は元より高卒者の就職状況は輪をかけて悲惨な状況にあるわけですが、最も頻繁に取り上げられるのがこの大学生の就職難です。新卒者を優先的に採用する慣習のある社会であり、かつ中小企業すらもが中途採用を抑制して新卒採用にシフトしていると言われているにも関わらず、新卒予定の段階ですら就職できない人が続出していることが伝えられています。このような状況下では就職実績を売りにする類の専門学校や人材紹介を生業とする企業が栄えるもので、引用元で触れられているアクセスヒューマンネクスト社は「去年の1.5倍、一昨年の2倍」の集客に成功したようですし、就職予備校の大手という「内定塾」は前年比3倍の入学希望者を半年で集めたそうです。国内求人が急速に減っていく中で、「他人の就職を世話する仕事」だけは伸びていくわけですね。



 こちらは足立区の「若者正社員就職サポートプログラム」ですが、いかがでしょうか。私も問い合わせてみたのですけれど、ちょっと見つけた時期が遅かったせいか既に満席でした。新卒予定者向けの就職説明会の中には、受付開始から30分も経たないうちに満席で予約受付が閉め切られてしまうところも多いようですが、このプログラムはどうだったのでしょう? ちなみにこのプログラムに参加できるのは最大25名とのことです。何人くらい収容できる会場なのかはわかりませんけれど、12回も選考会が開催される中で選ばれるのは多くて25名ということになります。1回の選考会で合格するのは平均2名、就職ではなくプログラムへの参加という初期段階からして狭き門です。そしてプログラムに参加できたとしても確実に就業できる保証はない、正規採用される保証はないというのですからシビアなものです。

 なお足立区の名前が看板に掲げられてはいますけれど、実際に研修や就業先への斡旋を行うのは派遣会社のインテリジェンスです。これは別に珍しいことではなく、他所の自治体でも人材紹介/派遣会社への丸投げはよくあることのようです。まぁ自治体が就職支援のノウハウを持っているかというと甚だ心許ない、しかも人員削減を迫られている中では新規プロジェクトのために人を回す余裕はない、こういう状況では派遣会社(もしくはNPOなど)に委託するほかないのでしょう。派遣会社からすれば自治体からの謂わば「公共事業」を受注する格好の機会になるわけですが、こういう雇用対策事業って、皆様どう思われますか?

 ちなみに上記インテリジェンスなどの派遣会社がプログラム採用者の就職支援を行うかと言えば、そこもまたちょっと微妙だったりします。この辺この辺でも紹介したことになりますが、就職支援を行う部門でも非正規への置き換えは普通に進んでおり、各種の就労支援プロジェクトで働いている人も実は明日をも知れない派遣社員だったりすることが珍しくありません。そして派遣会社側では就労希望者に向けて「他人の就職を世話する仕事」を当たり前のように紹介してくるわけです。このインテリジェンスも例外ではなく、「○○市から請負った就職支援プロジェクト」として「紹介予定派遣を受け入れてくれるよう企業側の人事担当者と交渉する仕事」なんかも平然と募集しています。正直、他人の受け入れ先を探すよりもまず自分を採用してくれと売り込みたくなるところなのですが……

 政府は雇用と人件費削減を掲げ、それを自治体は人材紹介/派遣会社に丸投げする、それを請負った派遣会社は自社登録の派遣スタッフに営業活動をさせて、プログラムに採用された人の就職先を探させる――なんだか随分と、不毛なことをやっているように見えて仕方がありません。確実なのは「他人の就職を世話する仕事」という分野で働く人が増えると言うことでしょうか。まぁ社会の潤滑油として色々なものを仲介する仕事の必要性を認めないわけではありませんが、「他人の就職を世話する仕事」ばかりが増えているとしたら、それは何かが間違っているように思います。日本の生産性が上がらない理由の一つには、こういうところにばかりリソースを振り向けているせいもあるような気がしますし。



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何ともたまらないグダグダ感

2010-10-27 22:58:00 | ニュース

目玉の年金記録照合も「仕分け」 「民主が二分」の声も(共同通信)

 27日から始まる政府の行政刷新会議の「事業仕分け」第3弾で、政府が「国家プロジェクト」と位置付ける、オンライン上の年金記録と紙台帳との照合業務が挙げられたことに戸惑いが広がっている。政権交代後の事業仕分けで、新政権の目玉事業が対象となるのは異例。「民主党内が二分しているように見える」と危ぶむ声も上がっている。

 「全国29拠点で作業するとのことだが、もっと減らせば効率性が上がるのではないか」。仕分け人の一人、民主党の玉木雄一郎衆院議員は、照合作業が行われている日本年金機構中央記録突合センター(東京都江東区)を21日に視察後、疑問を投げかけた。年金機構幹部は「民主党政権下で決まったことだ」と説明したという。

 記録照合は、長妻昭前厚生労働相の肝いりで、全国29拠点で1万8千人態勢で行われ、本年度予算に427億円を計上。年金保険料を管理して給付を行う年金特別会計の業務勘定から拠出される。

 そもそも事業仕分けなんてもの自体を廃止すべきではないかと思わないでもないのですが、何でも長妻前厚労相の肝煎りであったはずのプロジェクトが仕分け対象に挙げられるなんてことがあったそうです。そこで仕分け人から問われた年金機構幹部は「民主党政権下で決まったことだ」と説明したとのこと。何ともやりきれない気分でしょうね。自分が担当の幹部であったなら「長妻さんの主導でお決めになったことなのですから、まず長妻さんにでも聞いてみたらいかがですか?」とでも言いたくなる場面です(言い終わる前に傲岸不遜の仕分け人に割り込まれて罵倒されそうですが)。まぁ、国会議員や内閣が強引に決めたことでも最終的に非難を浴びるのは官僚、というのが政治主導というものなのでしょう。

 仕分け人の一人である玉木雄一郎議員は「もっと減らせば効率性が上がるのではないか」などと述べたと伝えられています。枝野にしろ蓮舫にしろ今回の玉木某にしろ、仕分け人ってのはバカが選ばれるものなんでしょうか。ともあれこの「(人を)減らせば効率性が上がる」という主張は他所でも頻繁に目にするわけですが、そうやって人員削減の方向へとばかり世論を誘導していった結果として、昨今の自縄自縛のごとき現状があるように思われます。公務員がサボっているから上手く行かないのだ、みたいな世論に迎合して人減らしを進めていけば有権者ウケは悪くないのでしょうけれど、そうすることで民主党自身が企図したプロジェクトですら実行部隊の数が足りなくなったり、あるいは人手の足りない現場では非常勤で補おうとした結果として官製ワーキングプアが続出したりもするわけです。

特会予算、3年で3千億円余る 21事業が執行9割未満(朝日新聞)

 27日から始まる事業仕分け第3弾の対象となる国の特別会計(特会)の48事業のうち半数近くの事業で、予算の執行率が90%未満にとどまっていることが分かった。朝日新聞が各事業の3年間の執行率を調べた。延べ3千億円を超える予算が余った計算になり、事業仕分けでも焦点の一つになりそうだ。

(中略)

 

 執行率が4.6%と最も低かったのは、農林水産省所管の食料安定供給特会の「農地確保・利用支援事業」(現・農地利用集積事業)。農地の集積化を促す補助金事業で、09年度に75億円超の予算を計上したものの約3億5千万円分しか補助の申請がなかった。同省構造改善課によると、類似するほかの事業と重複したためだという。これらの事業はいったん廃止され、新事業として10年度に約40億円の予算を計上。担当者は「今は実績は上がってきている」と話す。

 さて、今回の人民裁判では特別会計が対象とされています。ここでは予算執行率の低いものが槍玉に挙げられていますけれど、綺麗に100%使い切っていれば、それはそれで非難に晒されそうな気がするだけに難しいところですね。どうも予算が余るようなら来年度からは削減という話のようですが、大方の役所ではそれをやるから無理して予算を使い切るような悪弊も生じてきたわけで、この辺は柔軟に考える必要があると思います。もっとも、執行率が10%を切るような事業に関しては流石に見直しが必要と言われても仕方がないでしょう。引用元でも僅か4.6%の執行率に止まった農地利用集積事業に関して個別に言及されています。それなりに事情がある、というより新事業への移行中でもあるようですが……

 一方、7%の執行率に止まる「若年者等正規雇用化特別奨励金」の方はどうなのでしょう? 興味がないのか引用元では個別に言及されていませんが、いくら何でも低すぎる執行率なだけに何らかの事情はありそうです。まぁ制度ができたのが昨年2月のようで、この7%という数値を見る限り完全に出だしから躓いているように見えます。厚労省サイドとしては制度を作れば飛びついてくる事業者が続出すると踏んでいたのでしょうか。しかるに昨今の超買い手市場の中では中小企業すらもが新卒採用にシフトしているだけに、中途採用を対象とした奨励金制度には事業者側の需要がないのかも知れません。しかし一応の政府方針として雇用重視があるのですから、ただ利用申請を待っているだけではなく奨励金制度を利用「させる」努力も求められるところです。そのためには予算削減よりも人員増加の方が望ましいような気もしますが、それでは政府方針にも民意にも反してしまうのでしょうね。



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巨額の経常黒字を蓄える国

2010-10-26 22:59:07 | ニュース

通貨安競争の回避で合意=経常収支の目標設定は先送り―G20(時事通信)

 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は23日、共同声明を採択して閉幕した。自国通貨安による輸出拡大で各国が景気回復を図る「通貨安競争」の回避で合意。声明に「為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視する」との文言を盛り込んだ。米国と議長国・韓国が22日に提案した貿易不均衡是正のための経常収支の数値目標は、今回は導入を先送りし、今後、「参考となるガイドライン」の策定を目指す方向となった。

 野田佳彦財務相は会議終了後の記者会見で、通貨安競争の回避に関連し、「為替レート監視の合意により、市場が安定する」と成果を強調。一方、不均衡是正の数値目標については「ガイドラインとは参考値のことだ」と述べ、拘束力を持たないとの認識を示した。

 各国は、通貨安競争が世界経済に悪影響を与えかねないとの認識を共有し、声明に「通貨の競争的な切り下げを回避する」と明記。これにより、ブラジルなど一部新興国が直面する自国通貨高の悪影響も是正されるとの認識を示した。

 さらに、声明は中国を念頭に、経済実勢を反映し、通貨価値が市場原理で決まる為替制度への一段の移行を促した。

 世界経済の不均衡是正をめぐっては、米国が経常収支の黒字と赤字を2015年までに国内総生産(GDP)の4%以内に抑える数値目標の導入を主張。人民元安を武器に巨額の経常黒字を蓄える中国を強くけん制した。

 さて、通貨安競争の回避でG20の合意がなされたにも関わらず円高は着々と進んでいます。それはそれで大いに問題なのですが、各紙の報道では脇に追いやられている経常収支の方はどうでしょうか? この辺は中国が矢面に立っているおかげか、まるで他人事のように語られていますけれど、仮にもし中国が会合に参加していなかったとしたら槍玉に挙げられていたのは日本だったはずです。

 この経常黒字の抑制案に関して野田大臣は否定的な考えを示したとのことです。何しろ名目GDPの伸びがますますもって鈍化する中で輸出依存度を深め続ける日本ですから、いつ経常黒字がGDPの4%を超えたとしても不思議ではありません。あたかも中国への牽制であるかのごとく報道されていますけれど、数値目標が設けられた結果として制約を受けるのは日本でもあるわけです。

 何かと財政赤字のイメージばかりが強調されますけれど、日本は世界最大の対外債権国であると同時に、四半世紀にわたって対外収支の大幅な黒字を積み重ねている国でもあります。国内でお金が回っていない一方で、世界レベルで見るとお金が貯まっているわけです。モノを製造して国外に売って、儲けたお金を貯め込む、こういうビジネスモデルは中国を含めた新興国では別に珍しくないものですが、新興国の段階を通り抜けてもなお、既存のビジネスモデルに固執してきたのが日本とも言えるでしょうか。

 先進国の仲間入りを果たした段階で国内には十分な富がある、そうなったらお金を「貯め込む」経済構造からお金を「循環させる」経済へと移行する必要があるはずです。しかるに日本は、モノを輸出して利益を貯め込むという新興国モデルにしがみつき、変革を拒んでいるように見えます。そして新興国とコスト面で張り合えるように労働者の賃金を抑制する、政府も雇用/労働分野の規制緩和によって労働コスト削減を後押しする、その結果として国内市場をやせ細らせ、外需への依存を深めていったのが今に至る日本です。

 モノを製造して海外に売って、得られた収益を貯め込むという新興国型のモデルを延命させるためにこそ改革が続けられてきたとも言えますが、これは時計の針を巻き戻そうとする行為でもあります。十数年来の改革方針を180°転換して、時計の針を進めていかなければならないでしょう。豊かさは貯め込んだ額ではなく、使われた額でこそ計られるものです。経常黒字を積み重ねて「貯め込む」のではなく、国際収支はトントンでも国内でお金が「循環する」ように変えていく必要があります。経常赤字国との貿易摩擦を繰り返し、国内の労働者に無理を強い、そうやって捻り出した経常黒字で国内経済を支えようとするのは、もはや持続可能なモデルではないのですから。



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学校勤めも似たようなもの

2010-10-25 22:59:59 | ニュース

非正規教員、7人に1人 財政難で毎年増加し10万人超(朝日新聞)

 各地の公立小中学校で、正規採用の教員ではない常勤講師や非常勤講師が増え、昨年は約10万5千人と全体の15.1%を占めた。文部科学省の調査でわかった。この7年間で約3万7千人増えており、こうした「非正規教員」が7人に1人を超えるまでになっている。財政難の自治体が、安い給料で済む非正規の採用に動いているためだが、任期が限られ、「教育活動の水準を保てない」と懸念する声が上がっている。

 文科省によると、全国の非正規教員のデータがあるのは2002年以降で、同年(5月1日)の人数は約6万8千人と教員全体(約67万3千人)の10.1%だった。以後、毎年増え続けており、09年は約10万5千人に。全体の15%を占めるまでになった。

 内訳をみると、正規採用の教員と同じようにフルタイムで勤める常勤講師は02年の約4万1千人から09年には約5万7千人と38%増加。授業時間だけ勤務するなど、パートタイムで働く非常勤講師は02年の約2万7千人から09年には約4万8千人と8割近く増えた。

 非正規教員の増加の背景には、少人数指導や35人以下学級を進めるため、給与のより安い教員で頭数をそろえようという自治体側の姿勢がある。国の規制緩和が後押しした。

 文科省は、1クラス40人を標準とした学級編成を01年から都道府県レベルで弾力化。続いて06年には市町村も、自前で教員を雇えば少人数学級にできるようにした。また04年、教員給与の半分を負担していた義務教育費国庫負担制度を緩め、国の計算した総額内なら、給与や人数を自由に決められるようにした。自治体側は人件費を抑制する動きを加速させ、非正規の採用が拡大した。

 公立校の教職員の間でも、非正規への置き換えが増えているようです。日本中どこでも、規制緩和がたどり着く先は同じようですね。先の民主党代表選で小沢一郎は地方へ交付する予算の総額を減らす代わりに使途を自治体に任せるみたいな改革案を主張していましたけれど、予算の使い道を自治体の判断に委ねた場合にどうなるか、ここで挙げられた事例は端的に示しているように思います。

 ともあれ、公立校で起こっていることと民間企業で起こっていることは一緒です(おそらく官公庁での雇用も似たようなものではないかと推測されます)。非正規雇用へのシフトを進めることで人件費を削って経営を改善させる、財政のために働く人を犠牲にするわけです。まぁ、学校は営利企業と違って「売上を伸ばす」という選択肢がないだけに、人件費削減が唯一の手段となってしまうことに情状酌量の余地はあるのかも知れませんが。

 ただ引用元でも指摘されているように、任期の限られる非正規雇用で教育水準が保たれるのかどうかという懸念もあります。民間企業でも非正規への置き換え、そして繰り返される使い捨てによって技術の継承ができなくなっていることが指摘されてきたわけです。とりわけ勉強よりも生活指導や人格形成的な面に重きを置く日本の学校教育にとって、細切れ雇用で生徒との関わりも浅くなりがちな非正規雇用は相性が良くないように思われます。もうちょっと割り切った「勉強するところ」として学校を位置づけるならいざ知らず、生活する場所として学校を位置づけているのなら継続的に生徒と関われるような形で教員を雇用しないと整合性がとれないでしょう。

 〈常勤講師と非常勤講師〉 常勤講師は正規教員と同じくフルタイム(週約40時間)働き、学級担任もできる。非常勤講師は「直接担当する授業時間だけ」「週20時間」といった限られた時間の指導を担う。いずれも、非正規の身分で教壇に立ちながら正規採用を目指す人が多い。

 月給は、たとえば大阪府の小中学校の場合、大卒の正規採用は、初任給が19万9700円、45歳では38万3500円、60歳は42万1500円。一方、常勤講師は初任給が19万5900円で、途切れず働き続けられたとしても45歳で31万円となった後は頭打ちに。非常勤講師は時間給で2790円と、さらに安い。

 この辺も、民間企業の場合と同じですね。正規雇用の人と同じように働く人も少なからずいる、しかし初任給の時点でこそ大差ないもののその後の昇給で大きな差が出る、基本的には正規採用を目指す人が多い――と。ただ問題の「語られ方」は少しだけマシでしょうか。これが民間企業の非正規雇用の問題ともなりますと、「(フルタイムで働けないなどの理由で)非正規の就労環境を必要としている人もいる」などと強調して、圧倒的多数を占める「正規雇用を望むけれどやむなく非正規でいる人」の存在を追いやろうとする論調も強いわけです。そういうことを語る輩が出てこない分だけ、まだ正常に受け止められているのかも知れません。

 もっとも問題を解決しようとする動きが出てくるかどうかは、甚だ怪しいものです。歳出削減、とりわけ人件費削減という錦の御旗の元、公立校教員の人件費削減もまた継続的に進められていくことでしょう。それで教育水準が下がったり子供の学力が低下したりしても、その辺は個人の責任に帰したり世代論を振りかざしたりするだけで済ませてしまう、我が子の教育に投資を惜しまない親であっても、教員の人件費を増やすことには良い顔をしない、そんな未来(半分は既に到来している気がしますけれど)が予測されます。



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そんな調査で大丈夫か?

2010-10-24 23:02:32 | ニュース

「大麻、手に入る」新入生の6割超 関西4私大調査(朝日新聞)

 関西、関西学院、同志社、立命館の4大学は21日、全新入生を対象に4月に実施した薬物に関する意識調査の結果を公表した。大麻については「手に入る」と答えた学生の割合が6割を超え、同じ調査をした昨年度の31.6%から倍増した。

 4大学の新入生計2万6058人を対象に選択式のアンケートをし、2万88人から回答を得た(有効回答率77.1%)。このうち大麻について「簡単に手に入る」と考える学生は24.6%で、「少々苦労するがなんとか手に入る」の40.1%を合わせると64.7%に達した。「ほとんど不可能」は11.5%、「絶対不可能」は7.2%だった。

 手に入ると考える理由は「報道などをみれば簡単だと感じる」(52.3%)、「簡単に入手できると聞いたことがある」(38.3%)、「インターネットで販売されているのをみかけた」(4.3%)、「入手方法を実際に知っている」(2.8%)など。「使用されているところを直接見たことがある」と答えた学生も4.9%いた。

 4大学は薬物汚染の低年齢化を懸念しており、来年度以降、2~4年生への同様の調査も検討している。

 「薬物汚染の低年齢化を懸念」との理由から、関西の4大学で意識調査が行われているそうです。その結果として大麻に関して「手に入る」と答えた学生の割合が6割を超えたとのこと。しかるに、この回答理由はといえば「報道などをみれば簡単だと感じる」(52.3%)、「簡単に入手できると聞いたことがある」(38.3%)の2項目だけで9割を超えています。これって要するに、「大麻は簡単に手に入る」と「思っている」学生が6割を占めたと言うだけではないでしょうか。実際に大麻を簡単に入手したことのある学生が果たして何割いるのか、この調査では全く把握できないように思われるのですが。

 これと似たような調査としては、給食費滞納に関するものが挙げられます。文部科学省の調査によると、滞納の理由について学校側は60%を「保護者としての責任感や規範意識」の問題と見ているそうです(参考)。しかし、これは単に学校側が滞納の原因を何だと「思っている」かを調査しているに過ぎません。学校側はモラルの問題だと思っていることは調査結果からわかるわけですけれど、実際の原因がどこにあるかは何も調査されていないわけです。いかに関係者相手といえど、どう「思っている」かどうかを聞くだけでは、何の意味もないでしょう。

 とりあえず4大学の調査では、新入生の6割が「大麻は簡単に手に入る」と「思っている」ことがわかります。しかし、それを知ってどうしようというのでしょうか? これを修正して学生側が「大麻の入手は困難」と思うようになれば済むという問題でもないはずです。何であれ対策を立てるためには正しい現状把握が不可欠ですが、そのために必要な情報は学生がどう「思っている」かではなく、実際に大麻の入手経路にアクセスできるかどうか、そして大麻を入手する意思があるかどうかではないかという気がしますが、大学側の思惑は異なるようです。

 そもそも「薬物汚染の低年齢化」云々とのことですが、実際に大麻の吸引で何か事故や事件を起こすようなケースが、アルコールやニコチンの場合を上回るほどに出てきたのでしょうか? 大麻の所持ばかりが問題視されていますけれど、その影響は果たして深刻になるほどのものなのかを考えてみる必要があります。単に法律で禁止されているからと言うだけなら、20歳未満の酒やタバコだって同じですし。世間のヒステリーに付き合って大麻に大騒ぎする、そこで大麻を入手できると「思っている」かどうかを調査して、その結果がさも重大事であるかのごとく次年度は調査対象を拡大しようとさらなる予算をつぎ込むとしたら、その辺のポピュリズム政治家とやっていることは同じでしょう。



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どうってこともないはずなんですが

2010-10-23 22:59:17 | ニュース

全国初、湯崎知事が育休取得へ=第3子誕生で送り迎えなど-広島(時事通信)

 広島県の湯崎英彦知事(45)が今月末に予定される第3子誕生に伴い、「育児休暇」を取ることが19日、分かった。約1カ月間をめどに、主に長男(7)、長女(4)の学校や幼稚園への送り迎えのため、時間休により午前や午後の短い時間を部分的に休む。都道府県知事の育休取得は全国初とみられる。全国知事会関係者は「知らなかった。知事が広告塔となって育休を宣伝するのはいいこと」と話している。

 湯崎知事は今年2月の県議会で、子育てを積極的に行う男性である「育メン」を目指すと答弁しており、公約を実行する。ただ特別職には育休も含めて条例上の休暇制度はないため、実際には子どもの送り迎えをしてから通常より遅く出勤したり、逆に夕方早く退庁したりといった勤務になるとみられる。

橋下知事、首長の育休取得に異議 「世間知らなさすぎ」(朝日新聞)

 広島県知事や大阪府箕面市長ら首長の「育児休暇」取得宣言が相次ぐ中、大阪府の橋下徹知事は21日、報道陣に「首長の育休(取得)は反対。世間が育休をとれる環境をつくってからとるべきだ」との考えを示した。

 7人の子どもの父親でもある橋下知事は「首長が先頭にたって育休をとって『機運の醸成を』というが、あまりに世間を知らなさすぎる」と批判。「予算措置でも何でも、やろうと思えばできるんだから。船長である首長が、船が沈む時乗客より先に逃げ出すのはどうか」と主張した。

 広島県の湯崎英彦知事は、「子育て支援の象徴的なメッセージになる」と第3子の出産にあわせて今月末から育休取得の方針。大阪府箕面市の倉田哲郎市長も、次男の出産で21日から16日間の育休を取得する。特別職の知事や市長は、職員の休暇を規定する条例などが適用されないため、休んでも報酬の減額はない。

 育休というと月単位で丸々休むイメージがあったのですが、今回のケースでは単に出退勤の時間をずらすだけのようです。こういう育休の形もあるんですね。しかるに大阪の橋下は「世間知らなさすぎ」などと噛みついています。どうなんでしょうか、世間の反応を見るに広島の湯崎知事の方は世間ならぬ世論を甘く見ているところはあるかも知れません。もっとも橋下によると「世間が育休をとれる環境をつくってからとるべき」「予算措置でも何でも、やろうと思えばできる」のだそうで。知事がやろうと思えば予算措置などによって世間が育休をとれる環境を作ることができる、そう考えているとしたら橋下の方もまた世間を知らなすぎますね。

 工場か何かのラインで働いているのならともかく、知事の仕事ってのは別に時間単位で仕事があらかじめ決まっているようなものではないはずです。勤務時間外だとか日曜祝日だとかは関係ない、それこそ勤務シフトに合わせて働くような仕事とは対極にあるのではないでしょうか。何時に出勤して何時に退勤して……というものではなく、状況に応じて働くことが求められるポジションなのですから、勤務時間をずらすぐらいはどうと言うこともなさそうなものです。元より知事ともなれば公用で庁舎を留守にする日だって少なからずあったはず、そういうポジションの人が出退勤の時間帯を調整したぐらいで、何かが滞るようなものでもないでしょう。

 しかし、必ずしも世間の理解は得られていないようです。世間のことはともかく世論の動向には敏感な橋下の反応は、それをよく表していると言えます。どうしてでしょうか。前々から指摘してきたことですが、どうも日本では余力を残さず全てを使い尽くしているかどうかが評価基準になっているような気がします。コメント欄で教えていただいた話ですので又聞きになりますが、ラジオで橋下は「家族のことよりも24時間一年中市民のことを考えるべき」とも述べたそうです。これが日本的にはあるべき為政者の姿なのかも知れません。結果はどうあれ、知事の職務に全力を尽くしているかどうかが問われる、逆に全力を尽くしていない、子供の送り迎えのために時間を割くなど余力を残しているところを見せると、途端に評価が下がるというわけです。

 普通の職場でも、とかく余裕を見せていると評価が下がるところはないでしょうか。仕事が早めに片付いたからと、のんびりしていたりさっさと帰ったりしようものなら、それこそ怠けているかのごとき扱いを受けがちです。世間が政治家を評価する基準もそんなもので、成果ではなく余力を残していないかどうかが問われているからこそ、育休のために出勤を遅らせたり退勤を早めたりする行為が非難の対象になるわけです。子供の世話に充てる時間があるのなら、その分を県民のために使え!と。別に時間をかければどうにかなる類の仕事をしているのではないのですが。

 議員報酬が高い云々という議論の際に、議員の「出席日数」がしばしば持ち出されます。「1年で○○日しか出席していないのに、○○万円も受け取っているのはおかしい!」等々。報酬額が高いか低いかはさておき、政治家を出席日数で評価するような発想ってどうなんだろうと常々思うわけです。ましてや知事ともなればどうでしょう、引用記事の末尾では報酬の減額について言及されていますけれど、無遅刻無欠勤だから良しとされるような仕事ではない、そういう基準で評価されるべき仕事ではないはずです。それでも世間は「休む」ということをネガティヴに捉え、部分的にではあっても休んでいるからには全力を尽くしていない、知事としての責務を果たしていないと、そういう風に考えてしまうものなのかも知れません。



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何もかも自己負担

2010-10-22 22:59:21 | ニュース

司法修習生給費、続ける?やめる?…貸与化目前(読売新聞)

 司法修習生に国が給与を支給する「給費制」から、国が生活資金を貸す「貸与制」に移行するまであと10日余りという“土壇場”に来て、給費制を維持するため、議員立法で裁判所法を改正しようとする動きが強まっている。

 国会で審議をしないスピード可決を目指す動きだが、なし崩し的な給費制維持には「司法制度改革の流れに反する」との批判も強い。

(中略)

 全会一致には自民党の協力が不可欠だ。同党は10月20日に予定する法務部会で方針を決めるとみられる。5日の部会には、宇都宮会長が出席し、「国が給与を払うからこそ、弁護士が公に奉仕しようとする気になる」と給費制の意義を訴えた。平沢勝栄部会長は「裕福な人にも一律に給与を払うのは国民の理解が得られない」と疑問を示したが、日弁連の組織を挙げた要請に同調する議員も増えつつあるという。

 ただ、こうした動きには異論も強い。最高裁によると、新制度の対象となる今年の新司法試験合格者2074人のうち、生活資金貸与を申請したのは79%の1648人。ある最高裁幹部は約2割が申請しなかったことについて、「経済的にゆとりがある人も少なくないのに、十分な議論がないまま全員に国民の税金から給料を支払っても良いのだろうか」と疑問を投げかける。

 現在、司法修習中の男性(27)は「法科大学院の学費などで数百万円の借金を抱えている人もいる」と日弁連の主張に理解を示しつつも、「財政事情を考えるなら、過疎地で弁護士として働くなど公益的な活動をした人に返済を免除することも検討したらどうか」と提案する。

 給費制の維持を、法曹人口拡大などを目指す改革への逆行と見る関係者も多い。

 早稲田大総長に就任する鎌田薫・法科大学院協会副理事長(62)は「改革の流れに沿って、志願者や合格者を増やす努力をしなければならないのに、給費制を維持すれば予算の制約上、合格者を減らすことになるのではないか」と懸念する。第二東京弁護士会の元会長で、企業法務に精通する久保利英明弁護士(66)も「法曹人口の拡大を減速させる給費制維持より、企業や自治体で働く弁護士を増やすことをまず考えるべきだ」と指摘している。

 現行の制度では法曹資格を得るためには司法試験合格後、ここで言及されている「司法修習生」として1年間の実習を受ける必要があります。この期間、アルバイトなどの副業は禁止されており、従来の制度では代わりに月額20万円ほどの給与が国から支給されていました。しかるに制度改正によって11月からは支給ではなく「貸与」となることが決まっています。司法試験に受かるまでが結構な長い道のりになるのが一般的と思われる中、そこからさらに1年間、強制的に無給の期間が設けられてしまうわけで、元から裕福な人でもなければ法曹資格を得る頃には借金漬けになってしまうことが予想されます。それだけに日弁連は前々から給費制の維持を訴えてきたのですが、それに対する反応はどうでしょうか。

 肝心の与党筋はといいますと、まさしくこの「土壇場」になって法改正に動き出したようです。貸与制度は来月からスタートするだけに、いくら何でも動きだしが遅すぎるとしか言いようがありません。よもや「(民主党は)制度改正を止めようとしたけれど、間に合わなかった」とアリバイ作りだけして済ませようという腹ではと勘ぐりたくなってきます。どうも野党、特に自民党筋に反対が多くて給付制維持のための法案が通るかどうかは微妙なところだとか。う~ん、こうした問題が発生することはずっと前から報道されていましたし、日弁連だって前もって要望を伝えてきたわけです。政権与党が衆参両院で過半数を占めていたうちに、さっさと給付制維持で法改正しておけば何の問題もなかったはずです。それなのに制度変更ギリギリのタイミングまで動き出さなかったのは完全に手落ちでしょう。本音では貸与制に切り替えたい、しかし自党が日弁連などからの批判の矢面に立つことは避けたい、だから代わりに自民党が反対してくれる、自民党が法案成立を阻止してくれるタイミングを計っていた、そんな気すらしてきます。なにしろ夫婦別姓法案に関して「これまでは野党だから(否決前提に)提出できた」なんて漏らしたとされる党です(参考)。否決前提に給付制維持の法案を出して、日弁連に義理立てしてハイおしまい、なんてシナリオを思い描いているとしても不思議ではありません。

 大事なのは何よりも与党の本気度の方ですが、自民党サイドの言い分も酷いものです。「裕福な人にも一律に給与を払うのは国民の理解が得られない」なんてコメントも出ていますが、税の累進制を一方的に緩和し続けてきた党の議員がこれを語っているのですから笑止千万と言うほかありません。それに名古屋辺りの例を見れば「裕福な人にも一律に減税する」政策で有権者から絶大な支持を集めてもいるわけです。裕福な人を優遇する類の政策は、十二分に国民の理解を得られていると思いますけれどねぇ。

 また「ある最高幹部」は「約2割が申請しなかったことについて、『経済的にゆとりがある人も少なくないのに、十分な議論がないまま全員に国民の税金から給料を支払っても良いのだろうか』と疑問を投げかける」とのこと。いやいや、申請しなかった2割ではなく、申請した残りの8割の方が問題なのですが、何とも露骨な問題のすり替えです。必要としていない人は2割しかいない、8割の人間が必要としているのに給付を不必要と判断するとしたら、それはもう算数すらできないバカと言われても仕方がないでしょう。ましてや申請しなかった2割の中には、保証人を用意できずに申請「できなかった」人もいると聞きますが……

 さらに早稲田大総長に就任するという鎌田薫氏は「給費制を維持すれば予算の制約上、合格者を減らすことになるのではないか」などと言っています。この人、司法試験の合否がどういう基準で判断されているかご存じないのでしょうか? そりゃ早稲田大学の入学試験なら定員という形で合格者数にも制約があらかじめ設けられるのでしょうけれど、司法試験は違うわけです。絶対評価で一定以上の点を取れば合格できるものであって、「今年の合格者は○○人まで」みたいに決められているものではありません。合格者が増えるか減るかは受験者次第なのですが、そんなこともわかっていないようです。あるいは企業法務に精通するという触れ込みの久保利英明氏は「法曹人口の拡大を減速させる給費制維持」なんて自明の真理のごとく語っていますけれど、逆に給費が絶たれることで経済的理由から法曹への道を諦める人の存在は念頭にないのでしょうか。これが経済誌だったら、根拠のないハッタリでも自信満々に言い切ってしまえば済まされるのかも知れませんが、こういう場面ではせめて法曹志望者の生活事情にも考えを巡らして欲しいものです。



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