非国民通信

ノーモア・コイズミ

金正恩は困らない

2017-09-24 22:43:48 | 政治

 「金正日に感謝しないといけないな」――とは、麻生太郎(当時は外相)の2006年の発言です。これは北朝鮮がミサイル実験を行い、対北朝鮮への強硬姿勢をアピールしていた安倍内閣の支持率が跳ね上がったことを受けての言葉だったわけですが、11年後の現在はどうでしょうか。まさか逃げるように総理の椅子を捨てていった安倍晋三が歴代屈指の長期安定政権を築くことになろうとは、誰も予測していなかったであろうと思われます。

 ライバル政党のていたらくもあって政権の座に返り咲いた後は、それまでの(第一次安倍内閣も含めた)内閣より少しだけマシな経済政策で、野党に対する相対的優位を維持し続けてきたのが第二次安倍内閣ですけれど、首相の「お友達」との関係でゴタゴタが続き、元・自民党の議員に東京で痛い目に遭わされたりと、急速に陰りが見え始めてもいました。それがいつの間にか支持率が上昇に転じている今日この頃、果たして金正恩は感謝されているでしょうか。

 アメリカでは2001年に同時多発テロが起こったわけですが、この後ブッシュ大統領は「テロとの戦い」を発表して米国愛国者法を成立させ、90%もの高支持率を獲得したそうです。凧と支持率は、向かい風が強いほど高く上がるものなのですね。見方を変えれば、国内の支持を高めるためには外からの「向かい風」を吹かせなければならない、とも言えます。独裁体制を確固たるものにするためには、経済制裁を食らうぐらいがちょうど良い、と考える国家元首がいても不思議ではありません。

 まぁ国家に限らずカルトや結社、各種団体の類いでも、社会的に疎まれ孤立すればするほど、内部での結束は高まっていくことが知られています。「外から」の迫害が強まれば強まるほどに、自らの正当性を強く感じていく人もいるのです。この辺の構図は――「北風と太陽」の寓話が示唆するように――遙か昔から理解されてもいるのでしょう。とはいえ、現実の国際政治はどちらかが一方的に北風もしくは太陽の役割を果たせるものではなく、往々にして「相互に」役を務めるもののようですが。

 核兵器の保有を悲願とするのは、別に北朝鮮の党幹部だけではありません。我が国の市井にも、普通にいます。軍隊の活躍を夢見る人々にとって、北朝鮮という北風こそが希望です。むしろ北朝鮮が核廃絶、武装放棄ともなれば大義名分を失ってしまう人もいるわけです。自国の軍需産業と結びつきが強い政治家ならば、軍備増強を進める隣国こそが友であり、逆に軍縮を進める隣国の指導者は政敵に他なりません。では隣の国からの北風を望むなら、自国は何をすべきでしょう?

 悪ふざけに付き合う人が誰もいなければ、その人は哀れな道化になってしまいます。しかし悪ふざけにもムキになって土俵に登ってくる人がいるのなら、興行の始まりです。舞台に上がった両者は、どちらもファンからの喝采を浴びることでしょう。「圧力」で国民が困窮することはあっても、国家元首の地位が危うくなるわけでもない、隣国の政府も支持率の回復が続くとあらば、ある意味でwin-winの互恵関係が構築されているとすら言えます。

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世間で考えられているよりもずっと、上司は部下を把握していない

2017-09-17 23:24:08 | 政治

 先日は、民進党新体制下で幹事長に起用される予定だった議員が、男性問題の発覚で人選から外れたばかりか離党するに至るなんてことがありました。日本の政治家にとっても致命傷と言えば金銭問題と女性問題が不動のツートップだったわけですけれど、女性問題ならぬ「男性問題」で失脚する人が出て来た辺り、政治家の社会も十分かはさておき男女平等に向かって進んでいるのかな、と感じますね。

 他の税はともかく、「有名税」は徹底した累進課税です。無名の市民は元より、議員でも目立たないポジションに止まっているうちは課されることがない一方で、世間の注目を集める活躍をしたり、党や政府の要職に起用された途端に税率が一気に跳ね上がるのが有名税というものです。山尾議員も党に所属するだけで発言を控えて大人しくしていれば有名税を課されることはなかったのではないかと思われますが……

 大臣に起用されたら即座に金銭問題を報道されて10日も保たずに辞任した人もいました。当たり前ですが、任命責任だって問われるもので、政府与党にとっては大打撃です。ならばどうして「そんな人を起用したのか?」と首をかしげる人もいるのではないでしょうか。金銭問題や女性問題(男性問題)で党のイメージを毀損するような人を、有名税を払わされるポジションに起用するのは賢明ではないですから。

 推測の一つとして成り立つのは「任命する側も『身辺調査』は行っているが、その調査能力は巷の週刊誌に比べて劣っている」という辺りでしょうか。政治家にとって真の致命傷である金銭問題や女性問題で攻められないクリーンな人を起用しようと誰もが思ってはいるわけです。しかし「上司」である党執行部は「部下」の行状をしかるべく把握できてはいない、ところが週刊誌は証拠を押さえている、ゆえに有名税支払いのドタバタ劇も続くのではないかと。

 ……で、民間企業の場合を鑑みれば政治家の世界を笑えないなとも思います。ただただ有名税の徴収がないだけで構造は同じようなものがあるのではないかと。つまり「上司」は「部下」を把握していない、そんな部下を把握できていない上司が社員を評価し、抜擢するわけです。スキャンダルを暴かれて党にダメージを与える議員よろしく、組織を害する人が会社の要職に起用されるなんてことは普通にある――少なくとも私の勤務先では普通にありますので。

 遙かな昔、日本には「年功序列」という制度があったそうです。現代の日本では年齢が上の人を飛び越して若い人が出世していくことは当たり前ですけれど、では出世する人は「ふさわしい」人物なのでしょうか。会社勤めをしている人なら、ご自身の職場を思い浮かべて欲しいと思います。企業は年齢ではなく能力なり成果なりを評価して人を昇進させている「つもり」であろうと考えられますが、その評価は適切ですか?

 大政党の執行部にいる人間ともなれば、曲がりなりにも大物です。決して並の人間ではないでしょう。そんな人々が、スキャンダルで党に傷が付かないよう慎重に身辺調査をした上で起用したにもかかわらず、週刊誌には簡単に問題を見つけられてしまうわけです。民間企業でも然り、「偉い人」が知恵を絞って抜擢した社員が、その実は机を並べて仕事をしている人から見れば周囲の足を引っ張るしか能がない意識が高いだけのお荷物だったりします。まぁ、「上」の人が自分で思っているほど、「下」の人間のことを理解できていない、それもまた普通なのでしょう。

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給料を上げて人を増やして……とはならないのが日本的経営

2017-09-10 22:44:09 | 雇用・経済

ヤマト、荷物8千万個削減の計画撤回 値上げでも減らず(朝日新聞)

 宅配便最大手のヤマト運輸が、2017年度に扱う荷物量を前年度より約8千万個減らす計画を撤回したことが分かった。大口の法人客などと荷物量の抑制を交渉し、疲弊する宅配現場の労働環境の改善につなげる方針だったが、当初計画を見直して削減幅を3600万個に下方修正した。想定以上に法人客が値上げを受け入れて取引を継続するためとしている。

 当初計画では、荷物量を16年度の18億6700万個から17億8500万個に減らす目標を掲げたが、この目標を18億3100万個に修正した。値上げを嫌って他社に流れる顧客が思ったほど出ず、計画の修正を余儀なくされた形だ。

 ヤマトが6日発表した8月の荷物量は1億5027万個。前年同月を2・6%上回り、8月として過去最多だった。前年同月を上回るのは2年5カ月連続で、インターネット通販の荷物量の増加が続いている。17年度に入ってからの累計の荷物量も4・2%増となっている。

 ヤマトは4月、荷物量の抑制やサービスの見直し、基本運賃の改定などを柱とする「働き方改革の基本骨子」を発表。9月末までを目標に、大口の顧客や低運賃の荷物が増えている顧客と、値上げや扱う荷物の削減に向けた交渉を進め、その成果を荷物の総量抑制につなげることをもくろんでいた。法人客との交渉が想定通りに進んでいない結果、「働き方改革」の前提が揺らぎかねない事態となっている。(石山英明)

 

 ブルジョワ新聞に言わせれば「『働き方改革』の前提が揺らぎかねない事態となっている」そうですが、ブルジョワではない普通の人から見ればどうなんでしょうか。まぁ、ヤマト運輸経営陣の考える「働き方改革」もあれば、安倍内閣の唱える「働き方改革」もある、会社や論者の数だけ「働き方改革」はあるのかも知れません。

 ともあれヤマト運輸は荷物量を「減らす」計画を立てており、その削減目標に届かなかったわけです。それを目標未達と捉えればマイナスのイメージもつきまとうのかも知れないですけれど、ヤマト運輸にとって荷物の量とは販売の量であり、荷物量を減らすことは即ち販売件数の減少でしかありません。客が「減らなかった」のですから、何を悲嘆することがあるのでしょうか。

 この「ヤマト流」働き方改革の発端となったのは、従業員の過重労働が巷で問題視されるようになったことでした。これ以上の荷物を現状の人員で対応させるのは世間的に厳しい、ならば荷物の方を減らすしかない、そういう発想に(経営陣が)思い至ったわけです。ところが運賃を値上げし、荷物量の削減を交渉してもなお、顧客は減らなかったのです!

 今回の結果から明らかになったのは、顧客の大半は値上げされても今まで通りにヤマト運輸を利用したいと考えていることです。運賃が高くなっても、需要は減っていないことが分かります。この現実が示唆するのは、需給のバランスが取れる点よりも遙かに低い価格でヤマト運輸がサービスを続けてきたこと、ですね。

 需要のあるサービスは値段が上がっても相応に売れるわけです。しかるべく利潤を追求する「資本主義的に正しい」経営者なら、自社の利益を最大化するために、売れる範囲で高く値段を付けようとするものでしょう。ところがヤマト運輸の場合、高くても売れるサービスであったにもかかわらず、長年に渡って安値で自社サービスの販売を続けてきたのだ、と言えます。

 「普通の」国では、需要のあるサービスは会社に収益をもたらし、儲かった会社は従業員を増やし賃金を上げ、働く人の給料が高くなることで国内市場の購買力も上昇する――そうやって経済成長していくものです。ところが極東のガラパゴス列島だけは例外で、需要のあるサービスでも安売りし、安売りを維持するために人件費を切り詰め、その結果として働く人は貧しくなる、国内市場の購買力も低下する――そんなサイクルを続けてきました。

 ここで引用したのはヤマト運輸のケースですが、類似の事例は他でも少なくないのではないでしょうか。高く売れるモノでも安く売る、それは日本的経営の美学に適ったことなのかも知れません。しかし、それは資本主義的には間違いです。高くても買い手が付くなら高く売るべきですし、販売増で従業員の負担が増えるというのなら、儲かった分だけ給料と人を増やせば良いだけです。値上げしても客が減らないのなら、その原資は当然あります。

 それでも日本の企業は利益よりも理想を追うもののようです。21世紀の日本的経営は成長よりデフレを好みます。人を増やすことで解決できるにもかかわらず、まず先に荷物を減らす(=取引量を減らす)という「改革」が前面に出てくるのが日本の経営判断ですから。それは日本だけの常識のような気がしますが――人件費抑制を続けるためなら商取引まで抑制してしまうのは、会社の偉い人にとっては常識なのでしょう。

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日本的人手不足

2017-09-03 22:45:04 | 雇用・経済

日本一豊かなホタテの村も人手不足で四苦八苦、オホーツク沿岸の猿払(Bloomberg)

 ベルトコンベヤーの両側にずらりと並んだパートの女性たちが手作業でホタテのウロやミミを取り除く。地方自治体の所得ランキング上位の北海道・猿払村の干し貝柱加工場。自動化が進んだとはいえ、加工は人の目と手に頼るところが大きい。日本で最も豊かな村でも、最大の課題は人手不足だ。

 加工場を運営する漁業協同組合の木村幸栄専務理事(73)は「やる気になれば24時間稼動して生産を3倍に増やせるが、それにはあと100人以上必要だ」と語る。加工場の従業員90人のうち19人は中国などの技能実習生。木村氏は「日本人従業員の多くは高齢者で、あと7、8年したら日本人はいなくなる」と悲鳴を上げる。

(中略)

 猿払村は東京23区をやや下回る面積に人口2764人(8月1日現在)を抱え、昨年の住民の平均所得は港区、千代田区、渋谷区に続き4位。高級住宅街が立ち並ぶ兵庫県芦屋市を上回る。村の平均所得を押し上げているのはホタテ漁に携わる約250人の漁業組合員で、加工場の時給は最低賃金の786円にとどまっている。

(中略)

 漁業協同組合の木村氏は「時給を多少上げたところで日本の若い人は来てくれない。2、3倍にすれば来るかもしれないが、それでは採算が合わない」と述べた。漁業が先細る中、省力化投資しようにも特殊な技術が必要な機械は量産が難しく、コストも高くつくという。

 猿払産ほたてを冷凍加工している稚内市の「稚内東部」は従業員73人中18人が中国人。「せっかく海にホタテというお金があるのに、人手がない」と、実習生の受け入れ枠拡大を望む。しかし、同社も採用当初は最低賃金で、仲村房次郎相談役(79)は「うちだけ賃金を上げると、より小さな会社から人を奪うことになる」と話す。

 

 昨今は景気回復(十分とは言えない水準ではありますが)を否定する反政府系メディアさえもが人手不足を連呼する時代ですけれど、ここに引用した記事などは「人手不足」の正体を伝える典型例と言えるでしょうか。なんと「住民の平均所得は港区、千代田区、渋谷区に続き4位」という富裕層の集う自治体が人手不足に悩まされているのだそうです。曰く「最低賃金の786円」で求人を出しても人が集まらないのだとか。

 「平均」の所得が日本で4番目に高いにも関わらず、そこで働く人の賃金は時給800円すら下回る最低賃金で、職場によっては2割以上が外国人技能実習生であることも報道されています。なぜ「平均」すれば圧倒的に豊かなのに、村で働く人の賃金は最低水準なのでしょう。ましてや外国人実習生ともなれば、給与は最低賃金の半分にも満たないことと推測されます。村全体の「平均」は日本でも最も豊かな部類に入っているはずですが……

 もちろん100年あまり時代を遡れば、奴隷を非人道的に酷使することで莫大な富を築いた例は珍しくなかったのかも知れません。しかし21世紀の日本で、最低賃金の労働者や外国人実習生を働かせることで「日本一豊かなホタテの村」とやらが築かれているのはいかがなものでしょうね。「豊かに」なったとしても、それは前時代的な富の築き方であり、進歩ではなく退行によって得たものだと言うほかありません。

 「時給を最低賃金の645円でスタートさせたのは、周辺の需給バランスが崩れると、他の企業が参入しにくくなるからです。」とは、2012年にワタミが陸前高田市にコールセンターを開設したときの言葉です。その当時に比べれば最低賃金が多少マシ(これも不十分ではあります)になっているわけですが――最低賃金ギリギリで人を働かせようとする経営者が後を絶たないことも同時に伝わるでしょうか。(参考、競争しないワタミ

 世の中には経営難を隠れ蓑に人を安く働かせようとする経営者も多いです。最低賃金で人を働かせることでしか成り立たない企業を存続させることにメリットはありませんが、労働の規制を緩和してゾンビ企業を延命させるのが日本の「構造改革」でした。しかるに収益力が低いからマトモな給与を払えない会社ばかりでなく、ワタミのような大企業や、今回の猿払村のように経済的に強いはずの雇用主すらもが、人を最低賃金で働かせることに固執しているわけです。マトモな賃金を「払えないから払わない」のではなく、もっと別の意思が介在していることが分かります。

 本来ならば、市場には競争原理が働くものです。カビの生えた新旧古典派の理論では、需要が供給を上回れば価格も上昇することになっています。だから「労働力」の需要が供給を上回る(即ち人手不足!)ならば、労働力の価格は必然的に上がる、要するに給料が上がらなければなりません。しかし、それを阻もうとする堅固な意思が日本の経済界には存在します。市場原理よりも強い経営者の「理想」があるのですね。

 高額の給与を提示することでライバルから有力選手を引き抜いてくる、そんなことはプロスポーツの世界では当たり前です(色々と制約の多い護送船団リーグがないこともないですが)。勝利のためには有能な人材が欠かせませんし、それを集めるためにはヨソより好条件を提示するのは当然のことです。企業経営も然りで、他社より有能な人材を求めるならば他社より好待遇を提示するのが競争というものでしょう。しかし、それを頑なに避ける、決して人材獲得競争にならないように心を砕いているのが日本企業と言えます。人手不足を託ちつつも、他社より高い給与を提示して人材を奪うようなことは決して行わない、それが21世紀の日本的経営であり、人手不足の正体なのです。

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