アベノミクスを痛烈批判=「中銀独立性脅かす」-独連銀総裁(時事通信)
【フランクフルト時事】ドイツ連邦銀行(中央銀行)のワイトマン総裁は21日に行った講演で、安倍晋三首相が掲げる「アベノミクス」と呼ばれる金融・経済政策について、「中銀の独立性を脅かす」と痛烈に批判した。
ワイトマン総裁は「現在、(中銀の独立への)深刻な干渉がある。例えばハンガリーや日本だ。日本では、新政権が中銀に大きく干渉し、大胆な金融緩和を要求して独立性を脅かしている」と断言。報道の自由や司法の独立性への侵害が欧州連合(EU)内で問題視されているハンガリーと同列に並べて批判した。
英有力紙が円高是正に理解=独連銀の「戦争」警告批判(時事通信)
【ロンドン時事】英有力紙フィナンシャル・タイムズは24日付の社説で、ドイツ連銀(中央銀行)のワイトマン総裁が日本政府の日銀に対する金融緩和圧力を懸念し、「通貨戦争」の誘発を警告したことについて、「誇張だ」と批判、その上で日本側による過度な円高の是正に理解を示した。
同紙は、円は依然として金融危機以前よりも「高い水準にある」と指摘。最近のユーロ高は、「日銀の(金融緩和による)近隣窮乏化政策よりも、欧州中央銀行(ECB)がユーロ崩壊のリスクを除去する措置を施した結果だ」と強調した。
さて、ドイツではメルケルも似たような趣旨の発言をしており、概ね「アベノミクス」に批判的なようです。まぁ中央銀行の独立性の問題はありますが、ただ日本の場合は中央銀行の不作為が酷すぎた、隣で呂律の回らない財務相が世界に恥を晒している中でも何もしないで見守るだけの無能な総裁の下、自国経済の壊滅的な状況を前に、ただただインフレを恐れるだけで何もしない、長年にわたって背任行為を続けてきたわけです。自国の中央銀行の背任を前に何もできないでいるとしたら、それはそれで大きな問題でもあります。一定の独立性は担保されるべきだとしても、役割を果たさない中央銀行に手を出せなくなるのも極めて危険なことですから。
一方で英フィナンシャルタイムズは落ち着いたもので、現状の円高が過度な状態にある、円安になってもなお高い水準にあることを指摘しています。まぁ、為替相場なんて明白に数値化されているのですから誰にでも分かることのはずなのですけれど、それさえ理解したがらない人が多いと言うことでしょうか。とりあえず1ドルが100円台に乗るくらいまでは円安を心配しても鬼が笑うというものです。通貨戦争云々にしても実質的には既に始まっているわけで、今さらながらに日本が張り合い始めたところで、それをとやかく言われる筋合いはありますまい。
なお近隣窮乏化政策とは米自動車業界が言い出したようですが、近隣窮乏化の総本山はドイツではないでしょうかね。日本の貿易黒字の裏にアメリカの貿易赤字があるのと同様、ドイツの貿易黒字の分だけ近隣国は赤字を負わされてきたわけです。その犠牲者がギリシャであり、スペインであり、イタリアであると。ギリシャにも例えば消費税を上げた代わりに法人税を下げては税収を減らすなどの政策的な誤りはありましたが、慢性的な輸出超過によって他国に赤字を負わせた国の存在もまた無視されるべきではないでしょう。資本の蓄積の段階を終えて久しい中でも近隣国から富を吸い上げてきたドイツには、それを贖う責任があると言えます。
国際競争力に応じてドイツマルクの価値が上がれば多少の是正にもなったところ、しかし統一通貨ユーロの時代にそれを語っても意味がありません。ただ、それでも責められるべきは自国労働者の給与抑制に走ったことでしょうか。人件費を抑え込むこめば他国よりコスト面で有利になる、国際競争力も高まるというものですけれど、その国際競争力によって脅かされる近隣国は窮乏化の危機にさらされます。しかも国内の労働者は働いても報われない、賃金が上がらないから国内消費も伸びない、ますます輸出による富の収奪が必要になる、表面上の失業率だけは低く見せかけられても、その実は誰もが不幸になる愚策です。ドイツは他国の通貨安政策を非難する前に、自国の人件費安を是正した方が良いでしょう。
もっとも人件費と言えばドイツ以上にタチが悪いのが、我らが日本です。長らく超・円高は放置したまま代わりに自国労働者の賃金を一貫して引き下げ続けることで国際競争力を維持しようとしてきたのですから。公務員の賃金を引き下げろ、電力会社社員の給料をカットしろ、マスコミはもらいすぎだ、退職金の引き下げは当然だ、経営が悪化すれば人件費削減は当たり前――とにかく賃下げ志向の強い国民の元、欧米諸国に比して割安な労働コストは日本が国際競争力を保つ上で最大の武器でした。このような状況に居心地の良さを感じていた人もまた少なくないにせよ、世界への影響はどれほどのものやら。
「安い人件費&超円高」という状態で概ね日本の競合国は均衡を見出しているわけです。そこから円高が是正され「安い人件費&普通の円高」レベルに近づくことへ危機感を抱いている国や業界団体もあると言えます。では、そこで異議を唱えるべきは何に対してなのか。超円高を受け入れよ、中央銀行の不作為を放置せよと、そう要求する国があるなら、これは突っぱねてしまって良いと思います。日本側の立場を強く主張して構わないでしょう。むしろ競合国が日本に迫るべきは、人件費の引き上げと言えますね。なぜ他国の金融政策に口出ししながら、雇用政策に関してはそれができないと考えるのか、為替レートが適正化しても、日本の労働者の賃金が同時に適正化されれば日本の国際競争力が強まりすぎて他国を窮乏化させることもなくなるわけです。求められるのは国際競争力に釣り合わない為替レートではなく、それに応じた賃金なのです。