非国民通信

ノーモア・コイズミ

雇用流動化における「プッシュ型」と「プル型」

2024-01-28 21:57:24 | 雇用・経済

 今回の北陸の地震で、岸田総理が「プッシュ型の支援」云々と語っていました。その支援が十分なものであるかどうかは議論の余地を残すものですが、「プッシュ型」があるからには「プル型」もあるのでしょう。この「プッシュ型」と「プル型」、使われる場面次第で指し示すところは一定でもなさそうですけれど、雇用の流動化を巡っても対照的な分類が当てはまりそうに思いました。

 一般論として日本国内の若年層における雇用流動化は「プル型」と呼ぶことが出来ます。若年層を対象とした求人は充実しており、労働市場から「プル」されている、求人環境に牽引される形で若年層の雇用が流動化しているわけです。新卒で採用しても3年以内に3割が辞めてしまうと雇用側の嘆きも聞かれるところですが、若者には転職先も十分にある以上、そこは企業側が引き留めに努力するほかないと言えます。

 もっとも政財界からは雇用の流動化は経済成長に繋がると、肯定的に発信されてきたわけです。ならば新卒で採用された若者がすぐに会社を辞めて別の職場に移ってしまうことは、もっとポジティブに受け止められなければ整合性がとれません。全年代で雇用の流動化を促進したいのか、それとも若年層は職場に定着させつつ、「若くなくなった人」の雇用を流動化させたいだけなのか、この辺を具体的に語る論者を私は見たことがないです。

 若年層の雇用流動化が「プル型」であるのとは対照的に、若くなくなった人──すなわち中高年は「プッシュ型」であると言えます。中高年向けの求人は至って限定されており、基本的には市場からの需要は乏しい、一方で雇用側は中高年の追い出しを望む傾向にあり、それは即ち退職へと背中を押す「プッシュ型」で雇用流動化を図っているわけです。若年層は他社からの「プル型」で、若くなくなった人は勤務先からの「プッシュ型」で、雇用流動化が進んでいるといえますが、それは全く別のものでしょう。

 政財界が推し進めているのは後者の「若くなくなった人」を対象とした「プッシュ型」の雇用流動化であり、若年層の「プル型」の雇用流動化はむしろ嘆いているのが実態です。プル型の方こそ健全な市場競争の結果と考えられますが、必ずしも我が国は市場原理に肯定的ではない、むしろ人為的に競争を抑制して雇用側優位の環境維持に腐心しているところもあるでしょう。それもまた、(一部の人にとって)理想の世界を作るための努力ではありますが……

 一口に「雇用流動化」が必要である云々と説かれるとき、その内容が「プル型」であるのか「プッシュ型」であるのかは問われるべきです。「プル型」の雇用流動化は健全な市場競争の結果であり、私は良いと思います。一方で「プッシュ型」の雇用流動化は若くなくなった人=中高年=子供を育てている最中の世代の収入を不安定化させるものでしかなく、日本社会全体の経済活動を停滞させるものです。この30年間の世界でも類を見ない日本経済の凋落の要因の一つには、「プッシュ型」に偏りすぎた雇用流動化があるのではないでしょうかね。

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令和最新版・日本列島改造論

2024-01-21 22:16:21 | 社会

 先週の話に続くテーマとなりますが、先般は能登半島を巨大地震が襲いました。この地域の復興を巡って一部で吹き上がっている人もいるようで、つまりは僻地での再建を諦めて別の地域への移住を説く人と、それに反発して「強制移住だ!」「地方の切り捨てだ!」と憤っている人がいるわけです。強制移住と聞くと東日本大震災時の福島地域を対象にしたものが思い浮かぶところですが、当時の世論はどうだったでしょうかね。

 福島からの強制移住は原発脅威論によって批判的観点が塗りつぶされてしまった印象ですが、今回も志賀原発に対して色々と期待しているようなネット上の書き込みも散見され、何だかなぁ、と思いました。それはさておき過疎地からの移住は今回のような災害時よりもむしろ平時にこそ計画的に行われるべきではないか、というのが私の意見です。いかに過疎地といえど被災者を一斉に移住させるのは難しい、そうではなく余裕のあるときにやるべきだ、と。

 根本的には「人」の救済と「地域」や「会社」の救済は別に考えなければなりません。必要なことは前者であって、後者は別です。ところが心優しき人々は「弱い地域」や「弱い会社」の存続に心を砕きがちで、その難しさの故に過疎地の住民や零細企業に勤める人々にまで手が届かない状況が生まれていると言えます。そうではなく、「人」を救うために僻地から都市へ、ブラック企業から大企業へと人を集約していくことも必要でしょう。

 世の中には好んで僻地に住む変人もいます。しかし大半の人々の好みは人口の増減から窺うことが出来るわけです。転入超過が続く地域は人が住みたい街であり、転出超過が続く地域は人が住みたくない街と判断できます。若い人が軒並み都会に出て行ってしまうような地域もあって、残念ながら能登半島も当てはまるところがありそうですが、それは住みたい街なのでしょうか。能登に家が再建されたとして、そこに住む祖父母が天寿を全うした後に残された家がどうなるのか、買い手は付かず自身が能登に移住する気にもなれず空き家として放置される──これでは復興とは言えません。

 私は千葉に住んでいますけれど、住みたいから住んでいるわけではないですし、多分周りの住民も似たようなものです。魅力と言えば東京に通勤できることだけ、ただ魅力が一つしかない分だけ不動産相場は抑えめであるために転入増は続いている、そんな街はいかがでしょうか? もし都心と不動産価格が同じであったなら、大半の人は都心に住むことを選ぶに違いありません。千葉で大災害が起こって、もう復興できないから代わりに公費で都心部にマンションを用意しておくと言われたら、それこそ全国から嫉妬の嵐が止まないことでしょう。

 この「公費で」というのは欠かせないところで、流石に「自費で」移住しろというのであれば強制移住以前に追放政策であるとの批判も当然ですが(ただサラリーマンの転勤って、そういうものでもあります)、極論すれば金の問題は政府の姿勢次第でどうにでもなります。問題は建設リソースの方で、関西万博などいくら金を積んでも建設業者の方で対応が間に合わない、能登の方でも金さえ出せば全国の土建屋が馳せ参じてくれる状況にはありません。ビルや道路を作りたくても業者に対応できるだけのキャパシティがない、金を出しても手に入れられないものが増えているが日本の実態です。

 今なお日本はいわゆる北方領土ことクリル諸島を「固有の領土」と呼び隣国に割譲を要求し続けています。しかしその手前にある北海道東部すらインフラを維持できていないのが現状です。もはや日本の広大な国土は手に余る、インフラを維持する範囲を絞り込まねばらないところまで社会が衰退しているのではないでしょうか。若者が皆、出て行ってしまうような地域を自然消滅する日まで延命していくのか、それとも国策として計画的に都市部への移住を進めていくのか、決断すべき時は既に到来しているはずです。

 大企業の本社は、ほとんど東京にあります。全てが東京に集まり、逆に地方には何の雇用もない地域が消滅の日を待っているわけです。一方では不動産価格の暴騰に歯止めがかからず、一方では負動産ばかりが増えている、こうした二極化は誰も幸せにしません。必要なのは二極化ではなく多極化ではないでしょうか。人口50万人でも一つの街に集約できれば立派な都市が出来ます。日本の各地に職のある都市を造る、東京以外でも働ける環境を用意していくこと、自然に任せず国策として地方のリソースを集約していくことです。東京はパンクし、地方は衰退するだけの未来を避けるためには根本を変えなければなりません。

 

・・・・・

 

おまけ

 本文にねじ込む場所がなかったのですが、地方社会のコミュニティってどうなんでしょう。高齢者の移住で属するコミュニティから切り離される云々とは、時に議論されることです(13年前の福島からの強制移住時には無視されていましたが!)。田舎暮らしを夢見て定年後に移住するも、「よそ者」を受け入れない僻地の閉鎖的な人間関係に苛まれ泣く泣く都市部に逃げ帰る、みたいなエピソードはよく語られるわけです。若者が出て行ってしまうような土地のコミュニティって、そんなに良いものなのかと思うときもあります。

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真面目に働くより良い時代に生まれることの方が大事です

2024-01-20 22:21:32 | 編集雑記・小ネタ

第一生命、初任給を約16%引き上げ32.1万円へ 賃上げ約7%を検討(ロイター)

[東京 18日 ロイター] - 第一生命ホールディングス (8750.T), opens new tabは18日、2024年4月入社の新卒社員の初任給を現在の27万6000円から約16%引き上げ、32万1000円にする方向で検討している。初任給の引き上げは4年ぶり。人手不足から人材の争奪戦は激しくなっており、初任給を引き上げ、優秀な人材を確保したいとしている。

引き上げについては、現在組合と交渉中。同社によると、約32万円の初任給は、大手金融機関で最高水準となる。

賃上げについては、営業職も含めた国内の社員約5万人に対して、約7%の賃上げを予定している。今年度も平均約5%の賃上げを実施しており、2年連続の賃上げとなる。

 

 初任給32万円とのこと、入社10年の私の給与よりも高いですね。既存の社員については約7%の賃上げ予定だそうで、入社2年目の給与が1年後に入ってきた社員を下回る、という事態も発生するのでしょうか。流石に大手企業であれば既存社員の給与との整合性は取ってくると思いますが、アルバイトの世界では後から採用された人の方が前から働き続けてきた人よりも時給が上、というのは時々あるようです。

 ともあれ今年の新卒社員が昨年の新卒社員よりも16%ほど優秀であるとか16%ほど努力したとか、そういう理由でないことは意識されるべきでしょう。同じチェーン店でも東京と地方とで時給が異なったり、あるいは同じ仕事でも日本とオーストラリアで賃金に2倍の差があったり等々、給料を決める要因としては時期や地域などの要因が何よりも大きいことが分かります。そして地域の違いは転居や国外への移住でなんとかなるのかも知れませんが、新卒で入社する時期は本人の努力ではどうにもならないわけです。生まれた時期が違うだけで得られる給与は大きく異なる、この現実は意識されるべきでしょう。

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東京に通勤できるだけの街

2024-01-14 21:58:45 | 社会

 過去に何度か自分の住んでいる地域のことを書いてきたわけですが、私が暮らしているような「東京へのギリギリ通勤圏」を個人的に「ギリ圏」と呼んでいます。端的に言えば通勤時間は長くなるものの都心の会社に通えなくはない、そして「都内に通勤できる」という以外に魅力が「ない」ために不動産価格は比較的抑えられている、そんな地域です。

参考、(東京への)ギリ(ギリ通勤)圏のリアル

   (東京への)ギリ(ギリ通勤)圏のリアル 其の二

 この「都内に通勤できる以外に魅力がない」というのが重要なポイントで、もし生活面でも便利な地域となってしまいますと相応に不動産価格も上がってしまう、庶民には手の出せない土地になってしまうジレンマがあります。職場にも近くて徒歩圏で生活が成り立つような本物の都会に住めるのは財を築いたエリートか極小狭隘な借家で暮らす単身者ばかり、一方「東京に通勤できるだけの街」ならば若い夫婦でも何とか家を建てることが出来るようで、私の住む地域はどこも子供で一杯です。

 鉄道空白地帯で寂れていた街が、都心に直結する路線が開業した途端に若い夫婦の流入が急増、それを首長が「子育て支援策の成果だ」と胸を張ることもあります。ただ子育て支援策なんてのはどこの自治体も力を入れているところで、同じ市内でも栄えているのは都心へと続く駅の周辺ばかりであることを鑑みれば、何が重要であったかは言うまでもないでしょう。都内の会社へ通勤するためのルートがあるかどうか、郊外の自治体にはそれが生命線なのです。

 東京ディズニーランド、新東京国際空港、株式会社新東京、新東京サーキット、新東京病院、東京ベイ信用金庫、東京ドイツ村……東京が自ら輝く太陽ならば千葉は月であり、それこそが千葉県のアイデンティティでもあります。千葉そのものに魅力はなくとも東京の隣に位置し、東京に足を伸ばすことが出来る、これぞ千葉の魂であると言って差し支えないでしょう。そんな千葉都民達の住む街ですが、昨年の暮れから一つ大きな問題が持ち上がっていたりします。

 

【速報】JR京葉線、朝夕夜の快速を廃止 各駅停車に変更、通勤快速は全廃 来年3月のダイヤ改正 コロナからの回復鈍く(千葉日報)

 JR千葉支社は15日、来年3月16日のダイヤ改正で京葉線の快速を朝夕夜間帯は各駅停車に変更すると発表した。通勤快速は廃止する。外房線、内房線に直通する電車も京葉線区間は各駅停車に変更する。日中帯(午前10時~午後3時台)は従来通り。

 同支社によると、管内の路線のうち京葉線は新型コロナ禍で減少した乗客の回復が鈍く、コロナ前と比べて2~3割ほど少ない状況が続いている。一方で、朝夕の快速は混雑状態となっていることから、各駅停車に乗客を分散させることで利便性向上を図る。

 

 JRの判断には疑問を抱かざるを得ないことばかりですけれど、とはいえ乗降客数を最も正確に把握しているのはJR自身でしょうから、そのJRが乗客数を分散させるために効果的というのであれば、恐らく計算上は正しいのだと思います。快速通過駅の周辺にも利用者が多いとなれば恩恵を受ける人も少なくないと推測されるダイヤ改正ですが、しかるに千葉市以南、千葉市以東の自治体から猛反発を食らっているとか。

 

参考、通勤快速がなくなる? 24年春JR京葉線ダイヤ改正 関連記事一覧(千葉日報)

 

 反対派の筆頭は千葉県知事の熊谷で、この人は感情的に気に入らないことに噛み付くばかりなので真面目に相手をしない方が良いのではと思わないでもありませんけれど、まぁ京葉線快速の利用ありきで都内の会社へ遠距離通勤してきた人にとっては通勤時間が大きく伸びてしまう、死活問題にもなっているわけです。「東京に通勤できる」という一点に依存してきた街が多いだけに、ダイヤ改正で東京への通勤が困難になれば価値を失ってしまう、それはギリ圏の自治体にとって絶対に避けたい事態なのでしょう。

 ただ都心部へ直結する路線ともなれば放っておいても沿線人口は増加していくもの、京葉線の快速通過駅もまた需要が多く、JRからすれば遠距離通勤者の事情だけを考慮してもいられないものとも思われます。結局のところ遠距離通勤者と快速通過駅の利用者、どちらの利便性を高めていくかという綱引きでしかなく、一方を重んじれば他方が不便を被る、JRからすると「何もしない」ことが最も非難を浴びない方法であったのかも知れません。

 快速を減らせば遠距離通勤者が、快速を増やせば通過駅の沿線住民が、それぞれ困るわけでJRに解決できるものは限られています。政府や自治体が金を出して快速も各駅もまとめて増便するのはどうだろうを私などは考えるところですが、緊縮バカが支配する日本の政治にそれは望めそうもありません。公共交通機関に独立採算を求めている以上、民間企業であるJRは営利を追って減便にも走る、そうなると根本的に政治が悪いのではないか、とも考えられます。政治が金を出さないのが悪い、そして千葉の都市計画にも問題があったのでは、と。

 日本全体で人口減少が続く中、千葉県は希少な人口を維持できている自治体です。それは即ち「東京に通勤できる」という唯一にして最大の魅力に牽引されてきたものですが、この危うさは今回の京葉線のダイヤ改正で浮き彫りになったように思います。住宅以外に何もない街でも都心へ直結する路線があるだけで転入増が続いてきた、しかし快速が減って通勤時間が延びれば、それだけのことで地域が価値を失ってしまう、こんなモノカルチャー的な自治体運営に甘んじてきた市政や県政の失敗もまた顧みられるべきではないでしょうか。

 もちろん市や県に出来ることは限られている、「国」の旗振りもまた必要です。東京区部のキャパシティが明らかに限界を迎えている中では、一極集中から多極化への積極的な舵取りもあってしかるべきでしょう。つまり都心に全てを集約するのではなく、各地に核を作る、それを政治主導で半強制的に行っていくことです。千葉にも真っ当な就職先があれば、無理に東京まで通勤する必要はない、千葉県内で都内の企業と同等の賃金が得られるのであれば、こうした遠距離通勤問題だって起こらないはずです。

 職は東京に在り、都心への距離が街の価値を決めているのが現状ですけれど、これが維持されている限り今回の京葉線ダイヤ改正のようなジレンマは続きます。都心だけではなく周辺の県にも通勤先があれば、無理に東京まで出て行く必要はありません。真っ当な就職先が都内に集中しているからこそ遠路はるばる県をまたいで移動せざるを得ない人もいるのであって、その移動手段を論じるだけでは片手落ちでしょう。根本的な解決は、東京一極集中の解消にあります。

 そもそもリモートワークを標準として不必要な通勤をなくせば、遠距離通勤問題も緩和できるはずです。しかるに新型コロナウィルスの流行で得た成果を日本社会は惜しげもなく手放し、旧態依然とした出社前提の業務形態へと退行を続けています。JRに快速の本数を維持せよと迫るよりも前に、会社組織の合理化=リモート化を強制していくことも必要なのではないでしょうか。東京一極集中と出社勤務を堅持したままでいる限り、根本的な問題解決はあり得ません。

 そこで私から「東京を少しだけ不便にする」という政策を提案します。具体的には「23区内での自家用車の利用を禁止する」「23区内の事業所の通勤者数に制限を設ける(上限を超えた出社は不可とする)」等々いかがでしょうか。相対的に他の地域が制約のない特区になることで、「東京に通勤可能」であること以外の魅力が生まれるわけです。都心部に制約を設け、周辺地域への分散を促し、各県内に中核都市を造って日本を多極化していく、そんな新時代の日本列島改造論が今こそ必要であると私は宣言します。

・・・・・

 なお、この辺の話は今回の被災地を巡る議論にも繋がるところあり、それは次のタイミングで書きます。

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優先順位が高いもの

2024-01-13 01:26:50 | 編集雑記・小ネタ

災害時も「国防万全」と強調 陸自空挺団が降下訓練始め 船橋(千葉日報)

 陸上自衛隊唯一の落下傘部隊である第1空挺(くうてい)団は7日、船橋市薬円台の陸自習志野演習場で「降下訓練始め」を行った。冷たい風が吹く中、隊員たちは離島に見立てた演習場へ航空機からパラシュートで次々と降下。戦車や8カ国の部隊から援護を受け、敵を制圧するまでの様子を公開した。日頃の訓練の成果と各国との連携を確認し、災害時でも国土防衛の備えは万全であると強調した。

 1974年から一般公開している毎年1月の恒例行事。今年は陸自、空自合わせ約260人、米英など8カ国の部隊60人が参加した。全国から集められた精鋭の自衛隊員約40人が、上空約340メートルを飛行する輸送機から次々と降下。各国の大使や一般来場者の前で、見事に演習場に降り立った。

 

 この引用元の最後にある「見事に」ってのは必要なんでしょうか。こういうところにメディアの価値観が表れるように思います。たぶん、80年ばかり前も同じように軍隊の活動を報じていたに違いありません。ともあれ祝賀行事の類いは中止されるものもあるわけですが、戦争の準備は何よりも優先されるようです。離島にパラシュートで突入する技術があれば道路が崩壊した陸の孤島の救助だって出来そうに見えますが、そこは優先順位の問題があるのでしょう。

 

“国防も疎かにせず!” 今年の「降下訓練始め」世界8か国による国際演習に 陸上自衛隊(乗りものニュース)

 ひとつは、この「降下訓練始め」自体が貴重な実働訓練の機会であり、その練度を維持することは、今回の大地震とは別のより大きな有事に備えるという点から重要だと考えられたからです。能登半島地震はあらためて説明するまでもなく大災害です。しかし、自衛隊の本来任務は国防です。大災害が起きたからといって安全保障を疎かにすることはできませんし、事実、この間に国土や国民に脅威が迫ったら即座に対処する必要があります。

 

 隣国を敵に見立てる政府やメディア、大学教員の不断の努力とは裏腹に日本に住む人々を最も脅かしているのは自然災害であり続けているところですが、それでもなお「自衛隊の本来任務は国防」と先軍の思想を高らかに歌い上げる人は少なくありません。先軍政治は隣国のものとするのが「政治的に正しい」見解なのでしょうけれど、人々の生活よりも隣国と戦う準備を優先している、それを当たり前と説く人が闊歩していることは顧みられるべきと思われます。

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53:47

2024-01-09 21:16:46 | 編集雑記・小ネタ

対無人機でウクライナ支援表明 上川氏、NATO基金に53億円(共同通信)

 【キーウ共同】上川陽子外相は7日(日本時間同)、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れ、クレバ外相と会談した。ロシアによる侵攻が長期化し、国際社会の支援疲れが表面化する中、支援を続ける日本の立場を伝達。会談後の共同記者発表で、ウクライナに対無人航空機検知システムなどを供与するため、北大西洋条約機構(NATO)の基金に新たに約3700万ドル(約53億円)を拠出すると表明した。

 

政府、予備費47億円を閣議決定 23年度、能登半島地震支援(共同通信)

 政府は9日、能登半島地震の被災者を支援するため、2023年度の予備費から47億4千万円を支出することを閣議決定した。急な出費が必要な際に柔軟に用いることができる予備費を活用し、被災地からの要望を待たずに物資を送る「プッシュ型支援」を強化する。

 

 こうした支援は今回限りではなく今までもあれば今後もある話ですが、日本国政府の優先度合いが綺麗に定量化された一例と言えるでしょうか。

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時代の申し子

2024-01-07 22:04:45 | 雇用・経済

11万人分の情報持ち出しか 国委託事業、パソナ元派遣社員(共同通信)

 独立行政法人「中小企業基盤整備機構」は26日までに、助成事業の事務局を委託していた人材派遣大手パソナの元派遣社員に貸与していた業務用パソコンから約11万人分の個人情報が持ち出された可能性があると発表した。元派遣社員が業務で知り得た企業に対して補助金の申請を有料で支援するとメールで持ちかけていたことが分かり、調査の過程で発覚した。

 同機構によると、持ち出された可能性があるのは「中小企業等事業再構築促進事業」の補助金が採択された約7万5千事業者(約11万人分の氏名などを含む)の情報。元派遣社員が保存、閲覧していたほか、ファイルが外部に持ち出されていたことが確認された。

 

 私の勤務先でも実務は業務委託先の派遣社員が担っているところが多く、まぁ日本中どこも同じようなものなのだろうな、と思いました。では実務は委託「先」が引き受けるとして、委託「元」の会社の人間は何をやっているかと言えば「変革」が主たる業務でしょうか。例えば従来は内製していたものを外注し、代わりに外注していたものを内製に切り替えるなど、飽くことなく変革を求める経営層の求めに応じて成果をプレゼンし続けるのが本社社員の役割と言えます。

 こうした変革の繰り返しによって経営層を満足させることには概ね成功しているように思うところではあるのですが、結果として日本は内戦状態にある国と同レベルの低成長を達成しました。私の勤務先と同様に不毛な変革ごっこを繰り返しているだけの会社も多いのか国内シェアでは上々の地位をキープしてこそいるものの、その国際的な地位は30年前に比べて凋落が顕著で、まぁ何が間違っているのかは考えるまでもない状況でしょうか。

 ともあれ私の勤務先グループでも、個人(顧客)情報の管理を業務委託先の派遣社員に丸投げしているところは少なくなく、ここで引用したパソナと同様の事例は他でも普通に起こりうるものです。ただ厳格な管理が求められる個人情報であろうとも、直接雇用の正社員に実務を担わせるのは無駄と、そう感じている経営層は多い、どのような事件が起ころうとも、そこは変わらないように思います。代わりに行われるのは監視体制の強化ですとか実効性のないルールの追加ぐらいのものでしょう。

 ちなみに私の勤務先の話を続けますと、近年は急速に副業に関する規定が緩和され、簡単な申請で通るようになりました。昨年の春闘は会社側の完勝に終わるなど賃金の引き上げには消極的な我が社ですが、その代わりか副業で稼ぎやすい環境作りに力を入れているようです。報道される「パソナ元派遣社員」も本業とは別に個人での営業活動を行っていたようで、これは無許可であるのかも知れませんが、「賃金を抑制する代わりに副業を容認する」私の勤務先グループに当てはめれば、賢い行動であったと考えられますね。

 そもそも岸田内閣の方針からして「資産所得倍増プラン」であって、決して本業の稼ぎを増やそうとするものではないわけです。より多く投資するだけの「資産」を得た人ほど儲けられる、そんな社会を現政権が築こうとしている中では、「真面目に本業に従事するよりも、何か別の手段で資産を築く」ことが現代日本を生き抜くための方策にならざるを得ないと言えます。ましてや派遣社員とあらば仕事で成果を上げても自身の給与が上がる可能性は皆無に近いわけです。そこで職務上で知り得た情報を駆使して個人営業に走った人がいたとしても、果たして道を誤ったのは誰なのかと問いたくもなります。

 一見するとGDPが低く見える国でも、実は捕捉されない地下経済が盛んで意外に住民は裕福な社会もあると言われます。日本のGDPは諸外国に次々と追い抜かれていく状況ですが、しかし地下経済の規模はどうなのでしょう。闇バイトや転売、売春など公的な統計に表れにくい経済活動は日に日に身近なものとなりつつあります。「表」の仕事を地道にこなしても給料は上がらない、その代わりに投資で儲けてください、というのが国策になっている中では、「裏」の仕事で投資に回すための資産を獲得しようとする人が増えたとしても必然ではないでしょうか。今回のパソナの一件も、個人が時代に適応しようとした結果だと言うほかありません。

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