非国民通信

ノーモア・コイズミ

異論の許されない国と、それを支援する国

2023-07-30 23:24:16 | 政治・国際

 たとえば日本において中国との友好を訴える政党が活動を禁止され、その党首が監獄送りにされるようなことがあったなら、我が国の政治的自由や民主主義は保たれていると言えるでしょうか。ウクライナではロシア寄りと見なされた野党の活動が禁止され、野党トップが身柄を拘束されても来ました。少なくとも私はゼレンスキーの支配するウクライナの現政府を民主的とは見なしませんが、それでも政府見解に従えば日本とウクライナは価値観を共有しているようです。

 

ウクライナ大統領、汚職と裏切り「容認せず」 議員などの逮捕受け(ロイター)

[25日 ロイター] - ウクライナのゼレンスキー大統領は25日のビデオ演説で、公職者の汚職や裏切りを容認しないと強調した。兵士採用担当の地方職員が多額の横領容疑で逮捕されたほか、議会議員にロシアに協力した容疑が浮上したことを受けた。

ロシア軍の侵攻に対する防衛で兵器の確保が急務となる中、「議会議員や裁判官、軍関係者、その他の公職者が国家と対立することを誰も許さないだろう」と訴えた。

この日は南部オデーサ(オデッサ)の兵士採用機関のトップが約500万ドル相当を横領した容疑で逮捕された。地元メディアはこの高官の一族がスペインで不動産を取得したと報じていた。

このほか、南東部のロシア占領地でロシアに協力した疑いのある議員が反逆容疑で逮捕された。

ゼレンスキー氏はまた、議員らに対し、欧州連合(EU)加盟に向けた措置に関する法案を「私利私欲」のために支持しない行為をもはや容認しないと表明。「ウクライナにその時間はない」と強調した。

 

 もちろん暴力装置である軍には国家に従う義務がありますし、被雇用者である公職者にも憲法や法律の範囲内で上からの指示に従う責務があります。しかし議員や裁判官はどうでしょう。もし日本において岸田総理が議員や裁判官に対して「国家と対立することを許さない」、「軍拡に向けた法案を支持しない行為をもはや容認しない」などと表明したら、流石におかしいと思う人もいるはずです。しかしゼレンスキーがやることならば何であれ、多くの日本人はこれを是認してしまうわけです。

 ゼレンスキーとは何かを考えたとき、端的に言うならば「東欧のサダム・フセイン」あたりが適切でしょうか。最後はアメリカによって滅ぼされたフセインですが、元々はアメリカの後援を受けてイランと戦う、いわば価値観を共有する同志であったことを忘れるべきではありません。アメリカのためにイランと戦っている限りにおいてフセインが西側諸国から肯定される存在であったように、ゼレンスキーもまたNATOの代理戦争の担い手であることによって許されていると言えます。

 実態としてアメリカを宗主国と仰ぐことが民主主義と呼ばれる要件になっているにせよ、字義通りの「民主主義」であるためには政治家には異論を語る自由が保障されねばなりません。ウクライナの政治家であってもゼレンスキーに服従しなければならない謂れはない、自身の思想信条に沿って時には反対の意思を示すことが認められるべきです。そして司法(裁判官)もまた独立した存在でなければならず、それがゼレンスキー政権の意向と対立するものであろうとも、時にはNOと言わねばならないことがあるはずです。

 まぁ日本の場合は総理大臣が自らを「立法府の長」と称するなど、立法・行政・司法が独立せず三位一体を構成する珍しい国ですから、この点では議員や裁判官に自身への賛同を要求し反対を許さないゼレンスキーの姿勢は、日本人にとって受け入れやすいのかも知れません。政権交代が起こっても政策的な転換が何も行われないなど、我が国は政治的な対立の少ない国でもあるだけに、対立とは権力争いに過ぎず、危機においては挙国一致であるのが当然と思い込んでしまうところもありそうです。

 ただゼレンスキーとは意見を異にする議員や裁判官の中には決して私利私欲のためではなく、良心に則って大統領に反対して来た人も少なからずいることでしょう。ロシアの軍事作戦に協力したとして国家反逆罪で逮捕されるウクライナ人もまた多くいます。ドネツクやルガンスクで2014年からクーデター政権と戦ってきた人々だってウクライナ人です。

 もしゼレンスキーが「朕は国家なり」と思い込んでいるのなら、ゼレンスキーに反対する人は国家と対立していることになるのかも知れません。しかしウクライナはウクライナ人のものであって、ゼレンスキーのものではありません。良心を持ってゼレンスキーに反対している人もまたウクライナ人であり、そうした人々の声を尊重してこそ真の民主主義と言えるでしょう。果たしてゼレンスキーを無批判に支持してきた日本にとって民主主義とは何か、それもまた問われます。

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