さて、昨日の続きです。今夜は民主党の公約を検証してみましょう。まず良い公約としては、最低賃金の引き上げや学費の(実質)無償化が挙げられますね。どこまで本気なのか俄には信じがたいところもありますが、この辺は是非とも実現してもらわねば困るものですらあります。
次に「子ども手当」や農家への「戸別所得補償制度」辺りはどうでしょう。こちらは累進課税を財源とするわけでもないので富の再配分としてはちょっと微妙なところもありますし、何より「狙い」や実施後の「効果」についてずいぶんと不明確なところがあります。ただ漠然と「お金をつぎ込めば良くなるだろう」ぐらいの丼勘定ではないでしょうか。将来的な社会保障拡充への第一歩として見れば一概に無駄とはいえませんので、まぁ麻生内閣の定額給付金と同レベルの評価が妥当なところだと思います。
逆に「危険な」公約もあります。まず第一に「比例代表定数の削減」ですね。比例区の議員定数を削減し、小選挙区で固めようというわけです。元より人口辺りの議員数が少ない日本で、さらに議員の数を減らそうという発想は現状に即したものではありませんし、小選挙区ではなく比例区を減らそうというのがまた問題です。言うまでもなく小選挙区制は大政党に有利な制度、少数政党にはチャンスのない制度です。結果として自民党か民主党かいずれかの党にだけ議席が集中することになります。左派政党の排除には最も有効な制度ですが、自民党以上に定数削減に熱心な民主党の意図はどこにあるのでしょうか?
比例代表制の良いところは、議員の数と得票数が「ほぼ」比例するところです。一方で小選挙区制となると、最大多数を得た議員だけが当選し、次点以下の議員は落選、一人勝ちの世界です。小選挙区制の元では特定の党に議席が集中するため、与党の権力は強まります。だから、良くも悪くも政権は「安定する」わけです。得票数以上の議席を政権与党が持つことで、その基盤は堅固なものとなります。それだけ、好き放題できるようになる、歯止めが利きにくくなるということでもあります。比例代表制ならば少数政党にも得票数に応じた議席が回ってくる、与党からすれば「うるさい野党が増える」、これを民主党は嫌うようですが……
そしてもう一つ危険なのが、鳩山兄の強調してやまない「官僚」への非難です。この辺は公務員や官僚を絶対悪と見なす昨今の風潮に添うものであり、有権者からのウケも悪くないところかもしれませんが、実は最も危険な兆候にも思われます。そもそも鳩山以前、つまり小沢の時代は「生活者重視」が看板だったはず、それがいつの間にか「政権交代」と「官僚主導からの脱却」に置き換えられています。鳩山の掲げる二枚看板を一概に否定するわけではありませんが、それによって「後ろに追いやられた」ものを思うと、あまりいい気はしません。
鳩山の世界設定では、「官僚支配」こそが諸悪の根源です。鳩山は自民党ではダメだと語りますが、その理由は「自民党では官僚主導の政治から抜け出せないから」というものです。つまり、「官僚」こそが主犯であり、自民党は従犯に過ぎないということでしょうか。かつて抵抗勢力と呼ばれた穏健派の議員や官僚達の反対を押し切って進められた小泉改革、あるいは政界にがっちりと食い込んだ財界の無法によって今の惨状がもたらされたのではなく、あくまで「官僚が主導権を握っていること」が問題である、それが鳩山の世界観のようです。敵は何よりもまず「官僚」である――そう語ることで、他の問題が背景に追いやられている、おそらくは意図して背景に追いやろうとしているのでしょう。
鳩山の語る「官僚支配」がどれだけ正しいのかも怪しいものです。たしかに、自民党議員の無能さ故に官僚に依存する部分はあるでしょうけれど、一方で強大な権限を持った議員の「思いつき」によって官僚が振り回されている印象も拭えません。しかし仮に、本当に官僚主導であるとした場合、その何が問題なのでしょうか? 単に官僚とは悪である、そういう世界観を持っている人ならいざ知らず、ちょっと立ち止まって考えてみる必要があると思います。
その法案、政策を決定したのが誰なのか、そこは本当に重要なのでしょうか? この法案は官僚が立案したものだからダメである、この政策は民主党が決定したものだから賛成する、そういう判断をする人も少なからずいるでしょうけれど、自分たちの生活を考えるなら「誰が」という部分よりも先に問われるべきものがあるはずです。それを決めたのは「誰か」ではなく「何を」決めたかです。それが良い法案であれば、官僚の主導したことであっても良い法案には変わりないですし、それがダメな政策であれば、民主党の定めたことであってもお断りです。
結果的に行政と官僚で意見の分かれることはあるでしょうけれど、それは結果であって目的ではありません。それなのに官僚に対する被害妄想を前面に押し立てて、官僚主導の政治からの脱却を看板に掲げる鳩山は、「何を」決めるかではなく「誰が」決めるかを優先しているのではないでしょうか。そこから感じ取れるのは「誰がボスなのか思い知らせてやろう」という強権意識だけです。
政策の当否を論じる代わりに、それが有権者の支持を得ているかどうかを語るの政治家が昨今の流行です。小泉しかり、橋下しかり、そして鳩山しかりではないでしょうか。「有権者の支持を得ている」というのが彼らの印籠で、良識派の議員や職員/官僚が異議を唱えようものなら、その人々は「民意に背く」として逆賊扱いです。下手をすれば構造改革路線を修正しようとしている――自ら望んだのではなく、状況に追われて仕方なくそうしたに過ぎないにせよ――麻生内閣よりも、来るべき鳩山内閣の方がより小泉路線に近い、あの悪夢を再来させる可能性が高いかもしれません。もっとも、小泉ほどには狡猾でない鳩山のこと、途中でずっこける可能性もありますが。
参考、やっぱり鳩山はダメだな