「どんな問題でも自民と対決する」 共産・志位委員長(朝日新聞)
■志位和夫・共産党委員長 三つの点を伝えたい。第一は、国民の所得を増やして景気回復を図ること。大企業が抱えている260兆円の内部留保の一部を活用し、賃上げと非正規社員の正規社員化を図り、景気回復の突破口を開きたい。消費税増税には断固反対だ。
第二は、原発ゼロの日本をつくりたい。原因の究明もされていない。15万人の方が避難されているなかでの再稼働や原発輸出は論外だ。再生可能エネルギーへの抜本的転換が必要だ。
そして第三は、日本国憲法を守り、いかしたい。9条を変えて戦争する日本につくりかえることは断固反対。96条を変えて改憲のハードルを下げることにも反対だ。9条をいかした平和日本をつくりたい。どんな問題も自民党と対決し、抜本的対案を掲げてがんばりたい。(ニコニコ動画の党首討論で)
明らかに自民党以下の政党も目立つ昨今、希少な野党として共産党の役割は重要度を増すように思うところ、先の東京都議会選では都民向けの政策ではなく国政批判が功を奏したのかエセ野党を下して3番手に舞い戻ったようですが、次なる参院選に向けてはどれほどのものでしょうか。私なぞは民主から自民に政権が変わって「良くなった/マシになった」部分については概ね評価していますけれど、ここで見出しに掲げられているように「どんな問題でも自民と対決する」と言われると、ちょっと身構えてしまいますね。
改憲のハードルを下げる動きは私も懸念するところですが、比例定数を大幅に削減して小選挙区の比率を高めようとしてきた党=特定の政党による圧倒的多数の議席確保を容易にしようとしてきた党である民主党あたりには大いに警戒心を持っていたもので、それが定数削減には煮え切らない態度を続ける自民党に変わって、少しだけ安心していたりするわけです。まぁ、当面は政権に加わることはないであろう党の主張よりも、現在において与党である党の主張の方に専ら批判の矛先を向けるのは間違っていないのかも知れません。一部の野党の方がタチが悪いとしても、あくまで野党のこと、与党が毅然として暴論を退けていれば済む話ですから。
原発に関しては、ある意味で共産党は「乗り遅れ」が目立っていた気もしますけれど、どうでしょうか。原発事故から2ヶ月後、2011年の5月に全国でも珍しい共産党系の首長である石巻市の亀山紘氏は「安全対策をした上で再開する方向で考える必要がある」と女川原発の運転再開を容認する考えを述べていました。党の方針に真っ向から反対する――つもりではなく、その当時は「震災前に戻す」ことが重視され、決して「脱原発が第一」ではなかったように記憶しています。原発を巡ってあらぬ恐怖を煽り立てる、そうした振る舞いには躊躇するだけの良心が当時の共産党にはあったように思ったのですが、この頃は微妙ですね。
「原因の究明もされていない」などと志位氏は述べたようですが、そう信じたい人にしか通じない言い分にも聞こえます。もちろん何から何まで100%解明されているわけではありませんが、しかるに「原因の究明もされていない」とは強弁にも程があるのではないでしょうか。0か100か、All or Nothing、100%完璧な「究明」が完了していなければ何も分かっていないかのごとくに扱う、その辺は南京事件や従軍慰安婦問題における犠牲者の存在に対する歴史修正主義者の屁理屈と変わりがありません。これでは全くの「反対のための反対」と一蹴されても仕方がないと思います。他にも原発再稼働「しない」ことのデメリットや再生可能エネルギーへの抜本的転換という自己満足のために何が犠牲にされているのか、電力というインフラの安定供給や化石燃料を買い漁ること、温暖化ガスの排出量増大と言った目下の問題への視線が欠けていると言いますか、まぁ無責任な物言いだなとも。
内部留保については上記リンク先でも触れましたように、GDPが横ばい、雇用者報酬は漸減する中で上昇を続けている、とりわけ「非金融法人の現金・預金資産」は安定して高い伸びを続けており、「内部留保の牽引役は現金(預金)である」「内部留保は給与に回せる金である」ことが分かります。その点では内部留保の活用は悪くないことなのですが、ただ内部留保の「偏在」がどこまで考慮されているのやら。なんだかんだ言って今なお預金大国である日本ですけれど、一方で「預金0」の世帯も少なくありません。内部留保も然り、総計が国の経済規模を大きく上回る勢いで増え続ける中、内部留保額の格差も広がっているのではないでしょうか。
メディア上で話題を提供するのは専ら大企業でも、中小に分類されている企業で働く人の方が多い、とかく大企業志向とレッテルを貼られる新卒者だって当たり前のように中小企業に就職して、そこで働いているのが日本です。どこの企業にも遍く内部留保が積み上げられているのなら話は簡単なのですが、幸か不幸かそうではない、内部留保など無縁などころか、最低賃金レベルで従業員を酷使したり、外国人研修生/実習生を強制労働させることで事業を存続させているような類だって珍しくないわけです。そういう事業者に、どこまで踏み込めるかという点で共産党の労働政策には煮え切らないものを私は感じています。弱い労働者の味方でもある一方で、弱い企業に肩入れする存在でもある、しかしその弱い事業者こそ最悪の雇用主であるケースも多々あるはず、「下請けだから~」みたいな定番の言い訳に終始せず、労働者側の犠牲の上で経営が成り立っているような企業を市場から退場させる覚悟があるのか、それを私は――共産党に限らず――問いたいわけです。