新入社員「スパルタ研修」に批判 「餃子の王将」が釈明文掲載 (J-CAST)
過酷な新入社員研修の様子がテレビで放送され、「ブラックすぎる」などと批判されていた「餃子の王将」の王将フードサービスがサイト上に釈明文を掲載した。内容が「誤解を受けやすかった」とし、「無難な研修では学生気分を脱却できない」などと研修の真意を説明している。
2010年4月11日、情報番組「TheサンデーNEXT」(日本テレビ系)で、同社新入社員研修の様子が放送された。携帯電話からテレビ、新聞、タバコも禁止。朝は6時半からランニングを行い、夜は23時に消灯。研修では、ことあるごとに怒号が飛び交う――。
スピーチで絶叫、涙流して抱き合う
神奈川県の山中にある施設で、軍隊のような生活を5日間送る。挨拶などの接客基本動作や、オリジナルの「王将体操」などで合格点を取らないと修了が認められない。その中でも特に強烈なのが、3分間の「私の抱負」スピーチだ。他の社員の前で「私の抱負は1年後チーフになり、店長になることです。絶対になります!」などと絶叫。「70点 合格!」と言われ、最後には役員と涙を流して抱き合う。まるで自己啓発セミナーのようだ。
「餃子の王将」では、メニューの工夫や、イベント企画を行うなど、社員一人一人が存分に力を発揮し、併せて仲間とも協力することが必要とされる。その前に、挨拶や礼儀を社会人として身につけなければならない。「現代の若者」は、家庭や学校でこうした躾をされることが少なく、叱られたことのない人も多い。そのため、「通り一遍の無難な研修だけでは、学生気分から脱却させることはできません」というのだ。
また、今の若者には「汗をかかない」「涙を流さない」「感謝を知らない」といった傾向があり、研修では「感謝を知ること」を一番教えたいのだという。仲間に励まされながら自分の弱さに向き合い、最後に感動を分かち合う。仲間あっての自分を知り、感謝を知ることが真の目的だとし、「ご理解頂きたく、お願い申し上げます」としている。
王将フードサービス経営企画室によると、このような研修は10年以上前から行っており、途中で脱落者が出ることもある。放送後、「感動した」という意見だけでなく、「やりすぎ」といった批判もメールで寄せられたため、4月中旬に釈明文を掲載した。
テレビ放送されたこともあって結構な話題にも上った王将の新人研修、「軍隊のような生活」とのことですが、実際に研修と称して自衛隊に体験入隊させる企業が増加の一途でもありますから、それほど特異ではないのかも知れません。学生や主婦層、新人研修とは無縁の中途採用者や中小企業の人間からすれば異常な世界に見える一方で、研修をみっちりと受けてきた人の中には、「これくらい社会人として当たり前」と感じた人もいるのではないかと思います。十年以上も前から同様の研修を続けてきたにも関わらず今まで話題にならなかったのは、それが当然のことと受け止められてきたからでもあるでしょう。何はともあれ、思わぬ波紋を呼んだことで王将側としては釈明文を掲載したわけです。
釈明文の中身はと言えばカビの生えた俗流若者論といった感じで今さら相手にする気にもなれない代物なのですが、報道でも力点の置かれた「新入社員研修を通じて、一番彼らに教えたいことは『感謝を知ること』」という部分だけ、ちょっと考えてみましょうか。この手の教育でどうやって「感謝」を知ることができるのか、そもそもどこに向けての「感謝」なのかとか、その辺は明確にされていません。研修を通じて雇う側と雇われる側の上下関係を徹底的に叩き込むことで、会社への「感謝」を知らしめようという辺りでしょうか。将軍様ならぬ王将様への感謝を教えているわけですね。
少なくとも、一緒に働く仲間たちや「お客様」への感謝を教えるのは、この研修では無理です(まぁ「感謝」以前に業務上で求められる諸々の能力を身につける上でもこの研修は無意味……)。そうなると消去法的に雇用主への「感謝」しか残らないような気がするのですが、王将側は何を想定していたのでしょう。「お客様は神様です」という言い回しがありますけれど、たぶん王将でもそういう建前を現場の従業員に押しつけているものと思われます。これだったら「お客様」への「感謝」を教えようとしているものと解釈できるかも知れません。しかし、こうした考え方が日常から「感謝」を奪っているとも考えられないでしょうか?
日本の場合「お客様」が絶対的に偉いわけです。「お客様」は神様であって、応対する従業員は下僕みたいなものです。少なくとも対等な関係ではない、王将に限らずとも自社従業員と「お客様」を対等な関係として扱うところは皆無に近いと思います。お客様は神様――それゆえに「お客様」は店員に感謝しない、そういう環境が作られてきたのではないでしょうか。神様が下僕に感謝するはずがありませんから。金を払っているのに何で感謝しなきゃいけないんだ、と。ならば「お客様」と従業員は対等な関係であると教えてこそ、お互いに感謝しあう環境に繋がるような気がしますが、店員側が一方的に感謝するばかりで利用者は感謝などしない、そういう環境を王将は再生産し続けています。それでいて「感謝を知ること」を教えたいと宣うのなら、まぁ欺瞞もいいところです。