非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本の共産党が遙か昔に決別した体制を、共産党「以外」の支持で当選した首長が賞賛しています

2013-08-27 23:14:24 | 政治・国際

「旧ソ連は立派」新潟知事、政府・東電に皮肉(読売新聞)

 「チェルノブイリ原発事故の時、旧ソ連はもっとすごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」。

 東京電力福島第一原子力発電所の貯蔵タンクから汚染水が漏れた問題などを受け、新潟県の泉田知事は21日の記者会見で、当時の共産主義国家の事故対応を褒め、日本政府の対応力を強烈に皮肉った。

 知事は、今回の一連の問題について、「経営を優先して安全をないがしろにした結果、タンクの暫定設置や必要な汚染水対策の先送りにつながった」と、まずは東電を批判。返す刀で、「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」と国についてもばっさりと斬り捨て、政府の責任も大きいと指摘した。

 1986年のチェルノブイリ事故について、知事は当時、旧ソ連が国民に情報提供しないことや情報を遮断したことなどから「なんとひどい国だと思った」としながら、「国中から炭坑労働者を集めて、溶け落ちた燃料が地下水に接触しないよう先回りして穴を掘ってふさぐ対応までやっている。国家が総力を挙げて対処した」などと評価した。

 チェルノブイリの事故では、労働者の多くが防護態勢も手薄な中で動員され、大量の放射線を直接浴びたとみられている。

 

 「チェルノブイリ原発事故の時、旧ソ連はもっとすごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」……とまぁ、新潟知事が宣ったそうです。その根拠として「国中から炭坑労働者を集めて~国家が総力を挙げて対処した」と語ったとか。幸いにして、これを伝える読売の記事はまずまず良心的と言いますか、ソ連/チェルノブイリでの実態――労働者の多くが防護態勢も手薄な中で動員され、大量の放射線を直接浴びたこと――を、しかるべく書き添えてあります。もし報道したのが朝日なり毎日であったら、反原発無罪とばかりに問題の部分は載せずに単なる東電批判報道で終わらせるところ、メディアとしての基本倫理を根底から欠いている東京/中日新聞であれば想像を絶するヨタ話を盛って伝えるのが常ですから。

 ともあれ、この新潟の泉田知事(民主、自民、生活、公明、社民の5党から推薦)は放射線防護体制の有無など構わず、事故収束のため徴用した労働者を事実上の強制の元、原発事故現場に押し込んだソヴェト政権の対応を「すごい良い対応をした。日本と違って、かなり立派」と称えているわけです。まぁ、自らは安全なところから命令を下す為政者らしい発想とも言えるでしょうか。確かに、手っ取り早く自己を収束させるためには労働者の安全など考慮せず、強硬措置を取った方が簡単と言える場面もある、今回の原発事故がそうであったのかも知れません。しかし、そこで安易に労働者に犠牲を強いて良いのか、それを躊躇いなく肯定できる泉田知事の独裁者的な発想には恐怖すら覚えるところです。

 もっとも、こうしたソヴェト体制肯定は原発事故後から、泉田知事に限らず一定の範囲で見られたように思います。日頃は労働者の権利を慮る風を装いつつも、東京電力社員に原発事故現場への「特攻」を迫るような意見を語る/書き込む人は少なくありませんでした。東京電力から現場に必要のない人員の退避を打診された菅直人が激高して、これを退けたことは遍く知られているところです。結果として東京電力サイドも自社の社員の安全や健康管理を後回しにしてきた様子が一部に見られるのですが(参考)、それはけっして「良い対応」ではないはずです。

 私はロシア文学が専門で、隣接分野としてソヴェト体制に関しても一定の理解があるつもりですが、どうなのでしょう、私にとってソヴェト体制とは失敗の歴史である反省材料である一方、福島での原発事故後に吹き上がった声の多くは比較対象としてこれを都合良く色づけされて持ち出してくることが多く、何とも辟易させられたものです。結局のところ事故当初の最も重要な時期に情報を伏せて住民の被曝を防げず、十分に落ち着いてから強制移住で住民の生活を破壊するという最悪の対応がチェルノブイリでは取られたのですけれど、日本にも「強制移住派」とでも呼ぶべき人々がいて、このソヴェト政権の大失策を、あろう事か泉田知事よろしく肯定的に捉えているのですから、まぁ肩をすくめるほかありません。

 もっとも「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」という批判に限れば一定の妥当性はあるでしょうか。フルシチョフ時代を指すロシア/ソ連ののジョーク(アネクドート)として「全て前任者のせいにせよ」みたいなのがあるのですが、民主党政権の一貫した方針は「全て東京電力のせいにせよ」だったわけです。その民主党政権の負の遺産が電力会社を縛り付け、必要な対策を取れなくしているところも多々あります。引用元でも言及されている汚染水漏れにしても、国が責任を引き受けてくれれば防げたことのはずですから。

参考、汚染水の流出を恐れるあまりリスクが高まる悪循環

 要するに、何でもかんでもタンクに溜め込む、という現行のやり方では水が溢れることは目に見えている、だから基準値をクリアした問題のない水に関しては速やかに海に放出しなければならなかったわけです。ところが原発に関わるものであるからには放射線量の値の如何に関わらず放出は認めない、ダメと言ったらダメと、そういう方向性のままダラダラとタンクへの溜め込みで凌いできた、それが破綻しつつある今、果たして「東京電力が悪い」で済ませて良いのかと私は疑問に思うところです。「タンクに溜めて時間を稼ぐ」以外の選択肢が、果たして電力会社に許されていたのやら。

 ここは行政が責任を持って基準値以下の「水」を排出させる、科学的な根拠ではなく純然たる感情論からの反発に行政が怯まずに対処すること、偏見に基づいて風評被害を広める永遠に学ぼうとしない輩に毅然と対峙することが求められるように思うのですが――世論に怯えて自らの責任を回避するばかりの行政の下、自社に許される範囲では有効な対策を取りようがない電力会社が取り残されているとも言えます。「本来、国が取り組むべきものを東電の責任の範囲内にした」前政権との違いを現政権(仲睦まじく手を携えて泉田知事を推薦した間柄ではありますけれど)が見せられるかどうか、問われるところなのではないでしょうかね。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「護身用」が役立つことって

2013-08-25 11:51:16 | 社会

そのウインナーは生です!結婚してビックリしたこと(教えて!ウォッチャー)

それまで違う生活を送ってきた男女が、一つ屋根の下で暮らすことになる結婚。一緒に住んでみてはじめて相手の意外な一面を知り驚くこともたくさんあると思います。教えて!gooにも、ビックリしたエピソードが色々と寄せられていました。

(中略)

「夫のベッド枕元に『護身用』の5番アイアン。近所に空き巣の被害があったそうで、『(夫うれしそうに)うちに来たら、撃退してやろうと思って』結婚25年の今。剣道の有段者の夫の枕元には、木刀とダンベル。幸か不幸か。いまだ空き巣は来ず」(puripe02さん)

 

 ……まぁ引用元では諸々の事例が列記されているのですが、ネタになりそうなものだけ。曰く枕元に「護身用」の5番アイアンを常備しているのだとか。どうなんでしょうね、アメリカでは「護身用」に銃の類を所持している家庭も多いわけですけれど、専ら「家族を射殺する」「誤射によって死亡事故を起こす」「強盗に奪われて自分の銃で殺される」「職場に持ち込んで乱射する」「子供が学校に持ち込んで乱射する」などのケースが多く、実際に「護身」の役割を果たすことは少ないと聞きます。

 最近ではエジプト辺りが顕著でしょうか、いつの時代も世界のどこかで「軍隊が政府を守るために自国民と闘っている」わけです。だからといって実際に果たしている役割がそのまま掲げられているものではありません。あくまで「外」から「護る」という建前で軍隊には税金が投入されているものです。それでも、自国民に銃を向けることが決して珍しくないのが軍隊の常だったりします。「護る」ためと称して保持されているものは、往々にして「内」を「攻める」ために使われるのが実態なのです。

 今も世界各国で、反政府勢力という名の自国民から政府を守るために軍隊が銃を手にしている、それと同じようなことが、上記引用元のpuripe02さんの家庭でも起こるのではないかと、他人事ながら危惧してしまいますね。少なくとも「護身用」のゴルフクラブが「空き巣を撃退する」ために使われるより、DVに使われる方が可能性はずっと高そうに思えますし、私は「護身用」の銃なり鈍器なりを手元に置いておきたがる人間とは付き合いたくないです。

 「(夫うれしそうに)うちに来たら、撃退してやろうと思って」云々も、大いに将来を懸念させられる点です。そう言えばウチの母はサバイバルごっこが大好きなようで、地震への備えを語るときはいつも「嬉しそう」です。いかに自分の備えが万全かを嬉々として語るのですが――流石に2年半前の震災後は、少なからずイラッとしました。誰か母を傷つけずに、これを止めさせる方法を教えてください。ともあれ、本来ならば好ましからざる事態への備えが役に立つ日を待ち望んでいる、そういう人もいるわけです。

 高度に平和ボケが進んだ国においては、戦争は避けるべきものではなく備えるべきものになるのかもしれません。いつか備えが役に立つ日を夢見ている、「(うれしそうに)うちに来たら、撃退してやろうと思って」と語るタイプも多々いるのではないでしょうか。護身あるいは防衛云々と唱えつつ、「いつか来る日」を楽しみに待ち受けている人は多い、ウチの母にしてから大地震に見舞われる日を心待ちにしているのではないかと腹立たしく思えてしまうことがあるのですから、まぁ嫌な話です。「備え」が役に立つような事態は決して望まれてはならないはずなのですが。

 

乗客手荷物で麻薬犬訓練、大麻樹脂124g紛失…成田空港(読売新聞)

 東京税関は26日、成田空港第2旅客ターミナルの手荷物荷さばき場で麻薬探知犬の訓練中に、厚生労働省から借りた訓練用の大麻樹脂約124グラムを紛失したと発表した。

 発表によると、紛失したのは25日。麻薬探知犬訓練センター(千葉県成田市三里塚)の男性職員(38)が、香港から午後3時30分ごろに到着した旅客便の乗客のスーツケースの外側ポケットに訓練用の大麻樹脂を収めた金属製容器(縦約11センチ、横約9センチ、高さ約3センチ)を新聞紙にくるんだ状態で入れて、探知犬の訓練を行っていた。

 一般客の荷物を使った訓練は内部規定で禁止されており、持ち主にも知らされていなかった。探知犬も大麻樹脂に気づかなかったという。同税関では、持ち主がそのまま持ち去った可能性が高いとみている。

 男性職員は「違反は承知していたが、実戦に近い形で、訓練効果を高めたいと思ってやった。過去にも一般客のスーツケースを使った訓練をしたことがある」などと話しているという。同センターでは、成田国際空港署や千葉県薬務課に紛失の報告をした。

 

 上記は2008年の報道ですが、「実戦に近い形で、訓練効果を高めたいと思って」旅客のスーツケースに麻薬を仕込んだ税関職員もいました。税関で仕込まれた麻薬が回収されずに別の場所で発見され、東南アジア辺りの厳罰主義の国で死刑にされた旅行者もいるのではないかと危惧されるところです。ともあれ模擬的な訓練では満足できなくなってしまう、より「本物」を求めて(この場合は一般客の荷物を訓練に使うなど)行為をエスカレートさせていく人は税関に限らず他でも見られるのではないでしょうか。護身や防衛と称して、「外」からの「敵」と闘う未来を夢想しているような人が、いつまでイメージトレーニングだけで満足していられるのやら。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ならば前倒しはプラスだと言うのだな?

2013-08-22 22:37:33 | 社会

大学調査、採用広報活動開始時期の後ろ倒しはマイナスの影響と回答(マイナビニュース)

マイナビはこのほど、大学・短期大学の就職支援に携わる学校職員を対象とした「2013年度キャリア・就職支援への取り組み調査」の結果を発表した。

(中略)

学内の企業説明会は私立を中心に「増やした」が16.8%と高い割合に。開催開始時期は「12月」が47.8%と、約半数の大学が年内から実施。参加を望む企業の増加により、参加企業数も「増えた」が36.2%となっている

(中略)

保護者向けガイダンスを実施している大学は47.7%と、約半数の大学が実施。ガイダンスの開始時期は6月がもっとも多い21.4%となり、次いで9月が14.1%と、夏季休暇を挟んだ前後に実施する割合が高い。

(中略)

2016年卒に広報開始時期が後ろ倒しになった場合の影響予測は、学生の就職活動にマイナスの影響をおよぼすと考える大学担当者が多い様子がうかがえる(自己分析「不十分になる」30.8%、業界・職種・企業研究「不十分になる」45.0%)。

 
 

また、就職せずに卒業する学生が「増える」とする回答が46.1%、就職留年が「増える」が31.4%となった。在籍中に就職せずに就職を先送りする学生は、1~2割増加すると予測している

 

 この手の調査は多々あるわけですが、せっかく予算を組んで調査したにも関わらず、単に回答を集めただけで意味のある調査になっていないのではないかと、そう疑問に思うことも少なくありません。まぁ、某リサーチ会社の求人に応募したら5分で面接を打ち切られた(それは会社が求めていることではありませんね、みたいに言われたものです)私の考えることなどは、この種の調査に予算を付ける人からすれば「余計なこと」なのかも知れません。

 企業説明会の実施時期は12月が多く、保護者向けガイダンスは6月と9月が多いそうです。私には不親切な報道に思われるのですが、果たして何年生を念頭に置いての「12月」及び「6月」と「9月」なのでしょうか。おそらくは3年次の12月に企業向け説明会が多く、4年次の学生の保護者向けのガイダンスは6月と9月が多いものと推測されますけれど、その辺は読者に説明しておく必要がありそうな気がします。もしかしたら、もっと早いのかも知れませんし、もっと遅いと考えている読者もいるでしょう。あるいは「飛び級」もしくは「周回遅れ」で説明会やガイダンスに参加する人もいるのか等々。

 見出しにも掲げられているように「採用広報活動の後ろ倒しにはマイナスの影響が」との回答が多数を占めたようです。実際、どうなんでしょうね。一時期は学校給食費の滞納が騒がれていまして、まぁ申し込みの合意なく強制的に支払いを求められるものとしては健康保険や年金の類の他にもNHK受信料とか色々ある中で、不思議と際だって納付率の高い給食費が、あたかも滞納が深刻であるかのように取り沙汰されていたわけです。そこで学校教員に「(理由を)どう思うか」みたいな調査が行われたものですが、関係者が「どう思っているか」と本当の理由が一致しているのか大いに疑わしくも感じました。今回の調査でもどうでしょう、就職支援に当たっている学校職員の感覚を、皆様はどこまで信頼していますか?

 調査を意味のあるものにするためには、比較対象の一つも欲しいところです。「広報開始時期が後ろ倒しになった場合の影響予測」だけではなく、反対に「広報開始時期が 前 倒 し になった場合の影響予測」及び、「広報開始時期が 現 状 の ま ま 続いた場合の影響予測」を問うべきものと考えます。「広報開始時期が後ろ倒しになった場合」に「マイナスの影響」が予測されると言うからには、逆に前倒しする、もっと就職活動の開始時期を早めればプラスの影響が出る――そう考えられるということでしょうか。流石に、そう回答する学校職員は多くないはずです。

 実際のところ就職/採用活動があまりにも早すぎるという懸念が一定の社会的合意を得るまでに高まったからこそ、もう少し後ろ倒しにしようという気運も生まれてきたわけです。行政主導の決定にとりあえず異議を唱えてみたい感じの人もいるものと推測されますけれど、じゃぁ逆の決定だったら賛成するのかと、そう説いたくもなります。昨今のデフレ是正、円高是正に関してもあれこれとネガティヴなことを語る論者や政党/政治家がいるわけですが、ならば民主党時代のデフレ放置、超円高放置に賛成なのかと呆れること然りです。それと同じものを「後ろ倒しにはマイナスの影響」云々との今回調査結果に感じないでもありません。

 後ろ倒しでマイナスの影響というなら、前倒しでプラスになると言うのか、もし前倒しでもダメ、現状放置でもダメというなら、ではどの時点に「区切り」を設けるのが最良と考えているのか、その辺まで踏み込めれば単純なアンケートでも意味があるものになると言えます。そもそも今回調査では学内の企業説明会開催時期を「早めた」と回答した学校も多い、では「早めた」結果として「マイナスの影響」もしくは「プラスの影響」があったのかも追ってみれば、より実証的な調査にもできたことでしょう。しかし、単にアンケートを集めるだけで終わっている、これが学生のレポートで私が教授だったら「不可」を付けちゃいますね。

 なお「(後ろ倒しによる)マイナスの影響」として「自己分析」だの「企業研究」だのが列記されています。これ、意味があるのでしょうか。近隣の業界で働きながら同業他社の企業研究をするならいざ知らず、学生の企業研究なんてたかが知れているように思うところ、自己分析に至っては言わずもがなです。むしろ自己分析だの企業研究だのと煽り立てて学生を食い物にする就職業界、コンサルタントの類の縄張りが荒らされることへの危機意識でもあるのではと邪推してしまいます。後ろ倒しで「他人を就職させる仕事」の需要が減ることへの反発も今回調査結果には密かに載っているのではないかと……

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自由が与えられていない電力会社もあるのですが

2013-08-19 23:20:36 | 社会

東京都:新電力との契約倍増…コスト削減と自由化促進で(毎日新聞)

 東京都は16日、コスト削減と電力自由化促進を目的に、10月から新電力の電力供給を受ける施設をこれまでの33施設(計約4万1000キロワット)から、約10倍の304施設(計約9万6000キロワット)に増やすと発表した。東京電力からの購入よりも年間1億9000万円の経費節減になるという。都全体の契約電力(約100万キロワット)の約1割、施設数では約1200カ所の4分の1を新電力がまかなうことになる。

 都環境局によると、今回の入札で契約が決まったのは従来の契約先であるエネット(港区)▽丸紅(千代田区)▽エフパワー(品川区)−−の3社と▽ダイヤモンドパワー(中央区)の計4社。都立高校や職業能力開発センター、水道の営業所などが主な供給先になる。新契約先のダイヤモンドパワーは10月から中部電力が株式の80%を取得する方針で、48施設に計9850キロワットを供給する。都との契約は地域独占に風穴を開ける「越境販売」の側面もある。

 トラブルなどで新電力の安定供給が難しくなった場合は、東電からの融通などがあり、送電が止まる恐れはないという。猪瀬直樹知事は16日の定例記者会見で「都の新電力導入の目標はおおむね達成された。他自治体もユーザーとして電力改革に臨んでほしい」と話した。

 

 東京都の予算だけを考えるならともかく、自治体の公共性という観点からするとどうなんだろうと首をひねるほかありません。産業に乏しく財政危機に喘ぐ自治体が歳出削減を最優先しての結果ならいざ知らず、東京都のように日本でも最も恵まれた自治体であり地方の富を吸い上げる存在が、このように公共性を欠く判断をしている、首長の愚かなポピュリズムを止めることができないでいると言うことには危機感を抱くところです。

 電力事業者としてユーザーに安く商品すなわち電力を供給するためには、大まかに4通りくらいが考えられるでしょうか。まず第一は電力の調達、主として発電にかかるコストの削減で、例えば風力発電や太陽光発電など費用対効果に劣る発電手段を切り捨てることですね。逆に言えば、太陽光発電によってもたらされた供給量の著しく不安定な電力を「需要の有無とは無関係に買い取らされる」という自由化とは全く逆行した制度を押しつけられている事業者にとっては、供給する電力の価格を引き下げるのが難しくなると言えます。

 第二の策としては、自社従業員の賃金や協力会社(下請け含む)への支払額を切り詰めることでしょうか。実際、労働者の敵・民主党政権が既存の大手電力会社に迫ったのはこのパターンでした。天災(被災)によるコスト増はおろか、行政の暴走によって電力会社の経営に支障が出た場合でさえ、「リストラでやってほしい」と当然のように負担を労働者に押しつけて憚らなかったのが、民主党という反労働者党の一貫した姿勢であり、この点に限っては国民の支持も得られていたように思います。

 日本におけるブラック企業の代名詞的存在であるワタミの会長は、民主党政権時代は民主党から、自民党政権に戻ってからは自民党から支援を受けて出馬しました。政権が変わっても受け継がれるもの、日本の最大公約数的なものとしてワタミは存在しているように思いますし、働く人の取り分を減らして消費者に安価なサービスを提供するという企業姿勢は概ね歓迎されているのではないでしょうか。それだけに電力会社をブラック化させること、電力会社(及び慣例会社)で働く人の取り分を減らして電気料金を下げる、これが最も歓迎されるパターンと考えられますけれど――それで良いのか疑問ですね。

 第三は、税金で補填する場合ですね。韓国のように電気料金を国策として著しく低い水準に抑えている国もあります。当然のように発電コストを賄いきれず慢性的に赤字が発生するわけですが、結局のところ公社の赤字は税金によって穴埋めするほかない、と。とりあえず供給する電気料金は引き下げ、赤字は税金で埋め合わせる――それも決して悪い策ではないと思いますけれど、今回の東京都のような豊かな自治体が電力会社の経営を悪化させるような振る舞いに出るとなると問題があるのではないでしょうか。持てる自治体が歳出を削った分、その分を国全体から集められた税金で補填?

 第四は、「採算が取れる範囲でのみ販売する」ことですね。しかるに供給義務という、これまた電力自由化とは逆行する枷をかけられている既存電力会社の場合、リーズナブルな供給能力の範囲を上回る需要があれば、それに応じなければならないわけです。このため、時には「無理をしてでも発電する」ことが求められる、ゆえに老朽化して能率が悪い旧式の発電所まで稼働させたり、足下を見られてふっかけられようとも化石燃料の調達に奔走したりと、コスト増要因は連なるばかりです。

 もし本当の意味で電力事業が自由化されれば、「採算が取れる範囲でしか発電しません」という対応が可能になり、無理な発電をしなくて済むようになった分だけコストを下げられる、ひいては販売価格も引き下げることも可能になることでしょう。しかし、自由化万歳、競争万歳と唱えられる時代においても既存の大手電力会社には自由が与えられていません。採算が取れなかろうとも供給しなければならない、需要に応じるために絶えざる投資が必要になっているわけです。

 冒頭に引用した記事における最大のポイントは「トラブルなどで新電力の安定供給が難しくなった場合は、東電からの融通などがあり、送電が止まる恐れはない」との点でしょうか。結局、ケツを持つのは東京電力なのです。「何かあったらヨソの電力会社がカバーしてくれます」という体制で良ければ、それは料金を安くできることでしょう。当たり前のことです。しかし、他の電力会社にトラブルがあった場合には融通しなければならない、その責任を負わされる電力会社にまで無責任な経営が許される新電力と同様の料金設定を求めるのは、それこそクレーマーの所行としか言い様がありません。

 日本では、代替的な補償のことを一般に特権と呼びます。日本人には認められていながら外国人には認められない様々な制度があって、それを補うべく自治体が代替的な措置を取っていることもありますが、これは特権と呼ばれています。あるいは民間企業の従業員には認められるけれど公務員には認められない権利もあって、そのトレードオフのような形で公務員に対して保障されているものもある、これもまた特権と呼ばれるものです。そして持て囃される新電力と違って「自由がない」既存の電力会社が占めている地位はどう扱われているでしょうか?

 ともあれ猪瀬の愚行に倣う自治体が増えれば、国全体の電力コストは逆に上がるものと考えられます。ワタミよろしく従業員の犠牲の下に安価なサービスを提供する、そういう事業者ばかりが生き残り、真っ当な事業者が追いやられた先はどうなることでしょう。新電力各社が東京電力を初めとした既存電力会社にケツを持ってもらう、そのコストを負担してもらう形で安価に電力を販売する、しかし増大したコストは結局のところ税金で穴埋めされるのなら、一部の安値を求める「自分さえ良ければ」の独善的な自治体(首長)のせいで国民が割を食うことにだってなりかねません。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本流のムダ削減

2013-08-17 22:50:57 | 雇用・経済

 日本的な「ムダ」の考え方として、オレンジの絞り方を喩えにしたことが何度かあります。オレンジを絞ってジュースを得ようとする場合を考えてみましょう。絞って果汁の出が悪くなったら新しいオレンジを切って、また新たに絞る――この過程で何が「ムダ」と扱われるか、そこに日本と日本の外とで違いがあるように思うわけです。一見すると十分に絞ったように見えて、まだほんの僅かに果汁が残っているオレンジを捨てることをムダと考えるか、それとも絞りかすのオレンジから一滴も残さず果汁を搾り尽くそうとする、その労力をムダと考えるのか、日本の場合は前者ではなかろうか、と。

 得られるジュースの量を最大化するためには、ある程度まで絞ったらオレンジは新しいものを切った方が早い、それによって少ない労力で多くの成果を得ることができます。ところが絞りかすにも僅かに果汁が残っている、それを捨ててしまうのは見過ごせないムダだと我々の社会では考えられがちなのではないでしょうか。ゆえに、新しく果汁の詰まったオレンジを持ってくるよりも、オレンジの絞りかすを必死で絞り尽くすことに労力を捧げる、それこそが日本的なムダ削減であり、逆にカラカラのオレンジから果汁を得ようとする努力を徒労と考えるのが、日本を引き離して経済成長を続けた国の「ムダ」感覚なのではないかと思うわけです。

 たとえ話よりもダイレクトに語るなら、従業員を「使い切る」ことを重視するのが日本的経営の理想とも言えます。効率化を進めて仕事に余裕ができるようにすることではなく、仕事を詰め込んで従業員の余裕を無くすこと、そうして労働者の手が常にふさがっている状態を維持すること、それこそが日本的なムダ削減として称揚されているものではないでしょうか。かのワタミ会長は民主党政権時代には民主党から、自民党政権時代には自民党からと、政権交代の中でも常に与党から支援されて出馬しました。単に長時間労働を課すだけではなく社員の余暇の過ごし方にまで介入することで知られているワタミですが、まぁ日本的な理想の体現者と言えます。

 野球でもサッカーでも何でもいいですけれど、全くといっていいほど動かない監督もいれば、あれやこれやと手を出したがる監督もいるわけです。では前者と後者のどちらが優れているかと言えば、判断のしようがないのが実態です。何もしていないようでいて、それでいてシーズンが終われば好成績を残している監督もいれば、いつもアクセク動き回っているのに目を覆いたくなるような結果しか残せない監督もいます。働いた量が多ければ良いというものではないことは、私が今さら語るまでもないでしょう。

 ……で、普通の会社における管理職、上司の役割も似たようなものだろうと思うのです。いつも窓際でぼんやり、たまに報告に行けばこっそり(PC上で)将棋を指していたり、外出するのは何か問題があった納品先へ謝りに行く部下に同行するくらいと、そういう一見すると「働いていない」部門長の下でも部門の成績は絶好調だったこともあれば、逆に自ら率先して客先を訪問して回り、机に戻ることもなく絶えず部下の一挙手一投足に注文を付けたり派遣社員を入れ替えたり、とにもかくにも「猛烈に仕事をしている」上司の元で部門の業績が急降下したこともあります。働けば良いってものではないな、と。

 経営層には妙に理解のある人が多い一方、中間管理職クラスへの風当たりは冷たいものです。そんな中でも上述の後者は、まだしも許される方であるように見受けられます。逆に前者のタイプは部門の業績の良否とは切り離されて、色々と影で(特に経済誌上とネット上で)悪く言われることも多いわけです。少なくともあれやこれやと仕事量を増やす上司は、役員からの評価は低くない、一方で黙って部下の仕事を眺めているばかりの上司は、部門の売り上げが伸びているにもかかわらず「もっと伸ばせないのか」と詰問されていたりと、まぁそれが日本的経営というものなんだろうなと考えさせられることも多々ありました。あなたの職場はどうですか?

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

色々と冷めることがあったのです

2013-08-15 23:23:19 | 社会

原発ゼロの会のシンボルマーク発表 - 原発ゼロの会・公式ブログ

「原発ゼロの会」は脱原発を公約にする議員を明確にするために“原発ゼロマーク”を発表しました。

 

次期衆院選、参院選などで候補者のポスター、ちらしで使い、投票時の判断材料にして頂けるようにします。

「クラゲをマークにしたらどうか」とゼロの会に提言したのは脚本家の倉本聡さん。
大飯原発3号機が再稼働した際に大量のクラゲが発電所の取水口に押し寄せ、出力上昇を妨害した。倉本さんはこれが「抗議デモ」のように見えたと言います。

 

 「原発ゼロの会」と言う、まぁ見るだけで目眩がしてくるようなアレな議員が集うサークルがあるわけです。そのサークルでは2012年より脱原発のシンボルとして上記のクラゲ印が掲げられています。曰く「大飯原発3号機が再稼働した際に大量のクラゲが発電所の取水口に押し寄せ、出力上昇を妨害した」からだとか。原発稼働を妨害したところがポイントなら、押し寄せる巨大津波をシンボルマークにしておいても良かったんじゃないのとか、そう思わないでもありません。

 

九州電力:取水口にクラゲ大量発生 苅田火力発電所が停止(毎日新聞)

 九州電力は14日、石炭火力の苅田発電所新1号機(福岡県苅田町、出力36万キロワット)が同日午前6時58分に運転を自動停止したと発表した。蒸気を冷却するため海水を取り込む取水口近くにクラゲが大量発生し、除去装置が故障したのが原因。週内の復旧を目指している。

 14日の九電管内の電力使用率見込みは89%から91%に上昇。しかし、「安定需給」の状態は維持し、電力の安定供給に支障はないという。クラゲ大量発生で九電の発電所が運転を全面停止したのは1999年、2007年に次いで3回目。

 

 ……クラゲが原因で火力発電所の運転に支障が出ることがあるのは普通に知られているモノと思います。しかるに何も学ぼうとしないまま、自らの思い込みで脱原発、反原発を旗印としている人もいて、あろう事か国会に議席まで保有していたりするのですから呆れるところです、それもまた原発を含む電力需給問題への無関心の表れでしょうか。無知蒙昧な脱原発系候補に投票してしまう人の存在は、それだけ現実に無関心な人が多い、教祖様の唱える空想に方にしか興味がない、単に思い込みが強いだけの人が多いということを表すものですから。

 

ビデやおしり洗浄を遠隔操作!? LIXIL製トイレアプリに脆弱性- 米Trustwave(マイナビニュース)

米Trustwaveは、LIXIL製トイレ「SATIS」のAndroid向けアプリにセキュリティの脆弱性があると発表した。アプリを悪用することで、おしり洗浄/ビデ洗浄/温風乾燥などの機能を操作して、トイレ使用者を不快にさせることができるという。
 
SATISは、スマートフォンアプリ連携機能を備えたトイレ。スマートフォンとBluetooth接続することで、アプリからシャワートイレの個人設定を行ったり、端末に保存している音楽をトイレ本体のスピーカーで再生できる。専用アプリ「MY SATIS」はGoogle Playより無料でダウンロード可能。

今回、発表された脆弱性は、BluetoothのPIN(識別番号)が「0000」にハードコードされているというもの。脆弱性を悪用することで、専用アプリを外部から操作し、任意のトイレを思うままに制御できるという。この件についてLIXIL広報部では「現在、脆弱性の有無を含めて調査中」としている。

 

車をハッキング、運転も操れる!? 米で専門家実証 急加速やハンドル操作も(朝日新聞)

 車載システムがハッキングされ、運転中にハンドルやブレーキが利かなくなる――。こんな事態が現実味を帯びてきた。米ラスベガスで開催中のハッカーの祭典「デフコン」で、トヨタ自動車のプリウスなどを例に専門家が手法を披露。IT化が進む車のセキュリティー強化に向け、注意を呼びかけた。

 米国防高等研究計画局(DARPA)の助成を受けた米ツイッター社の研究者チャーリー・ミラー氏らが、プリウスと米フォードのエスケープを例に発表した。

 ミラー氏らは車載ソフトの解析で接続に成功。運転手の意思に反して急加速やブレーキを利かせたり、ハンドルを動かしたりしたほか、エンジンを切り、残り少なかった燃料計を満タンとして表示させる様子などを映像とともに披露した。研究結果は発表前に両社に送ったという。今回は有線接続での実証だが、「無線でもできる。他の研究者も他の車で取り組んでほしい」とミラー氏は語った。

 

 上の方はお笑い記事に見えるかも知れませんが(でも痔だったりすると笑い事じゃ済まないことにもなりかねませんね)、下のケースは極めて深刻な事態をも招きうるものです。まぁネットワークに繋がれていれば、そういう事態のリスクは常に隣り合わせです。一見すると外部と繋がっていないように見えても「無線でもできる」わけで、悪意ある第三者の手にかかれば何がどう転ぶか分かりません。もっとも懸念事項がいくらあろうとも、流行ってしまえば普及するのでしょうけれど。

 住基ネットとか納税者番号制度とかマイナンバー云々とか色々あるわけです。この手の制度もまた常に脆弱性と隣り合わせで絶えざる対策が求められるところ、情報漏洩や第三者による悪用を懸念する人も少なくないように見受けられます。そして同種の懸念が抱かれてしかるべきものとしてスマートグリッドが挙げられるように思うのですが、どうなのでしょう。脱原発云々の流れの中で「これさえ導入されれば」とばかりに一時は称揚されることも目立ったスマートグリッドですけれど……

 言うまでもなくスマートグリッドにも情報漏洩やハッキングによる悪意ある操作の可能性がつきまといます。電力が使われていない=家主が不在と思われる機会を窺うような輩だっていることでしょう。そう深刻な事態に遭遇する可能性は道路横断時に車にはねられる可能性と大差あるまいと私は思っていますが、ただ一方で納税者番号制度の類に強い懸念を表明するセキュリティに非常に敏感な人が、全く無批判にスマートグリッドをヨイショしているケースも何度となく目にしまして、その都合の良さに呆れるほかなかったのが震災/原発事故後でもありました。幸か不幸か最近はスマートグリッドが話題になることも減ったようですけれど、まぁ無意味な盛り上がりに晒されることが減ったのはスマートグリッドの未来にとって良かったのかも知れません。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

民間の工事にも適用しよう

2013-08-13 22:49:26 | 雇用・経済

社会保険未加入業者を公共工事から排除 29年4月から国交省適用(産経新聞)

 国土交通省は年金や医療、雇用の社会保険に加入していない建設業者を公共工事の下請けから排除する指針(ガイドライン)を定め、平成29年4月から適用する。悪質な未加入事業者が工事をダンピング(不当廉売)して受注するケースがあり、社会保険料を適正に負担する事業者が不利益を被る悪循環を断ち切るのが狙い。

 大手の業界団体も、下請けが出す工事見積書に従業員の社会保険料を別枠で明記するよう求める対策に乗り出す考えで、官民一体となって就業環境の改善に乗り出す。

 国交省が23年に公共工事を受注した建設事業者を対象に実施した調査によると、年金、医療、雇用の3保険すべてに加入している業者は84%にのぼる。ただ、1次下請け業者で実際に加入している従業員は55%、2次下請け業者以下では44%にとどまる。

 事態を重くみた国交省は、社保に未加入の下請けを選定しないよう元請けに要請するとともに、社保への加入が確認できない作業員は現場に入ることを認めないとする指針を定めた。

 

 公共工事に限った話のようですが、一般の建設作業現場にも適用することを本気で検討した方が良いのではないかと思われます。私の勤務先では主として通信事業者が発注する工事を請け負っており、昨今は短納期での対応を要求されることが多く、ここぞとばかりに下請けの業者が強気な態度を取ってくるわけです。こちらが発注元から厳しい納期を迫られていることを見透かして通常より高い工賃を支払わないと工事は請け負えないと強く出てくる、普段なら突っぱねるところでも発注元の定める納期に間に合わせるためには下請けの全面的な協力が欠かせないだけに元請け側が折れる場面も少なくありません。

 そうして下請け会社への支払額は上積みされているのですけれど――下請け会社で働く作業員の給与や待遇の改善に繋がっているか、その辺は関知できないところだったりします。下請けに作業内容の指示は出せても、従業員(下請けが連れてくる一人親方を含む)の扱いに関してまでは、なかなか踏み込めないわけです。もちろん、下請けが作業員をしかるべく社会保険に加入させているかどうかも私にとっては未知の領域です。上積みされた工賃を下請けの社長が会社の金庫にしまい込んでいるのか、それとも増えた作業に応じて従業員に還元しているのかは定かでありません。

 下請け企業における劣悪な待遇には「甘い」人(及び政治家、政党)もまた多いように思います。発注元、元請けに責任を転嫁する形で、下請け企業を「被害者」側に位置づける、下請け企業における従業員の不当な(時に不法な)取り扱いを大企業糾弾のためのダシにしてしまう論者もまた少なくないのではないでしょうか。確かに大企業/発注元(元請け)による零細企業/下請けへの無理強いは多々あるわけです。だからといって下請け中小企業が従業員を冷遇することが許されるのか、それもこれも大企業が悪いで済まされるのかと、そう疑問に感じるところでもあります。

参考、盗っ人猛々しい

 上記リンク先では、残業代の不払いを続けた悪質な下請け事業者(運送業)が荷主から台数削減というペナルティを課された例が取り上げられています。良いことです。残業代を払わない、社会保険に加入させない、そういう手法で経費を節約しては安値を武器に仕事を獲得するような事業者が蔓延れば、同業者が圧迫されるばかりですから。悪質な事業者は発注元から締め出しを食らって市場から退場してもらうべき、そうして真っ当な――せめて残業代くらいは払う、しかるべく社会保険には加入させている事業者が選別されるようにならないといけないでしょう。

 下請けが潰れると、発注元あるいは元請けも困ることになります。よほど調達ルートを分散させてでもいない限り、廃業する下請けが1社あっただけでも工程や納期には多大な狂いが生じるものです。ところが現状では下請け側にも潰れまいとする努力があって、かつそれを許すような環境もまたあると言えます。つまり、従業員に支払うべきものを支払わず、社会保険にも加入させず、節約を重ねて事業を存続させることが可能である、ゆえに「多少締め付けても下請けが潰れない」という大手/元請けにとってもやりやすい状況が作られているのではないでしょうか。むしろ下請けへの縛りを強くする、賃金の支払いや社会保険加入の有無を厳しく問うことで、「下請けへの支払額を考えないと、下請けが潰れる、そのせいで納期に影響が出てしまう」と大手/元請けに考えさせないとダメだと、そう私は思うわけです。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

改正という名の追認

2013-08-11 12:20:27 | 雇用・経済

派遣雇用3年後も継続、人代われば…厚労省案(読売新聞)

 労働者派遣制度の見直しについて検討している厚生労働省の研究会は6日、派遣先の企業が自社の労働者側と合意すれば、3年ごとに働く人を代えることを条件に、すべての業務で継続的に派遣労働者を受け入れることができるようにすべきだとする素案をまとめた。

 派遣期間に上限のない26の専門業務の区分も廃止を明記、実現すれば、労働者1人の派遣期間は原則、すべての業務で最長3年になる。労働者が派遣元と無期契約を結べば、同じ人が期間の制限なしに同じ派遣先で働くことも可能になる。

 報告書は月内にまとまる予定で、厚労省は労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)などで、労働者派遣法の改正についての詳細を詰め、2014年の通常国会に同改正案を提出する。

 

 労働者派遣制度に関しては民主党時代にも「野放し状態を堅持する」という形で「改正」が行われたものですが、政権政党が変わってもこの辺の方向性は変わらないようです。何もかも前政権から180°転換してくれれば概ね良い方向に転ぶのになと思わないでもないところ、しかるに「継続」が選ばれてしまう場面は少なくありません。生活保護切り下げ然り、朝鮮学校への差別的な無償化適用除外然り、そして労働者派遣制度もまた同様でしょうか。むしろ「現状を追認する」という面ではエスカレートしているとすら言えます。

 厚労省案は派遣労働機関の制限を「人単位」とするものです。今は、そうではないと言うのでしょうか? 法解釈の建前論としてはともかく、実際の運用としては現状で既に「人単位」のはずです。つまり派遣社員のポジション自体が何年継続していようとも、契約している派遣社員個人を単位に「3年」を一区切りとして運用されている実情がある、人を入れ替えすれば常用代替できる、継続して存在する仕事を非正規社員によって永続的に賄うことが実態として許されているわけです。

参考、「お約束」からは遠い現実

参考、「雇い止め」と言うより「雇い替え」

 「雇い止め」ではなく「雇い替え」の方こそ頻出する問題なのだと、何度か書いたことがあります。事業縮小などの影響で「椅子」そのものが減った結果として非正規社員が雇い止めになる、こうしたケースには一定の社会的注目があり、有効な対策が取られているとは全く言えませんが一応の意識はされているように思います。一方、業務内容には特段の変更がなく「椅子」は継続して存在し続けるにもかかわらず、「新しい非正規社員に入れ替える」ために派遣社員の契約が突如として打ち切られてしまうケースが日常的にあるわけです。

 このようなケースを「雇い止め」ならぬ「雇い替え」と呼ぶのはどうだろうと私は提唱するのですが、ともあれ「仕事はなくならないけれど、人は入れ替える」というパターンで失職を余儀なくされることが、私に限らず私の知り合いも含めて多々あったりします。「椅子」に対して「3年」という制限が厳格に適用されていれば雇用側も頭を悩ませなければならないところなのでしょうけれど、現状では人を入れ替えさえすれば同じ職務を長年にわたって非正規社員に続けさせても許されている、この状態を追認しようというのが今回の厚労省案なのです。

 まぁ、強いて言えば「派遣期間に上限のない26の専門業務の区分も廃止を明記」というのも含めて現状を直視する上では多少の意味があるでしょうか。私なぞは「派遣期間に上限のない26の専門業務」しかやったことがありませんし、日雇い派遣の類はさておくにしてもホワイトカラーの派遣社員の多くは「派遣期間に上限のない26の専門業務」だったりする(でも普通に「雇い替え」されますね)、建前上の「専門業務」という名前の元で本来なら課されてしかるべき雇用側への制限が外されているケースも多いわけです。「専門業務」という概念が完全に形骸化している中では、現実がどうなっているかを直視するために必要な改正と言えなくもないのかも知れません。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブルーライトが気になったことはないです

2013-08-09 00:01:23 | 編集雑記・小ネタ

ブルーライトから目を守る : 健康ニュース : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)

 パソコンやスマートフォンの画面から発せられる「ブルーライト(青色光)」を低減する商品が相次いで登場している。

 青色光が目や睡眠へ影響する可能性が指摘されているためで、メガネや画面につけるフィルムがある。

 眼科医らでつくる「ブルーライト研究会」(世話人代表・慶応大教授の坪田一男さん)によると、青色光の健康への影響は研究中だが、夜中まで光と接していると一日のリズムを作る「体内時計」が狂ったり、目に負担がかかったりする可能性が考えられるという。

 ソフトバンクBB(東京)は昨年、スマホやタブレット端末の画面に貼り付ける「ブルーライトガードフィルム」(1880円から)を発売した。液晶画面から発せられる青色光を18%ほど低減するという。この商品を5日間使用した大学生ら42人に聞いたところ、約7割が「目が疲れない」と回答した。

(中略)

 青色光を低減する商品販売の火付け役となったのは、眼鏡チェーン店「ジンズ」の眼鏡「JINS PC」。2011年に発売し、今年7月までの売上本数は約250万本に達した。当初は度なしのみだったが、度付きや子ども用も追加した。

 

 モノ自体の出来映えが今一つでも、流行ってしまえば売れるものなんだなと思うことも少なくないのですが、この頃は「ブルーライト」対策グッズが売れているそうです。職場にもジンズの眼鏡をかけて真っ青な画面と睨めっこをしている人も何人かいます。モニタの輝度とか色温度を調整する気は、全くなさそうです。本気でブルーライトを気にするなら眉唾物の色眼鏡をかけるよりも先にできることが色々とあるわけですけれど、流行のグッズを先取りして使用することの方が大事なのでしょうか。何だか健康食品の類と似たような消費のされ方に見えます。

 スマホなりタブレット端末なりの多くは色温度の調整すらできないスマートと呼ぶにはほど遠いデバイスが大半ですので、この手のグッズを本当に必要とする人もいるのかも知れません。とはいえブルーライトの影響云々は正直言って眉唾物、まぁマイナスイオンよろしく得体の知れないまま普及することもあるでしょうか。世界に名だたる日本の家電メーカーがマイナスイオンブームに乗ったように、今回もそれなりに名の知れた企業がブルーライト対策ブームに火を付けようとしているわけです。それに乗じるノリの良さもしくはコミュニケーション能力こそ我々の社会では求められるとも言えそうですし。

 しかしまぁ、上記の引用元でも「ブルーライト研究会」でも、モニタやタブレット端末から発せられるブルーライトにばかり着目しているようで、照明とか太陽光とかは気にならないのかなと思わないでもありません。常々、なぜ電磁波過敏症を主張する人がいるのにマイナスイオン過敏症を称する人がいないのか疑問に感じていたところですが、「気にしたいもの」とそうでないものがあると言うことなのでしょうか。

 確かに近年のモニタやタブレット端末のバックライトに多用されるLEDには露骨に青色が強い粗悪品も多く、ブルーライトへの「偏り」は否定しませんけれど、しかしLEDの輝度を最大にしたところで太陽光に含まれる膨大なブルーライトの量には足下にも及ばないわけです。単純な「量」で言うなら太陽光の方が絶対に危険で、ではブルーライトに偏った光が危険だ、偏りが問題なのだと考えるなら、安物の周辺機器に目立つ青色LEDのインジケータなぞは致命的に危険ということになりそうなものです。液晶モニタの電源ランプでも青色LEDが眩く点灯しているものも多くて、ブルーライトを気にするならその辺をガムテープで覆ったりした方が良いのではないかと。

 PCモニタやスマートフォンの画面から発するブルーライトの影響が取り沙汰される一方、LED照明は批判らしい批判もないまま随分と普及した感じです。ただどうなのでしょう、職場や電車の中で使われる蛍光灯はこれまでW色が多かったのが、いきなりN色のLED照明に切り替えられて面食らうことがあったりします。ちなみにW色は太陽光と電球の中間くらいの色合いのことで、ブルーライトへの偏りは少ない、N色は青みがかった色で相応にブルーライト成分も多い奴ですね。わざわざブルーライトが多めの照明に切り替えられて、それでエコだの何だのと言われているわけです。ブルーライトの影響云々を言うなら、もうちょっと照明の色とか気にした方が良いような気がしないでもありません。そもそも照明の色がチグハグなのは不格好だろうとも思うのですが、どうにも世間が気にするポイントと私が気になるポイントは一致しないのが常です。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

叶姉妹が好きです

2013-08-06 22:01:29 | 社会

20歳若く見えるように…50代風俗店女性の免許証偽造 知人の男逮捕(産経新聞)

 知人女性の運転免許証を偽造したとして、千葉県警千葉中央署は1日、有印公文書偽造の疑いで同県印西市大森の自称、会社員の竹内保彦容疑者(49)を逮捕した。容疑を認めているという。

 逮捕容疑は平成23年11月ごろ、風俗店で働く女性(50)の免許証の生年月日部分を書き換えるため、別の数字を印刷した紙を貼り付け、年齢を約20歳若く見えるように偽造したとしている。

 同署によると竹内容疑者は、女性が店で採用されやすいように免許証を偽造。女性はそれを使い採用された。「彼女の役に立ちたかった」と話しているという。

 

 ここでのポイントは「女性は~採用された」という辺りですかね。身分証の生年月日さえ書き換えてしまえば、ちゃんと通用したわけです。50歳の女性で「年齢を約20歳若く見えるように偽造」とのこと、約20歳と伝えられていますけれど、21歳ほどサバを読んで29歳ぐらいを称したのではないかと推測されます。まぁ人によっては若く見る人もいる、年齢がわかりにくい人もいますし、実際の年齢が低くても老けて見える人だっていますから、実年齢50歳の女性が営業年齢29歳で通ることだって時にはあるのでしょう。

 しかし数字にすぎないスペックを重視する人は、思いのほか多いのかも知れません。女優やグラビアアイドルの公称年齢もさることながら、公称スリーサイズなんて完全に創作の世界が大半のはずですけれど、その実測値とは必ずしも一致しない設定上の数値は芸能人の価値を大きく左右したりするものです。一般の女性でも然り、実際に太っているか痩せているかよりも体重の数値に一喜一憂している人は周りの男性も含めて多いように見受けられます。筋肉が落ちてブヨブヨ&ガリガリでも体重の「数字の小ささ」を是とし、良い具合にグラマーでも体重の「数字の大きさ」にダメ出しするような人は結構いるように思うわけです。

 そして年齢の「数値」の重要性は言わずもがなでしょうか。この数値の異性あるいは同性に与える印象もさることながら、風俗店に限らぬ就職全般において――そして就職した後も――年齢の「数値が小さいこと」は極めて大きな意味を持っています。数値が大きければ就業機会は閉ざされるものですし、数値が大きければ「退職を迫る」という事実上の解雇対象者に選ばれるリスクも高まるばかり、実際の人間が若いかどうかは人それぞれですけれど、数値の大小からは逃れられません。こうした中では「数値さえ書き換えてしまえば」と考える人が出るのも当然でしょう。

 冒頭の風俗業にしたところで、見た感じが若ければ免許証から確認できる年齢の数値など関係なさそうなものです。しかし、見た目よりも数値の方に重きを置く人が、採用側だけではなく顧客側にもまた多いのではないでしょうかね。年齢の数値を聞いて一喜一憂する人もまた多い、我々の社会は数値に興奮しているのです。だからこそ数値を誤魔化したり、数値を小さく偽証する人もいる、年齢の数値の小ささを売りにした商品やサービスの市場も成り立つ、時に本人の価値よりも数値の大小がモノを言うような社会では、それもまた生存戦略になるのです。

 日本では「若年層のキャリア形成を図るため」と、おまじないを記載しておけば採用に当たって年齢差別をしても構わないことになっています。私自身が年齢を詐称したくなることが増えるばかりですけれど、どうなのでしょうね、上記のような上辺だけの繕いで年齢差別が許されるなら、法制度を改めてもっと別の文言を指定した方が良いような気がしてきます。従来の「若年層のキャリア形成を図るため」を廃止して、「年齢による差別を行っているため」と明記させるようにとか、そうした方が正直で良いのではないでしょうか。「若年層のため」なんて美辞麗句での誤魔化しをいつまでも続けるのが好ましいこととは、とうてい思えませんし。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする