非国民通信

ノーモア・コイズミ

マルクスと餅屋の憂鬱

2017-11-26 22:00:46 | 雇用・経済

 マルクスの説くところによれば共産主義は資本主義の後に来るものであったようで、現に共産主義の理想に近づいている例としては80年代の日本や現代なら北欧の福祉国家が挙げられたりもします。その一方で共産主義あるいは社会主義を看板に掲げて成立した体制は軒並み資本の蓄積段階を経ていない国に限定されていたわけです。乗り越えるべき資本主義の段階を飛ばして共産党独裁政権を作り上げた国家がマルクスの構想を実現できたかと言えば――結果は既に出ていますね。

 「社会主義国」の特徴としては、上述のように「資本主義の段階を飛ばして成立する」ことが挙げられますが、今回もう一つ注目して欲しいのは「党の指導者が万事の権威になる」辺りです。典型的なのが社会主義国におけるマルクス主義解釈で、学者ではなく時の党指導者がマルクス主義の権威になるわけです。ソ連におけるマルクス主義理論家の頂点はレーニンでありスターリンであり、中国のそれは毛沢東であり、まかり間違ってもマルクス主義の研究者ではなくなってしまうのですね。

 こうして時の権力者の都合や信条によってマルクス主義はレーニン主義やスターリン主義、毛沢東主義へと改変される運命を負ってしまうのですが、幸か不幸か権力者による歪曲を受けるのはマルクス主義ばかりではなかったとも言えます。権力闘争のエキスパートのはずが、いつの間にか「あらゆること」の指導者としての地位が確立される、そうしてトップの思い込みによって経済や農業、軍事や外交もまた専門化ではなく権力者によって動かされるようになるわけです。

 伝え聞くところによると北朝鮮の先代の将軍様は、大学時代の3年間で1500冊の本を書き6本のオペラを作曲、初めてゴルフクラブを握った際には11回のホールインワンを含む38アンダーを記録したそうです。そして金正恩もまた、あらゆることに専門的知識を持つ全能の存在として全土を行脚、各地で「指導」を行っていることが知られています。父子ともども権力闘争に関しては相当な手腕を持っているであろうと推測されますが、なぜかゴルフやリンゴ栽培においてすら専門化として扱われてしまうのです。

 さて、その辺を対岸の火事と思っていられれば良いのですけれど、時に我が国でも似たようなケースは見られるのではないでしょうか。2011年の大災害時には、時の総理大臣が自身を原子力の専門化と勘違いした言動や振る舞いで色々と混乱を招きました。曲がりなりにも総理の椅子を手にした人である以上、権力闘争に関しては間違いなく専門化であったと言えますが――対処すべき個々の具体的な問題に対してどこまで専門的な知見を有していたのか、その辺は毛沢東の農業知識と同程度のような気がしないでもありません。

 そして日本の「会社」ではどうでしょう。実務を、現場をより知っているのは誰なのか。しかし「知っているとされる」のは誰なのか。実作業者の声が真実として受け入れられる、現場で働く人の声が実態として受け止められる、そんな組織は意外に希少なのではないかと思うわけです。むしろ実作業の手順は何一つ知らない、現場からも離れて久しい会社幹部の声の方が「真実」として扱われる会社の方が一般的であるとすれば、そこで望める経済的発展が社会主義国と同レベルに落ち込むのも必然なのかとすら感じますね。

 ことわざに「餅は餅屋」とありますが、少なくとも私の勤務先であれば「餅は部門長」「餅は社長」だったりするわけです。実務者が直面している問題なんかは相手にされず、役員の想像した課題こそが組織として対処すべきものとされる、第一線の営業が必要と感じているものではなく、社長の取り巻きが思い描いた「こうすれば売れるだろう」という妄想が会社の施策になる、そんな会社は珍しくないのではないでしょうか。現場で何が起こっているか、そこに最も精通しているのは誰なのか――単に地位が高いだけの人の夢想が「真実」として会社の事業計画に反映されてしまうようなら、当該の組織に発展は望めないと言えます。

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企業の利益だけは確保されているが

2017-11-19 22:36:36 | 雇用・経済

企業の現預金、最多の211兆円 人件費はほぼ横ばい(朝日新聞)

 企業が抱える現金と預金が、2016年度末に211兆円と過去最高にふくれあがっている。アベノミクス前(11年度末)と比べ3割(48兆円)増えた。人件費はほぼ横ばいで、企業の空前の利益が働き手に回らない構図が鮮明となった。

 財務省の法人企業統計調査(金融・保険除く)のデータを分析した。調査対象は国内企業で、海外子会社は含まれない。

 16年度の純利益は、5年前の2・6倍の50兆円で、バブル最盛期の1989年度(18兆円)を大きく超える。円安で輸出企業を中心に業績が伸び、4年連続で過去最高を記録した。

(中略)

 一方、人件費は5年前から1%増の202兆円にとどまり、ピークだった98年度(204兆円)を下回っている。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土志田るり子研究員は「企業の好業績が従業員に還元されない。これが日本の経済成長が低迷する原因になっている」と指摘する。

 

 さて空前の伸びを続ける日本企業の内部留保ですが、ある種の信仰を持った人々に言わせれば内部留保とは使えないお金なのだそうです。よくある詭弁は「内部留保の大半は設備なのだ」という代物ですけれど、しかるに設備投資が伸びていないこともまた日本の経済が成長しない理由であったりもします。そして「そのものズバリ」であるところの現金と預金額はと言えば、今回報道されているように過去最高を更新し続けているわけです。日本が世界経済を席巻していた1989年は18兆円だったのに対し、日本が先進国から脱落しようとしている現在はなんと211兆円……

 「一方、人件費は5年前から1%増の202兆円にとどまり、ピークだった98年度(204兆円)を下回っている。」こともまた伝えられています。おかげで今となっては日本は人件費の安い国となりましたが、それで豊かな国、強い国にはなれたのでしょうか? 日本企業は、より人件費の安い国が自国の競争相手なのだと錯覚していたのかも知れません。しかし、競争相手の真の姿は「人件費の安い国」ではなく、「人件費の伸びている国」であった見るべきだったのではないでしょうか?

 結局、人件費の伸びていく国は、その国で働く人も豊かになる、その国で働く人が豊かになることで国内市場の購買力も伸びていった、この結果として経済成長を続けて来たわけです。しかし徹底した賃金抑制を続けてきた日本では、当然の結果として日本で働く人が貧しくなっていった、日本では働く人々の購買力は低下し、国内市場は世界に例を見ないデフレへと突入していきました。日本の人件費の安さは他国とのコスト競争の面で有利に働くことがあるのかも知れませんが、それでは外需頼み、輸出頼みの経済しか作れません。

 

保育事業 全産業の平均利益率上回る 内閣府調査(毎日新聞)

 内閣府は14日、認可保育所や幼稚園を対象にした経営実態調査を発表した。私立保育所の平均利益率は5.1%、私立幼稚園は6.8%。全産業の平均利益率(4.5%)を上回っており、今後、保育事業への公費支出などが議論になりそうだ。

(中略)

 他の施設の平均利益率は、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「認定こども園」が9.0%▽家庭的保育所17.8%▽事業所内保育所11.0~12.0%だった。制度が始まったばかりの小規模保育所は11.8~16.2%で、若い職員が多いため、人件費が抑えられ利益率が高めになった。

 

 なお保育事業の利益率は全産業の平均を上回る、なんて調査結果が出たそうです。公定価格のみで運営した保育所に限定すれば利益率は低くなるようですが、小規模保育所は軒並み利益率10%超えであることが報じられています。理由はもちろん「人件費が抑えられ」ていることなのだとか。人件費を抑えて利益を確保する、保育所もまた経営方針に関しては、日本の普通の民間企業と全く同じ感覚を持っているのでしょう。

 まぁ利益率だけでは一概に言えない、小規模な事業所ほど個別の事情はあるのかも知れませんが、保育士不足の最大の原因が給与水準の低さであることは広く知られるところでもあります。給料が低いから仕事が集まらない業界で、人件費が低い分だけ利益率が高くなっている、というのはどうしたものでしょうか。それが21世紀の日本的経営であることは否定のしようもありませんけれど、綻びは至る所に見えているわけで……

 現政権は外交面では圧力云々と宣っているところですが、北朝鮮とのプロレスごっこよりも優先的に圧力をかけるべきは別にあるような気がしますね。富を滞留させ、日本の国内経済が発展していくことを妨げている害悪にこそ、政府は圧力をかけるべきでしょう。肥え太らせることにはまずまず成功したのですから、そろそろ収穫の時です。企業の懐で金の流れが止まっている限り日本の発展はない、それを自覚して経済界に大ナタを振るわなければいけません。

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読解力に関してはバリアフリー社会なんで

2017-11-12 22:11:01 | 社会

教科書の文章、理解できる? 中高生の読解力がピンチ(朝日新聞)

 教科書や新聞記事のレベルの文章を、きちんと理解できない中高生が多くいることが、国立情報学研究所の新井紀子教授らの研究グループの調査で分かった。新井教授は「基礎的な読解力がないまま大人になれば、運転免許や仕事のための資格を取ることも難しくなる」と指摘している。

 調査の名称は「リーディングスキルテスト」。教科書や新聞記事などの文章を読んでもらい、意味や構造を理解できているかを調べる内容で、2016年4月から今年7月にかけて、中高生を中心に全国で約2万4千人が受けた。問題は、コンピューターで受験者ごとに無作為に出題した。

 その結果、例えば「メジャーリーグ選手の出身国の内訳」に関する中学校の社会科教科書の文章を読み、内容に合うグラフを正しく選べた中学生は12%で、高校生も28%にとどまった。文章には「選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身」とあったが、四つのグラフの中から「72%がアメリカ合衆国出身」という事実を示すものを選択できない生徒が多かった。

 

 ……とまぁ、こんな調査結果が新聞に載りまして、それなりの話題にもなったようです。しかし「中高生の読解力がピンチ」や「教科書や新聞記事のレベルの文章を、きちんと理解できない中高生が多くいる」云々とはミスリーディングではないかな、とも思います。なにせ文章を理解できないという点では、会社で偉そうな顔をしているおじさんおばさんも大差ないですから。

 案の定、調査対象になったのは中高生が中心とのことで、あくまで絶対評価である、他の年代や過去の同世代と比べてのものではないことが分かります。人類は文明発祥以来、「今時の若い者は~」と世代を超えて語り継いできましたが、どうしたものでしょう。ともすると、近年の中高生の読解力が低下しているように受け止められかねない記事です。しかし、昔の中高生も、現代の「社会人」も、そんなに差はあるのかな、と思うわけです。

 まぁ調査に基づくものではなく個人的な体験でしか語れないのですが、少なくとも私が働いたことのある職場なら、上記引用元で例示されているような文章が読める人は間違いなく少数派です。下っ端の話ではなく、役員クラスでも、ですね。「基礎的な読解力がないまま大人になれば、運転免許や仕事のための資格を取ることも難しくなる」などと語る大学教授もいるようですが、文章なんて読めない人でも普通に免許は取得できている、職場でも地位を得ている気がします。

 そもそも、我々の社会で読解力が問われる場面は多くないはずです。例えば「若者の学力が低下している」「読書量が減っている」等々と嘆息してみせる人がどれほど増えたところで、いざ就職しようとなると問われるのは「コミュニケーション能力」一本槍だったりします。あるいは一定のネームバリューのある大学を卒業していることが求められたとしても、結構な難関大学にもかかわらず推薦で潜り込めたり、ごく僅かな教科数だけの試験で済んだりもします。読解力に障害を抱えていたとしても、結構なんとかなるように我々の社会は出来ているのではないでしょうか?

 言うまでもなく、希少な読解力の持ち主であったとしても、それで権力者になれたりはしません。むしろ「力」を持つのは多数派であることの方であり、「文章が読めない」人が多数派であるのならば、問題になるのは読解力の不足ではなく、「文章が悪いからだ」ということになります。わかりにくい文章を書く方が悪い、改めるべきは書く側である、そうなっていくものであり、必ずしも読解力のない側が責めを負うものではありません。

 部下が書いた文章を上司が理解できない、それは至って日常的な光景ですが、この場合は部下の書いた文章がわかりにくいことに問題があると見なされます。逆に上司が書いた文章を部下が理解できなければ、もちろん部下が悪いと見なされますが――往々にして「理解できない」部下は一人二人ではなかったりします。大半の人間が上司の文章を理解できず、陰で「何を言いたいのか分からない」と陰口をたたいて盛り上がっている、これもまた(少なくとも私の勤務先では)日常の光景です。

 とりあえず自身の体験から知る限り、読解力よりも権力関係の方が大事なようです。偉くなれば読解力などなくとも大丈夫、あくまで悪いのは文章を書いた人の方なのです。自分の立場を強くすることさえ出来れば、読解力に不足があっても会社では活躍できます。そして上司の書いたものが理解できなくても、同様に理解できない人は周りにたくさんいるわけです。読解力に問題があっても、あなたは一人ではありません。この世界は読解力に欠ける人間で構成されている、読解力がなくても生きていけるように出来ています。

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反政府メディアと体制側メディア

2017-11-05 22:12:44 | 政治

「野党のねじれ」に与党困惑 第一党は立憲民主党なのか、それとも民進党なのか 「衆院で話をつけても参院で通用しない」(産経新聞)

 自民、公明両党は、野党再編の余波に困惑している。これまで衆参両院とも民進党が野党第一党だったが、3分裂で臨んだ衆院選の結果、衆院の野党第一党が立憲民主党となり、参院は民進党のまま。交渉窓口となる野党第一党が衆参で異なる「野党のねじれ」が生じたからだ。

 「衆参両院で野党第一党が違っている構造に、よく注意して国会運営をやっていかないといけない」

 公明党の山口那津男代表は2日の党中央幹事会で、野党のねじれに留意を促した。「衆院で政党間の取り決めをしたからといって、それが参院側で通用するわけではない。衆参両院の国対は連携を緊密にしなければならない」と強調した。

(中略)

 自民党は会期に関し、衆院側で与野党間協議を行っていたが、「衆院で話をつけても参院で通用しない可能性がある」(国対幹部)との懸念から、参院側に調整を委ねる展開に。参院自民党は早くから会期を12月上旬まで設定するよう主張しており、その通りに落ち着いた。

 

 良くも悪くも支持政党がはっきりしている新聞社が目立つのは今更ながらのことですが、反政府メディアと体制側メディアの温度差には興味深いものがないでもありません。先の衆院選結果を巡っても、反政府メディアは「野党が一本化できていれば~」云々との非現実的な空想で自らを慰めていたりする一方、体制寄りのメディアに言わせれば「与党困惑」との結果になっているようです。

 反政府メディアにとっては妄想に逃げ込まなければやっていけないような結果である、ならば体制寄りのメディアからすれば万々歳の大勝利――とは必ずしもなっていないところが面白いな、と感じました。上記引用でも触れられているように「野党のねじれ」の故に「衆院で政党間の取り決めをしたからといって、それが参院側で通用するわけではない」状況ができあがっており、政府側による調整は選挙前よりも難しくなっているわけです。

 野党の政治家の主張によれば、安倍内閣は「暴走」しているそうですが、真偽はどれほどでしょうね。批判的に語るにしても「暴走」は少なからず的外れと言いますか、もう少し他の面から攻めていった方が良さそうに感じるところです。とりあえず特別国会の会期にしても、内閣の一存ではなく参院自民党の主張が通る形で決まったわけで、そこは「暴走」のイメージとは相容れないものですから。

 

小泉氏「このままなら自民党必要ない」 政策決定巡り(朝日新聞)

■小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長(発言録)

 (安倍晋三首相が幼児教育無償化などの財源確保のため、企業に3千億円の拠出を要請したことについて)党は何も聞いてないし、議論もしてないですから。このままだったら自民党必要ないですよ。

 経済界の皆さんにも、考えてもらうべきことがあるんじゃないかと思いますよ。政治が頼むと、賃上げする。3千億円も頼まれれば出す。何かまるで、経済は政治の下請けなのかと。

 

 さて今でこそ反・自民党で旗幟鮮明な朝日新聞ですけれど、小泉純一郎政権時代は最も翼賛的なメディアでもありました。父親だけではなく息子の方も朝日新聞は大好きらしく、その発言も盛んに報じられているわけです。しかしまぁ、部外者ではなく党で役職を持っている人間が、党内で議論する代わりにマスコミに対して批判を語る、というのはどうなのでしょうか?

 プロスポーツの世界で、監督やコーチに相談するのではなく取材陣に対して不満を公言すれば、処罰を受けることが多いように思います。それに比べると自民党は「緩い」と感じますね。党内の規律はどうなっているのか、党の人間が党内論議を経ずして、マスコミという「外」に向けて批判を展開する、これが野放しにされているとしたら、そっちの方が問題です。

 小池百合子という党に在籍していた議員を制御できずに自民党は都知事選と都議選で負けました。安倍晋三の「オトモダチ」の振る舞いは野党につけいる隙を与え、国民には不信を植え付けるものだったわけです。まぁ「制御できていない」のも「暴走」の一形態には違いありません。ただそれは、野党や反政府メディアの語るニュアンスとは少なからず違うような気がします。

 それはさておき小泉進次郎に言わせれば「政治が頼むと、賃上げする。3千億円も頼まれれば出す。」のだそうです。言うほどの賃上げはしていない、3千億円も必要な予算から見れば微妙な額だと突っ込みたくもなります。ただ、自称は労組であるところの連合よりは少しだけマトモな仕事をしている、ぐらいでしょうか。

 その連合はと言えば安倍内閣の、何ら強制力のない要請による微々たる賃上げにも異議を唱えていたわけです。小泉進次郎なり連合なり朝日新聞なり、企業を何よりも大切にする人々からすれば政府による経済界への介入は絶対に受け入れられないものなのでしょう。しかし現実問題として賃金もGDPも雀の涙の微増に止まっている中で内部留保だけが鰻登りという状態が続いています。私が安倍内閣に望むのは、こうした反対派を押し切り、企業に対して「より強い態度」を取ることですね。

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