非国民通信

ノーモア・コイズミ

今までのやり方が通用しなくなるなら、それは良いこと

2018-11-25 23:39:01 | 雇用・経済

外国人3千人が加入の労組結成 日高屋、大半が非正社員(朝日新聞)

 中華料理店「日高屋」を首都圏で約400店展開する「ハイデイ日高」(本社・さいたま市)で、外国人従業員が約3千人加入する企業内労働組合が結成されたことが分かった。組合員の約3分の1を占めるといい、これだけ多くの外国人が入る労組は極めて異例だ。政府が外国人労働者の受け入れ拡大を進める中、外国人の待遇改善をめざす新たな動きとして注目を集めそうだ。

 同社や労組関係者によると、名称は「ハイデイ日高労働組合」。今年5月に繊維・流通・食品業界などを束ねる産業別労働組合「UAゼンセン」に承認され、労組の中央組織・連合の傘下に入った。店舗網の拡大による従業員数の増加を受け、社内で労組の結成が長く検討されていた。関係者は「今年ようやく話がまとまった」という。

 組合員数は約9千人。パートやアルバイトなどの非正社員が8千人超を占め、このうち約3千人がベトナムや中国、ネパール、ミャンマーなどから来ている従業員だ。週28時間以内なら働くことができる日本語学校や専門学校で学ぶ留学生らが多いという。

(中略)

 外国人の労働事情に詳しい日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は今回の動きについて、「日本の労働市場に、すでに外国人が相当入り込んでいることの表れだ」とみる。一方で「要求のとりまとめは日本人以上に難しい」(外国人の労働相談を受ける地域労組の代表)との指摘があり、言葉や文化の壁があるなかで組合員の要求をどう集約し、実現していけるかが課題になりそうだ。(土屋亮)

 

 さて正規雇用が減って非正規労働者が増えた時代には、この増えた非正規社員を取り込まないと労組が衰退するのはわかりきったことでした。ところが大半の労組は組織の拡大に不熱心で、組合員の供給源たる正社員の減少を指を咥えて眺めているばかりだったわけです。果たして大手労組連合は単にやる気がなかったのか、それとも組合員の権利保護とは別のところに目的があったのか、もう少し問われるべきなのかも知れません。

 「連合は共産党の影響を排除するために闘ってきた」とは日本労働組合総連合会(以下「連合」)の神津里季生会長の発言ですが、この大手労組の集合体である「連合」とは、労使協調の理想を追求すべく、会社側との対決姿勢が強い共産党寄りの労組を排除する形で、右派労組が結集して作られたものです。その中核は、かつて自民党を右から批判していた民社党の支持母体であるゼンセンであり、時には安倍内閣に先んじて残業代ゼロ法案への賛意を表明するなど、本質的には「反・労働者」の立場と言えるでしょうか。

 ともあれ「連合」は、大手というに止まらぬ「過半数」労組として労働者を代表する立場にあり、自民党が政権を取ろうが民主党系諸派が政権を取ろうが、その地位は揺るがないものでもあります。一方で労組内の「野党」である共産党系の組合や連合傘下に入らない諸派組合は、連合の「与党」としての地位を理論上は脅かしうる存在であり、それが高じて連合の「反・共産党が第一」に繋がるわけです。ゆえに民主系政党が自民に負けても問題はないが、共産党には――と。

 また安倍内閣の賃上げ要請などに強く反対しているのもこの連合でして、要するに連合としては「自分たちこそが労働者の代表」であり、賃上げ交渉のテーブルに立つ資格があるのも自分たちであると、そういう思い上がりを強く持っているのです。「連合の主権」に最大限の配慮をしてきた故・民主党政権が安倍内閣に代わると、口先レベルとはいえ賃上げ要請という「政府の介入」が始りましたが、連合にとってそれは「聖域への侵入」だったと言えます。

 労働者にとっては連合よりも安倍政権の方が頼りになったところですが、しかし連合からすれば「主権を侵害された」みたいな感覚なのでしょう。連合にとって守るべきものの第一は過半数労組として「労働者を代表する権利」に他なりません。だから政府の介入は許さない、それが高じて経済政策面では自民党以上に小さな政府思考になるところがありますし、連合を支持母体とする民主党系諸政党もまた、政府の介入を厭う市場原理主義的、新自由主義的な主張に傾きがちなのは、ある種の必然と言えます。

 前置きが長くなりましたが、この連合と、その中核たるゼンセンに、大半を非正規とするばかりか外国人比率が3割以上を占める労組が加わったと伝えられています。当然ながら異例の事態とも報じられていますけれど、この影響はどうなるでしょうか? 曰く「要求のとりまとめは日本人以上に難しい」(外国人の労働相談を受ける地域労組の代表)とのことで、引用元では課題があるような書きぶりです。しかし私には、むしろこの「難しさ」こそが希望であるようにも思われます。

 というのも、昨今の日本の組合員に「難しさ」はなかったわけです。要求のとりまとめに苦労することなどなかった、自民党に反対するポーズでも適当に取りつつ、会社側とも出来レースのプロレスごっこを続けていれば、それで済んでいたのです。ところが外国人が、日本的な従属意識を身につけてくれるかと考えれば、やはり難しいと言えるでしょう。そして難しいからこそ、今まで通りのやり方が押し通せなくもなる――ことを期待したいです。

 日本の市場はまさにガラパゴスであり、グローバルな考え方からは頑なに背を向けてきました。労働環境も然り、労組連合と組合員の関係も然りです。しかし外国で生まれ育った組合員という「外来種」の上陸を前に、これまでの旧態依然とした日本的労組もまた変化を迫られる可能性があります。悪しき労組が淘汰され、真に労働者のために戦える世界基準の労組が産み出される、そうした化学変化を起こす火種は、日本の内からではなく、外から来る可能性の方がずっと高いでしょう。

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穴を掘って、それを埋める

2018-10-21 23:54:17 | 雇用・経済

 あらぬ方向に信念を持っている人に比べれば、支離滅裂な人の方が害がない、と言うことができるのかも知れません。後者は的を外すこともあれば、「たまたま当たる」可能性があります。一方で前者は「確実に」間違った道を選ぶものです。マイナス方向で芯がある人よりも、場当たり的な対応の人の方がまだしもマシだったりします。

 安倍晋三の経済政策もその辺で、何かと矛盾した行動も多く、正しいこともやれば間違ったこともやる、その点では信用できないとは言えますが――与党内の対抗馬や有力野党の主要メンバーの主張に耳を傾けると、明らかにまずい方向に信念を持っているのが見えてきたりします。この辺に比べれば支離滅裂な政策の方がまだしも、と言わざるを得ないのが現状でしょうか。

 安倍政権誕生から順調に景気が上向いたかと思いきや、消費税を8%へと引き上げるやリーマンショック級の急落に見舞われたのは、そう昔のことではありません。ここから安倍総理が何かを学んだのかどうか、その後は消費税増税の延期を繰り返し、野党やメディア各社から批判を浴びることも多かったわけです。しかるに今度こそ10%に引き上げると宣言し出したのが先日のこと。さて……

 安倍政権の決めたことなら何でもかんでも非難してきた政党やメディアは、この引き上げ宣言をどう評価しているのでしょうか。過去の「引き上げ延期」を批判してきた人々が手のひらを返して「良くやった」と賞賛する声も聞かない一方で、逆に引き上げを批判する声もまた、あまり聞こえてこないようにも思います。

 そもそも消費税の引き上げを決めたのは民主党政権で、安倍政権は「約束を守った」格好ですから、旧民主党系諸勢力は批判が難しいところもあるのかも知れません。消費税増税を批判すれば、それを決めた自分たちを否定することになります。旧民主党系諸勢力に自身の過ちを認める度量など望めない以上、国会での争いを期待するのは難しそうです。

 一方でメディアも大手は逆進課税推進で足並みを揃えてきた経緯がありますから、影響力の大きいところほど増税容認の傾向は強いことでしょう。しかるに新聞業界は消費税を上げつつも新聞への軽減税率適用を訴えても来ました。その念願が叶ってか新聞には軽減税率が適用される見通しですが、いかがなものでしょうか?

 確かに新聞は、今でも一定の社会的役割があります。昔から続いてきた問題でも、新聞で報道されて初めて社会に認知され自体が動き始めることは多いですし、新聞不要論を声高に唱える人が口にしている話題もネタの大元は新聞報道だったりするものです。社説や論説の類いはなくなって問題ないにせよ、新聞自体の必要性は消えません。

 しかし現状の見通しでは、軽減税率が適用されたとしても、その税率は8%です。イギリスならば軽減税率適用の食料品などは課税「0%」、フランスならば「5.5%」、ドイツですら「7%」だそうです。しかし日本は軽減税率を適用されても8%の課税予定、これで「軽減」と言われても、私はなんだか誤魔化された気がしますね。

 そりゃ10%と8%の違いはありますが、「最高税率は20%でも生活必需品は0%」と、「最高率は10%で生活必需品は8%」とでは、その「軽減」の重みも随分と異なるのではないでしょうか。たかだか2%とは舐められた話ですけれど――まぁ新聞業界的には、自分たちを特別枠に搬入させた時点で満足なのかも知れません。

 日本には消費税導入と引き替えに廃止された物品税もあれば、酒やタバコ、ガソリンのように品目によって税率を変える仕組みが根付いています。やり方次第では、モノによって税率が違う制度の運用は決して難しくないでしょう。ただ「イートイン」と「テイクアウト」で税率が変わる辺りは、日本社会の実情を鑑みて運用を決めた方が良いようにも思います。

 確かに諸外国では、「外食」はちょっとした贅沢なのかという気がします。先進国における「外食」の値段を見ると、日本人にはおいそれと払えない代物も今時は目立ちます。新興国ですら都市部の飲食店の値付けを見るに、今や日本と比べても決して安くはありません。その一方で日本は飲食店従業員の圧倒的薄給を背景に格安飲食店が居並びます。良くも悪くも日本は世界にまれに見る外食が安い国である以上、「イートイン」の扱いは少し考えた方が良いはずです。

 かつて首相であった菅直人は、「これ以上借金を積み重ねたらギリシャのように財政が破綻し、予算や税率を決める権限もすべて外国任せになる」と説いて消費税増税を訴えていました。この発言当時のギリシャの付加価値税率は21%でしたが、この消費税によって事態が好転することはなく、直後に23%へ税率を引き上げるなどの混乱を繰り返していたわけです。結果はご覧のありさま。

 消費税は消費を抑制する効果はありますが、その分だけ景気を押し下げることになります。この辺は政府閣僚も心得ているようで、増税の悪影響が出ないよう景気対策に力を入れると連呼しています。しかし増税で消費を抑制しながら、税金で景気対策を打つというのもいかがなものでしょう。穴を掘って、それを埋める、労力は伴いますが、これが何か実を結ぶのかどうか、私は大いに疑問です。

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水を注ぐこと自体は必要ですが

2018-09-09 22:58:29 | 雇用・経済

「派遣切り」直接雇用義務を迎える3年で続々と…「身分が不安定に」「誰のための法改正なのか」切実な声(弁護士ドットコム)

労働者派遣法改正から10月で3年を迎えるのを前に、研究者や法律実務家などでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」は8月31日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、派遣労働者を対象に実施したアンケートの調査結果や、寄せられたネットでの相談事例を報告した。3年で「直接雇用」という改正後のルールにより、派遣労働者が直接雇用されるのではなく、「派遣切り」にあっている実態が浮き彫りになった。

 

 器に水を貯めるには、器に水を注ぐことと、器の穴をふさぐことが必要です。ところが器の穴を開けたまま水を注げば、当たり前のことですが器に水は貯まりません。この派遣労働者を対象とした直接雇用義務は典型例で、水を注ぐことを義務づけるようでいて底に開いた穴には何の規定もないため、当初に掲げた目的を達するにはほど遠い結果となっているわけです。

 今からでも穴をふさぐべく企業活動への規制が求められるところですが、一方で良い結果が出ていないことを大義名分として水を注ぐことまでをすら否定しようとする論者も少なくありません。あたかも労働者の味方を装いつつ、その実は旧態依然とした実質無規制の労働者派遣法を堅持しようとする人も珍しくないと言えます。

 実のところ非正規労働者の中には主たる家計の担い手もいれば、あくまで補助的に働く人もいるわけです。主たる家計の担い手は、当然ながら雇用の安定や一定の昇給を必要とします。一方で補助的に――旦那の稼ぎを補完するべくほどほどに――働く人もいて、そうした人々は「永遠に非正規で」働くことに抵抗がなかったりします。

 この非正規社員の直接雇用を義務づける法改正が「誰のため」であるかと問うなら、雇用の安定を必要とする主たる家計の担い手のためであると言えます。ところが非正規社員の中には相当数の「家計の補助として」働く人もいるもので、そうした非正規のまま働きたい人の声を、あたかも非正規社員の代表であるかのごとく扱いたがる人もいるのではないでしょうか。

 冒頭の引用も然りで、引用元の終盤には「アンケートに寄せられた派遣労働者の声からは、改正法に対する強い不満がうかがえる」と称して5つほど回答結果が紹介されているのですが、その内訳は(40代・女性)が4件と(50代・女性)が1件でした。確かに女性の方が非正規雇用の割合が高い現実もありますけれど、ピックアップされた「声」に偏りはないですかね?

 この引用元で「改正法に対する強い不満」を伝えられている(40代・女性)と(50代・女性)の内、いったい何人が主たる家計の担い手なのか、そこに私は興味があります。もし(40代・女性)と(50代・女性)がいずれも既婚者で夫に安定した収入があるなら、その声は無視してもいい、少なくとも優先して対処すべきものではないでしょう。

 自身の収入で家計を担う非正規労働者の失職と、夫の収入で暮らす主婦のパート雇用が打ち切りになった場合、その深刻さの度合いは全くの別次元です。率直に言えば後者の雇用が不安定になったとしても、前者の雇用が多少なりとも安定するなら、それは望ましい法改正であると判断できます。

 実際のところ、現行制度は底の穴を塞がないまま水を注いでいるに過ぎません。ここは早急に規制を設ける必要があるでしょう。ただ法改正の意図したところまでをも否定しようとする言説には、疑ってかかる必要があると思います。あたかも労働者の味方を装うようでいて、その実は雇用主の自由のために印象操作を繰り返している人も少なくありませんから。

 

・・・・・

 

直接雇用できない理由として、ある相談者は会社から「予算がないから」と言われたそうだ。小野弁護士は「企業が派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまうためだ」と話した。

 

 なお本筋から少し外れますが、引用元には上記のようなことも書かれていました。派遣社員を派遣社員として雇うには、派遣社員の給与の5割増しぐらいの金額を派遣会社に支払い続けなければならないわけです。派遣会社にマージンを取られるのを漫然と受け入れてきた雇用主が、「派遣会社に紹介料や手数料を取られてしまう」ことを厭うのも、まぁ詭弁としか言えませんね。

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手帳はなくても

2018-09-02 23:10:11 | 雇用・経済

職場での障害者虐待が過去最多(共同通信)

 職場で雇用主や上司から虐待された障害者が、2017年度は597事業所で1308人に上ったことが22日、厚生労働省のまとめで分かった。人数は16年度に比べ34.6%増加。年度を通じて調査を始めた13年度以降、人数、事業所数ともに最多となった。

 通報件数も増えており、1483事業所、2454人といずれも過去最高。厚労省は「心理的虐待に当たるいじめや嫌がらせは一般の労働者でも相談が増えており、社会全体の問題意識が高まっているのではないか」としている。

 虐待の種類別(一部重複)では、最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待が1162人で最も多かった。

 

 2週間ばかり前に、こんな報道がありました。「職場での障害者虐待が過去最多」とのことで、この辺は氷山の一角と言いますか実数はもっと多いであろうと思われますが、まぁ社会の問題意識の高まりもあって表に出てくる数値が増えたと見るのは妥当なところでしょう。

 なお厚労省の匿名の誰かによれば「心理的虐待に当たるいじめや嫌がらせは一般の労働者でも相談が増えており~」だそうですが、虐待の種類別では、最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待が1162人で最も多かったことも伝えられています。そういうのも――法律違反ではなく――虐待と呼ばれるんですね。

 

障害者雇用3460人水増し 27機関で不適切算入(朝日新聞)

 障害者の雇用数を中央省庁が水増ししていた問題で、政府は28日、国の33行政機関を対象とした昨年6月1日時点の再調査結果を公表した。27機関で計3460人の障害者数の不適切な算入があり、平均雇用率は従来調査から1・19%に半減した。27機関で当時の法定雇用率2・3%に届いていなかった。障害者雇用の旗振り役となる国の約8割の機関で、水増しが広がっていた深刻な事態となった。

(中略)

 再調査の結果、最も水増しが多かったのは、国税庁で1022・5人。雇用率は2・47%から0・67%に下がった。国土交通省の603・5人、法務省の539・5人が続いた。雇用率はそれぞれ2・38%から0・70%、2・44%から0・80%になった。制度を所管する厚労省でも不適切な算入があったが、法定雇用率は達成していた。

 

 さて、冒頭の障害者虐待を伝える記事が出てから数日後、今度は官公庁における障害者雇用の水増しが報じられるようになりました。中央省庁の他、地方自治体でも類似の事例があるそうですが、国税庁などでは障害者雇用率を2・47%としていたものが0・67%へと下方修正されるなど、華々しい粉飾ぶりが伝えられています。

 背景としては民間企業と省庁の制度の違いがあり、民間企業では障害者手帳のコピーを外部団体に提出しなければならない一方、省庁の場合は厚労省への報告だけで良かったのだそうです。この独立行政法人へ障害者手帳のコピーを提出する制度、ともすると天下り先のための仕事作りに見えないでもありませんが、一応はチェック機能になっていたようですね。

 さて雇用主であるところの各省庁は厚労省に報告するだけで済むことから、そこで働く人が障害者手帳を持っているかどうかまでは、敢えて確認していなかったわけです。この辺は褒められたことでは当然ありませんが、しかしこの水増しを構成している「障害者枠で雇用されているけれど、手帳は持っていない人」とは、いったいどんな人たちなのか、ちょっと気になります。

 まぁ就労先が官公庁であれば心理的虐待はあろうとも経済的虐待まではなかろうと、そう期待して就職を望んだ人は多そうです。民間企業は手帳の有無を厳しくチェックする反面、「最低賃金を下回る時給で働かせるなどの経済的虐待」などの問題が大いに懸念されます。民間企業も官庁も、守っている法律もあれば守っていない法律だってあるでしょうから。

 結局のところ手帳を持っていなくとも就労に苦労したり、諸々に支障を来している人は珍しくないです。健常者として世間に認められているけれども、法律で認められた障害者よりずっと無能で有害な人だっています。自分の勤務先にしても、手帳を持った人よりもずっと気配りを必要とする人々に就労機会を提供しているわけで、もう法定雇用率を満たしているかどうかなんて気にしていられません。

 まぁ、障害者枠として線引きをするなら、その線引きに客観性を持たせるためには「手帳を持っているかどうか」が最大公約数的なものにならざるを得ないのでしょう。それぞれの雇用主が独自に基準を設けることを許してしまえば、結局は都合良く改変されるのを許すだけです。ただ現行の手帳交付の基準、手帳の有無による雇用の区分には、いくらか釈然としないものもあります。

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ここでも韓国の後塵を

2018-07-22 23:33:39 | 雇用・経済

韓国の最低賃金835円に 10年で2倍、日本に迫る(朝日新聞)

 韓国の最低賃金委員会は14日、来年の最低賃金を10・9%増の時給8350ウォン(約835円)に引き上げると決めた。「所得主導」の経済成長を掲げる文在寅(ムンジェイン)大統領の政策があり、日本の最低賃金(全国加重平均)の時給848円に迫る。ただ、コンビニなどの自営業者は「人件費が増えて商売にならない」と撤回を求めている。

 委員会は雇用労働省の所属機関で、雇用労働相が公示すれば来年1月から適用される。労働組合が有力支持基盤の文氏は2020年に最低賃金を時給1万ウォン(約1千円)にすると公約しており、前年の引き上げ幅は16・4%だった。韓国の10年の最低賃金は4110ウォン(約410円)で約10年で2倍となる計算だ。

 今月になって韓国銀行が今年の経済成長率の見通しを3・0%から2・9%に下方修正するなど、経済は停滞気味。経営者側は最低賃金の引き上げの凍結を主張しており、2年連続の2桁台の上昇に猛反発している。コンビニ店主などが加盟する小商工人連合会は、決定を受け入れないとする声明を発表した。(ソウル=武田肇)

 

 先週は「中国の方が(日本より)待遇の水準が良い」と語る中国人の声を取り上げましたが、韓国では最低賃金の抜本的な引き上げが続いており、2020年までには日本を抜き去るであろうと考えられます。最低賃金の大幅な引き上げは故・民主党が政権獲得前に唱えていたことであるものの政権奪取後は完全に沈黙、安倍内閣に変わって僅かに賃上げペースが改善されたながら、日本経済よろしく諸外国の伸びからは取り残される状況が続いているわけです。「韓国の方が(日本より)待遇の水準が良い」もまた現実となるでしょうね。

 同じく労組を支持基盤としながら、日本の故・民主党政権と隣国の文在寅政権、どうして差が付いたのか興味深いところです。ともあれ文在寅大統領は「所得主導」の経済成長を掲げていることが伝えられていますけれど、そもそも日本こそ経済が伸び悩む要因として消費の低迷が挙げられて久しいわけで、可処分所得の増加がより効果的であるのは、韓国以上に日本ではないかと思わないでもありません。国内労働者の可処分所得が増えれば国内消費が増えて当然ながら経済成長を促すものですが、どうも日本国政府には経済成長への意思が――向こう20年ばかり垣間見えませんね。

 国内労働者の賃金は国内消費者の購買力に直結しますから、賃金の抑制はすなわち内需の抑制に他ならないわけです。賃金を抑制してしまえば、経済成長を牽引し得るのは外需ばかりとなってしまいます。資本の蓄積の段階にある発展途上国であれば、外需に重点を置くのは完全に間違いとは言い切れないとしても、先進国がそれをやってしまうとどうなるかを示しているのが、21世紀日本の経済的地位の低下であることは論じるまでもないでしょう。日本経済のネックである消費の低迷を解消するため、やるべきことが何であるかは自明のことです。

 アメリカのような訴訟リスクもなければヨーロッパのような組合の抵抗もない、公的機関も労働関係の違反取り締まりには及び腰と、日本には人員整理が容易となる条件が揃っています。そこに「改革」の名で規制緩和が進められた結果として日本国内の労働者の所得は激減、必然的に消費も低迷して内需は弱含んでいったわけです。結果として作られた氷河期世代は経済基盤の脆弱さから非婚率が急増、少子化を大いに加速させ日本国の将来に地雷を敷設することにもなりました。「改革」によって人を安く雇えるようになった、リストラで人件費が減った、その結果として生き延びた企業は多かったとしても、日本社会の寿命はどうなったのやら。

 韓国でも「人件費が増えて商売にならない」と語る人はいるようですが、しかし「人件費の低さに依存して延命している事業者」に最大限の配慮を続けてきた日本が歩んできた道を思えば、どの声に耳を傾け何を無視すべきかは明らかです。正社員をリストラして非正規に置き換えることでしか利益を上げられないような企業を延命させてきたことが、我が国を栄えさせる結果に繋がったでしょうか? 人件費上昇に対応できない企業を淘汰することこそ真の改革であり、それは日本で行われてきた「改革」とは正反対のものです。

 人件費の上昇が続く国では、それに対応できる優れた事業者しか存続を許されません。企業は生き残りを賭けて効率化とイノベーションを模索することになります。しかし人件費抑制が容易な日本では――人を安く長く働かせることで利益を確保するブラック企業が我が世の春を謳歌してきました。生産性を引き上げることが出来なくても人件費を引き下げることが簡単にできる以上、無能な事業者でも日本という地上の楽園では存続できてしまったわけです。

 その昔、我らが日本のNECこそが名実共に「世界一の半導体企業」でした。時は流れて王座はインテルに譲り渡され、そして韓国のサムスン電子へと移り変わったものですが、今やNECは定期的なリストラ発表くらいでしか存在感を示すことが出来ていません。人件費抑制をソリューションとしてきた日本を尻目に、「所得主導」の経済成長を文在寅政権が貫く限り、両国の経済的地位は逆転するどころか瞬く間に差が付いていくことでしょう。もはや日本は、渡来人を招聘して大陸から進んだ資本主義の考え方を学ばなければいけない段階に来ていますから。

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賃金の上がらない国に未来は無し

2018-07-15 23:02:06 | 雇用・経済

「日本より中国のほうが待遇いい」と中国の介護現場
「外国人の介護人材争奪戦」に「賃金低すぎて集まるわけない」の声(キャリコネニュース)

人手不足の介護現場で、アジア人材の奪い合いが起きている。介護人材は7年後の2025年には34万人不足するとみられており、積極的に外国人を採用する介護施設が急増している。

7月11日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)がその現状を紹介すると、視聴者からは「人材争奪戦と言いながら待遇改善しない(できない、やらない)」などと落胆の声が上がっていた。(文:okei)

(中略)

一人っ子政策で高齢化が急激に進む中国は、やはり介護人材は貴重な存在だ。中流層が入所している中国・上海の介護施設では、介護スタッフの月給は8~10万円で、上海市の平均と同じ水準だという。しかも、食事と住居は無料で提供される。中国の施設責任者は、「日本の介護士の給料は低いと聞いている。中国の方が待遇の水準が良いと思う」と語った。耳の痛い話である。福祉の専門家は「貨幣価値の差がだんだん無くなれば、(中国人材の来日は)難しい」とコメント。今後日本は、職場として選んでもらえない恐れがあるのだ。

 

 日本人がやりたがらない低賃金の仕事を負わせようと、外国人労働者の受け入れを企む人々は少なくないですが、その将来はどれほどのものでしょうか。現状を見るに、いつの日かベトナムの日本大使館前に実習生像が建てられたりしてもおかしくないような非人道的待遇も目立ちますし、流石にそれを恥じる人も増えてきました。権力を持った人々ほど外国人労働力の受け入れに積極的な傾向があるものの、上記引用元でも語られている通り「中国の方が待遇の水準が良い」ケースは今となっては珍しくありません。「(日本が)職場として選んでもらえない恐れ」とは当然です。

 かつては中国の「親日派」ブローカーが自国民を騙して日本に売り飛ばすことも多かったのでしょうけれど、そうした人々に取ってすら日本は魅力的な市場ではなくなってきていると言えます。外国人実習生の主要な供給元は中国からベトナムへと既に推移したわけですが、ベトナムにしても経済発展は続いている、ベトナム国内で働くことで得られる給与も増え続けていますから、いずれは「ベトナムの方が待遇の水準が良いと思う」みたいな認識が広まる可能性は高いです。

 そこでさらなる(日本より)賃金水準が低い国を、新たな人材の供給元として開拓していくのが日本の一つの将来像なのかも知れません。未開の地平を切り拓き、より安価な人材という資源を発掘するわけです。実際、中国やベトナムが発展しても、まだまだ貧しい国はあります。ウナギ資源が枯渇する都度、新たな調達先を探し続ける商社マンのように、人的資源をもまた新たな採掘先を見つければ良いのだと、実質的にそう考えている財界人は多いのではないでしょうか。

 90年代以降の日本の「改革」モデルは、人件費削減こそが事実上の終着点となっているわけです。一見すると90年代以降は(日本より)人件費の安い国に急追され(一部は追い越され)た時代ではあります。ならば日本経済が復活するには、「後進国」に負けないように人件費を安くしてしまえば良いのだと、結果的にはそう考えられてきたと言えます。ところが人件費抑制を続けた日本経済はその世界的地位を低下させるばかり、一方で人件費の上昇が続く国は今もなお発展が続いているのです。

 まぁ海外植民地の安い労働力を酷使することで利益を得る、そうしたビジネスモデルが成立していた時代もありました。とはいえ21世紀に発展している国家/経済圏が採用しているモデルは、今や全く別物です。しかし沈み行く日本は――相変わらず安い労働力を求め続けるのでしょうか。その国における賃金水準の低さは、海外から見た魅力の低さでもあります。賃金の上がらない国が優秀な人材を外から確保できることはないでしょう。言うまでもなく賃金の上がらない国では消費者の可処分所得も増えませんから内需も増えません。賃金の抑制がもたらすものは、緩やかな死だけです。

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慎重な対応を求めたって……

2018-07-08 22:38:40 | 雇用・経済

「雇い止め」相談2千件増 無期転換ルール影響か(共同通信)

 厚生労働省は27日、2017年度に各地の労働局などに寄せられた民事上の労働相談のうち、「雇い止め」に関する相談が前年度比約2千件増の約1万4400件だったと発表した。

 同省は、有期契約労働者が5年超働けば無期契約に移行できる「無期転換ルール」が今年4月から本格的に始まったため、事前に契約を打ち切るケースがあったとみており、担当者は「ルールを意図的に避ける雇い止めは望ましくない」と、企業に慎重な対応を求めている。

 

 さて無期契約への移行を回避するための雇い止めが発生する可能性は、以前より指摘されてきたことです。「ルールを意図的に避ける雇い止め」は労働相談件数に表れるのに先だって、随所で事例が挙がってきたものでもあります。ただ、この雇い止めが発生したこともさることながら、悪質な法律逃れを規制するための制度がしかるべく用意されていない、という点もまた問われるべきものがあるのではないでしょうか。

 企業に全面的な自由を与えたまま無期雇用への転換ルールを作った場合、多くの企業は抜け穴を探します(それが日本的経営の倫理観ですから)。穴の空いた瓶に水を注いでも、底から抜けてしまうようなものでしょうか。当然ながら、穴をふさぐことも考えなければ片手落ちになってしまいます。しかし、そこまでやる意識が行政には欠けている、というのが実態と言わざるを得ません。

 非正規社員を永遠に非正規のまま使い倒したがっていた人々にとって、無期雇用への転換ルールは悪夢でしかなく、そのルール導入へ反対するための御為ごかしとして頻繁に語られてきたのが「(無期雇用への転換ルールを作ると)非正規雇用の雇い止めが増えるぞ」というものでした。この御為ごかしによって、非正規社員を非正規のまま使い続けたい人々は、あたかも「非正規社員のため」を思う風を装いながら無期雇用への転換ルール策定に反対してきたわけです。

 そこで厚労省の担当者曰く「ルールを意図的に避ける雇い止めは望ましくない」とのことで、「企業に慎重な対応を求めている」そうです。「慎重な対応」って何でしょうね? 昨今は弱腰の大手労組に代わって総理大臣が賃上げ目標を掲げたりもするわけですが、しかるに企業側には応じる義務もなければ、応じなかったことによる罰則も何もないわけです。政府側も「頑張ってます」というアリバイ作りまでは出来るのかも知れませんが――しかし企業に逃げ道を残したままというのが現実です。

 不安定な非正規・有期雇用は当事者の生活上のリスクであるばかりでなく、その多さは日本社会のリスクでもあります。収入が少なかったり不安定であったりする労働者は当然ながら消費に回せるお金も少なく、必然的に消費低迷の要因となり、日本経済衰退の一因とならざるを得ません。そして生活の安定しない人は、望んだとしても家庭を持たず子供も産まない人が多い、日本社会の少子高齢化を進める原因ともなっています。加えて現役時代の収入が少ない人は現行制度上、生存が可能になるレベルの年金を受給できる見込みもありませんので、未来は良くても生活保護受給者の激増、最悪の場合はスラム化でしょうか。

 日本国のことを考えるなら、日本で働く人を豊かにすることが欠かせない、薄給かつ不安定雇用という二重苦の日本式非正規雇用を根絶することは不可避と言えます。そのために有期契約の労働者を無期契約に転換することは当然の施策なのですが、「ルールを意図的に避ける雇い止め」を行う事業者に「慎重な対応を求め」るだけで罰則も何もないのなら、穴の空いた器に貴重な資源を流し込むようなものです。法の趣旨を逸脱したルール逃れを行う事業者に必要なのは、その自由の尊重ではなく、罰ではなのですから。

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そもそも長く働けば成果が出るという考え方が

2018-06-24 23:45:23 | 雇用・経済

 世の中には宗教法人の皮を被った営利組織も多々あろうかと思います。その辺は方々で語られていることでもあるでしょうけれど、反対に「営利企業を装った宗教団体」みたいなのも結構あるのではないか、そんな気もするわけです。看板に宗教を掲げつつも金銭的利益を追い求める経営者がいる一方で、表向きは企業の体でも実は金銭的利益より社員の洗脳にこそ力を入れている――結構ある話ではないでしょうか。

 起業した理由を「金持ちになりたいから」と公言する創業者は少数派です。現実問題として、会社を作って大きくして上場させて株式を売り払って残りの人生は資産家として悠々自適、みたいな人生を送る人を日本で見ることは皆無と言って良いでしょう。ヨソの国ではそう珍しくもないと聞きますが、日本では会社を売るなどとんでもない、儲からなくなっても社長の座にしがみついて自分の城を守ろうとする人の方が普通です。

 教祖が本を出して、それを信者に買わせるのはよくあることです。しかし会社の社長が本を出して、それを社員に買わせているケースも割とあることだったりします。そもそも朝礼や社内行事を通して、創業者や社長の「教え」を社員に唱えさせている会社は多くの日本人にとって経験のあるところでしょう。営利企業たるもの利潤を追求しているかと言えば、その実はトップが自身の信者を増やすことの方に力が入っていることもあるはずです。

 

(永守重信のメディア私評)働き方改革 生産性向上、経営そのものの議論(朝日新聞)

 野党やメディアの一部が批判する「高度プロフェッショナル(高プロ)」のような制度は必要ではないか。当社でも、研究開発や企画、営業などでは休日も仕事に来る社員がいる。成果を出したいからだ。そもそも働くのはなぜだろう。私にとっては、生活の糧を得るためだけでなく、会社を大きくして多くの人を雇うためだ。そのために土日も働いた。人によって違うだろうが、のめり込む人もいる。健康管理は欠かせないが、もっと働きたいという人まで制度でやめさせる必要があるのだろうか。そういう社員まですべて時間制限でがんじがらめにしてしまうと身動きがとれない。

 

 京セラなんかは宗教的風土の強さで名高く「稲森教」などとも呼ばれるわけですが、この引用元の語り手である日本電算の会長の方はどうでしょうか。伝え聞くところによれば、会議は通常業務の終了後、新入社員はトイレ掃除、休暇を取る者は怠惰であると見なされる云々と、悪しき日本企業の典型みたいな王国を作り上げたようでして、過去には「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」と主張して結構な批判を浴びたりもしていました。

 近年は社会情勢の変化もあり、表向きは労働時間の削減に取り組んでいることも伝えられる一方、やはり本音が漏れ出ているところはあるようです。かくして高度プロフェッショナル制度への必要論が語られていますが、結局はそれが永守氏の理想なのでしょう。単に儲かるだけでは満足できず、社員が自身の王国に私生活をなげうって奉仕する、そんな世界を追い求めていると言えます。

 そもそも現行の労働時間規制も普通に過労死が続出するレベルのザル規制です。これほど長く働いてもなお十分な成果を出せないというのであれば、会社の指示が間違っていて無駄な努力をさせているのか本人が無能かのどちらかです。いずれにせよ、労働時間を延ばすことで解決するようなものではありません。今以上に労働時間を延ばすことを望むのは、単に社員の全てを支配したいという経営者の歪んだ欲望を満たそうとするだけではないでしょうか。

 また人間には会社員としての側面以外にも家庭人や市民としての役割があります。会社が自社従業員のリソース全てを占有してしまえば、当然ながら家庭人や市民としての務めは疎かにされざるを得ないでしょう。先日は世界保健機関が、他の日常生活よりもゲームを優先するような状態を「ゲーム障害」と扱うと発表しました。では、現行の過労死ラインを大きく越え、家族や市民としての責務を放り出して会社で働こうとする人は? それでも教祖は、教団の外の人間には理解できない反社会的行為を信者に求めるものです。

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経済誌が覆い隠したがるもの

2018-06-10 23:13:24 | 雇用・経済

48歳「市の臨時職員」、超ブラック労働の深刻(東洋経済)

私はあえて彼に「正論」をぶつけてみた。

――労働組合は基本、組合員の利益のために賃上げや労働環境の改善に取り組む組織である。そして賃上げは本来、働き手が労働組合に入るなどして、自らが要求して勝ち取るものだ。今回、労働組合は自分たちの『取り分』を削り、組合員ではない非正規職員のために賃上げを実現させたのであり、ヨシツグさんは、組合に入って声を上げることもせず、組合費も払わず、利益だけを享受したということになるのではないか――。

 

 さて今回の引用ですが、タイトルだけを見ればブラック労働の実態を伝える記事に見えそうです。しかるに、何分にも経済誌です。所々に怪しい記述が見え隠れしているわけで、とりわけこの産経新聞ばりの「正論」とやらは、らしいと言えばらしいという他ないでしょうか。

 この引用箇所は勤続10年超の「臨時」職員に対するお説教なのですけれど、曰く労働組合とは「組合員の利益のために賃上げや労働環境の改善に取り組む組織」なのだそうです。へー。たぶんまぁ、経済誌的にはそのような「定義」であろうことは私にも分かります。しかし、実在の組合がやっていることとの整合性はどうでしょうかね?

 民進党の下部組織としての活動が中心の組合もあれば、「労働者の代表」として会社側の提案に同意するのが役目の組合もあります。待遇改善を目指して会社との対決を厭わない組合もないことはないかも知れませんが、そういう組合は「連合」から排除されていることもあるでしょう。そもそも、組合があっても賃上げが行われない会社もあれば、組合がなくても賃金が上がる会社もありますし……

 安倍政権がナアナアにしてきた高度プロフェッショナル残業代ゼロ制度を突如として「容認」すると宣言したのは労組の多数派組織である連合トップですし、安倍政権の賃上げ要請に難色を示したのも連合上層部、しばしば安倍政権が掲げた賃上げ目標よりも低い目標額を掲げるのが連合傘下の諸組合だったりもします。連合から排除された少数派組合ならいざ知らず、圧倒的多数派である「普通の」組合がそんなに賃上げや労働環境の改善に取り組んできたとは言えないでしょう。そもそも労組連合を最大の支持母体としていたはずの民主党政権下で、労働者全般の待遇はどうなりましたか?

 この引用箇所の前段では、非正規職員の賃金が幾分か増えたことが伝えられており、それを受けて「労働組合は自分たちの『取り分』を削り、組合員ではない非正規職員のために賃上げを実現させた」などとも書かれているわけです。やはりまぁ、経済誌的にはそういうものなのだろうな、と。経済誌の「お約束」では正社員(正規職員)と非正規雇用の賃金はトレードオフということになっているようですから。

 もちろん現実としては、労働組合(及び正社員)が非正規社員(職員)の給料を払っているわけではありません。非正規職員の賃金が増えても、労組の懐が痛む要素は皆無です。しかし非正規の賃上げには正社員の賃金を抑制することが不可欠なのだと、そう語る経済系の論者は少なくありません。ここに論理的な整合性は微塵もありませんが――非正規への同情論を口実に正社員の賃金カットを正当化したいという欲望を抱いた人が存在していることは理解できます。

 だいたい賃金は労働の対価であり、その昇給を「組合に入って声を上げることもせず、組合費も払わず、利益だけを享受した」などと詰られる謂われはないでしょう。このような暴論が成り立つなら、この数年で賃金が上がった「非自民党支持者」に対して「自民党に投票することもせず、党サポーター費も払わず、利益だけを享受した」みたいな非難だって許されてしまいます。

 また多数派労組の「本音」を最も端的に表していると感じられるのは、自身の勢力拡大に不熱心なところではないでしょうか。これだけ非正規が増えた時代には、当然ながら非正規層を組合に取り込んだ方が組合の収入だって増えます。民進党に捧げたい組織票だってある程度は見込めるでしょう。しかるにユニオンショップよろしく正社員は自動加入、しかし非正規に声は掛けない、それが労組の普通です。何故?

 自身の影響力を強めたい「野心的な」労組であるならば、加入者は増やしたいはずです。非正規社員が「志願して」組合に押しかけてくるのを待つような怠惰はあり得ません。「オルグ」は自分からやるものです。しかし非正規社員を前にした労働組合は彼女いない歴=年齢の中年男性よりもずっと奥手です。待ちの一手で交際相手が見つかることなどあり得ないように、組合員が増えることもありません。しかし、それをどうにかした形跡すらないのが組合の普通なわけです。

 今回の冒頭に引用した「正論」では組合未加入の非正規職員がフリーライダーであるかのごとく非難されていますけれど、強者である組合側の対応に問題はなかったのでしょうか。非正規が組合に入っていないことが悪いのではなく、非正規を取り込もうとしてこなかった多数派組合にこそ、むしろ問題は少なくないように私には思われてなりません。非正規職員個人を「組合に入らない」と詰るより先に、労組に「非正規を誘わない」ことの是非を問うのが先であるように感じられます。

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「評価高い系」と囚人のジレンマ

2018-05-27 21:59:40 | 雇用・経済

 いわゆる「主人のジレンマ」は有名な話ですので今更ともなりますが、モデルケースとして囚人2名が自白を迫られているわけです。

・両方の囚人が共に黙秘を貫けば、証拠不十分なため2名とも懲役1年
・両方の囚人が共に自白すれば、2名とも懲役5年
・片方の囚人が自白して片方の囚人が黙秘した場合、
 自白した囚人は司法取引により釈放、黙秘した囚人は罪を一身に負わされ懲役10年

 ……と。

 この辺はゲーム理論云々とも呼ばれて広く知られるところでもあり、双方の利益のためには共に黙秘した方が良い、ただし個人として最大の利益を得るためには自白した方が良い、しかし両者が揃って自白してしまうと共に黙秘した場合よりも悪い結果に繋がる、そうしたシチュエーションが想定されているのですね。

 囚人のジレンマは色々と応用されるものですが、では会社組織に当てはめて考えてみましょう。「社員が共に協力して仕事をこなせば業績向上」「社員がお互いに足を引っ張り合えば業績低迷」、これは自然な流れです。では「片方の社員が協力して片方の社員が足を引っ張れば」? このパターンは「囚人のジレンマ」で言えば2人合計で懲役10年と、両者が自白した場合と同じですから、お互いに足を引っ張り合った場合と同様に業績低迷であろうとは言えます。しかし個人が得るものは?

 先週は「年功序列ならば有能も無能も等しく出世するが、能力主義は無能を選りすぐって昇進させる」みたいなことを書きました。この辺も、囚人のジレンマのモデルが綺麗に当てはまるような気がします。まぁ営業のように明白な数値が出る職種であればいざ知らず(とはいえ名選手が名監督になるとは限らないように、売れる営業マンが良き管理職になるかと言えば完全にバクチですが)、そうでない部門の人事評価ともなると色々と怪しいものですから。

 社員が共に協力して仕事をこなせば――業績は向上するかも知れませんけれど、これだと社員間の評価には差が付きにくいわけです。同様に社員がお互いに足を引っ張り合えば――業績悪化が予測されますけれど、これもまた社員間の評価には差が付きにくいと言えます。しかるに片方の社員が協力して片方の社員が足を引っ張った場合を想定してみましょう。果たして高い評価を得るのはどちらなのか?

 他人の足を引っ張る同僚と仕事をしていれば、当然ながら自身のパフォーマンスにも悪影響は及びます。逆に協力的な同僚と仕事をしているのなら、自身のパフォーマンスには好ましい影響が期待できます。そこで「足を引っ張る同僚と仕事をしている協力的な従業員」と、「協力的な同僚と仕事をしている足を引っ張る従業員」がいた場合に、個人として高いパフォーマンスを発揮できるのはどちらになるでしょうか?

 もしここで「同僚に足を引っ張られている人」の評価が低くなり、「同僚の協力を得ている人」の評価が高くなるようであれば、昇進するのは即ち「他人の足を引っ張る社員」の方です。囚人のジレンマにおいて自白した囚人が黙秘した囚人よりも相対的に利益を得るように、会社組織においては足を引っ張る社員が協力した社員よりも高い評価を得がちではないでしょうか。かくして他人の足を引っ張る行動特性が称揚され、社員が互いに足を引っ張り合う組織が作り上げられる、そんな会社を何度となく目にしてきました。まぁ人事権を持つ人は、目の付け所が違いますからね……

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