「かわいそうに、本当の○○を食べたことがないんだな」みたいな言い回しがあるわけです。元ネタは漫画の「美味しんぼ」で、連載初期に主人公の山岡が「かわいそうに、貧しい吸い物しか飲んだことないんだな」とか「かわいそうに、本当に旨いおかゆを食べたことがないんでしょう」みたいに言い放っていた辺りですね。連載当初は山岡も雄山も、食の知識は凄いがちょっと頭のおかしい人として描かれていて、それが漫画としてのバランスを取っていておもしろかったようにも思いますが、いつの間にか山岡も雄山も高台の説教者として読者に(原)作者の教えを説くだけの退屈な(かつ内容の誤った)漫画になってしまったのは惜しまれるところでしょうか。
……で、タブレット端末のシェアが拡大する一方で、従来のPCは軒並み売れ行き不振なのだそうです。将来的には主役交代もあるだろうと、まことしやかに語られているところでもあります。どうしたものでしょうかね、この手の機械は好きなので私も安い端末ならタブレットも何枚か買いましたけれど、率直に言って「使っていてイライラする」のがタブレットの特徴のように思えてなりません。ところが、スマホを含めたタブレット端末にかじりついて離れられない人も少なくないと伝えられています。う~ん、PCに関しては間違いなく長時間利用者であろう私からすれば、30分以上タブレット端末を使い続けるなんて拷問だという感じなのですが。
そこで冒頭のフレーズです。「かわいそうに、本当のPCを使ったことがないんだな」と。まぁ人それぞれ好き勝手はあるのでしょうけれど、マトモなPCに触れたことがない人だとタブレット型の端末にも満足できるのかなと思うのです。率直に言ってタブレットの貧弱な入力環境にはストレスが溜まる私ですが、職場の粗悪なキーボードとマウスも使っていてストレスが溜まる――というより指や手首が痛くなってくるわけです。腱鞘炎製造装置みたいなキーボードしか触ったことがない人にとっては、タブレットの入力環境は決して不快なものではないのかも知れないな、と。
そして表示画面にしても、職場のPCのモニタが比較対象だったら、タブレット端末が綺麗に見えてしまう人もいるのだろうなと。画面の上半分とした半分で全く色合いの違う、しばしば何が映っているのかよく分からなくなるような煤けた液晶モニタに比べれば、幅広く流通している大手メーカー製のタブレット端末の方がマトモな表示環境を備えているとは言えます。よく真っ青な画面のスマートフォンと睨めっこしている人もいて、それでブルーライト対策だのなんだのと世間で騒がれているのですから肩をすくめてしまいますが、職場のモニタも工場出荷時の色温度のまま、工場出荷時の輝度MAXのまま使われているケースが多いので、あまり気にされないものなのでしょう。むしろ白が青くない液晶を尿液晶とか呼ぶ人もいるくらいですし。
起動の早さ、というのもどうでしょうか。スマホやタブレットは起動が速い、使いたいときにすぐ使えると言われることも多いです。シャットダウンした状態から起動するまでの時間は、どう計っても私の自宅のPCの方が手持ちのどのタブレット端末よりも早いのですが、例によって会社のPCは圧倒的に遅いです。その辺はハードの構成やセキュリティソフトの選定に問題があるというのはさておき、毎回シャットダウンされるPCと、スリープ機能を使ってもらえる端末との違いもあるはずです。WindowsでもVISTA以降は概ねスリープ機能が実用的な水準に達しており、わざわざシャットダウンしないでも済むように作られているにもかかわらず、あまり使われていません。スリープからの復帰なら性能の低いPCでもタブレット端末に大きく後れを取ることはないはずですが、その機能を「使ってもらえていない」のは何とも。
レガシーを切り捨てられるか、と言うのは大きいですよね。PC環境ではWindowsXPというレガシーOSが奇妙な神格化の対象となっていると言いますか、これが進化の足枷になっているところもあるかと。一方でタブレット端末は旧世代の遺物にしがみつきたがるユーザーが少ないのか、新しいものがすんなりと受け入れられているように見えます。WindowsXPですとスリープ機能が不安定で使いにくい、毎回シャットダウンをせざるを得ないから起動が遅いと言えなくもありませんが――シャットダウンしない運用を念頭に置いて開発されたはずの後継OSでもユーザーの使い方はどうなんでしょう。タブレットやスマホでは当たり前に使われる機能がPCではユーザーから無視されているのは不条理でもあります。
私の勤務先でも管理職以上にはiPadが配布されたりしまして、まぁ流行に乗り遅れるなということなのでしょうけれど、その金でマトモなPCとマトモなモニタとマトモなキーボードを買ってくれたら、もうちょっと仕事も捗るのにと思ったものです。でも、安いだけの粗悪なPC環境で仕事が滞っても上の人は気にしないもの、流行のファッションアイテムを社員に持たせることの方に満足感を覚えるのが偉い人というものなのかも知れません。タブレットやスマホと同じくらい金をかけることがPCにも許されていれば、もうちょっとPC人気は高かっただろうと、タブレットが流行ることもなかっただろうなと10年くらい前に秋葉原の会社でタブレットPCを売ったりもしていた私は思うのでした。その当時に比べて使い勝手が向上したようには全く見えないですし。
気になるのはPCとタブレットで歩調が合っていないこと、それぞれ別の方向に向かっていることですね。ひたすら解像度を上げまくるのがタブレット端末のトレンドと言えますが、まぁ在りし日のCPUクロック競争を彷彿とさせるところ、とにかく数値を増やしていって箔を付ける路線が続いている中でタブレットの表示面積は増やせない(増やしたら持ち歩けなくなっちゃいますから仕方がありません)、それでも解像度ばっかり上がり続けるわけで、PC向けにデザインされたコンテンツとの互換性が気になってきます。まぁPCと違ってタブレット端末ではブラウザの拡大機能も使ってもらえるようですので当面は目立つことがないのかも知れませんが、スマートフォンでの閲覧に最適化するかのようにデザイン(レイアウト)をリニューアルするサイトも昨今は少なくありません。逆にPCからは見づらいデザインに「改悪」されてしまうこともしばしばです。まぁ、そういうものなんでしょう。