外国人労働者、陰る日本の魅力 韓国・台湾と争奪(日本経済新聞)
外国人労働者の「日本離れ」が静かに進んでいる。韓国や台湾などが受け入れを進め、獲得競争が激しくなっているためだ。日本で働く魅力だった給与などの待遇面も、差は急速に縮まる。日本の外国人労働者は今年中に100万人の大台を突破する見通しだが、今後、より一層の受け入れ拡大にカジを切っても外国人が来てくれない懸念が強まってきた。(奥田宏二)
「月給30万円なんて出せない」。東京・赤坂にある老舗の中国料理店の店主は嘆く。アルバイトを募集したところ、それまでの2倍の給料を中国出身の若者に要求された。これまでの給料だと「中国で働くのと変わらない」と相手にされない。店主は「年中無休」の看板を下ろし、店も早く閉めるようになった。
上海市の平均月収は2014年の統計でも5451元(約9万円)に達し、その後も上昇を続ける。アジア域内での経済力の盛衰は労働人口の減少に悩む日本の地方にも及ぶ。
外国人労働者のうち中国人が7割を超えていた愛媛県。同県中小企業団体中央会は今年1月、ミャンマー政府と技能実習生の受け入れ協定を結んだ。愛媛県の最低賃金でフルタイムで働いた場合の月収は約11万円で中国の都市部と大差ない。中央会の担当者は「日本に来るメリットがなくなっている」と分析する。
(中略)
技能実習生として、縫製工場で働く20代のベトナム人女性は言葉少なだった。残業代は最低賃金の半分以下しかもらっていない。労働契約の中身も「知らない」ので、そうした待遇が違法かどうかもわからない。出国するために100万円以上を支払っており「働き続けるしかない」。
潜在成長力低下を補うための移民受け入れ論もくすぶるが「日本は海外から見たときの魅力がなくなっている」(日本総研の山田久チーフエコノミスト)のが実情だ。
ちょっと引用が長くなりましたが、要するに日本の賃金水準はアジア諸国から見て魅力的なものではなくなってきているわけです。「賃金を引き上がれば失業が増える」という実体を伴わない空理空論が支配的な我が国の経済界では、専ら利益の最大化よりも働く人の取り分の最小化を追求しているかのような動きも目立つところですが、その結果はどうしたものでしょうか。日本の会社は狙い通りに人件費の抑制にこそ成功している一方で、世界経済に占める日本の地位は着々と低下を続けてもいます。
僅かに景気が上向くように見えても専ら非正規の求人ばかりが増える、賃上げ幅が微増したかに見えても非正規率の高さで労働者全体の平均賃金は必ずしも上がらなかったりするなど、とにかく日本は給料の上がらない「人を安く雇える国」へと突き進んでいるわけです。プランテーション経営でもやるなら、それは目的に適った変化と言えるのかも知れませんけれど、上述の「世界経済に占める日本の地位」を鑑みれば、やはり日本経済は全体としてグローバル時代には通用しないやり方を追い求めているとしか言いようがありませんね。
結局のところ「低い賃金水準こそが日本経済のリスク」にすらなっているのかも知れません。本当の意味で日本が労働力不足になるには相当な長い年月を要するように思われるところですが、いざ労働力不足が現実のものになったとき「日本は海外から見たときの魅力がなくなっている」のですから。今は現地の親日派ブローカーと組んで中国農村部の人やヴェトナム人を騙しては実習生に仕立て上げるなどしているわけですけれど、そうしたブローカーだって「韓国や中国都市部に売った方が儲かる」と判断するようにもなることでしょう。
以前に介護現場へのロボット導入の話を書いたりもしましたが、「ロボットが高い=人にやらせた方が安い」ために導入が進んでいないという実態があります。ここで日本とは違って人件費の高騰する国であれば、いずれはロボットの方が安くなる、好むと好まざると機械化を進めるというイノベーションにも繋がるわけです。逆に賃金の抑制が容易で、非正規化を進めることでさらなる人件費カットが可能な日本では、ロボットを導入するのではなく給料をカットする、安い外国人を買ってくることの方が解決策になってしまいます。「人を安く働かせれば済む」国では、イノベーションは阻害されるのです。
現政権下ではことあるごとに、政府が財界に賃上げを要請しています。その辺、何もしなかった前政権よりはマシ、特定政党への支援しか頭にない大手労組よりはマシではあるのでしょう。しかし、口先だけの賃上げ要請がもたらしたのは、「お茶を濁す」レベルの微々たるものでしかありません。確かに個々の企業からすれば、自社の賃金を低く押さえ込んでおくことこそが利益の元であり、株主への説明も付きやすいものなのかも知れません。とはいえ、社会全体で賃金が低いまま据え置かれれば個人消費は冷え込み、それが経済成長を押しとどめる要因ともなっているわけです。もうちょっと政府を危機感を持って、企業に対して強い姿勢を見せるべき段階に来ているのではないでしょうかね。