凧が高く舞い上がるには向かい風があった方が良いわけですが、政党にとってはどうなのでしょう。しばしば世論調査で内閣支持の理由として「他の内閣よりも良さそうだから」みたいな理由が挙がります。これは当然ながら、独裁国家では成立し得ない支持理由です。しかし我が国には、政府与党を「他よりも良さそう」と思わせるだけのものが存在していると言えます。自民党側にも色々とダメな点がある一方で、それを批判する側の主張、行動に「輪をかけてダメ」なものが目立つ、結果として「他の内閣よりも良さそうだから」と安倍内閣が一定の支持率をキープできている側面は否定できないはずです。ことによると野党が何も言わずに黙っていた方が、内閣支持率は下がっていたかも知れませんね。
民主党の枝野幹事長は25日の記者会見で、安倍首相が最低賃金の全国平均を1000円(時給)とする目標を表明したことについて、「民主党政権で定めた目標そのものだ。民主党の経済運営は正しかったと明言してもらいたい」と批判した。
民主党は鳩山首相時代の2010年6月、当時713円だった最低賃金の全国平均を20年までに1000円に引き上げる目標を決定した。これに対し、自民党の石破政調会長(当時)が10年10月の衆院予算委員会で、企業側の負担増を念頭に「アンチビジネス的政策はやめてもらいたい」と指摘していた。
枝野氏は記者会見で「どういう理由から(自民党は)方針を転換したのか、説明してもらわないといけない。反対のための反対だ」と強調した。
確かに、石破は間違っている、安倍内閣も経済最優先などと掲げつつ、この石破の他にも河野太郎など経済優先とは矛盾した閣僚起用は目立ちますが、しかしこの枝野発言もどうしたものでしょう。ここでセットで考えられるべきは「目標の表明」と「結果」と言えます。つまり「目標の表明」は同じでも「達成できたか」「実行しようとしたか」もまた併せて判断されなければなりません。そして民主党の場合は純粋に目標の表明だけで、実現に向けて着手することはありませんでした。結果は言わずもがな、ですね。
この先の展開次第で、自民党が民主党と同じように目標を表明するだけで実行はしないで終わるのか、それとも「民主とは違う」ところを見せてくれるのか、評価は分かれることでしょう。どのみち日本の低い賃金水準が日本国内で働く人を貧しくしてきた、ひいては日本市場の購買力を損ない日本経済の成長に枷を嵌めてきたわけです。経済成長のために大幅な賃上げは不可欠と言えます。そこで自民党が民主党的な中身のないパフォーマンスを繰り返せば、その時こそ強い批判を浴びて然るべきとは言えます。しかし、この目標の設定自体は間違っていない、そこに噛みつく枝野及び民主党の振る舞いはまさに「反対のための反対」として唾棄されるべきものです。
1票格差違憲状態:各政党バラバラの主張 合意は至難の業(毎日新聞)
民主党の枝野幸男幹事長は25日の記者会見で「本気で自民党として定数削減に踏み込むことを明確にしてもらいたい」と求めた。同日に発表した談話では、1票の格差是正と議員定数削減の早期成立について「2012年11月の党首討論で、当時の野田佳彦首相と安倍晋三自民党総裁が国民の前で交わした約束だ」と指摘。「安倍首相は約束をほごにし続け、リーダーシップ、責任感はまったく見いだすことはできない」と断罪した。
社民党の吉川元幹事長代行も談話で「『違憲状態』を放置することは『立憲主義』の否定だ」などと批判した。
しかし、各党の主張はバラバラだ。民主党は小選挙区で15削減するほか、比例代表の削減を検討するとし、維新の党は「身を切る改革の一環として、定数の3割削減を」と訴えている。その一方で、共産、社民両党は「日本の議員数は国際的にも少ない」として定数削減を否定する。共産党の穀田恵二国対委員長は、小選挙区制度について「議席に反映しない『死票』は過半数に上る。国民主権・民主主義の根幹を破壊するもので、『1票の格差』を根本的に是正することは不可能だ」とコメントし、小選挙区の廃止を主張した。
この「意票の格差」問題も然りで、格差是正を建前に議員定数の削減を求める民主党や維新は最悪、それに比べれば受け身に回るばかりの自民党は「まだマシ」と言えそうです。共産、社民両党が言ったと伝えられるように「日本の議員数は国際的にも少ない」のも厳然たる事実ですし、格差是正の名目で議席=選挙区の代表を減らされるのは専ら「有権者(人口)減少が続く弱い地方」でもあります。過疎化の進む弱い地方の議席を減らそうというのも弱者切り捨ての一貫と受け止められるべきでしょう。都市部でしか勝てない、都市住民のための政党にとっては好都合な話なのかも知れませんが!
そもそも議員とは国民の代表であって、それを削減するのは国民から代表者を議会に送り込む権利を奪うことです。決して政党側が「身を切る」ような行為ではありません。民主や維新は議席とは自らに与えられた特権と理解しているのかも知れませんが、それは両党が民主主義を理解していないだけと言われるべきものです。議席を減らすことが「改革」に思えてしまうような政党は、代議制の意味するところを理解していない、そんな政党に議席など一つも持って欲しくない、と私は思いますね。
なお共産、社民は定数削減に反対する以上、「一票の格差是正」にも反対すべきではなかったでしょうか。例えば医療関係者(歯科医は除く?)の多くは混合診療の解禁に強く反対しています。しかし、混合診療そのものに否定的なのかというと話は単純ではなく、混合診療の解禁によって確実に起こるであろう保険医療の縮小に反対している、そうした立ち位置の人が大半であるわけです。単に保険医療を守れと主張するのではなく、それを浸食するであろう混合診療の解禁にも反対している、そういう医療関係者が多いのですね。
議席の削減を巡る問題も然り、一票の格差是正などと言い出したら必然的に議席が減らされる、とりわけ人口の減少が止まらない「弱い地域」が代表を国会に送り込む権利が減らされるのは誰にでも容易に予想できるはずです。弱い地域の権利などどんどん切り捨ててしまえと、そう説く強者の党が一票の格差是正を叫ぶなら、賛成はできませんが筋は通ります。しかし議席を減らすなと言いながら一票の格差是正には反対しないのは、随分と間抜けな振る舞いではないでしょうか。保険診療を拡充せよと唱えながら混合診療の解禁には何も言わずに頷いている――共産党と社民党の態度は、そういうものにしか見えません。