判決前の強制送還に「遺憾」=異例の苦言-中国人女性の不法就労訴訟・東京地裁 (時事通信)
不法就労していたとして東京入国管理局に摘発された中国人女性(28)が強制収容の差し止めを求めた訴訟の判決が28日、東京地裁であった。定塚誠裁判長は不法就労には当たらず、収容令書の発付を違法と認定した。しかし、女性は判決期日指定後に強制退去させられたため、訴え自体は却下。裁判長は「違法な手続きで、遺憾」と異例の苦言を呈した。
裁判長は「遺憾」と、今や重みのない言葉で苦言を呈したようですが、今回の件、非常に重大ではないでしょうか。何しろ裁判がまだ終わっていない、違法なのか合法なのかが争われている段階での執行です。司法の判断を待たずして強制送還が実行に移されたというのは何とも信じられません。しかも司法の判断は「不法就労には当たらず」と、本来であれば強制送還されるべきでなかったわけです。
ちょっと大袈裟に喩えて言いますが、裁判所で係争中の被告を、司法の判断を待たずに死刑執行してしまったとしたらどうでしょうか? 実際にはことが大きくなれば執行する側ももう少し慎重になるものですが、根本的な考え方は同じです。司法の判断を待たずに、勝手に刑を執行してしまう、極めて危険な行為であり、上記裁判長の言うとおり疑いの余地のない「違法な手続き」なのです。
確かに日本の司法は、上に行けば行くほど憲法判断を避け、法と行政が対立した場合は行政を優先するなど司法の独立を自ら放棄してきた傾向があります。とは言え、司法がまだ判断を下していない事柄に対して、入国管理局が勝手な判断で身柄を拘束して強制送還したのは一体どういうことでしょうか。
これはそう、日本においては公正なジャッジが存在しない、第三者によって予め定められた法に基づいて裁かれるのではなく、現場が司法の判断を無視して何らかの刑を執行する、そういう有様を示しています。それはもはや法治国家ではありません。
今回の件は司法がシロと判断した人を、その司法の判断を待たずに強制送還したもの、言わば冤罪のごときもので、日本の法律上の罪がない人を誤って罰した訳でもあります。このこと事態が恥じるべきですが、仮に司法の判断がクロであったとしても、ことの深刻さに変わりはありません。人を取り締まる権力が与えられるのは法的な正しさに依拠しているからであって、法を飛び越え司法による統制を無視して行われるならば、それは治安維持や取り締まりといったものではなく、弾圧や抑圧と呼ばれるべきものなのです。