世代間格差ってのは色々とありますが、自国(日本)の評価に関しても、世代によって結構な違いがあるんじゃないかな、と感じることがあります。スマートフォン世代は割と日本を客観的に見られている人が多くて、日本企業の惨状を「残念でもないし当然」と受け止めている人が多い、しかし老害の域に片足を突っ込んだ氷河期世代以上ともなると、「技術は日本の方が優れている」というノスタルジーを引きずっている人が多い、そんな印象があります。まぁ、純然たる印象論ですが。
確かに四半世紀あまりを遡れば、日本が世界の最先端に立っていた時期もありました。まぁ、ずっと昔の話ですから当時はまだ生まれていなかった人だって多いことでしょう。しかし日本が輝いていた時代で時計の針が止まっている人も多く、そうした人の誤った現状認識の元で日本経済は動かされてきた、結果として今に至ると言えます。つまりは、技術は優れているのに人件費の安い国に押されているとの勘違いから人件費抑制に全力を注いできたわけです。
なんでも半導体メーカーの売上高でサムスン電子がインテルを抜いたそうですが、この長年の王者だったインテル台頭以前の「世界一の半導体メーカー」はと言えば、我らが日本のNECでした。昔の光今いずこ、NECは度重なるリストラにもかかわらず凋落を続けています。日本企業の考える悪玉であるはずの人件費を削っても削っても、何も良くなりません。シャープみたいに中国企業に買われればリストラしなくてもV字回復しそうな気もしますが……
24キロ完歩研修「無理がある」 福岡の会社に賠償命令(朝日新聞)
太陽光発電システムの販売をするサニックス(福岡市)の入社時の研修で24キロ歩かされたことで足に障害を負ったとして、元社員の男性(52)=広島県福山市=が同社に損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、広島地裁福山支部であった。金光(かねみつ)秀明裁判官は研修と障害の因果関係を認め、1592万円の賠償を命じた。
男性は2013年8月に入社。福岡県宗像(むなかた)市での研修で、24キロを5時間以内で歩くプログラムに臨み、4時間51分で歩ききった。その後病院で右足関節離断性骨軟骨炎などと診断され、足の一部の関節の可動範囲が狭まるなど両足に障害が残ったという。当時身長171センチ、体重101キロ。事前の訓練で足の痛みを訴えたが、「完歩しないと正社員にはなれない」と言われたと主張していた。
判決は、足の障害は研修によるものと認定。「参加者の個人差や運動経験に配慮していない点で、無理があるプログラム」と指摘し、事前の訓練で痛みを訴えたのに中断させず、医師の診察も受けさせなかったことは安全配慮義務違反にあたるとした。
判決では「無理があるプログラム」とのことですけれど、それ以前に業務と関連性のない行為の強要として捉えられるべきではないかと思います。太陽光発電システムの販売をする会社とのことですから、客に嘘を吐く練習をさせるならまだしも、なぜ24キロを5時間以内で歩く必要があるのでしょうね。24キロを5時間以内で歩くことで太陽光発電システムが売れるようになるとは、とうてい考えられません。
問題はこうした「研修」が有意義なものであると、日本の会社の経営層に認識されていることだと言えます。この裁判に発展した類いでなくとも、日本の社員研修先としては「自衛隊」が高い人気だったりするわけです。自衛隊に体験入隊させて訓練を受けさせることで、会社に利益がもたらされると日本の会社の経営者は信じているのです。他にも、研修と称して穴を掘らせるとか無人島生活をさせるとかカルト宗教の真似事をさせるとか、色々とあります。いずれも、会社の経営層が「必要だ」と判断しているからこそ継続されているはずですが、結果はどうしたものでしょう。
結局のところ人を育てないと国が栄えることはありません。そして会社の発展にも当然ながら、人の成長が必要です。では日本の企業は人を使い捨てにするばかりで人を育てようとしていないのかと言えば――人を育てるのに熱心な「つもり」の会社がきわめて多いのではないでしょうか。私の今の勤務先でも、研修の機会は多いです。研修の機会は多いですが――仕事で必要になる知識や技術を教わったことは一度もありません。
日本の会社は世間で考えられているよりもずっと「人を育てる」意識は高いけれど、間違った認識に基づいて無駄な労力を費やしているばかり、というのが客観的評価になろうかと思います。日本の経営者がよかれと思って下した決断は、万人を不幸にするばかりなのですから。いい加減に日本という国の遅れを自覚して、大陸から進んだ資本主義の考え方を学ぶ姿勢を持った方が良い、経営陣には渡来人を招聘した方が良いのではないか、そんな気すらしてきますね。