さる1月23日、中国では武漢市が封鎖されました。中国政府の対応の遅さは今なお世界中から非難されていますが、この時点で中国全土の感染者数は571人、死亡者数は17人とされています。一方日本では4月7日に非常事態宣言が発令されたわけですが、この時点で日本国内の感染者数は3,817人、死亡者数は80人だそうです。
なお東京都内だけでも4月7日時点の感染者数は1,203人、死亡者数は31人と伝えられています。非常事態宣言の発令が遅いという声もあれば、少数ながら早いという意見もありますけれど、客観的事実として「他国をとやかく言えるレベルではない」のは間違いありません。今なお非難されている中国政府の対応も、諸外国のそれに比べると……
都市の封鎖や緊急事態宣言は経済活動に悪影響を及ぼしますので、それを躊躇うのは理解できるところです。その辺の葛藤は、当然ながら中国政府にもあったことでしょう。他人事なら「(お前の国の経済なんて知ったことじゃないんだから)さっさと封鎖でも何でもして対応しろ」ということになりますが、自国の問題ともなれば決断は容易ではないですから。
もっとも中国よりも初動が遅いとすら言える我が国も世界的にはマシな方で、欧米諸国は輪をかけて感染拡大が続いており、対応の失敗が目立つところです。中国のような思い切った封鎖措置や監視体制が取りにくいのもあるでしょうけれど、問題を中国のせいにするばかりで、何処の国にも及ぶ問題であると認識できていなかったのかも知れません。
ただ日本では、さいたま市の保健所長が「病院があふれるのが嫌で(検査対象の選定を)厳しめにやっていた」と明言するなど、感染者の検査に著しく消極的な対応を続けています。これは医療キャパとのバランスを取るという意味では仕方がないところである反面、実際の感染者数を把握するという意味では、中国以上に信頼が置けない事態を招いていると言えます。
ちょっと熱が出る、咳が続く、味覚がおかしいぐらいでは、我が国で新型コロナウィルスに感染しているかどうかの検査を受けることはできません。症状の重くない感染者は、統計に表れることのないまま市中で普通に生活しているわけです。そしてウチの会社では4月1日は一斉出社、恒例のシャッフル人事で社員を東京から地方へ、地方から東京へと大移動させました。その辺の「成果」が先週辺りの感染者数に反映されているように思います。
トランプ氏、WHOへ拠出金を停止 「過ちで多くの死」(朝日新聞)
トランプ氏は先週、WHOの対応について、「中国中心だ」と強く非難し、拠出金の停止を警告していた。米国が1月に中国からの渡航制限を実施した際、WHOが懸念を示したことを理由に挙げた。「米国は中国の10倍以上の拠出金を払っているのにWHOは『中国中心』だ。米国人にとって不公平だ」などと強い不満を示していた。
感染症対策が一定の成果を上げている韓国では先日の選挙で与党が勝利しましたが、今や世界最悪の感染拡大国となったアメリカでは、他人のせいにすることで事態を乗り切ることに力を入れているようです。新型ウィルスの感染力や危険性が未知数な時点で対応を迫られた中国政府やWHOには同情の余地もある反面、先例に恵まれながらも有効な手を打つことができなかったトランプ政権としては、これが唯一の選択肢なのでしょう。
中国もWHOも後から振り返れば、対応を誤ったところは少なくありません。しかし真っ先に対応を迫られた中国・WHOとは異なり、中国での流行の後から対応することになったアメリカは、もう少し改善された対処ができてしかるべきだったと言えます。しかしアメリカの問題点と言える医療リソースの著しい偏りは、社会の欠陥ではなく理想の姿として追い求められてきたものでもあります。この神聖な自己責任社会を守るためには、ウィルスではなく中国やWHOと戦うことだけが、トランプ政権及び支持層の取り得る道になってしまうのですね。
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先週は、テレワーク導入を前に自宅にネットワーク環境を持たない社員が多いという話を書きました。「古い」生活を続けている人もいれば、スマホ専門でパソコンなんて就職して始めて触るような人も、今時は珍しくないわけです。ただ同情すべきケースとして、「4月から転勤で東京に来たが、新居に回線を引くまで1ヶ月かかる」というような人も結構いました。
「正社員?て、転勤させなきゃ(使命感)」というのは日本企業の共通認識と言えますが、今年は日本全国への感染者の拡大と、ついでにテレワーク環境への未対応者を増やす結果になりました。テレワークが拡大すれば、そんなに地方から地方へと人を移動させる必要性があったのかと、疑問も浮かんでくることでしょう。この状況でもシャッフル人事を続ける組織は、世界ではなく「世界観」を守るために戦うトランプ支持層と似たような志向を持っている気がしますね。