非国民通信

ノーモア・コイズミ

一周遅れどころじゃない

2010-12-11 22:36:25 | ニュース

デフレの賞味期限(朝日新聞)

 デフレ回避と雇用の拡大をうたった米国のQE2(量的緩和第2弾)が、内外で批判の対象になっている。先に韓国・慶州で開かれた20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議では、米国のQE2に対して、その影響を受ける周辺国からあからさまな批判が出た。あたかも、米国ガリバーの手足を小人たちがひもで結びつける形だが、これは戦後65年の中でも初めての事態だ。新興国には米国からあふれ出たドルが大量に流入し、インフレやバブルを起こすようになっているためだ。

 中でも既に食料品価格が大幅に上昇している中国は、利上げをすれば一層元高になり、さりとて下落リスクの大きいドルを買って介入するわけにもいかない。結局米国の思惑通り人民元の上昇を容認せざるを得なくなる。

 米国内でも共和党議員などから強い反発が見られる。特に、構造的な失業問題を、国債の買い入れ、流動性の追加で対処しようとすれば、大幅なインフレという犠牲を払うことになり、国民は耐えられないとする。

 片や日本では一周遅れの議論がなされる。みんなの党は日銀法を改正し、物価目標を政府が決め、デフレの抑制を通じて雇用の拡大を図るよう日銀の責任を追加させると言う。

 しかし、日本の消費者物価は最近5年でも、15年でみてもほとんど横ばいで、日本はデフレもインフレもない、世界にも例を見ない超物価安定国だ。それをあえてインフレに誘導すれば、所得分配や資源配分にゆがみが生じる。

 米国も日本も、デフレという言葉は既に賞味期限切れの感があるが、それでもデフレを盾に異常なまでの量的緩和を進める。国民生活よりも当局の論理が先行しすぎていないだろうか。

 朝日新聞も特に経済に関しては本当に酷い記事が多いですが、これなど週刊ダイヤモンドのコラムかと見紛うほどのバカ記事と言えるでしょう。まぁ、ある意味で日本的な経済感覚のエッセンスが詰まっているところもあるのかも知れません。相も変わらずインフレこそ悪だ、バブルこそ悪だと説くわけです。こうした日本的経済感覚に僅かなりとも合理性があるのなら、いかなる犠牲をも厭わずインフレ及びバブルを回避してきた日本こそが世界経済の中で浮上しているはずですが、言うまでもなく現実は全くの正反対です。インフレとバブルを敵視してきた日本こそが、20年近くにわたって一貫した凋落を続け、金融不安の中でも最大級の被害を被ったのは記憶に新しいところ、いい加減に誤りを自覚すべき時ではないでしょうかね。

 ここでの論者は「デフレを盾に」した量的緩和が誤りと説いており、それを「賞味期限切れ」と言いたいようです。しかし「バブルとインフレを盾に」異常な引き締め政策で国内経済を壊滅的な状態に陥らせたロジックこそ、そろそろ賞味期限切れと見なされるべきもののはずです。「日本では一周遅れの議論がなされる」と、これに関しては完全に同意するところですが、その「一周遅れ」の例として持ち出されたのはみんなの党のインフレターゲット論です。この辺はみんなの党の政策の中では例外的にマトモな部分であるように思えるのですが、マトモな部分こそ経済人の厭うところなのでしょう。その一方で、同党の唱える雇用破壊や官僚憎悪には喝采を送っているとしたらいい笑いものです。

 「日本は~超物価安定国だ。それをあえてインフレに誘導すれば、所得分配や資源配分にゆがみが生じる」と論者は断言していますけれど、いかに経済枠であっても嘘はよくありません。賃金と物価が緩やかに上昇する世界の水準からすれば日本は他に例を見ない異常なデフレ国家ですし、世界との比較を差し引いても給与所得は下がり続けるばかりです。しかも所得分配の格差は広がるばかりでもあります。インフレで所得分配にゆがみが生じると引用元では説かれていますが、朝日新聞ルールでは「超物価安定」とされるデフレの元でも失業や貧困の問題は深刻化するばかりのはずです。もしかしてこの論者は、今の日本における格差の拡大と固定化を正常な状態と考え、それが経済成長によって縮小されることを「ゆがみ」だとでも言いたいのでしょうか。

 まぁ、一周遅れは経済分野だけではないのかも知れません。政治だってどれほどのものでしょう、小泉内閣は官僚否定でもある「官邸主導」を、古い自民党からの脱却として「自民党をぶっ壊す」をスローガンに支持を集めました。その小泉の構造改革路線が行き詰まり、変化が期待されたときに台頭してきたのは? 新たに支持を集めた政党が掲げたのは「脱・官邸主導」ではなく小泉と同様の官僚否定であり、否定した対象もまた小泉時代に引き続き「古い自民党」であって小泉以後の「新しい自民党」ではなかったはずです。要するに日本の有権者がNOを突きつけた相手は小泉台頭前夜も政権交代前夜も同じ、日本の有権者は10数年前と同じものを敵視し続けてきたのです。

 経済分野もしかり。この10数年来、一貫して否定と反省の対象であり続けてきたのはバブルとインフレでした。政権交代前夜も今もなお小泉内閣発足前夜と同じものを敵視しているの政治分野と同様に、バブル崩壊後の経済運営にではなく絶えて久しいバブルとインフレをこそ絶対悪として呪詛の声を送っているのが日本の経済感覚と言えます。バブル以後の低成長や格差拡大を招いた引き締め路線、デフレ路線の誤りではなく、一貫してバブルとインフレへの警鐘を鳴らし続ける、この進歩の欠落こそ、まさしく日本の経済を象徴するものです。

日航再建、難題抱え離陸 整理解雇も融資条件も(朝日新聞)

 日航を当面支える姿勢を示した主力行にも「資金繰りの心配が薄れると、リストラが緩む」との警戒感が根強い。11年3月の新規融資の条件交渉には厳しい態度で臨む構えだ。生え抜きの大西社長の交代を求める声も出ている。

 「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」とは小泉純一郎の弁ですが、ここで報じられた主力行の発言も根っこは同じようです。景気よりも改革が、資金繰りよりもリストラが目的となっていることがわかります。この辺でも取り上げましたが、現代の日本的経営においては経営側が労働者を「敵」と見なす傾向も強く、いかに労働側を弱めるかに粉骨砕身しているところもあるのでしょう。その行き着く先として、売上を減らしてもコストカットで増益みたいな会社が続出するわけです。しかし、働く人の取り分を減らすことで会社の利益を確保する、すなわち働く人を置き去りにして顧みない考え方は、もはや一周遅れでは済まされないところに来ているように思えます。

 モノを作って海外に売って儲けようという製造業原理主義のビジネスモデルは新興国にこそふさわしいものです。しかるに日本は先進国の仲間入りを果たしながら、あくまで製造業第一とばかりに新興国型のビジネスモデルにしがみつこうとしたのもまた一周遅れと言えます。そして新興国型のビジネスモデルを維持するために新興国とコストで張り合おうとした結果が今です。トヨタもキヤノンも創業当時とは全く異なるビジネスで大きくなったはずですけれど、たぶん現代の日本的経済観の元では、そうした変化は拒絶されてしまうのでしょう。時代に合わせて産業構造を変えていくよりも、従来の産業構造を維持するために従業員に無理をさせる、働く人の取り分を減らすわけです。決して進歩しようとしない、成長しようとしないのが日本経済なのだと言うほかありません。

 

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聞いて (悔御印)
2010-12-14 03:04:21
どこまで中年男性を侮辱するんだろ?北海道新聞11月24日の記事
介護就職中年男性に壁
資格取ったのに
事業者、女性や経験者希望。介護現場っ再就職を目指す中年男性が、厳しい現実に直面‥就職難の中でも介護は人手不足と‥現場でほしいのは経験者女性‥
政府は成長分野と‥失業訓練支援に力‥‥壁に直面する求就者から実際の雇用につながる対策を‥。
11月札幌‥で開かれた介護看護人材合同面接会‥‥介護面接ブースに中高年の列‥‥

就職訓練でヘルパー二級‥‥のに就職できないだ‥五十男性悔しげに‥リストラ二年間介護中心に40社の就職試験‥大半書類審査さえ×

二年間百社

介護中心百社を受けた男性40代も
面接では女性‥経験者‥人間性で選んでほしいのに‥
ヘルパー二級講座人気。
介護関連の資格とり就労を‥中高男性増えて‥
大手介護‥ニチイヘルパー二級受講者3割以上中高年男性‥‥

特養面接試験‥半数中高年男性‥‥
だが施設幹部‥‥‥未経験でヘルパー‥中年男性の採用は‥‥‥

経営厳しい中即戦力にならない人材の採用は‥‥‥

黒松内町の黒松内つくし園事務局長は‥現場では同性介護が基本『嘘』利用者は男性より平気‥‥女性の割合高い‥入浴トイレ介助で男性に体触られるの嫌がる人も‥説明。
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とうとう出ました。 (最下層公務員)
2010-12-14 23:27:47
企業減税だそうです。
管理人さんは、とうの昔にこの国の向かっている方向が分かってたんですね。
私あたりは、ここ等を読ませて貰ってようやくこの政策が何をもたらすか最近になって理解できた次第です。
何か決定的なものが出て来た気がしてます。

それでも尚、国民の多くは他人の賃金が下がる事に至上の喜びを感じている有様ですからね。
こうなると、ネトウヨの無条件での日本への絶対視が出来る精神構造が羨ましく思えます。彼等はある意味幸せです。
なんて下らない事言ってる場合じゃないですね。失礼しました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-12-15 00:04:25
>悔御印さん

 とりわけ最近は公務員叩きから中高年叩きにシフトする気配もありますから、なおさら状況は悪くなるばかりですよね……

>最下層公務員さん

 仮に企業が得られた利益を新たな雇用や国内投資に回すのであれば経済政策としての意味もあるんでしょうけれど、今や内部留保、それも現金預金を積み増すばかりで有り余る金を眠らせている企業ばっかりなんですよね。そういう状況で法人税減税となると、なおさら貯め込まれるだけで使われない金が増える、経済的にはマイナスでしかないのですが――それでも会社の取り分を増やしてやろうというのですから、これはもはや政界から財界への利益供与に等しいところです。
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それにつけても (最下層公務員)
2010-12-15 22:55:26
独りファシズムさんの所も時々読ませて貰ってます。
小泉改革の結果、アメリカ型の経営、つまり短期での収益を求められる事になってしまっている為に資産の売却や賃金カット、首切りに走ったと言う様な事が説明されています。
もしかしたら、財界の中に少なからずこのままではこの国がダメになると感じてる人もいるのではと思えます。
しかし、大河の流れには逆らえずにいるかもしれない。
これを止めるのが政治の役割だと思うのですが、現、前政権を見るにつけ絶望的です。
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