非国民通信

ノーモア・コイズミ

下流マーケティングを捨てよ!(ついでにコンサルも捨てろ)

2010-08-26 23:00:42 | ニュース

中流マーケティングを捨てよ!
“下流が主流”の時代のビジネスのあり方(日経ビジネスONLINE)

 今ではほとんど耳にしなくなった「1億総中流」という言葉は、日本市場の特徴をよく言い当てていた。日本市場は中流層のボリュームが厚いだけでなく、中流意識は一部の上流層や多くの下流層にまで及んでいた。もちろんかつての日本にも所得格差はあり、年収400万円未満の下流層は少なからず存在していた。しかしながらその多くは若年層であり、彼らは「年齢とともに所得は上がる」と考えていた。つまり彼らは現実の所得水準が下流であっても、意識は中流であり、消費意欲も高かったのである。

 しかし現在、今まで日本の消費市場を支えてきた中流層が急速に空洞化している。たとえば10年前に年収200~300万円程度であった若年層の多くは、その後所得が増えず、中流層へのステップアップができていない。また10年前に年収500~1000万円程度であった中年層の一部は、リストラなどによる収入の大幅減により、下流層への転落を余儀なくされた。

 国民生活基礎調査のデータによると、2008年の世帯平均所得は548万円。10年前の655万円から100万円以上も減少している。

 今日は久しぶりに日経の記事を読んでみます。↑ここまで引用した範囲は、割とマトモというか普通のことを言っているのですが、その先がなかなかキレています。まるで週刊ダイヤモンドの記事のようなアホらしさで、いかにも経済誌らしい現実から乖離した主張が展開されます……

 中流層の没落と下流層の拡大という現実に対して、「正社員と非正規社員の格差が問題だ」という主張が勢いを得ている。確かに中流層には正社員が多く、下流層には非正規社員が多い。しかし規制などによって非正規社員の雇用を抑制しても、下流化の流れは止められないであろう。企業が非正規社員を拡大させることによって人件費を抑制しようとしたのは、既得権で守られた正社員の賃金を下げにくかったからだ。言い方を変えれば、非正規社員は、人件費抑制のしわ寄せを受けた被害者であり、その加害者(受益者)は正社員であったと言うこともできる。だから非正規社員を正社員化し、彼らが加害者側に回れば問題が解決するということにはならない。非正規社員の増加は、あくまで表面上の問題にすぎないのである。

 問題の根源をさかのぼるならば、グローバル化こそが日本人の所得減少の“元凶”であると考えられる。経済が地球レベルで一体化する現実の前では、日本人だけが高所得を謳歌するわけにはいかないのだ。現在日本の労働者の多くは、アジア諸国の5倍から10倍の賃金で処遇されている。日本人労働者は概して勤勉で、教育水準も高く、その労働価値は新興国の労働者より高いと考えられる。しかし、だからといって、日本人労働者の生産性がアジア諸国の労働者より5倍以上も高いとか、5倍以上も付加価値の高い仕事をしているということはないであろう。

 したがってグローバル化が止められない以上、日本人労働者の賃金の下落は今後も続くと考えざるを得ないのである。

 非正規社員が人件費抑制のしわ寄せを受けた被害者というのは間違っていないのでしょうけれど、その加害者として正社員を挙げるのは、いかにもビジネス本ばかり読んでわかったつもりになっているだけの、労働の現場を見ていない人にありがちな言説です。もちろん彼ら財界の太鼓持ちからすれば雇用主に批判の矛先が向かう事態だけは絶対に避けたい、そうなると代わりの「加害者」を真犯人として差し出さなければならないわけで、消去法的に正社員(あるいは中高年)を犯人として提示するほかないのかも知れません。しかし、人件費削減を推し進めた人ではなく、非正規社員と同様に賃下げ圧力に晒されている層を「加害者」と呼ぶのは、いくら経済誌でも非論理的に過ぎるのではないでしょうか。

 曰く、「企業が非正規社員を拡大させることによって人件費を抑制しようとしたのは、既得権で守られた正社員の賃金を下げにくかったからだ」とのこと。正社員でも賃下げが珍しくない日本に在住する身としては、いったいどこの国の話をしているのかわかりかねるところもありますが、ともあれこれでは、なぜ企業が人件費を抑制しようとしたのかを説明できていません。賃下げを強盗に置き換えてみるなら、「強盗が個人商店を狙って押し入ったのは、警備員に守られた大型店には侵入しにくいからだ」と説明するようなものです。標的が選ばれた理由はともかく、なぜ強盗に入ったのかは、全く説明できていませんよね? そしてこの日経の記事の論理によると、この場合の「加害者」は難を逃れた人=つまり強盗に入られなかった大型店ということになるわけです。こんな強弁は、それこそ経済誌でしか通用しないものです。

 正社員が既得権益とやらによって守られたかと言えば、当然ながらそんなことはなく、リストラされたり賃下げされたりしたケースも少なくなりません。採用抑制と並行して、まず給与の高い中高年をリストラし、そこを薄給の若年者や非正規労働者で穴埋めしていくことで現在の労働環境が作られたわけです。むしろ直接の被害者は過去に席を奪われた元・正社員であり、現・正社員は難を逃れただけと言うべきでしょう。たとえば地下鉄サリン事件で生き残った人を加害者と呼びますか? リストラや賃下げの嵐から免れた人を加害者と呼ぶのなら、何らかの事件で運良く被害を免れた人をも加害者として糾弾しなければならないことになるわけで、何とも無茶苦茶な話です。構造改革・規制緩和とは中流を攻撃して下流に落とすものであり、そこで下流に落とされた人々は被害者と呼ばれるべきですが、落とされることなく中流に残れた人を加害者と見なすのは八つ当たりもいいところです。誰が「落とした」のか、その辺はいい加減に直視して欲しいところです。

 また全般的な賃金下落傾向の原因をグローバル化に求めているわけですが、これもまた酷いこじつけです。グローバル化で賃金が下がっているのは、むしろ日本だけである、日本は例外中の例外であることもまた直視しなければならないと思います。日本以外の国ではグローバル化と同時に経済成長を続け、賃金水準も上がっている、格差が拡大するところはあっても、全体としてみた場合の賃金は日本と違って上昇するのがグローバル経済における「普通」ではないでしょうか。なぜ日本国内の給与水準だけが下がり続けるのか、日本における「グローバル化」という言葉の何となくネガティヴなイメージに頼るばかりで、本当の原因については何一つ説明できていません。

 ……で、そこから先は見出しにもあるように引用元の著者は「これからは下流ビジネスだ」と説き始めるのですけれど、どこまで頭が悪いのだと呆れるほかありません。内需型の企業が軒並み下流向けにシフトして値下げと賃下げを繰り返してきたからこそ、今の日本経済の惨状があるわけです。この状況を打開するためには貧乏人を対象としたビジネスから脱却することが求められるのではないでしょうか。一足先に下流ビジネスに乗り出した企業は一人勝ちを収めた、だから下流ビジネスが伸びているように見えるところもあるのかも知れませんが、特定の会社ではなく業界全体を見渡せば、経済規模が無惨な縮小を見せていることに気づくはずです。今さら下流ビジネスに手を出したところで、不毛な利益の削り合いが待っているだけ、引用文の著者はコンサルタントとのことですが、こういうアホなコンサルタントに騙される経営者が出ないことを祈るほかありませんね。

 

 ←応援よろしくお願いします

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする