日本学術会議の検討委員会(委員長=北原和夫・国際基督教大教授)は、深刻な大学生の就職難が大学教育にも影響を与えているとして、地方の大学生が大都市で“就活”する際の宿泊・交通費の補助制度など緊急的な対策も含んだ提言をまとめた。
17日に文部科学省に提出する。企業側が、卒業して数年の「若年既卒者」を新卒と同様に扱うことや、早い時期からの就業体験も提唱。学業との両立のためのルール作りも提案している。文科省は、産業界の協力も得て、提言を現状改善につなげる考えだ。
提言は大学教育の質の向上を目的としたものだが、就職活動に労力と時間を取られ、それが学業にも悪影響を与えているとして、就業問題の解決策に踏み込む異例の内容となった。
具体的には、大学側に、卒業後3年程度は就職先の仲介や相談といった就職支援体制をとることを求め、企業側には、若年既卒者も新卒者と同枠で採用対象とするよう求めた。さらに、平日は学業に集中し、就職活動は週末や長期休暇期間に集中させるルール作りなど、大学と企業側が協力しての対策にも言及している。
5日発表の文科省の学校基本調査では、大学を今春卒業したが就職も進学もしなかった「進路未定者」が5年ぶりに10万人を突破した。今回の提言では、「新卒優先」の日本の労働市場の構造が大学生の就職問題を一層過酷なものにしていると指摘している。
ちょっと前にも同様の提言があったように記憶していますが、また出てきたようです。しかし、これが問題を解決できるのかどうかには色々と疑問を感じざるを得ません。何でも「新卒優先の日本の労働市場の構造が大学生の就職問題を一層過酷なものにしていると指摘している」そうですが、この辺はどうでしょう? 確かに日本ではマトモな企業へ就職する機会が新卒時に集中しているわけです。新卒時を逃すとマトモな企業へは入れなくなる、だから在学中になんとしても就職を決めるしかない――このような環境は確かに大学生の就職問題を一層過酷なものにしているのでしょう。
ただ、同時に新卒者向けに用意される椅子の数もまた多い、既卒者にチャンスがない分だけ、新卒者にはチャンスが多めに提供されてもいるはずです。既卒者と競う必要のない、その年度の新卒者だけの特別枠が用意されているのも新卒採用ならではです。これが本当に「卒業後数年は新卒扱い」になったとすると、既卒者にはチャンスが増える、新卒で就職できなかった人にも再挑戦の機会が出てくる一方で、新卒で就職するつもりの人からすれば競合相手が増えることになります。これもまた、大学生の就職問題を一層過酷なものにする要因となり得ますが……
そもそも文科省が提言を受けて「卒業後数年は新卒扱いに」と決めたところで、採用を決める企業側が「本当に」新卒扱いとするかは甚だ疑わしいところです。建前上は男女差別禁止、年齢による差別も禁止ですけれど、実質的に男子禁制もしくは女子禁制、採用は若年層だけというケースが極めて多いのではないでしょうか。ですから建前上は既卒者も「新卒扱い」ということで応募を受け付けはするけれど、実際は最初から落とすつもりでいる、結果として選考に残るのは正真正銘の新卒対象者だけになると考えるのが妥当ではないかと推測されます。
他にも色々と突っ込みたいところはあって、たとえば「平日は学業に集中し、就職活動は週末や長期休暇期間に集中させる」などとも提言されているわけですが、大学生たるもの平日は学部のカリキュラムに沿った勉強、週末や長期休暇期間は自身の趣味に走った勉強をすべきではないかという気もします。「提言は大学教育の質の向上を目的としたもの」との触れ込みながら、これでは要するに「卒業に必要な単位を取らせつつ、いかに滞りなく就職させるか」というレベルに止まってはいないでしょうかね。
むしろ文科省に働きかける、国内全域に向けたルール作りを視野に入れるというのなら、「いかに競争を抑制するか」を考えて欲しいところです。特定の大学だけが不毛な競争から降りたところで、別の大学が就職活動に没頭するとなると前者が敗れて後者の一人勝ちを許してしまうだけ、個別の大学の努力で競争を抑制することは極めて難しいですけれど、文科省が全体に枠をはめるのなら多少の意義はあるでしょう。どれだけ学生が面接スキルに磨きをかけたところで、それで採用が増えるわけでもない、どれだけ競争したところで上位100人に入れるのは100名までです。競争は参加者の負担を増すだけで合格者の数を増やしてはくれません。ならば競争の負担を低減する、競争を抑制することこそ、所轄官庁に求められる役割だと思います。