非国民通信

ノーモア・コイズミ

条件付きフランス人

2010-08-03 23:00:42 | ニュース

「犯罪移民の仏国籍剥奪」大統領方針 人権団体ら猛反発(朝日新聞)

 フランスのサルコジ大統領は7月30日、帰化した後に重大な罪を犯した移民の仏国籍を取り消す方針を打ち出した。ただ国籍剥奪(はくだつ)は、戦中の親ナチス・ドイツ政権がユダヤ人排斥のために利用し、戦後はタブー視された措置。「移民差別を助長する」と、野党や人権団体は猛反発している。

 大統領への支持率は、最近の改革の失敗や側近のスキャンダルで低迷。新方針は、右翼支持層の関心を引き戻し、2012年の大統領選で再選を目指すのが狙いだと受け止められている。

 大統領はこの日、訪問先の仏南東部グルノーブルで演説。当地では7月、強盗団と警官隊との銃撃戦で強盗側の青年(27)が死亡。これを機に、青年の出身地にあたる郊外の移民街で暴動が起き、治安回復が課題となっていた。大統領はその対策として「外国出身者が警察官や憲兵隊員、公権力を委託された人物の命をあえて奪った場合、仏国籍は剥奪される」との方針を表明した。

 オルトフー移民相は31日、国籍剥奪のための法案を9月に議会に提出する方針を確認。「重婚や女性器切除(女子割礼)の実施、重大犯罪にかかわった場合にも、国籍は失効させなければならない」と述べた。

 ただ、この新方針は、等しく権利を持つと見なされてきた仏国籍保有者を、移民出身者とそうでない者に分けることにつながる。また、国籍剥奪は第2次大戦中、対独協力政権(ビシー政権)がユダヤ人に対してとった措置であることから、戦後の歴代政権は手をつけなかった政策だ。リベラシオン紙は「仏の過去で最も恥ずべき対応に立ち返るものだ」と厳しく批判。ルモンド紙も「サルコジ氏はタブーを破った」と論評した。

 日本の移民政策を海外の極右層が羨むというケースは多々あると聞きますが、今回は逆のパターンになりそうです。日本では極右に媚びても選挙で勝てるほどの票には結びつかないことが自民党や国民新党の敗北から証明されるところですけれど、サルコジ政権も似たような末路を辿るのでしょうか。だいたい、落ち目の政権は何をやってもダメなものです。民主党だって官僚/公務員叩きや小さな政府志向では自民党やみんなの党に決してヒケを取らないわけですが、いくら公務員削減や議員定数削減を強調したところで、似たような政策を掲げる政党からは「民主党の改革はニセモノの改革、我々こそが真の改革の担い手」とばかりに突き放され、有権者からも「まだまだ足りない、もっと厳しくやるべきだ」みたいな批判を食らっているのが実態ではないでしょうか。いかに有権者や手を組みたい政党と同じ方向を向いていたとしても、落ち目の政権は何かする度に反発を買うものです。ましてや日本よりは人権意識が強いであろうフランスともなれば左からの批判も強いはず、いよいよサルコジもジリ貧と思われます。

 それはともかく、重大犯罪に関わった移民はフランス国籍を剥奪するとのことです。二重国籍を認めない日本と違って元の国籍を保持したまま取得できる国籍と言うこともあって、国籍剥奪の持つ「重さ」は日本の場合とフランスの場合とでは多少の違いもあるのかも知れません(日本国籍の剥奪は即座に無国籍者を生み出しますが、フランスの場合は必ずしもそうはなりません)。ただ外国出身かそうでないかによって扱いを違えてよいのかは、まず第一に問われねばならないわけです。国籍を取得すれば同じフランス人としての権利を有することになっていたはずが、「重大犯罪と関わらない限りにおいてフランス人と同等」という条件付きの権利に置き換えられることを、今回のサルコジ案は示しています。国籍を取得しても「条件付きフランス人」になれるだけであって、決して留保なしのフランス人にはなれなくなるわけです。国籍取得が同等の権利を保障しないというのであれば、それに何の意味があるのでしょうか。

 ちなみに、この国籍剥奪案の適用範囲は厳密にはどの辺までなのでしょう。たとえば親がフランスに移民してきてから生まれた子供辺りは? 移民1世にだけ適用となると、親の国籍だけを剥奪、子どもはフランス国籍を維持なんて事態も起こりうるわけです。そこで日本政府だったら子どもの在留だけは認めるけれど親は出身国に送還するなんて対応を取りかねないところです。逆に移民の子まで適用するとなると、サルコジも対象に含まれてきます。公権力を委託された人物の命を奪った場合、重婚や女性器切除の実施、重大犯罪にかかわった場合などが挙げられていますが、失政によって国民に無用の死をもたらした場合はどうなるのでしょうね。パフォーマンス的な要素が主になるにせよ、サルコジを訴えてみる人が出てきたら面白そうです。

 

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コメント (5)
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