非国民通信

ノーモア・コイズミ

政治戦線展望なし

2010-08-16 22:55:23 | 編集雑記・小ネタ

 さて、相変わらず経済情勢は振わず、とりわけ雇用に関しては悲惨な状態が続いています。菅総理は「即効性があり、中長期的な雇用につながる対策が必要だ」などと述べたそうですが、これはどういう結果に繋がるのでしょうか。かつて菅が財務相へ就任した際に円安が望ましいと発言したところ、為替介入への期待感から本当に円安が進んで輸出企業を中心に平均株価も上昇するなんてことがありました。その時の菅発言は概ね好ましい影響をもたらしたわけですが、しかるに与野党双方から非難囂々でもあったわけです。前任の財務相である前任の藤井氏の円高容認発言には特に目立った批判がなかったことを鑑みるに、どうも日本の政財界は円安より円高を好んでいると見た方が良さそうです。円高という逆風の中で、骨身を削って利益を出すことこそ経営の理想と信じているのでしょう。そういうわけで、国内雇用は今後も絶望的です。

 菅の言う「即効性があり、中長期的な雇用につながる対策」という方向性には何の不満もないのですが、具体的にはどういうことをやるつもりなのでしょうか。せめて市場に期待感を持たせてくれないと、景気浮揚には繋がりません。即効性と中長期的なビジョンを両立できればまさに理想的ですけれど、昨今の政治にそれが可能とはとうてい思えないわけです。とりわけこの10年は、即効性ばかりが優先されてきた、中長期的な雇用に繋がる政策を提言する人がいれば、即効性を損ねるとばかりに否定されてきたのが実態でもあるはずですし。

 たとえば最低賃金に関しても、最低賃金を欧米先進国の水準まで引き上げると中小企業が潰れて失業が増える、経済が破綻するみたいな脅しが繰り返されてきました。そりゃ最低賃金ギリギリで人を働かせることでしか存続できないような企業は潰れるかも知れませんけれど、そういう企業を存続させることは中長期的に見ればマイナスのはず、本来なら市場原理主義者ほどこうした不採算企業の淘汰を唱えても良さそうなものです。しかるに、我が国の市場原理主義者、規制緩和論者、構造改革論者は軒並み、即効性の部分を強調するばかりで中長期的な視点を拒んできたのではないでしょうか。即効性を考えるなら、最低賃金を据え置く、低賃金労働者が低賃金労働を続けられる環境を残した方がマシなのかも知れません。低賃金労働者の失業という一時的な「痛み」を先送りにすることはできますから。しかし、それは中長期的に見れば明白なマイナスです。その中長期的なマイナスを放置してきた結果が今に至るというのに……

 非正規雇用、とりわけ派遣社員などの間接雇用を巡る議論にも同じことが言えます。現状、雇用に関しては実質的に完全自由化されているわけですが、たとえば派遣規制を(有名無実の制度面だけではなく運用面も含めて)本来の基準に戻すとしたらどうでしょうか。そうなったら派遣社員が一斉に仕事を失うよ、と規制緩和論者はお決まりの脅し文句を口にするものです。もっとも営業活動に必要な労働力が派遣規制の有無で変化するものではないだけに、営業活動を維持するためにはそれまでの派遣社員と同等の労働力を確保しなければならないわけで、トータルの労働力需要が減るわけではありません。別に派遣が雇用を生み出してきたわけではないのですから。「派遣社員を使えないくらいなら廃業する」なんて雇用主が多ければ話は別ですけれど、使えなくなった派遣社員の分は直接雇用で埋めるしかない以上、中長期的に見れば派遣規制の巻き戻しはプラスになります(参考)。

 ただ制度の変更に伴って一時的な混乱は起こりうるでしょう。中長期的に見ればプラスでも、短期的に見ればマイナス、即効性を重視する立場からすればデメリットが多いケースもあるわけです。ですから即効性の側では、非正規雇用が引き続き非正規雇用として働き続けられるような環境作りこそ好ましい=さらなる規制緩和が必要だという結論になりがちです(ただ派遣期間の制限をなくしたところで、遠からず契約を切られる、若い人に入れ替えられるのが派遣社員であり、いくら規制を緩めたところで派遣社員が同じ職場で働き続けられるようにはなりません)。とはいえ、「低賃金労働者が低賃金労働を続けられる環境」「非正規雇用が非正規雇用として働き続けられる環境」を維持することにばかり注力してきた結果として、世界経済の成長から取り残され、給与所得が下がり続ける日本という特異な環境が形成されてきたことに、そろそろ向き合わねばならないのではないでしょうか。何一つ期待できるところのない人間が総理の椅子に納まっている時代でもありますが、いい加減に雇用に関しても中長期的な視点を持って欲しいところです。

 

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コメント (2)
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