非国民通信

ノーモア・コイズミ

自立心を克服する必要があると思う

2010-08-14 22:59:10 | ニュース

福祉の「支援」に近づかない母親たち 大阪2児遺棄(産経新聞)

 母親が殺人容疑で再逮捕された大阪市の2児虐待死。事件からどんな課題が浮かんだのか。

 事件発覚2カ月半前の5月18日早朝。現場マンションの近隣住民から「子供が泣いている」と通報があった。児童相談所の職員が訪れたのは約10時間後の午後4時ごろ。通報はその前と合わせ計3回あったが、2児の存在さえ把握できなかった。

 虐待通報は24時間受けているが、夜間や早朝は職員を自宅から呼び出すため対応が遅れがちだった。教訓として市は児童相談所に児童福祉司らが24時間常駐する方針を決め、緊急時は市消防局の救助隊らが急行し強制的に立ち入って安否確認する全国初の制度導入も決めた。市は「消防法の人命救助に関する規定を広く解釈すれば可能」と説明するが、総務省消防庁は「消防法は火災や救急搬送の要請を想定している」と難色を示す。

 一方、児童相談所の職員が4、5月に家庭訪問した際、連絡を求めて集合ポストに残した手紙は室内の簡易キッチンで見つかった。母親は手紙を手にしながら自ら連絡を取ろうとはしなかった。昭和22年の児童福祉法制定以来、福祉的アプローチを基本としてきた児童相談所だが、事件が浮き彫りにしたのは従来の福祉の「支援」にさえ近づかない母親たちの存在だった。

 さて、虐待死事件に関する報道が色々とあるわけですけれど、ここで取り上げた記事では見出しにもあるように母親が「福祉の支援に近づかない」ことに着目しているようです。既存の福祉自体が著しく不十分なものでしかないことも問題ですが、要支援者が福祉の支援に近づこうとしないケースも少なからずあるのかも知れません。ではなぜ母親が「福祉の支援に近づかない」のでしょうか。その辺はとかく個人の責任に帰せられてしまうものですけれど、もうちょっと立ち止まって考えてみる必要がありそうです。

 そこで思い出したのは、生活保護を拒んでホームレスになる人もまた少なからず存在するということです(参考、セーフティネットを拒む自立心)。とかく公的な支援を受けることを否定的に捉え、断固として生活保護を受けようとしない路上生活者もいる、福祉の支援に近づかない貧困層もまた福祉の支援に近づかない母親と同様に存在しています。貧困層に対しても従来の福祉は著しく不十分ですが、それに加えて要支援者が福祉の支援に近づこうとしないという問題が発生しているわけです。自分の首を絞めるか子どもを見捨てるかの違いはあれ、何を思って福祉を拒むのか、という点では共通した問題を抱えているのではないでしょうか。

 とかく「自立」が尊ばれる社会であるだけに親族に頼ることすら否定的に見られる、ましてや公的な福祉に頼るなどとなると、それこそ唾棄すべきこととして扱われがちです。何もかも自分でやるのが大人として当たり前、親や公的支援に頼るのは甘えだ、日本人は自立心が足りない云々と語られるような社会では、必然的に母親が全責任を負って育児を完遂することが当然視され、そこから逸脱すれば母親失格の烙印を押されます。それこそ児童虐待事件が報道される度に「自分で育てられないのに産むな」みたいな言説が撒き散らされるものですが(少子化が進むわけだ!)、この辺はまさに典型的でしょう。自分で育てられなければ母親としての資格はないというのですから。他人の支援を受けずにやっていくことこそが「あるべき姿」だと思っているゆえに、福祉への抵抗感もまた強いわけです。

 そうであるからこそ、極端から極端に走りやすいのかも知れません。当初は有資格者であるために母親として全力を尽くしつつも、ひとたび子育てが上手く行かなくなると、母親失格ということで全てを投げ出してしまうケースが目立つのではないでしょうか。「親を休むことも大切です」と語る人もいる一方で(参考)、母親は休んではいけないのだ、母親は休んだら終わりなのだと思っている人が、当の母親サイドにすらかなり多いような気もします。最初からいい加減な母親であれば適度に「親を休む」、公的な福祉に頼ったりもできる=何とかやっていけるのでしょうけれど、真面目な親ほど「親を休む」ことを拒む、他人に頼ったら終わり=母親失格だと考えがちであり、そうであるからこそ福祉を拒む親がいる、それで亡くなる子どももいるわけです。自立心を克服し、他人に頼れる社会になること、お互いに頼りあうことが当たり前と受け止められるようになること、そして「育てられなくなったら預ければいい」ぐらいに世論が変化しないと、児童虐待の類はなかなか減らないように思いますね。

 

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コメント (8)
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