田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ミイマ、Fの怨念を断つ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-06 00:59:38 | Weblog
10

「美魔、おまえが、玉藻の前の護衛で都を去らなければ、わたしは失脚しなかった。美魔、おまえさえわたしの制止をふりきって玉藻の前の護衛につかなければ。歌人にして大政大臣の地位が約束されていた。よも、失脚するようなことにはならなかった」
「それで鬼ですか。それで政権を追われたものの恨み、道真公のように怨霊と化しましたか。鬼とおなりあそばしましたか」
「青丹よし奈良の都を呪った。わたしを陥れた者、皆を呪った。都は京都に移された。それで満足した。呪ってやったもの者どもは、早世した。それでよしとした」
「それで、わたしだけがのこっていた。くやしかったことでしょうね」
Fはバリバリと大型の将棋駒のような牙で歯ぎしりした。
翔子たちには、Fとミイマのあいだにどんな経緯があったのかわからない。

歴女にして神代寺族のMV(マインドバンパイア)の玲加にはなんとなく推察できる。
玉藻の前が九尾の狐であるわけがない。
平安時代、鳥羽上皇の寵愛をうけた傾国の美女。
不滅の吸血鬼Fはそのころミイマと会ったのだろう。
玉藻はほかの女官たちの嫉妬で都をおわれた。
同情したものが美魔、神代寺一族を護衛として玉藻を下野の地に落したのだ。

「あなたは長く生きすぎています。時代がずっと下がったところでわたしはF、あなたに会った気がしますけど」
「平城だろうが、平安だろうが、どうでもいい。いまは平成だ。時代なんかいつでもいい。恨はつづく。わたしがこうしているあいだは……」
「恋の恨みですか。権力の座に着けなかった恨みですか」
「その両方だ」
「あわれな方」
「なんとでもほざけ」
Fの腕がミイマをつかまえようとふいに伸びてきた。
「斬」
百子がふたたびFの腕を輪切りにした。すばやくクノイチガールズがその一切れ一切れを抱えると四方に散った。

「ぬかった!!」
「バラ縛り!!!」

ミイマがバラの鞭をFに叩きつけた。
鞭はFの体にツルバラよろしく巻きついた。
バラの棘がFの体に深くくいこんでいく。
青い粘液がふきだした。
Fが苦痛に咆哮する。
あたりの樹木の枝を震わせた。
雷鳴がとどろく。
ミイマが翔子から鬼切丸をうけとった。

「せめて、わたしの手で……」
ミイマの振るう鬼切丸。
Fの首をはねた。
首ははったとミイマをにらんでいる。

「たたるぞ。呪うぞ」

Fの思念がミイマの脳裏に沁みた。

Fはドロドロと青い粘塊となって溶けていく。
吐き気がした。
すごい悪臭だ。
不気味な色だ。
嘔吐しているものもいる。
Fの現世への恨みがこもった溶解だ。
ミイマはなぜか悲しくなった。
涙がほほを伝っていた。
思慕していた男を葬ったのだ。



 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

元彼Fとミイマの死闘/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-05 05:06:41 | Weblog
9

唯の人。そうは思ってはいない。
敵は吸血鬼と知って戦っている。
だが――them(ゼム)――ヤッラのふいの変わり身。
翔子たちはついていけい。

まずFが変身した。
牙の鉤爪をひからせて、鋭く攻めこんでだ。
だが、鉤爪だけの武器では純と翔子の夢道流の剣士に斬りこまれる。
勝ち目はないと判断したのか。

変身した姿は怪異なものだった。
頭の両サイドからめきめきと角が生えてきた。
山羊の角とも見える。
目は黄金色の碗をはめこんだようだ。
月の光のように皓こうと光り放つ。

「うぬら、とって喰うぞ」
グローブのような手が伸びてくる。
だがおおきく変形しただけに動きは鈍い。

「あらまぁ!!! タクアンみたいな指だこと」
まさに翔子をワシヅカミにしょうとした。
Fの指を、古風に表現した。
が、百子の剣は居合ぎりのすばやさ。
輪切りにした。

「うう。痛い」
Fはわざとらしく呻く。
おおきくうでをふった?!
指は元どおりだ。
再生している。
いや、斬り落としたのは幻の指だったように錯覚してしまう。
まぼろしであるわけがない。
瞬時に再生してしまうのでそう思えるのだ。

「これでは、たたかいようがないよ」
「大江山の酒吞童子を倒した剣さばきどこにいった」
耳まで裂けた口がわらつている。
笑った方が凄みのある口元だ。

「さぁさぁさぁ」
翔子と百子がたじたじとなる。
純がふたりをかばって前に出る。

そのさらに前に人影が。

「おう。美魔か。この時を……千年以上も待ったぞ」
「それなのに、そのお姿は……あさましい信行さま……と、争わなければならない……悲しゅうございます」



 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クノイチ48三段切り見参/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-04 06:16:14 | Weblog
8

「クノイチ三段ギリ」
ガールズ三人がひと組となって吸血鬼の巨体に斬りこむ。
体が大きいというだけでまだ外見はかわっていない。
唯のヒトに見える。
上段の首をはね、胴ギリ、足を切る。
三等分されて、さすがの鬼もドウトたおれた。
再生されてはもともこもない。
ガールズはサッカーボールでも蹴るように、三方向に死体の部分を蹴り飛ばす。
凄惨な死闘の場がガールズの参戦で明るくなったから不思議だ。
ファンタジーの映像のように美しく様式化されたバトルフイルドとなる。
翔子と純はFと戦っていた。
ミイマの元彼だ。
ミイマとは戦わせたくない。
GGとも……。
藤原信行――どんな事情があったのか。
ミイマとどれほどの関係なのか。
知る由もない。それでも戦わせたくはない。
すくなくとも、元彼であることにはまちがいのないことなのだから……。

「なぜです。なぜミイマの邪魔をするのです」
「純、訊いても無駄よ。ひとの心の中のことは言葉では十分に説明できないの」
「でも、元彼ならなぜ……」

Fが鉤爪で襲いかかってきた。
牙のように鋭く、鋼のように夜目にも光っている。

あんな浅ましいお姿になって。
ミイマは父と戦いながら遠目にFをとらえていた。
そして、純と翔子の心づかいが痛いほどわかっていた。
わたしをFと争わせまいとして……。

「よそみするな」
父の声が耳もとをかすめた。
ボシュと拳銃音。
川田刑事がミイマの腕に噛みつこうとしていたBVに発砲した。

「こいつら、むかし塾で先生におそわったアレですか」
「そういうことだ」
「まさか本当にいるとはね――」
「みただけでは普通の人だろう。戦って初めてBVとわかる」

GGが鬼切丸で被弾したBVの首をはねる。
ジワッと青白い液が切り口からふきだした。
斬りおとされた首はニタッと不気味な笑いをみせている。
玲加が走ってきてその首を遠くにけり上げる。
虚空で雷鳴がとどろいた。
こんどこそ雷鳴だ。
稲妻がきらめく。
空のサンゴみたいだ。

ミイマの武器は鞭だ。
リルケのバラで作った。
バラの鞭を駆使してまわりのBVをなぎたおす。

「あんたらバラ園をおそうなんて無粋だよ。バラを讃えたリルケの詩でもヨンダラどうなの。こんなブスイな戦いを仕掛けてくる愚かさに気づくはずよ。アンタラのねらいは権力。人にとって代わってこの世で栄耀栄華をきわめたいのでしょう」
「それがわかっているのなら、邪魔するな」
Fの声が直接頭にひびいてきた。
懐かしいはずの声。
あれほどききたいと思っていた声。
千数百年もの眠りの中でききたいと希望していた声だ。
もしGGとの心の交流がなかったら。
若きGGとの出会いがなかったら。
まだ、きくことを望みつづけたはずの声が耳もとでひびいている。
憎悪がこめられている。

百子とガールズは演武でもしているように鮮やかだ。
中空に跳ぶ。
大地に伏せる。
斬る。
走る。
斬る。
飛ぶ。
跳ねる。
BVは下半身の攻撃に弱い。
さすが高言しただけのことはある。
BVとの戦いは、これがはじめてではない。
大江山の鬼と戦った。
戸隠山の鬼と戦った。
それらの経験が生かされている。
彼女たちが先祖から受け継いだ戦法。
太刀筋にすべてが加味されている。
さすがクノイチ48のツワモノ。
アレっ。ツワモノ、この言葉は女性には使えないのかな? さすが美少女クノイチ48とトトノエマスカ。




 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

文章を書くのは楽しいのにな/麻屋与志夫

2010-11-03 22:01:29 | Weblog
11月3日 水曜日

●昨日は楽しかった。
地元に在住の昔からの親友Oさんに誘われて永野までソバを食べにいった。
カミサンも同乗した。
わたしたちは結婚する前からの知り合いだ。
車中、昔の友だちの話で盛りあがった。
けっこうみなさん元気にやっているらしい。
わたしは東京とこの故郷鹿沼での二重生活をしているので、友だちの消息には疎い。
ソバ屋さんは「タロッぺ」というお店だった。
美味しかった。
そして店の造りには鄙びたよさがあった。
田舎の食文化がほのぼのとかもし出されていた。

●そして今日は文化の日。
田舎町でもいたるところで文化の日にふさわしい行事が開催されていた。
書道展、絵画展、写真展など数多くの展覧会をこのところ楽しませてもらった。
ただ気づいたことがある。
これらの展覧会に参加している人が高齢化している。
若者の参加者がすくないのは悲しい。

●これがスポーツ界だったら、後輩の育成に熱心だ。
組織化もされている。
どうもこと文化にかかわることはそうはいかない。
そこへきて地元の小、中、高校では書道部、絵画部、演劇部の廃部があいついでいると聞いている。
本当なのだろうか。
文芸部。読書部にいたってはほとんどの学校で存在していなとのことだ。
寂しい。
わたしが小説家だから言う訳ではないが、本を読まない若者が増えている。
文章の勉強などめんどうだというものが多いこの世の中だ。

●本も読まない。
文章も書けない。
そうした若者が増殖する。
まさにホラーだ。
恐怖を感じる。
そうした若者が街を闊歩する。
怪奇現象だ。
言葉があるから人間なのだ。
言葉を失くしたら、どうなるの?

●このままではいけない。
文化祭の文芸部門に創作の書き手がいないようでは、悲しいをとうりこして腹立たしくなる。
文学をぬきにして文化は語れない。
と……思うのはわたしだけなのでしょうか。


 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

襲われたバラ園2/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-03 10:20:32 | Weblog
7

「ミイマ! おさき」
「さきいくね」
翔子、玲加、百子とガールズがつぎつぎとミイマを追い越していく。
半死の作業員からは林の奥という情報しかうけとれなかった。
ミイマはGGに抱き起された。
顔に血が斑点のようにへばりつき凄惨な表情となっている。
「この奥よ」
「それにしても静かすぎる」
走りながらミイマは顔をぬぐっている。
先行した美少女軍団の姿が樹木の影にみえる。小さくなっていく。
「さきいくね」
ミイマは先ほどガールズにかけられたと同じ言葉をGGに残す。
体がファッと浮かぶような感じだ。
Vウォークだ。
シャキ、シャキと高速カメラでとらえた映像のような走法。
みるまにガールズに追いすが。
追いぬく。「さきいくね」とは声はかけない。
そんな心の余裕はない。
『おとうさん、どうなってるの』
父の側近は十人はいる。
マインドバンパイァだから吸血行為はしない。
あとの能力はBV(ブラックバンパイア)と同じだ。
緊急事態のときはそれらの能力が発動する。
戦っても互角だ。
足もとに作業員が何人も倒れている。
「オバサマ、どうなってるの」玲加だ。
「わたしも能力に目覚めたみたい」玲加がミイマに伴走していた。
『血は争えないものね。玲加は歴女だから奈良の都で起きたこと、平安の都で起きたことを思いだして。あのころから鬼の動きが活性化したのよ。その空気をここで感じるの』
思念で会話していた。
頭から頭に伝わる会話だ。
雷鳴がふいに轟いた。
いや空は藍色の薄闇だが雷雨の気配はない。
雷鳴が轟き渡っている。
でも、これは雷鳴なんかではない。戦いの雄叫びだ。
着いた。東屋のある広い空間。結界がはってある。
父がBVにとりかこまれている。
父の配下もたたかっているがBVの多さに父の護衛につけないでいる。
ミイマは血路を開いて神代寺一族の長、父のとなりにかけよる。
『よく来てくれた』
父のことばが脳裡に沁みた。
青白い粘液がとびちって大地を汚く染め上げている。
足場がねばねはする。気持ちが悪い。

「あんたら、どこのもの。どこの一族なの。わたしたちが神代寺一族と承知の上での襲撃なの!!!」

不気味な沈黙。
翔子と百子、ガールズが参戦する。
数の上からいっても負けてはいない。

「あたいたちをなめないでよ。大江山や戸隠までデパって鬼と戦った忍法よ」
という百子のセリフが勇ましい。


今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

襲われたバラ園/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-02 06:28:52 | Weblog
6

「ミイマ。神代寺に連絡できない。だれも電話に出ない。モニタールームからかけても、プラツクアウトしたままなの。どうしょう」
玲加が青ざめている。
体力を消耗した。だからソファで休んでいた。ミイマは起きあがった。
どういうことなのだろう。
だれも電話にでないなんて……まだ夜は始まったばかりだ。
でも、この時間にはみんながバラ園で働いているということはない。
ミイマはふいに心拍の速まるのを感じた。
こうしてはいられない。

「どういうこと? なにが不安なのだ」
GGが寄ってくる。
青ざめた顔で隣室のソファで横になっていたはずのミイマ。

「ミイマ。どうした」
「いままで気づかなかった。狙いは……わたしたちかもしれない。わたしたちが狙われているのかも……」

「いくか!」調布へという言葉をGGは省いた。

ミイマは部屋をでたときからその気だ。
GGに皮ジャンを投げてよこした。

不安をかかえて、向こうからの連絡を待つより――こちらからかけつけたほうが速い。ミイマは翔子のバイクのシートに。
GGは純の。
玲加と百子はそれぞれのバイクにとびのった。

百子はクノイチガールズに「神代寺バラ園の緊急集合。緊急集合」と呼びかけた。

GGも「アサヤ塾」ネットワークに連絡する。
調布近辺にいる卒業生は思い当たらない。
でも連絡しないではいられなかった。

ミイマの予感はよく的中する。
あのあわてかたは異常だ。
バラ園でなにか起きている。
起きていないことを、願うより、起きてしまっていることを確信しているGGだった。


バラ園は静まりかえっていた。
鋳鉄製のフェンスから中をのぞいていた男がふりかえった。
「おひさしぶりです」
「川田誠。マコチャンか」
背広の男がほほえんでいる。
「調布署のいまでは刑事です」
百子はガールズのバイクに取囲まれていた。
「みんな、いくわよ」と百子。

ミイマが門扉のキーを開ける。
バラ園は静まりかえっている。

散水のホースがのたくっていた。
水が奔流している。
バラの鉢がいくつか倒れている。
なにものかに不意を襲われたのだ。
そうとしか思えない。

「どういうことなのですか」
誠がGGに訊いている。
「ここはカミサンの実家なのだ。なにものかに襲われたようなのだ」

だれもいない。
ミイマは声に出して叫びたいのを必死でこらえた。
真紅のリルケのバラが小道に落ちていた。
切り花にでもするつもりで切ったのかしら。
わたしがこのバラの名前がわからないので「リルケのバラ」と仮に名付けて「このバラの名前は」父にくつたものだ。
父にはもちろん、正確なバラの名前はわかつている。
それでもやっと娘がばらに興味をもってくれたことを記念してくれた。
リルケのバラの咲き乱れる一隅をつくってくれた。懐かしい思い出だ。
バラの切り口が奥の雑木林の方角を指している。
それに気づいてミイマは小娘のように走りだした。
「パパ。パパ」
ミイマはつまずいた。
つまづいたものは――仰向けに倒れた作業員だった。
一族のものではない。
一般の作業員だ。
抱き起す。
首筋から血があふれている。
まだ固まっていない。
生きている。
霧状に喉の奥から血をふきだした。
「しっかりして。いま救急車をよぶから。だれかついていてあげて」
おとこは林の方角を指している。
口はきけない。
ゴボッとまた血を吐きだした。
ミイマのほほに血が飛び散った。

   

   

   

リルケのバラ

 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミイマ昔を想う/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-01 14:57:11 | Weblog
5

「消耗がはげしすぎたのね。念の力をフルパワーにして戦ったのはひさしぶりなのよ」
「オバサマのひさしぶりというのは、ナンネンブリカシラ……?」
やはり消耗がはげしすぎたのだ。
と納得した表情で玲加はミイマのそばに膝まづく。
すこし体を休めれば回復するだろう。
「10世紀ぶりかしら……」
少女のようなあどけない顔で、ミイマがきついジョークをとばす。
「あら、そんなにお古い話ですか」
と、玲加が真面目な顔で応えている。
「それより、わたしとんでもないこと感じた。あいつらブラックバンパイアのねらいは、わたしたちなのかもしれない。ひとをそそのかして、ひとを刺殺させる。あれはほんの前哨戦。BVの真の狙いは、わたしたち神代寺フアミリよ。たぶん、この推測には狂いはないはずよ」
ガラス壁にへばりついたあの「かはほり」。
――は、と……ミイマは古語でかんがえていた。
加波保利たちの憎しみに満ちたあの目。
殺意がこめられていた。
小さな尖った爪。
ネズミに似た顔。
きらいだ。
あいつらは人間に混じって生きることの出来るわたしたちを嫉妬している。
人間と結婚して、子どもの産めるわたしたちを憎んでいる。
「父に知らせといて。くれぐれも、注意するように」
念をこめただけでコウモリをしりぞけた。
口を突いて出たのは、消災陀羅尼だった。
あんなパワーがあったことなんか、わすれていた。
使う必要もなかったからだ。
Fに遭遇したためか。
なにかと昔のことばかりかんがえている。
いい思い出なんかあったのだろうか。


 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

98歳進藤兼人先生おめでとう/麻屋与志夫

2010-11-01 11:50:32 | Weblog
11月1日 月曜日

●98歳新藤兼人監督に特別賞。
遅い朝の食卓に朝日新聞が置いてあった。
懐かしい顔写真。
まだまだお若い。
わたしはシナリオ研究所の四期生のときに先生の謦咳に接した。

●一昨日は竹書房の名誉会長野口恭一郎氏の逝ったことを知った。
彼とは研究所で机を並べて新藤先生の講義を聞いた仲だった。

●「諸君は若い。研究所を卒業したからといってすぐモノになるとは思わないほうがいい。20年たっても、30年たってもだめかもしれない。あきらめないでほしい。シナリオを書く仕事、物書きとしての仕事は、男が一生かけて貫き通しても悔いの残らない仕事です。がんばってください」

●52年前に先生がわたしたちに贈ってくれた言葉だ。

●親の病気の看病のため田舎にひきこもってしまったわたしを、絶えず励ましつづけてくれた言葉だ。
何万人もいる先生の教え子の中の一人としてがんばりつづけてこられた。
この言葉があったからだ。
いまさらながら言葉とか映画の力を感じる。
先生おめでとうございます。
そしてながいことごくろうさまでした。

●まだまだ書きたいことはたくさんある。
だが目頭が熱くなった。
わがPCハルちゃんの画面がくもってしまった。  (木村正一)




 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村 -->
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする