田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ルはルーマニアのル/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-21 15:25:06 | Weblog
ルはルーマニアのル


16

ちょっと目には人とまったく区別がつかない。
だがやはりというべきか。
昨夜純が切りおとした腕はもとにもどっている。
それより純は「おかしい」と気づいた。
この場所に立つのは三度目だ。
空間がゆがんでいるではないか。
どうしていままで感知できなかったのか。
この暗がりは、おかしい。
百目鬼がふたりをかばうように前に出た。
「ルーはル-マニアにルーというわけか」
「ルー・柴山だ」
彼らはたのしそうにつぎつぎと名乗りを上げる。
この場所こそ、
ほかならぬ、勝則と純がはじめてルーマニアの吸血鬼と遭遇したところだ。
だからこそ、
翔子をさきほどつれてきたのだ。
純は翔子が静かなのにおどろいた。
小太刀を左手にさげて芝原をにらんでいる。
祖父からたたきこまれた剣の技がそうさせているのか。
自信にみちた凛々しい立ち姿だ。
ラストブラッドの「サヤ」のようだ。

百目鬼がふたりをかばって前にでた。
彼らはひとではない。
赤い目が光っている。
ここは〈異界〉につながっている。
いや、この場所が異界なのだ。
そして、いまや、異界が歌舞伎町にひろがっている。
「どうして、ぼくらをおそう!!」
「それは反対だな。仕掛けたのはおまえらだ。泉」
「?????…………」
「まだわからないのか。
5年前に泉、あんたに切られたのは、
この芝原だ。そして昨夜も……」
「やはり死ななかったのか」
「でも切られれば痛い。
痛みの恨みで、東京中さがした。
それがいまごろになって池袋で同じような臭いをかいだ」

「あら」
と翔子がとまどった。
「わたし純に借りた本をもちあるいていたの」

翔子ははずかしそうだ。
それは小佐井伸二の「婚約」だった。

「そういうことか。やれ」
芝原が黒服のなかまに命じた。


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