田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純と翔子の夜はふける/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-14 05:15:59 | Weblog
純と翔子の夜はふける

8

それからのことは、翔子には話さないほうがいい。
 
純は死に物狂いで戦った。
敵をたおしたが、吸血鬼のことだ。
いつのまにか現われた仲間に運び去られたが――。
どこかで再生している、と純はおもっている。
さきほど腕を切りおとしたヤツだってもう腕はくっついている。
そうおもうべきだ。
始末に悪いヤッラなのだ。
どうにか、敵をたおして辺りを見たが先生がいない。
勝則がいない。
うめき声がする。
路地のおくだ。

「先生。お怪我を!!」
「外来種が、もうこの歌舞伎町に群れをなして定住している。しらなかった」
「ぼくのために。ぼくにこれを渡したので、先生は武器かなくて」
「そんなことはない。おやじのいうことを聞いてもっと拳法を学べばよかった」

お礼をいって、純は脇差を勝則に渡そうとした。
青い血をぬぐって黒さやに納めた剣を返そうとした。

「とっておけ。エクスキューターとして卒業した記念だ」
「これは……この戦いは卒業のための試練だったのですか」
「まさか、外来種の吸血鬼と遭遇するとはおもわなかった。不覚をとった」

先生の肩口から血がながれていた。

「心配するな。かすり傷だ。
その剣は「鬼切丸」と名づけられている鹿沼は稲葉鍛冶の名刀の一振りだ。
たいせつにしてくれ」

「おれは姿を消す。おまえも純、そうしろ。道場へはもどるな」
「塾は。翔子さんは」
「オヤジがいる。なんとかするだろう」
「文枝にはなにもいわないでおこう。
おれはここから旅に出る。
純もそうしたほうがいい。
あんな奴らと戦ったのでは2人だけでは勝ち目がない。
ヤッラの狙いはおれと純だ。
おれたちさえいなくなれば、家族には手をださないはずだ」

さきほど翔子が手にして吸血鬼と戦った剣も鬼切丸だ。
純が背後から吸血鬼に近づいた時、
純の鬼切丸はひとりでに鞘ばしった。
純が翔子に会えて懐かしくおもうより早く、
剣が鞘ばしったのだ。
「翔子さん。大人になったな。ぼくも会いたかった。ただいま」
翔子が泣きだした。


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