田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

連載開始 「さすらいの塾講師」 麻屋与志夫

2010-05-07 17:55:24 | Weblog
1 もどってきたぜ

1

那須野の広々とした展望が新幹線の車窓にひらけていた。
無線がつながりインターネットが使用可能となった。
PCにメールアドレスは登録してあった。
携帯はあれからなんども買い替えていた。
泉純は西早稲田の「ムラカミ塾」にメールを打った。

I’ll back at twilight.
「たそがれ時にはもどります」
これでいいのかな。
英作文はあまり得意ではなかった。
でも翔子への返信なのですこしきどってみた。
W大の学生だった5年前にアルバイトをさせてもらった学習塾の娘さんだ。
当時はまだ村上先生が健在で少林寺拳法の道場もかねていた。
SOSのメールを純のPCによこした翔子はまだ小学生だった。
いまはもう、高校2年生だろう。
 
トワイライト。
茜色の夕映え。
東西線の地下鉄階段を上った西早稲田の街にはもう街灯がともっていた。
青春の街。
早稲田。
鶴巻公園のベンチには恋人たちが宵のひとときをたのしんでいる。

トワイライト。
村上先生に助けられて吸血鬼と戦った記憶もあいまいとなっていた。

吸血鬼出現。エクスキューターの帰りをまつ。

それだけのメールだった。
よほどあわてていたのだろう。
差出人の名前はなかった。
それでじゅうぶんだった。
翔子の苦境はひしひしと伝わってきた。

新幹線なのにそのスピードがもどかしかった。
いまこの瞬間にも翔子が吸血鬼におそわれているかもしれないのだ。

頭上から黒い影がおそってきた。
池袋の街を照らしていた人工の光がさえぎられた。
その瞬時前、翔子は胸騒ぎがしていた。
予感にはすなおに反応するようにしこまれていた。
路上にころがって逃げた。
影は翔子の脇をあるいていたサラリーマンの喉元にくらいついた。
逃げだした翔子は不気味な音をきいた。
血が啜りこまれている音だ。

「現われた。ジイチャン、あれは吸血鬼よ。泉さんにメール打ったからね」 
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one bite please 一噛みして。おねがい。


コメント
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