田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

夜の一族/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-19 06:32:12 | Weblog
夜の一族

15

「すごいですね」
「ああ、とんでもないヤッラが、平気で街をあるいている。
ひとはじぶんに害をあたえるものが、
すぐ隣にいてもなにも気づかないから、
のんびりと生きていられるのだ。
人間に害意を持ったヤッラを排除するわたしたちに、
だから反感をいだく。悲しいことだ」
「わたしたちが、ここからのぞいているのに気づかれたみたい」

翔子が不安げな声でささやく。
たしかに、ヤッラの何人かが群衆の中からこちらを見あげている。
目が街灯に反射して赤くひかっている。
視線まで赤い。
赤い光を放っている。
障子が赤く染まる。
「ヤバイな。
そば屋のオヤジに迷惑はかけられない。店をでよう」
「あっ、お会計はわたしが」
「その財布を持っているんだ。
その四つ目の紋所は、夢道流のものの見印。
大切にな」
「わたしそんなことも知らなかった」

「裏口からでよう」

これも古風な障子の引き戸をあける。
路地だ。
路地の出口に赤い目の、黒のスーツ姿がたむろしている。
待ち伏せされていた。
ついてこい。
というように振り返りながらあるきだす。
いや、ふりかえっているわけではない。
首が百八十度回転している。

さきほど翔子と純が、
百目鬼と会った場所まで誘いこまれた。
「ルー・芝原だ。昨夜はおせわになったな」
 

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