田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

3 吸血鬼/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-13 06:44:04 | Weblog
3 吸血鬼

7

鉤爪が倍近くのびた。
あれでおそってくる。
雲のあいだから、月光がもれた。
爪が月の光をあびてきらめいている。
あれで戦う気だ。
体が武器でできている。
犬歯が乱杭歯が、金属的な光沢を放っている。
ストレートに爪がつきだされた。
純は十分にみきった。
野州夢道流の居合。
裂帛の気合とともに脇差をぬいた。
チヤリンと低いがたしかな手ごたえがあった。
鉤爪が虚空にきらめいた。
だが一本だけだ。
「小指の爪だけだ。でもこれでは耳かきにふべんだ」
吸血鬼がたどたどしい日本語で、負け惜しみをつぶやく。
「どうしてひとをおそう」
「血をすわないと生きていけない。おれたちは亜人間なのだ」
「どうして血をすう。だから、そうなっているのだ」
「わるいことをしているとは思わないのか」
「ひとがひとをナイフでおそう。
あの娘だっておれがやったのではない。
血をすこしのませてもらっただけだ」
「失血死だったろう。おまえが血を吸わなければ助かった」
なにをいっても世界観がちがう。
理解し合うことはできない。
ならば、成敗する。
純はあらためて片手正眼の構えをとった。
吸血鬼の目が赤光を帯びた。



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コメント
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