音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Kempffは、なぜ フランス組曲の Gigueで、tie を 2ヶ所取り去ったか■

2013-03-25 23:25:15 | ■私のアナリーゼ講座■

■Kempffは、なぜ フランス組曲の Gigueで、tie を 2ヶ所取り去ったか■
         ~第 3回  フランス組曲・アナリーゼ講座 のご案内 ~
                  2013.3.25    中村洋子


★3月 28日 KAWAI 表参道で、開催いたします

 「 第 3回   Französische Suite フランス組曲・アナリーゼ講座 」

のため、忙しい毎日です。

今回は、 フランス組曲 5番 の第 7曲目 Gigue ジーグ

について、お話いたしますが、

組曲とは何かを、より明確に理解していただくため、

Suite Nr.2 c-Moll  組曲 2番 BWV813 の Air と、

Suite Nr.4 Es-Dur 組曲 4番 BWV 815 の Air についても、

併せて、ご説明する予定です。


Französische Suiten フランス組曲 の直筆譜は、

「 Klavierbüchlein der Anna Magdalena Bach

アンナ マグダレーナ バッハのためのクラヴィーア小曲集 」 に、

収められた  「 初稿 」  しかありません。

この 「 初稿 」 も、新婚時代の Anna Magdalena Bach (1701~ 1760)

のために書いたもので、アンナの写譜も混在しているようです。

また、それ以降、Bach のたくさんのお弟子さんによる写譜も、

残されています。


★ここで、最も大事なことは、 「 最終稿 」 、あるいは、

「 生前の出版譜 」 が存在するかどうか、ということです。

Chopin  も同様ですが、Bach はお弟子さんの個性に合わせて、

教育していますので、Bach 自身による最終稿がない以上、

どれが正しいとは、いえません。


★このため、 Anna Magdalena Bach 小曲集 に収められた

「 初稿 」 の勉強が、最も重要でしょう。

この 2、4番の 「 Air」  を比較しますと、その類似点の多さに驚かされます。


★2番の楽譜は、1ページに大譜表が 3段レイアウトされた楽譜ですが、

 Air は、2段目の途中から、記譜が始まっているのです。

ということは、 「 Air」  を弾く際、その前の Sarabande の終わりが、

自然に、目に入ってくるのです。

これは、何を意味するのでしょうか。


★この 2番の Air は、見開き 2ページの 左ページから始まり、

右のページの、 2段目で終わります。

そして、 3段目に Bach は、第 7曲の ジーグ を書いています。

これは、完全な形ではなく、fragment です。

ジーグの spelling は、イタリア語の 「 Giga 」 となっています。


★現在の実用譜では、等しく 「 Gigue 」 に、と統一されていますが、

Bach は、Gigue と Giga とを、使い分けています。

組曲 4番の第 5曲 Air  も、見開き 2ページの左ページ 2段目から

書き始められ、右ページの 3段全部を使い、その下に、

小さく追加された カデンツが、あります。


★2番の Air よりは、長い曲ですが、この 2曲は、

調性も 2番が c-Moll ハ短調、4番が Es-Dur 変ホ長調と、

平行調の関係にあります。

調性は、両方とも、♭が 3つです。


★当ブログで、以前に、Bach の

「 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 」

全6曲の調性について、詳しくご説明したことがありますが、

Französische Suiten フランス組曲 6曲も、

この Bach の初稿を見ますと、

彼が、全6曲を大きな構想のもとに、

書き始めたことが、よく分かります。


★組曲 2番の Air の後に、Giga の fragment を書いたのは、

よく言われるように、余白があるから書き込んだのではなく、

設計図を思考錯誤しながら、書いているのでしょう。


★作曲をしている人ならば、それは、直ぐに分かることです。

Bach が何を思考していたのか、それを考えることが、

組曲とは何か、という答えに近づく一歩ですし、

それを、考えなければ、Bach の組曲は弾けないでしょう。


★ Französische Suiten  フランス組曲 全 6曲のなかに、

さりげなく配置されている 二曲の Air が、

それを解くカギに、なります。

 

 


★第 5番の 7曲目の ジーグは、単独でも演奏される素晴らしい曲です。

私の愛聴盤は、 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ (1895~1991)

と、Myra Hess マイラ・ヘス(1890 ~1965)の演奏です。

 Kempff 盤では、15小節目ソプラノ付点 8分音符の d2  (2点ニ音) と、

付点 4分音符の d2 の間をつなぐ 「 tie タイ 」  を、取り去り、 

d2 を、2回弾いています。

「 初稿 」 には、 「 tie タイ 」 が記載されています


★ジーグ後半の、 41小節目は、前半の 15小節目に対応する所ですが、

同じく、ケンプは、付点 8分音符の h2 (2点ロ音) と、

付点 4分音符の h2 の  「 tie タイ 」 も取り去り、

h2 を、 2回弾いています


★ケンプは、なぜ 「 tie タイ 」 を取り去ったのでしょうか。

これは、平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 1番 ハ長調 C-Dur 、

2番ハ短調 c-Moll の Bach 自筆譜を勉強いたしますと、

その答えが、見つかると思います。

講座で、詳しくお話したいと思います。


★このような分析をしますと、いままで全貌が隠れていた

Französische Suiten に、思いがけない光が当たり、

それが、垣間見られたような気がいたします。

1722年は、 Wohltemperirte Clavier Ⅰ

平均律クラヴィーア曲集 第 1巻が成立し、

Französische Suiten の初稿が書かれた、輝かしい年でした

 

 

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