音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■中山悌一先生と、シューベルトの歌曲「春に」「盲目の少年」■

2009-10-17 14:17:11 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■
■中山悌一先生と、シューベルトの歌曲「春に」「盲目の少年」■
                 09.10.17 中村洋子


★中山悌一先生が、9月29日にお亡くなりになってから、

20日ちかく、過ぎました。

先生を追悼し、月2回、カワイ・表参道で開いております

「アナリーゼ教室」で、シューベルトの「Der blinde Knabe

盲目の少年」D833.Op.post.101 no.2 1825年作曲を、

取り上げました。


★この曲は、私が、最も愛しているシューベルトの曲ですが、

中山先生も、“私が最も好きな曲”とおっしゃっていました。

偶然の一致に、驚いたことを、憶えています。


★Op.101は、4つの歌曲から成っていますが、

no.1は「Im Fruehling 春に」、no.2が「 盲目の少年」です。


★「春に」も、素晴らしい曲です。

先生のお通夜の会場「寛永寺・輪王殿」で、

先生が歌われた「春に」が、静かに、流れていました。


★「盲目の少年」と「春に」について、先生の話されたことと、

私の感じていることを、すこし、書いてみます。


★「盲目の少年」冒頭の2小節は、変ロ長調の主和音「 B-D-F 」の、

分散和音が、前奏としてピアノで奏されます。

各小節の3拍目は、低い「B」の音が、8分音符で2回

「トントン」と、メッツォスタッカートで、奏されます。


★中山先生は、この2小節を「ペダルを多く使い、

靄のかかったような伴奏をしなさい。

3拍目は、少年が、壁を触りながら歩く時のような音だ」と、

おっしゃっていました。


★その後、少年の言葉で「O sagt,ihr Lieben,mir einmal,

welch Ding ist's, Licht genannt ? 」の歌が始まります。


★日本のある楽譜では、「おお、親愛なる人々よ、

教えてください/光と呼ばれるものはどんなものなのですか?」

と、訳しています。


★小さい男の子は、こんな言葉は、使いません、

この訳は、直訳にしても変ですね。

「ねー、君たち、光って、どんなもの?」という内容でしょう。


★中山先生は、シューベルトの歌曲全般について、

「“偉大な”作品として、堅くとらえすぎ、

あまりに、大仰に構えて歌うのはどうか」とも、

苦言を、呈されていました。


★冒頭2小節は、フォーレの歌曲にもある、

デリケートで、繊細な響きです。

逆にいいますと、フォーレがいかにシューベルトから、

影響を受けているか、ということかもしれません。

この点については、いつか、また触れます。


★ピアノの奏法としては、非常に難しく、主和音の分散和音として、

無神経に弾くことは、避けたほうがいいでしょう。

要は、バッハの「平均律クラヴィーア曲集1巻の第1番前奏曲」の、

弾き方と同じで、分散和音の中から、多声部を見つけ出し、

対位法の音楽として、演奏する、ということです。

ショパンの「エチュード Op.25-1」についても、同じです。


★右手だけでも、「ソプラノと2つのアルトの3声」として扱い、

左手は、「2つのテノールとバスの3声」、さらに、

先ほど書きました“壁を触りながら歩くような“、

低いバスの保続音を、「1声部追加して、4声」となります。


★演奏の際は、7声部を、以前に、私が「暗譜の方法」で、

お話しました方法で、各声部を、さまざまな組み合わせで、

練習すると、音楽の構造がよく分かると、思います。


★6小節目のピアノパートは、Bdur 変ロ長調の「Ⅰ」から、

「Ⅵに行くための属七」の和音を、経て、

「Ⅵ」の和声進行に、なります。

このとき、内声に「 F-Fis-G 」の、半音階が出来ます。


★シューベルトが愛した、この和声進行と半音階を、

終生愛して、使い続けたのが、ロベルト・シューマンです。

シューマンが、1833~38年に作曲した

「 Sonata no.2 ピアノソナタ ト短調 」の、

第1楽章 第2テーマが、この和声進行です。


★「Im Fruehling 春に」D882 Op.post.101 no.1 1826年作曲 では、

中山先生は、「der Himmel ist so klar 空はそんなにも、澄んで」の

「derを、日本人は、強く歌い過ぎ、必要以上に目立ってしまう」と、

注意されていました。


★この場合、この曲の5小節目の最後の音が「der」で、

6小節目の頭「Himmel」にかけての、アウフタクトです。

「der」は、冠詞ですので、弱調で歌うべきでしょう。


★17小節目後半の、ピアノ間奏について、先生は、

この部分を、前の部分の後奏として扱い、

「この後奏は、前の音楽を引き受けて、次の音楽に移る部分であり、

ritenuto リテヌートし、18小節目では、a tempo アテンポする」

「ドイツに留学していた頃、晩年のエドウィン・フィッシャーによる、

この曲の演奏を聴いて、憶えました」


★フッシャーの名演を聴き、そこから、瞬時に学び取った中山先生。

素晴らしい演奏家は、このように、学んでいくものですね。


                     (亀末広の干菓子Ⅱ)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■私の「チェロ組曲第2番」が... | トップ | ■ インヴェンションのお薦め... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■ 感動のCD、論文、追憶等■」カテゴリの最新記事