■Chopin の演奏はこうであったろう、と思わせるハスキルの歴史的名演■
2013.11.25 中村洋子
★Frederic Chopin ショパン (1810~1849)の 「 Piano Concerto No.2 」
「ピアノ協奏曲第 2番 Op.21」 f-Moll を勉強しております。
Chopin が19歳の作品です。
現存する自筆譜は、ピアノソロの部分を Chopin が書き、
オーケストラパートを、別の人が初期稿 ( 現在は紛失 ) を写した、
と言われています。
★しかし、 Chopin の書いたピアノソロ部分を見るだけでも、
Chopin の作曲意図が、鋭敏に伝わってきます。
さらに、この曲を Chopin がどのように演奏したか、
ということまで、想像できるのです。
★なぜ、 Chopin の演奏まで想像できるか、その第一の理由は、
Fingering の書き込みにあります。
第 2楽章の 77小節目 右手 3、 4拍目の下行音階、
第 3楽章の 5、 6、 7 小節目の 右手の下行半音階、
同 3楽章の 65小節目 両手のアルペジオなど数か所に、
彼自身の演奏用に、Fingering が、書き込まれています。
大変に独創的な Fingering です。
★これは、 Chopin が、
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 に、
書き込んだ Fingering と、実は、全く同じ発想で書かれています。
現在、KAWAI横浜 「 みなとみらい 」 で開催中の、
「 Chopin が見た平均律・アナリーゼ講座 」 で、勉強している最中でもあり、
そうであると、明確に判断できます。
★ということは、 「 Piano Concerto No.2 」 の Fingering が、
わずか、数か所であっても、
「 平均律 」 に、 Chopin が書き込みました Fingering から、
逆に、この 「 Piano Concerto No.2 」 を、
≪ Chopin がどう演奏したかったか ≫、について、
推測することが、可能なのです。
★第二の理由は、Pedal 記号です。
「 Piano Concerto No.2 」 の自筆譜を、
Pedal ペダルについて、子細に見ますと、例えば、
「 Etude Op.25-1 As-Dur 」 で、緻密に書き込まれた Pedal と、
発想が、同一なのです。
★これは、一般的な Chopin 像、つまり、
大雑把で雑なペダルにより、彼の和声や countepoint 対位法 が
曖昧にされた結果、ムードたっぷり、
甘いロマンチックな曲をつくった Chopin という像とは、
かけ離れた世界です。
Chopin の Pedal は、一点一画を揺るがすことのない、
清潔な Pedal です。
★ 「 Etude Op.25-1 」 の Pedal を、自筆譜で勉強しますと、
和声の変化を Pedal で、どう表現するかを、
よく学ぶことができます。
★第三の理由は、 slur スラー の書き込みです。
フレージングを表す slur スラー は、とても繊細です。
芳しい香りが、花びらから漂ってくるかのようです。
実用譜の、符頭から符頭へと、固く凍り付いたように、
官僚的に引かれた slur とは、全く異なり、
slur が始まる場所と、終わる場所が変幻自在です。
本当に、弾きやすく感じます。
★この自筆譜を見て、演奏しますと、 Chopin 先生から
直接、レッスンを受けているかのようです。
★一例として、第 1楽章の初めて、ピアノソロが演奏される、
71小節目以降の slur を見てみましょう。
見慣れた実用譜とは、180度違っています。
★右手 74小節目から 78小節目 2拍目の終わるところまでを、
BREITKOPF のスコアでは、たった1本の大きな slur で、
括られていますが、自筆譜では、4つの slur スラー が、
描かれています。
試行錯誤した跡も自筆譜には残っており、5つの slur スラー と、
とることも、できるかもしれません。
どうぞ、ご自身でお確かめください。
★特に、顕著な例は、77小節目の 1拍目 ~ 3拍目の
4分音符 as1 ( 1点変イ音 ) は、その音が終わった後まで、
slur が黒々と延び、4拍目の4分音符 f1 ( 1点へ音 ) の始まる前から、
また新しく、 slur が始まっています。
★実用譜の編集者は、これを 1本の slur として、繋げてしまうのですが、
Chopin自身は、4拍目の f1 音を 、78小節目の Auftakt アウフタクトと、
感じつつ、 77小節目全体を legatoで弾いていたことでしょう。
この場合の Fingering も、上記の勉強をしていましたならば、
ある程度、推測がつきます。
★このように、自筆譜を眺めながら、 Clara Haskil
クララ・ハスキル (1895年 - 1960) の CDで、
「 Piano Concerto No.2 」 を、聴きますと、
Chopin その人の演奏ではないか、と思われるほど、
同じ、発想で弾かれていることに、驚かされます。
真摯に勉強を続けた成果として、結果的に、
作曲家の発想に到達する、ということです。
これは、 Clara Haskil 最晩年の、
かけがえのない名演です。
★楽器店で、現代日本のピアニストのビデオが、
宣伝用に、よく放映されています。
ときどき、通りすがりに見てみますと、
音楽とは関係のない、大げさなジェスチャー、
うっとりと恍惚とした表情など、音楽そのものを聴かせるのではなく、
体の表現を見せる芸、であるかのように感じ、辟易します。
ハスキルの世界とは、対極的な世界でしょう。
★私が聴きましたClara Haskil の CDは、
Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire de Paris
conducted by Rafael Kubelik
Recorded live 31 January 1960 Paris
★KAWAI横浜 「 みなとみらい 」 での
「 Chopin が見た平均律・アナリーゼ講座」は、
12月9日 (月) 10時~12時30分
第 17回 平均律 第 1巻 第 17番 As - Dur 変イ長調です。
■予約:045ー261ー7323 KAWAI横浜
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。
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