音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Chopin の演奏はこうであったろう、と思わせるハスキルの歴史的名演■

2013-11-25 22:24:32 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Chopin の演奏はこうであったろう、と思わせるハスキルの歴史的名演■
                2013.11.25   中村洋子

 


Frederic  Chopin ショパン (1810~1849)の 「 Piano Concerto No.2 」

「ピアノ協奏曲第 2番 Op.21」 f-Moll  を勉強しております。

 Chopin  が19歳の作品です。

現存する自筆譜は、ピアノソロの部分を Chopin  が書き、

オーケストラパートを、別の人が初期稿 ( 現在は紛失 ) を写した、

と言われています。


★しかし、 Chopin の書いたピアノソロ部分を見るだけでも、

 Chopin の作曲意図が、鋭敏に伝わってきます。

さらに、この曲を Chopin がどのように演奏したか、

ということまで、想像できるのです。


★なぜ、 Chopin  の演奏まで想像できるか、その第一の理由は、

Fingering の書き込みにあります。

第 2楽章の 77小節目 右手 3、 4拍目の下行音階、

第 3楽章の 5、 6、 7 小節目の 右手の下行半音階、

 
同 3楽章の 65小節目 両手のアルペジオなど数か所に、

彼自身の演奏用に、Fingering が、書き込まれています。

大変に独創的な Fingering です。


★これは、 Chopin が、

「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 に、

書き込んだ Fingering と、実は、全く同じ発想で書かれています。

現在、KAWAI横浜 「 みなとみらい 」 で開催中の、

「 Chopin  が見た平均律・アナリーゼ講座 」 で、勉強している最中でもあり、

そうであると、明確に判断できます。




★ということは、 「 Piano Concerto No.2 」 の Fingering が、

わずか、数か所であっても、

「 平均律 」 に、 Chopin が書き込みました Fingering から、

逆に、この 「 Piano Concerto No.2 」 を、

≪ Chopin がどう演奏したかったか ≫、について、

推測することが、可能なのです。


★第二の理由は、Pedal 記号です。

 「 Piano Concerto No.2 」 の自筆譜を、

Pedal ペダルについて、子細に見ますと、例えば、

 「 Etude Op.25-1 As-Dur 」 で、緻密に書き込まれた Pedal と、

発想が、同一なのです。


★これは、一般的な Chopin 像、つまり、

大雑把で雑なペダルにより、彼の和声や countepoint 対位法 が

曖昧にされた結果、ムードたっぷり、

甘いロマンチックな曲をつくった Chopin という像とは、

かけ離れた世界です。

 Chopin  の Pedal は、一点一画を揺るがすことのない、

清潔な Pedal です。


「 Etude Op.25-1 」 の Pedal を、自筆譜で勉強しますと、

和声の変化を Pedal で、どう表現するかを、

よく学ぶことができます。






★第三の理由は、 slur スラー の書き込みです。

フレージングを表す slur スラー は、とても繊細です

芳しい香りが、花びらから漂ってくるかのようです。

実用譜の、符頭から符頭へと、固く凍り付いたように、

官僚的に引かれた slur とは、全く異なり、

 slur が始まる場所と、終わる場所が変幻自在です。

本当に、弾きやすく感じます。


この自筆譜を見て、演奏しますと、 Chopin  先生から

直接、レッスンを受けているかのようです。


★一例として、第 1楽章の初めて、ピアノソロが演奏される、

71小節目以降の slur を見てみましょう。

見慣れた実用譜とは、180度違っています。


右手 74小節目から 78小節目 2拍目の終わるところまでを、

BREITKOPF のスコアでは、たった1本の大きな slur で、

括られていますが、自筆譜では、4つの slur スラー が、

描かれています。

試行錯誤した跡も自筆譜には残っており、5つの slur スラー と、

とることも、できるかもしれません。

どうぞ、ご自身でお確かめください。






★特に、顕著な例は、77小節目の 1拍目 ~ 3拍目の

4分音符 as1  ( 1点変イ音 ) は、その音が終わった後まで、

 slur が黒々と延び、4拍目の4分音符 f1  ( 1点へ音 ) の始まる前から、

また新しく、 slur が始まっています。


実用譜の編集者は、これを 1本の slur として、繋げてしまうのですが、

 Chopin自身は、4拍目の f1 音を 、78小節目の Auftakt アウフタクトと、

感じつつ、 77小節目全体を legatoで弾いていたことでしょう。

この場合の Fingering も、上記の勉強をしていましたならば、

ある程度、推測がつきます。


★このように、自筆譜を眺めながら、 Clara Haskil

クララ・ハスキル (1895年 - 1960) の CDで、

  「 Piano Concerto No.2 」 を、聴きますと、

Chopin  その人の演奏ではないか、と思われるほど、

同じ、発想で弾かれていることに、驚かされます。

真摯に勉強を続けた成果として、結果的に、

作曲家の発想に到達する、ということです。

これは、 Clara Haskil 最晩年の、

かけがえのない名演です。







★楽器店で、現代日本のピアニストのビデオが、

宣伝用に、よく放映されています。

ときどき、通りすがりに見てみますと、

音楽とは関係のない、大げさなジェスチャー、

うっとりと恍惚とした表情など、音楽そのものを聴かせるのではなく、

体の表現を見せる芸、であるかのように感じ、辟易します。

ハスキルの世界とは、対極的な世界でしょう。


★私が聴きましたClara Haskil の CDは、

Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire de Paris
conducted by Rafael Kubelik
Recorded live 31 January 1960  Paris 



★KAWAI横浜 「 みなとみらい 」 での

「 Chopin  が見た平均律・アナリーゼ講座」は、

12月9日 (月) 10時~12時30分

第 17回 平均律 第 1巻 第 17番 As - Dur 変イ長調です。
 
■予約:045ー261ー7323  KAWAI横浜


★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

 全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。


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