音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■マタイ受難曲と、インヴェンション&シンフォニア9番との密接な関係■

2009-04-16 23:55:58 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■
■マタイ受難曲と、インヴェンション&シンフォニア9番との密接な関係■
                  09.4.16 中村洋子


★4月24日のアナリーゼ講座「インヴェンション9番」に向け、

「マタイ受難曲」と「ロ短調ミサ」を、じっくり勉強しております。


★「マタイ受難曲」の初演は、「1727年4月11日」ですから、

インヴェンション序文の日付「1723年」から、

4年後、ということになります。

ただし、両曲とも、一気に書かれてはいませんので、

どちらが、先に作曲されたかは、分かりませんが、

ほぼ、同時期に完成された、といえましょう。


★バッハの死後に、マタイ受難曲が全曲、

演奏されたのは、「1829年3月21日」です。

初演から102年後、没後79年目の、バッハの誕生日です。

それを指揮したのは、その時、20歳だった

フェリックス・メンデルスゾーンです。


★しかし、二男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハが、

バッハの死後も、マタイ受難曲を部分的に、再演していますから、

決して、完全に忘れ去られていたわけではなく、

聴くべく人は、聴いていたことでしょう。

楽譜を見て、研究した人も、人知れずいたかもしれません。


★メンデルスゾーンの再演を、契機に、

マタイ受難曲は、19世紀になってから、

活火山のように一気に、あるべき位置、即ち、

音楽史上の最高傑作の一つ、に据えられ、

いまに至るまで、すべての優れた作曲家に、

影響を、与え続けています。


★優れた作品の例に漏れず、マタイ受難曲でも、

第一曲目が、全曲を支配しています。

音楽的なモティーフや、調性、リズムなどの点について、

それが、当てはまりますが、

詩の「語句」も、全曲を構成する、

重要な要素と、なっています。


★その「aus Liebe」 と 「Erbarme dich」 という語句が、

要の役割を、果たしています。

Erbarme dich, Mein Gott・・・ は、

「わが神よ、憐れんでください・・・」という意味ですが、

この重要な語句は、受難曲全体の、ほぼ中間に位置する

アリアの、冒頭でも、歌われます。

重要な語句です。


★aus Liebe は、「愛のゆえに」という意味で、

この語は、受難曲のほぼ、3分の2のところにある、

Aus Liebe will Heiland sterben

「愛ゆえに、イエスは死のうとしています」

というアリアでまた、出てきます。

このアリアは、マタイ受難曲の頂点、と

いえるかもしれません。


★マタイ受難曲は、劇的な場面も多く、そちらに、

つい、気を奪われてしまいがちですが、

バッハが、最も表現したかったのは、

この深く、静かな2つのアリアであり、

そのために、2分の1、3分の2、という、

構造的に、最も重要な位置に、設計して据えた、

と、私は考えます。


★Erbarm dich の旋律は、

「ヴァオリンとオブリガートチェンバロのためのソナタ4番」の、

1楽章にも、使われています。

バッハが、大変に愛した旋律だったのでしょう。


★バッハは、鍵盤作品には、あまり、

アーティキュレーションを、記入していません。

しかし、アリア「aus Liebe」 の器楽による伴奏パートには、

バッハ自身が、アーティキュレーションを、

とても細かく、書き込んでいます。


★「aus Liebe」で、アーティキュレーションが、

記入されている音形を、

アーティキュレーションが、記入されていない、

バッハの鍵盤作品の音形に、当て嵌めますと、

ピアノで、バッハ作品を演奏される場合、

とても、参考になります。


★この 「aus Liebe」 のアリアや、

ロ短調ミサ曲に使われている半音階と、

シンフォニア9番との関連、さらに、

「aus Liebe」 の3度下行、2度上行の音形の意味と、

シンフォニア9番との関連についても、

4月24日に、お話するつもりです。



★ピアニストとって、マタイ受難曲や、ロ短調ミサの、

アリアを聴き、その器楽伴奏部分を、研究することにより、

バッハへの理解が、より深まり、

ピアノに、向かっているだけでは、

見えないバッハの世界が、眼前に、

広々と、展開してくることでしょう。

                  (写真は、牡丹の花です)


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