■「ラヴェルの作品全集」CDは、魅力たっぷり■
~Ravel 演奏のピアノ曲、本人指揮のBoleroなど~
2024.10.31 中村洋子
(銀杏)
★先月ブログは、映画「ボレロ 永遠の旋律(Bolero)」でしたが、
その後、我が家の「積ん読」CDの山を見ましたら、
思わぬ宝の山が顔を出しました。
未読ならぬ、未聴CDでした、あぁ、もったいない!
★Warner Classicsの「Ravel ラヴェル作品全集」(CD21組)です。
https://tower.jp/item/5066060
未出版作品、未完成、スケッチなどを除き、Maurice Ravel
モーリス・ラヴェル(1875-1937)のほぼ全作品が、
ワーナークラシックスとエラートの新旧音源から収録されています。
★「Box CD」の利点は、演奏家を選ぶことが出来ない代わり、
今まで聴くことのなかった作品や、埋もれていた作品などを、
探し回ることなく、瞬時に百科辞典のように活用できる事です。
現在はネットで、名曲を検索して聴くことも容易ですが、
やはり、きちんとしたCDで、良いオーディオ機器で聴くことが、
私は好きです。
★「Box CD」には時々、"おまけ”の「ボーナスCD」が入っています。
マエストロ指揮者の、リハーサル風景の録音であったり、
作曲家本人の珍しい演奏やインタビューなど、興味津々の
内容が多く、CD全集の隠れた魅力です。
私にとっては、これも目当の一つです。
★今回の21枚の中で、4枚はボーナスCDで、歴史的録音です。
ラヴェル本人によるピアノ作品の自演や、本人の指揮による
オーケストラ作品の演奏も、含まれています。
私は以前から、作曲家の自作自演が収められているCDを、
気が付いた時には必ず求め、集めてはいましたが、
歴史的価値は高くても、雑音が多く、音楽として楽しめる録音は
少ないように感じていました。
★しかし、最近はマスタリング技術の進歩により、雑音だけを
綺麗に取り除き、最近の録音かと間違うような、聴きやすい、
見事なCDが増えています。
★この「Box CD」は、マスタリングも良く、歴史的価値だけでは
なく、音楽としても、十分に楽しめました。
特に、前回ブログで書きました「ボレロ Bolero」も、
17枚目の 「Ravel conducts Ravel 」に収められていました。
★私は、当世風の「Bolero」の演奏はどうも好きではなく、
この曲に関しては、いつも距離感を感じていたのですが、
ラヴェル本人が指揮した「Bolero」を聴きますと、すべて納得。
「何というデリケートで、美しい曲なのだろう!」と感嘆しました。
★この曲をRavelに委嘱した、ロシア出身のバレリーナ、
Ida Rubinstein イダ・ルビンシュタイン(1885-1960)さんの
解釈は、あまり好きではありません。
彼女の解釈に、後世の指揮者が振り回されたしまった、
とも言いえなくもないでしょう。
それを気付かせてくれた、映画監督のAnne Fontaine
アンヌ・フォンテーヌ(1959~)さんは、Ravelの音楽を深く理解し、
心から愛している人であると、実感しました。
★Ravelは、Robert Schumann(1810-1856)シューマン作曲
≪Carnaval 謝肉祭≫Op.9も、ロシア出身のバレーダンサー
Vaslav Nijinsky(1890-1950)ヴァーツラフ・ニジンスキーのために、
1914年にオーケストラ編曲しています。
この「Box CD」では、Emmanuel Krivine エマニュエル・
クリヴィヌの指揮で、リヨン国立管弦楽団が演奏しています。
★Ravelは、1911年に≪Valses nobles et sentimentales
高雅で感傷的なワルツ≫のピアノ独奏版、翌年は、管弦楽版を
作曲しています。
1914年の「シューマン謝肉祭」の編曲も、この「valseワルツ」に
対する、興味の延長線上にあったのかもしれません。
SchumannとRavelという両大作曲家が、混然一体となった、
得も言われぬ、素晴らしい演奏でした。
(ツワブキ)
★12枚目のCDには、Chabrier シャブリエ(1841-1894)や
Debussy ドビュッシー(1862-1918)等の作品を、
Ravelがオーケストレーションした管弦楽曲も含まれており、
「珍しい作品を聴くことができる」というBox CDの
醍醐味を味わえます。
★Ravelは、「Bolero ボレロ」を、2台ピアノのために
編曲しています。
「Bolero pour 2 Pianos à quatre mains par l'AUTEUR」。
私の推測ですが、「Bolero ボレロ」の初演を行うために、
バレーの「リハーサル用」に、書かれたものではないでしょうか。
リハーサルでは、その都度オーケストラを使うことはできず、
現代のような、簡便な録音技術もありませでした。
★このBox CDにも「2台ピアノのためのBolero」はありますが、
私にとりましては、残念な演奏でした。
ピアノをピアノ本来の音でなく、オーケストラに似せた音の様に
手を加えて、処理してありました。
それでしたら、オーケストラ原曲を聴いた方が楽しいと思います。
ピアノの本来の音で、微妙にタッチや表現を変えて、
オーケストラを髣髴させる様な、豊饒な演奏を聴きたいのです。
(黄色になり始めた柚子)
★入手が難しそうですが、
「世界の名ピアニストたち モーリス・ラヴェル」というCDがあります。
https://tower.jp/item/483477
これは、1904~35年にかけて「ペーパー・ロール」に記録されていた
演奏を、デニス・コンドンという方が収集したものです。
★ラヴェル本人や、歴史的ピアニストたちによる
「ラヴェルのピアノ独奏曲」の演奏を集めたものです。
この中に、スイス出身でアメリカで活躍したRudolf Ganz
ルドルフ・ガンツ(1877-1972)というピアニストの「Bolero」の
演奏も入っています。
どうもこの難曲を、二人でなく、一人で弾いているようです。
解釈云々ではなく、「面白い、凄い」演奏で、いつも頬を
緩めながら、楽しく聴いています。
飽きずに聴けるのは、やはり現代の「冷たいサーカス」とはどこか
違い、「時代の余裕」があったように感じるからでしょうか?
★「Box CD」にお話を戻しますと、
これを手に取った時に、何となく温かみを感じました。
時折「Box CD」には、かつての名演を安価に、寄せ集めて
「投げ売り」と言った体裁のものも、見かけられます。
ところがこれは違います。
お座なりではない立派なブックレット付きなのです。
★映画「ボレロ 永遠の旋律 Bolero」には、監督をはじめ、俳優
や製作者の、ラヴェルに対する「尊敬と愛情」が滲んでいました。
このCD 《Maurice RAVEL The COMPLETE WORKS》も同じです。
ブックレット巻頭は、見開き左頁がラヴェルの肖像写真。
右頁には、ラヴェルの「自筆譜」スコアが掲載されています。
≪Autograph score of Bolero’s transcription for
two pianos,four hands,1929≫(自筆譜スコア 二台ピアノのための
「ボレロ」の編曲、1929年)と、書かれています。
★「なんとセンスが良いのでしょうか!」
ページをめくると、イギリスの音楽学者のRoger Nichols(1939- )
ロジャー・ニコルスの≪MAURICE RAVEL : THE PIRATE AND
THE CLOCKMAKER≫という詳細な論文が、13頁にわたって、
まずは英文で掲載され、そしてその仏訳、独訳と続きます。
海外のCDの優れた点は、真摯で力のこもった解説を読むことが
できることです。
日本のCDのブックレットは、孫引きや、お粗末な解説が多く
見られ、がっかりすることが多いです。
(鶏頭)
★私はCD購入時、海外盤と日本盤がある場合、迷わず
海外盤を選びます。
Roger Nichols ロジャー・ニコルスは、稀有な音楽学者です。
彼が心を込めて、渾身のラヴェル論を展開しているのです。
「ラヴェルのピアノの楽譜はどれがよいでしょうか」と、お尋ね
を受ける際、私は「Edition Peters Urtext Edition by Roger Nichols
ロジャー・ニコルス校訂ペータース原典版」を、お薦めしています。
★Ravel「Sonatine for Solo Piano ピアノ独奏のための
ソナティネ」を例にとりますと、
https://www.academia-music.com/products/detail/33132
ニコルスは《The fingerings are all taken from Ravel's
corrected copy of first edition》(fingering指使いは、初版譜に
ラヴェルが書き込んだものです)と注釈があり、楽譜にはラヴェルの
fingeringのみが、記入されています。
★これは曲の解釈上、非常に有益なラヴェル本人による提案であり、
勿論、曲を「弾きやすくする」ためのsuggestionではありません。
機会がございましたら、是非目を通してみてください。
《Maurice RAVEL The COMPLETE WORKS》を「積ん読CD」の
山から救出して、ほっと胸をなでおろしています。
★今回はRavelの最も有名な編曲作品、Mussorgsky
ムソルグスキー(1839-1881)「展覧会の絵」の
オーケストレーションについて、書くつもりでしたが、
これはまた次回の、お楽しみといたします。
★ムソルグスキーを「発見」し、"しゃぶり尽くす"ように勉強
した最初のフランスの作曲家は、Claude Debussy
クロード・ドビュッシー (1862-1918)でしょう。
彼の「子供の領分」には、いたるところにムソルグスキーの
痕跡が見られます。
ラヴェルもムソルグスキー研究では人語に落ちないと言えます。
「展覧会の絵」の編曲は、委嘱された仕事とはいえ、
ムソルグスキー勉強の好機と捉えて、引き受けた仕事でしょう。
ムソルグスキーがフランス音楽に与えた影響は、図り知れません。
その響きも、この「Box CD」から味わってみたいと思っています。
(ツワブキの花から蜜を吸う蝶)
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