■バッハ「インヴェンション」のエドウィン・フィッシャー版■
09.4.25 中村洋子
★第9回バッハ・ インヴェンションアナリーゼ講座を24日、
カワイ表参道「パウゼ」で、開催いたしました。
今回は、曲集の頂点である
「インヴェンション&シンフォニアの9番」でした。
★この9番と、マタイ受難曲やロ短調ミサ の中で、
要の役割を果たしている、いわば、
Hoehepunkt (頂点) の曲とが、
作曲技法などの面で、多くの共通点をもつことも、
実際に、マタイ受難曲のアリアの一部などを、
聴き、それをピアノでも音にしながら、お話ししました。
★原典版として、ベーレンライター版、ヘンレ版、
ウィーン原典版と、バッハの手稿譜および、
ピアニストの校訂譜との、比較もいたしました。
原典版でも、手稿譜をどのように解釈するかによって、
全く異なったスラーの、付け方になってしまい、
アーティキュレーションに、大きな影響を
及ぼすことを、お話しました。
★私の結論は、“ 原典版の、これが唯一最良である・・”
といった、「決定版」は存在しない、ということです。
研究が進めば進むほど、その新しい成果をどう、解釈するか、
謎が、さらに深まっていきます。
これは、ショパンやドビュッシーの
原典版について言えることと、同じです。
★今回は、歴史的ピアニストによる校訂版の勉強も、
絶対に欠かせない、ということも、実例を挙げて、
説明いたしました。
エドウィン・フィッシャーEdwin Fischer (1886~1960年)の、
「Dreistimmige Inventionen (3声のインヴェンション)」
(Edition Wilhelm Hansen) は、
大ピアニスト エドウィン・フィッシャーの、
不朽の、名校訂です。
★シンフォニア9番の全体について、
フィッシャーは、≪ラルゴ Largoで、
「この感動的な嘆き悲しむ歌
~Dieses ergreifend Klagelied を、
歌うようにレガートで、弾きなさい」≫と、
冒頭に、記しています。
★1小節目から2小節目にかけての、
第一対主題である、バスの動きを、
Das " Passionsmotiv" として、
die chromotisch absteigenden
Viertel weich aber klangvoll
と注釈を、付けています。
その意味は、
≪このバスの動きは、「受難のモティーフ」であり、
半音階で下行していく四分音符は、柔らかく、
しかし、よく響かせて、弾くべきである≫
★この曲の内容が、一気に把握できる、
適確無比な注であると、思います。
33小節目に現れる、この曲での最高音「 C 」については、
≪klagend (苦しみ)を訴えるように≫と、記しています。
★フランス語とイタリア語訳も、併記されていますが、
各々、lamentant 、lamentoso となっています。
スイス人で、ドイツで活躍したピアニスト、
エドウィン・フィッシャーの 「klagend」 という言葉は、
大変、切実に響き、この音が、35小節のこの偉大な曲の、
頂点である、ということを示し、それがよく伝わります。
★あたかも、大ピアニストから、
個人レッスンを、受けているかのような、
錯覚を起こさせる、この校訂版の、
音楽的想像力、創造力に満ちた「注」を、
皆さまも、是非ご覧になってください。
★次回の「第10回 インヴェンション・アナリーゼ講座」は、
5月21日(木)10時~12時半、
「インヴェンション&シンフォニア10番」です。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.4.25 中村洋子
★第9回バッハ・ インヴェンションアナリーゼ講座を24日、
カワイ表参道「パウゼ」で、開催いたしました。
今回は、曲集の頂点である
「インヴェンション&シンフォニアの9番」でした。
★この9番と、マタイ受難曲やロ短調ミサ の中で、
要の役割を果たしている、いわば、
Hoehepunkt (頂点) の曲とが、
作曲技法などの面で、多くの共通点をもつことも、
実際に、マタイ受難曲のアリアの一部などを、
聴き、それをピアノでも音にしながら、お話ししました。
★原典版として、ベーレンライター版、ヘンレ版、
ウィーン原典版と、バッハの手稿譜および、
ピアニストの校訂譜との、比較もいたしました。
原典版でも、手稿譜をどのように解釈するかによって、
全く異なったスラーの、付け方になってしまい、
アーティキュレーションに、大きな影響を
及ぼすことを、お話しました。
★私の結論は、“ 原典版の、これが唯一最良である・・”
といった、「決定版」は存在しない、ということです。
研究が進めば進むほど、その新しい成果をどう、解釈するか、
謎が、さらに深まっていきます。
これは、ショパンやドビュッシーの
原典版について言えることと、同じです。
★今回は、歴史的ピアニストによる校訂版の勉強も、
絶対に欠かせない、ということも、実例を挙げて、
説明いたしました。
エドウィン・フィッシャーEdwin Fischer (1886~1960年)の、
「Dreistimmige Inventionen (3声のインヴェンション)」
(Edition Wilhelm Hansen) は、
大ピアニスト エドウィン・フィッシャーの、
不朽の、名校訂です。
★シンフォニア9番の全体について、
フィッシャーは、≪ラルゴ Largoで、
「この感動的な嘆き悲しむ歌
~Dieses ergreifend Klagelied を、
歌うようにレガートで、弾きなさい」≫と、
冒頭に、記しています。
★1小節目から2小節目にかけての、
第一対主題である、バスの動きを、
Das " Passionsmotiv" として、
die chromotisch absteigenden
Viertel weich aber klangvoll
と注釈を、付けています。
その意味は、
≪このバスの動きは、「受難のモティーフ」であり、
半音階で下行していく四分音符は、柔らかく、
しかし、よく響かせて、弾くべきである≫
★この曲の内容が、一気に把握できる、
適確無比な注であると、思います。
33小節目に現れる、この曲での最高音「 C 」については、
≪klagend (苦しみ)を訴えるように≫と、記しています。
★フランス語とイタリア語訳も、併記されていますが、
各々、lamentant 、lamentoso となっています。
スイス人で、ドイツで活躍したピアニスト、
エドウィン・フィッシャーの 「klagend」 という言葉は、
大変、切実に響き、この音が、35小節のこの偉大な曲の、
頂点である、ということを示し、それがよく伝わります。
★あたかも、大ピアニストから、
個人レッスンを、受けているかのような、
錯覚を起こさせる、この校訂版の、
音楽的想像力、創造力に満ちた「注」を、
皆さまも、是非ご覧になってください。
★次回の「第10回 インヴェンション・アナリーゼ講座」は、
5月21日(木)10時~12時半、
「インヴェンション&シンフォニア10番」です。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲