音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■野町和嘉さんの写真展「聖地巡礼」、日本の歪みを映す鏡■

2009-04-12 17:39:37 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■
■野町和嘉さんの写真展「聖地巡礼」、日本の歪みを映す鏡■
                  09.4.12  中村洋子


★私の大好きな写真家・野町和嘉さんの写真展「聖地巡礼」が、

恵比寿・東京都写真美術館で、開かれています。

メッカの「カーバ神殿」での、イスラム巡礼者の、

撮影に関する、随筆を読んでから、ファンとなり、

品川での写真展「地球巡礼」(2005年)で、

初めて、本物の彼の作品に、触れることができました。


★その折、一時間ほど、写真を一つ一つご説明してくださり、

その暖かなお人柄と、日本の尺度には入りきれない真の、

国際的な芸術家であることにも、心を打たれました。

また、偶然にも、野町さんの奥様・榎並悦子さんが、

ギターの斎藤明子さんの、プロフィール写真を、

撮影されていることを知り、驚きました。


★昨11日は、野町さんが会場で直接、

解説される日でしたので、楽しみにして、

見に行って、まいりました。


★野町さんはこれまで、インドの取材を、

「とても、太刀打ちできない」と、避けられていたそうですが、

5年前から、やっと取材を始め、精力的に訪れているそうです。


★この写真展の中心は、そのインド、インドのガンジス河、

聖なるガンジスへと巡礼する、何億人もの人々の群れです。

シバ神を信仰する人々は、ガンジスの聖水に身を浸し、

沐浴することで、罪が清められ、遺灰を流すことで、

天国に生まれ変わると、信じています。


★ガンジス河は、ヒマラヤ氷河から、

2500キロを流れ、ベンガル湾に注ぎます。

その途中に、たくさんの聖地があります。

12年に1回の「クンプ・メーラ」という祝日は、約1ヵ月続き、

1日だけで1800万人、総計、何億人もの巡礼者が、押し寄せます。

インド最大の、国民的行事だそうです。


★写真は主に、ヒマラヤとベンガル湾との中間にある、

ガンジス河畔の「アラハバート」と、

「バラナシ」という聖地で、撮影されています。


★未明のガンジス河、野球のナイターのような照明が、

ギラギラと川面に反射、川岸には、ウンカかアリの集団のように

くすんだターバンやサリーの民衆が、夜明けを待っています。

無限大の果てまで、同じアリのような集団が、

米粒のように、写っています。


★チケットの写真は、極彩色のサリーを纏った女性たちが、

小船に満載されて、上流のシバ寺院に、向かう光景です。

未明の、出立です。


★圧巻は、「サードゥー」という世俗と断縁した、

行者になる人々の、入門式の光景。

頭を丸め、ほぼ全裸。

壮年から老人まで、さまざまな人たち。

お団子をこねて作り、それを河に流します。

「ピンダ」というお団子は、普段は、死者の弔い用。

ここで、家族や俗世間との訣別をするのです。

自分の“葬式”を、出しているのです。

それ以降、祈りと托鉢の日々に入ります。



★聖なる日の沐浴は、このサードゥーが何十万人も、

裸で行進して、信者を先導して、河に入ります。


★サードゥーは、死して火葬されず、

河に、流されます。

そして、その遺骸が岸辺に流れ着きますと、

犬たちが、生の輪廻で、それを食します。

その川辺の光景、犬たちの写真は、

不思議な静けさを、もっています。

残酷さとは、異質の世界です。


★野町さんの平易な言葉は、写真と同じ様に、

力があり、聴く人の心に残ります。

印象に残った言葉・・・。


★≪「祈り」つまり、宗教とは、家族の絆のようなもの。

絆はとても強く、深いところで、安心感がある。

支えあっている、ということかも≫

祈りと托鉢の日々の、サードゥーという行者は、

自分の家族より、もっと大きな“家族”が、

支えてくれる、という安心感が、根底にあるから、

托鉢によって、生命を保つことができ、

そして、祈りによって、精神の高潔さを、

保ってことが、できるのでしょう。


★≪日本も50年ほど前は、そういうウェットな家族関係が、

ありましたが、これから、そういうものに、

向き合っていく必要が、あるのかもしれませんね≫


★≪巡礼者は、何日も何日も歩き、そして河に入り、

沐浴して、祈りを捧げる。

それが終わると、さっさと、帰る。

巡礼者が手にしたものは、達成感だけ、ただそれだけ。

だから、尊いのです≫


★≪インドは、ベジタリアンが約半分、

不殺生が行き届いている≫


★≪イランは、30年間、アメリカと敵対しています。

グローバリゼーションという言葉で、世界中が、

単一化されようとしていますが、

イランは、アメリカとの敵対のおかげで、

美しい文化が残り、自爆テロもなく、

経済も、ダメージ受けていない。

一方、同じイスラムのドバイは、

お金によって、すべてが変わり、いまは、ガタガタ≫


★野町さんは、「グローバリゼーション」の

中身を、具体的には、おっしゃいませんでしたが、

お金儲け最優先、経済成長至上主義、

弱者切捨て、すべては自己責任、

そういう特異な、価値観のことでしょう。

それに、どっぷりと浸かり、絡め捕られ、

しかも、それを自覚していない日本。

どんなに歪んでいるかを、巧まずに、

映し出してくれる鏡が、野町さんの写真、

ということが、できるでしょう。


★写真展は、東京・恵比寿の「東京都写真美術館」で、
 5月17日まで。
 野町さんの解説がある日は、4月25日、29日、
 5月2.3.4.5.16.17の各日、いずれも午後2時から。

★4月18日(土)、NHK「お早う日本」首都圏ジャーナルで、
 この写真展と野町さんの解説が、放映されます。


               (写真は、写真展のチケット)
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