音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■6番 preludeは、実は4声対位法、fugueは半音階に複雑精緻な和音■

2013-08-29 18:25:48 | ■私のアナリーゼ講座■

■6番 preludeは、実は4声対位法、fugueは半音階に複雑精緻な和音■
~第 4回「平均律2巻・アナリーゼ講座」 第 6番 d-Moll 前奏曲とフーガ~                                          

                        2013.8.29  中村洋子

 

 

明日は、KAWAI表参道での、

第 4回 「 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻・アナリーゼ講座 」

第 6番 d-Moll BWV875  prelude & fugue です。

★この講座の為に、第 6番の CDを聴きました。

Ton Koopman トン・コープマン(1944-)の演奏は、素晴らしいものです。

海外版の CDは、解説を見識ある方が書いていますので、それなりに、

読み応えのある内容になっていますが、今回、聴きましたのは、

日本版の CDでしたので、解説が、相変わらず陳腐です。


★『 第 6番 ニ短調プレリュード: トッカータ的な 2声のインヴェンション・・ 』

とあります。当ブログで再三、 「 インヴェンション 」 との比較が、

二重の意味でおかしい、という事をご説明しています。

孫引きを繰り返しますと、どの解説にも同じ解説が顔を出し、

あたかもそれが、定説で真理であるかのようになってしまいますのは、

本当に困ったことです。


 

 


★日本で昔から、有名な平均律の分厚い解説本には、

このプレリュードを、『 平均律 1巻によく見られる練習曲風な生い立ち 』 と、

解説しています。

Bach の作品を、読み込む力がございませんと、

外見は、ほとんど二声で作曲されているように見えるため、

二声のインヴェンションのように、見えるのかもしれません。

しかし、この曲は ≪ 四声部の countepoint 対位法 ≫ ですし、

もっと注意深く、観察しますと、

≪ 5声 ≫ 、 ≪ 6声 ≫ で演奏しなければ、

その真価は、発揮できません。


★明日は、 “ 一見、二声 ” の、単純にも見えるこのプレリュードで、

バッハの意図した 「 声部 」 、 「 音色 」 、 「 骨格 」 とは、

どんなものであったかを、お話します。


★そのためには、 prelude にしましても、

fugue にしましても、

和声を理解することが、最優先の課題となります。


平均律クラヴィーア曲集の解説で、

「 主題 」 や 「 主要 Motiv ( 動機 )」 を 取り出し、それを、

図式化し、並べて陳列しましても、それは、

オペラの登場人物の出番を、列記するだけと同じようなことであり、

それで、そのオペラが分かったことにはならないのと、同じです。


 

 


★平均律は、まず、「 和声の理解 」 が重要です。

それができますと、この 6番 prelude & fugue の巨大な世界が、

浮かび上がってきます。

★プレリュードの 「 London Manuscript ロンドン自筆譜 」 を、

詳細に見ますと、

当初、10、11小節目は ≪ g-Moll ≫ で、書かれていました。

旧 10、11小節の後は、すぐ、現行の 18小節目へと、つながっていました。

しかし、この旧 10、11小節は、竹矢来のように、斜線がたくさん引かれ、

消してあります。


★そして、 9小節目と 10小節めを区切る小節線の真上に  ≪ F≫、

その真下にも、 ≪F≫ と力強く書き込んでいます。

さらに、楽譜最下段の下の余白部分に、また ≪F≫  ≪F≫  と大きく記し、

現行の、 10小節から 17小節までを、新たに挿入しています。

何故これほどまでに、バッハは ≪ F-Dur ≫  にしたかったのでしょうか?

短いとはいえ、 推敲前の ≪ g-Moll ≫ の 2小節も、

大変、美しいものです。


★6番 fugue フーガは、その半音階につけられた和声の複雑精緻さに、

感嘆します。

Richard Wagner リヒャルト・ワーグナー (1813~1883) の半音階が、

単純にみえてしまいそうです。

Wagner が、あれだけ熱狂的に迎えられ、いまでも続いていますのも、

彼の和声がとても分かりやすく、受け入れられやすいからである、

とも思えるのです。


★明日の講座では、Bach が手直しした部分を、

どうしても ≪ F-Dur ≫  にしたかった理由や、

Bach の ≪ 半音階和声 ≫ のどこが、どれほど凄いのかも、

ご説明します。


★このように分析をしていきますと、

第 6番 prelude を ≪ 練習曲風≫ というのは、

本当に、恥ずかしいことです。

どうぞ、そのような分厚い解説書をお持ちでしたら、

くれぐれも、お気をつけてください。

何かおかしいな、と思う直感を大切にしてください。

 

 

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