音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■連弾のお薦め、質の高い聴衆となるため。 対位法が見えてきます■

2013-08-01 22:09:53 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■連弾のお薦め、質の高い聴衆となるため。 対位法が見えてきます■
                     2013.8.1   中村洋子

 

 


★私は、Valery Afanassiev  ヴァレリー・アファナシエフ (1947~ )の

piano solo ピアノソロのリサイタルを、何度か聴きましたが、

室内楽の演奏でも、

大変に素晴らしい経験をしました。

それは、2002年7月 「 東京の夏音楽祭 」 に、

彼が、出演した際です。


Beethoven ベートーヴェン(1770~ 1827): ピアノ三重奏曲

Trio for Piano, Violin and Cello No. 7 in B major, Op. 97,

"Archduke" 変ロ長調  Op.97 「 大公 」  を、

James Ehnes  ジェームズ・エーネス (1976~ ):violin Canada 、

Mario Brunello マリオ・ブルネロ ( 1960~): cello Italy、

と演奏しました。


★この演奏は、とても興味深いものでした。

 Afanassiev  は、テンポをどんどん遅くしようとする。

 Brunello は、早く走ろうとする。

その二人を、 Ehnesが手綱を裁くように、絶妙にコントロールし、

緊張感のある、素晴らしい演奏となりました。

三者三様の駆け引きを、存分楽しめました。

Piano Trio の醍醐味の一つです。

まだ若い  Ehnes も、才能に溢れています。

 

 


★前回に引き続き、 Afanassiev アファナシェフの著書

 「 ピアニストのノート 」 から、現代のクラシック音楽の在り方について、

鋭い問題点の指摘を、見てみます。


私たちは、 「 音楽会 」  と、どのように付き合うべきか。

「 音楽会 」  に、どう対応すべきか・・・。


質の良くない音楽会には、 「 抵抗 」 すべきである。

「 不参加 」 という 「 抵抗 」 もある。


私はあなた方に、こう言いたい。

≪ 拍手をしないでください。演奏するアーティストが信用できないのなら、
コンサートに行かないでください。
音が気に入らなかったら、ホールから出て行ってください。
さもなくばトマトを投げなさい。
聴衆が自らの義務を果たしたら、世界中のステージは、
腐ったトマトで、覆いつくされるでしょう。
何も考えずに自動的に音楽を評価しないでください。
スターだって、とてもひどい演奏をすることもある。
一方、全く無名の音楽家の演奏に圧倒されることもあります。
盲目のピアニストの演奏を聴いたしても、その人が盲目だから
ということで、拍手しないでください。
音楽面で評価できる場合のみ、拍手してください。
その人の勇気を誉め称えるために拍手したり、「 ブラヴォー 」 を叫んだりしないでください。単純に彼には勇気があると言ってください。
駄目なアーティストを援助しないでください。
仮にその人たちがあなたのお友達であってもです。
お友達なら、一緒に一杯やってください。
でも、音楽面での援助は控えてください≫


≪ 盲目のピアニストの演奏を聴いたしても、その人が盲目だから

ということで、拍手しないでください ≫ と、 Afanassiev  は書いています。

Bach のオルガン作品などの演奏で著名な、Helmut Walcha 

ヘルムート・ヴァルヒャ (1907~1991)も、盲目です


Walcha は、そのハンディを克服して、演奏したから有名なのではなく、

その演奏、つまり、彼の 「 音楽 」 が素晴らしいから、

現在でも、評価されているのです。

盲目であるかどうかは、その演奏家の 「 音楽 」 の本質とは、

関係のない次元の話でしょう。

そのハンディを強調して宣伝するのは、本末転倒です

 


★どうして、このようにコンサートの質が、

低くなってきたのでしょうか。

そのような事態に対し、本当の音楽を愛する人たちは、

どう対処すべきなのでしょうか。


★それについての回答、となりうることを、

 Afanassiev は、本の中で書いています。

多くの人の証言によると、19世紀の終わりには、世界中の音楽愛好家は、
そのコンサートに出演するアーティストと相競うかのように、大コンサートに
向けての準備をしていたということだ。
彼らはプログラムに載っている作品を、レヴェルは別にしても弾いていた。
あるいは、パイプを吹かしながら、お茶をすすりながら楽譜を眺めていた。
20世紀の前半でさえ、何かの祈りに集まると、人々は連弾で、
Beethoven や Brahms、 Bruckner、Mahler などの作品を弾いていた


演奏会の質は、演奏家だけの責任ではなく、聴きに行く人々、

聴衆のほうにも、責任の一端がある、ということでしょう。


★どうすべきか?

日常生活に、音楽を取り戻すことです。

もし、あなたがピアノを弾くことができれば、

例えば、 Mozart モーツァルト の交響曲を、ピアノ連弾で、

19世紀の音楽愛好家と同じように、弾くことです


ご自分で、弾いてご覧なさい。

いままで、漫然と聞いていた交響曲から、

「 countepoint 対位法 」 が、姿を現すのです。

その交響曲の骨格、構造が分かるのです。

これが、連弾の特筆すべき効果です。


音響的効果は、些細なことでしかないことが、

よく、分かると思います。

そして、名指揮者の CD を聴いたり、

コンサート会場へと、足を運んでください。

以前と異なり、霞がとれたように、新鮮で明晰な交響曲を、

楽しむことができるでしょう。

 

 


Mozart の交響曲 ピアノ連弾 には、

Edition Peters の 『 Mozart Symphonien Klavier zu 4 Händen 』

を、お薦めいたします。

同様に、Beethoven の交響曲も、Edition Peters から、

同じ連弾集が、出ています。


★もし、 2台の piano ピアノがあれば、Edwin Fischer

エドウィン・フィッシャー編曲  Bach  「 Klavier - Konzert  f Moll

Ausgabe für 2 Klaviere  Herausgegeben von  EDWIN FISCHER

Edition Wilhelm Hansen, Copenhagen

クラヴィーア・コンチェルト  f Moll  」 を是非、弾いてください。

Fischer の脚注と fingering、 そして編曲そのものが、

それは素晴らしく、さらに、親しみやすい曲でもありますので、

この編曲を、ピアノ発表会で使うことを、お薦めします。


2台の piano で Bach を弾く楽しみが、分かりますと、

“ この部分は、どんな楽器で演奏されているのであろう ”

という興味が、湧くことでしょう。

そのため、今度は ≪ 元のスコアを読みたい ≫

という意欲や興味が、きっとでてきます。

特に、お子さまに早い時期に、このような版に親しむ機会を

与えてください。

その場合、楽譜は、日本でよく売られている安易な編曲、

原調からの勝手な移調、原曲をずたずたに引き裂くような簡略版、

これ見よがしな効果を狙った改ざん版などには、

決して、手を出さないようにしてください。


★Bachの 「 6 Suiten fur Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 の

調性について、このブログで以前、詳しくご説明いたしました。

調性は、作曲家が考え抜いて決めたもので、

曲の性格が、それによって決定されます。

勝手な移調は、よくありません。

 

 

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