~ 花 束 ~
16日は早朝の5時からWBC2次ラウンド1組の日本対キューバ戦があった。
9日の韓国戦に完封負けを喫したショックは、僕はまだ癒えていなかった。
アジアを1位通過した韓国の相手は格下のメキシコだし、2位に甘んじた日本は世界一とも言われるキューバが相手である。どうしても僕の中では、悲観的な見方が先行してしまう。だが、日本は米大リーグ相手の練習試合で2勝して打撃も好調の兆しを見せてきた。なんとかいけるかも…という期待も持てるようになってきた。そして、16日早朝のキューバ戦を、首を長くして待った。
ところが…
前日の夕方から寒気がしてきて、体がだるい。
夕飯にお好み焼きを焼いたが、缶ビールを半分飲んだらもういらない。これは明らかに気分がすぐれない証拠である。明日からまた仕事だというのに、それに夜は送別会もあるというのに…えらいこっちゃ。
早い目に布団に入って8時半には寝た。
そのときには、野球のことはもう頭になかった。
僕の眠りはいつも浅いから、夜中に何度も目が覚める。
何度目かに目が覚めたら5時だった。まだ早い。もう少し寝なければ…。
次に目覚めたのが6時前だった。
起きようか、いやもう少し寝ていようか…寝ぼけながら迷っていた。迷いながら、いつもの癖で枕元の携帯電話に手を伸ばし、寝転んだままで何気なく開けてみると1通のメールが入っていた。目をこすりながら見ると、じゃいさんからのメールで、「WBC見てますか?」と書いてあった。僕は気がつかなかったが、5時半ぐらいにメールが届いていたのだった。
「うっ! 忘れてたぁ」と、あわてて僕が飛び起きたことは言うまでもない。
体はまだだるく、寒気を感じていたが、階段を転げ落ちるように下りて、居間に入り、テレビをつけた。
画面を見ると、3階の表、日本の攻撃で無死1、2塁の好機にイチローが打席に立っていた。得点は0-0。おお、なんといい場面から見たことか。
イチローがうまいバントを見せたが2塁ランナーの城島の下手な走塁で3塁アウト。あちゃ~。また悪い予感がするな~。
そう思っていたら、次の片岡がきれいに打ち返して1死満塁となった。
ここでキューバの164キロの左腕のエースが降板。別の左投手が出てきた。
眠気もふっとび、テレビ画面を食い入るように見つめる。
リリーフに出た左投手がまたお粗末で、青木を迎えていきなり暴投で3塁ランナーが返り、日本は労せずして先取点を奪った。そのあと青木のポテンヒットで2点目、さらに村田が今度はきちんと外野犠牲フライを打って3点目が入った。あわててテレビをつけてから、息もつかせぬ日本の攻撃であっというまに3点をリードした。ほんと、いい場面から見ることができてラッキー。ゆかりさんからも、「この調子でどんどん追加得点入れていってくれー」とメールがきた。朝早くから、み~んなこの野球を見ているんだ。
キューバは風と太陽光線に守備を乱されたところがあった。
この球場は右中間が深く、左バッターが引っ張ってホームランを打つのは難しいとされている。そのわりには左中間は浅い。しかしいつも風が強いので、本塁打は出にくく、投手有利の球場だと言われている。日本人の大リーガーたちは、この球場に慣れており、特徴をしっかり把握していたことも大きい。それにひきかえ、キューバは、青木の2点目のポテンヒットもそうだが、フライに対応できなかった。城島の高く舞い上がったフライも、キューバの外野手は球を見失い、二塁打にしてしまった。もっとも、イチローもライトのファールフライを落球するという珍しいミスを演じたが…。
5対0となった7回表、「おらほ」の岩隈が登場したところで僕は出勤しなければならなかった。これがもっと接戦だったら出勤できなかったところである。といっても、行かなきゃ仕方ないけれど…。
注: 「おらほ」とは、楽天球団が本拠地としている東北地方の方言で、
「うちの」という意味。ちひろさんに教えてもらいました。
さて、8時40分に役所に着いて、テレビを見たら、藤川が2塁打を打たれながらも後続を断ち、日本が6対0でキューバに快勝した。いよぉっ。ええぞ~。
…そんなことで、日本はまず1勝をあげ、次は18日に韓国・メキシコ戦の勝者と準決勝進出をかけて争うことになったが、その韓国・メキシコ戦は、僕としてはメキシコに勝って欲しかったのだが、残念ながら、韓国が8対2で大勝した。韓国も強い。あぁ~あ。これでまた、明日の18日は日本と韓国の試合だ。
やはり、韓国というのは避けて通れない関門なのだ
今日17日は、負けたもの同士のキューバとメキシコが敗者復活戦を行う。
これに、仮にキューバが勝ったとする。
明日18日は、日本と韓国が対戦する。
この試合に、もしも、もしもだよ、日本が負けたとすると…。
韓国は準決勝進出を決め、日本は19日に再びキューバと戦う。
これに負けたらその時点で日本は敗退だ。大会から姿を消してしまう。
勝てば準決勝進出が決まり、20日はまた韓国と1組の1位決定戦を行う。
そういう危ない橋を渡ってもらいたくないので、ここはあっさり、明日18日の韓国戦に勝って、さっさと準決勝進出を決めてもらわなければならない。
18日といえば平日、つまり仕事中である。
しかも試合開始は昼の12時。
昼休みにちょっとだけテレビを見られそうだが、そんなんじゃ未練が残る。
まことに、ざんね~ん。
これが来月なら、テレビなんか朝から晩まで見ていられるのにな~。
それにしても、日本が昨日のような赤と紺のユニフォームを着ると勝ち、白いユニフォームを着ると負ける…というジンクスがあるようだ。次の韓国戦では、日本はどちらのユニフォームを着るのだ…? それが大きな問題である。
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朝から野球でぐったり疲れた体に鞭打ち、仕事に出る。
議会のほうは3月の定例会の真っ只中で、忙しい。
いまは予算特別委員会というのが連日行われている。
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夜は阿倍野に出て、送別会をしてもらった。
メンバーは、4年前に大阪城から明石大橋まで往復する100キロウオークに出場した歩き仲間5人に加え、僕が昔総務課の文書法規係にいたときにいっしょに仕事をした男子職員と、女子職員の2人の、計7人だった。いちおう、全員顔見知りということで集まったそうだ。女子職員のほうは僕より年下だけど、5年前にひどい腰痛で歩けなくなり、退職をしていた。僕は5年ぶりに彼女に会った。腰はよくなり、体がとても細くなっていた。
「何かダイエットしたわけ…?」と聞くと、
「えへへへ~。してるわよ~」と、彼女は満面に笑みを浮かべた。
昨晩は缶ビール1本飲むのに精一杯だったが、この日は快調だった。
それでも、なるべく飲むペースを遅くして、量を控えた。
この次の送別会は19日にある。さらに23日、25日、30日と、まだ4回。
「体調を壊しまして…」と欠席するわけにはいかない席である。
宴もたけなわのころ、幹事をしてくれていた若い友人が、
「それでは、花束を贈呈します」と言ったので「え?」と思った。
いつのまにか、座敷の隅に花束が用意されている。
「退職、おめでとうございます…って言っていいんですか?」
と、とまどいながら、本日の「紅一点」が僕にその花束を手渡してくれた。
記念品はもらったことがあるけれど、花束なんてもらうのは初めてだ。
受け取る僕も、とまどってしまう。
パチパチパチと拍手があり、「何かひとこと」との声がかかる。
思わぬ展開に、僕はどうお礼を言っていいかすぐに思いつかず、
「はぁ、どうもありがとうございます。えぇ~っと、バレンタインデーのチョコレートにですね…、義理チョコと本命チョコがあるように、ですね…、送別会もさまざまな形があるわけですが、えぇ~っと、きょうお招きいただいた送別会は、本命チョコ送別会でありまして、たいへん感激しております」
と、わけのわからない挨拶をしてしまった僕である。
花束を抱えたまま電車に乗り、帰宅すると妻がさっそくそれを生けてくれた。
退職まであと15日。 大相撲1場所分だ。 がんばろう。