電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』を読む

2018年10月06日 06時05分22秒 | -ノンフィクション
講談社文庫で、瀬川晶司著『泣き虫しょったんの奇跡』を読みました。男の子三人の末弟が将棋を覚え、このゲームを気に入ります。特徴のない平凡な男の子は、小学校の先生に励まされ、同級生で近所の男の子をライバルに、どんどん強くなります。将棋道場で師匠と出会い、中学生チャンピオンとなって、奨励会を目指します。プロへの登竜門である奨励会は、実に厳しい世界でした。とくにその年齢制限、26歳までに四段に昇格できなければ退会という関門を、瀬川君は通過することができない。まるで自分に起こっている現実とは思えないこの挫折感は、察するに余りあります。

しかし、いったんは夢を諦めた彼が26歳で働き始め、大学のII部で学び始めると、捨てたはずの将棋が苦しいものでなく楽しいものに思えるのです。NECの関連会社に就職し、SEとして働く中で、アマチュア強豪として頭角を現していきます。かつて奨励会三段だったという実力はもちろんありますが、プレッシャーがなくなると途端に勝ち始めるというのは、将棋にはメンタルな要素が大きいことを意味します。
年齢制限で奨励会を退会にはなったけれど、対プロ戦績7割以上という実績をもってもう一度プロへのチャンスをと嘆願し、ついに試験戦が実現することになります。

うーむ。奨励会時代の退嬰的な生活はとてもじゃないがまともな生活とは思えません。でも、どんなジャンルであっても再挑戦の物語は心を打ちますが、もう一つ、大事なことがあるのではなかろうか。
それは、「好きを仕事に」することの落とし穴です。中途半端に「好きを仕事に」してしまうと、好きだったはずのものが嫌いになってしまう。「好きを仕事に」して成功するのはおよそ二割で、あとの八割は「好きが苦痛に」なってしまうのでしょう。しょったんの場合、再びアマチュアとして暮らす中で、本当に将棋が好きだとわかったから、カッコ悪くとももう一度挑戦する気持ちになれたのではなかろうか。



もう一冊、河出文庫で古田靖著『奇跡の六番勝負〜サラリーマンがプロ棋士になった日』を読みました。こちらは、試験戦の過程を追ったもので、詳しい内容を知るには良かったけれど、正直言ってやっぱり瀬川さん本人が書いた本の方が面白かった。

映画にもなっているようですが、残念ながら当地での上映はすでに終了しているようです。機会を見て DVD 等でゆっくり観てみたいものです。

コメント (2)