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電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

平岩弓技『はやぶさ新八御用帳』第1巻「大奥の恋人」を読む

2006年06月14日 20時55分21秒 | -平岩弓技
先に『御用旅』から読んでしまった『はやぶさ新八』シリーズ、あらためて物語の発端となる第1巻「大奥の恋人」を読みました。『御用旅』ではしきりに妻の郁江さんを思い出す隼新八郎氏、実はちょっと事情が違っていました。

お鯉は15の年から新八郎の屋敷に行儀見習いに来ていた女中でした。それが7年近くも奉公したのは、新八郎の母の長患いのせいだといいます。しかし、母が亡くなり、新八郎も祝言が決まったのを契機に、お鯉も実家に帰ります。新八郎は、離れて初めてお鯉への恋慕を自覚し、新妻の郁江とはまだ心が通わないでいるのでした。
ある晩も、お鯉を訪ねた帰りに出会った殺人現場で、お鯉にもらった綿入れの袖なしのおかげで、真綿一枚の差であやうく命拾いをします。殺されたのは江戸城大奥に娘を奉公させている菓子屋の主人でした。

ここから始まるのは、かなりしっかりとした構成を持つ中編の、しっとりとした悲しい物語です。南町奉行・根岸肥前守の懐刀と言われた隼新八郎、未練たっぷりに逃した「鯉」を追憶するのですが、それ以上に悲しい愛がありました。

深いお堀と見上げるような石垣と城とで隔てられた一組の夫婦の哀切な最後は、粗筋を省略した方がよろしいでしょう。しかし、炎の中のドラマティックな幕切れに終わらず、「共に死ねというよりも、お前だけでも生きよと申すのが、人の心ではございますまいか」とお鯉がつぶやき、新八郎が答えに窮する場面を描きたくて、作者・平岩弓技さんはこの物語を創作したのかもしれません。
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平岩弓枝『はやぶさ新八御用旅』(2)を読む

2006年05月04日 10時01分13秒 | -平岩弓技
江戸町奉行・根岸肥前守鎮衛の内与力、隼新八郎は、出張先の京都で別の任務を与えられます。それは、朝廷の経費を担当する御所役人の不正を証拠立てることでした。女官の雪路と京都町奉行所の同心・土屋兵介と探索を続けるが、ことごとく埒が明かない。新八郎主従の日常を世話してくれている、土屋の妹で未亡人の小篠が、朝廷を担当する与力の押田内匠を怪しいと考え、危険を覚悟で押田宅に奉公すると言い出す。
結局、悪事はあばかれ一部の者が逃亡したために、小篠母子に危険が予想される。新八郎主従は小篠母子を守り、中仙道を下る。様々な危険を乗り越え、小篠母子は新八郎に思いを寄せるが、新八郎には江戸に残した妻がいる。
このあたりから、作者は物語に深刻さを与えまいとしたのだろうか、新三郎という女形のような役回りを与え、勝気な女医みすずを登場させるなど、これでもかとばかりに女難・剣難を繰り出す。みすずが新八郎の寝所に忍んで来る色っぽい場面などは、テレビ連続ドラマに格好の題材だろう。

やれやれ、楽しませてはもらいましたがいささか安手で、どうも何度も読み返したくなる物語とはいえないように思います。
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平岩弓枝『はやぶさ新八御用旅』(1)を読む

2006年05月03日 09時48分01秒 | -平岩弓技
平岩弓枝さんの作品、文庫版『御宿かわせみ』シリーズは全部読んでしまったので、講談社文庫の『はやぶさ新八』シリーズを読んでみようかと思いましたが、『御用帳』と『御用旅』と別シリーズなのですね。『御用帳』の方を先に読むべきだったと後で気づいたお粗末。それでもまあ後から読めば大勢に影響はないだろうと割り切って、先日購入した二巻を読み始めました。

町奉行・根岸肥前守鎮衛(やすもり)の内与力、隼新八郎は、奉行から内々に某藩の姫君が無事に国許に到着できるよう側面からの警護を命じられ、江戸を旅立ちます。忠実な治助をお供に東海道五十三次を歩くわけですが、実は誰が姫君なのかよくわからないまま旅が続く。これこそ姫君だと思ったら実は別人だったり、それは姫君と言えば若いお嬢さんを想像しますよ。テレビや映画のステレオタイプと承知しつつ、いわば時代物の「お約束」ですから。そこが平岩弓枝さんの工夫したくすぐりか。

ただし、作品としては『御宿かわせみ』シリーズのような情感の中の気品、のようなものには乏しく、いささかご都合主義が目立ちます。まぁ、明るく太平楽な娯楽ものと割り切るべきでしょう。藤沢周平で言えば、『蝉しぐれ』『三屋清左衛門残日録』の格調高さに対して、『よろずや平四郎活人剣』のような屈託のない明るさ、に対応するような関係でしょうか。

しかし、講談社文庫の「時の旅人になる。」時代小説フェアの帯、劇画風のイラストはあまりいただけません。目つきが鋭いのは当然のこととしても、すだれのような前髪がワンパターンです。なぜ暗い情念を抱えた若者はこういうすだれ髪をするものと決まっているのでしょうか。衣装や時代背景は違っていますが、中年おじんにはみな同じに見えてしまいます。
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平岩弓枝『御宿かわせみ・十三歳の仲人』を読む

2006年02月10日 21時28分01秒 | -平岩弓技
文庫本になったシリーズは全30巻、みな読んでしまったので、先日図書館で見つけた単行本の『御宿かわせみ・十三歳の仲人』を借りてきた。例によって1冊あたり8話の割で短編が収録されており、全体として連続するシリーズとなっている。
第1話「十八年目の春」、よくあるパターンの親子のトラブルの話。しかし18年も音信不通というのは、どう考えても普通ではないですね。
第2話「浅妻船さわぎ」、馬の飼葉おけに一幅の絵が投げ込まれていた。噂をもとに贋作でもうけようとしたが、東吾に足駄を見破られる。さしずめ馬脚をあらわしたってぇところか。
第3話「成田詣での旅」、るいとお千絵とご一行様、深川から下総の国成田山新勝寺に舟でツァー旅行。哀れなお篠の話よりも、若い頃に成田山新勝寺を散策したことを思い出してしまった。新勝寺は真言宗智山派の大本山で、当時から人気があったとあるけれど、はて、真言宗智山派の本山なら、京都智積院だったのでは?
第4話「お石の縁談」、山出しの田舎娘だった大力お石に、降ってわいたように縁談が持ち込まれる。見初めた男の見る目は偉いよ、しかし苦難にあっていかにも意気地がない。棟梁のほうがずっといいと思う。
第5話「代々木野の金魚まつり」、またまたお石の話。お吉の薫陶ですっかりいい娘になったお石が、棟梁と一段と近しくなる。この二人なら、いいんじゃないか。
第6話「芋嵐の吹く頃」、かわせみでは客に曲げ物製の弁当を持たせようと計画。どうしてどうして、女将の経営はなかなか上手です。これまた微妙な親子の関係、祖父との関係。職人の世界ですね。
第7話「猫芸者おたま」、しばらくぶりにるいのやきもちがバリバリ全開。しかし長火鉢の中の火箸を握りしめるというのはちと怖いなぁ。
第8話、表題作「十三歳の仲人」。麻太郎と千春、相思の小源とお石のすれ違いをとく話。麻太郎の言葉は本当です。しかし仲人が麻太郎と千春とは、ちとまずくないかい。二人とも「やがて私たちも」と思うぞ、きっと。平岩弓枝さん、兄妹の禁じられた恋愛話にするつもりだろうか、それとも「実は麻太郎は東吾の子ではありませんでした、成長したら全然似ていませんでした、チャンチャン」と落とすつもりなのだろうか。やれやれ。

なんだか、最近は源さんの活躍が少ないようだ。八丁堀のお役目も、内部で人事異動でもあったのかな。写真は神戸・伏見稲荷の境内にて。
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平岩弓枝『御宿かわせみ30・鬼女の花摘み』を読む

2005年12月31日 19時33分53秒 | -平岩弓技
今年最後の宿題となっちゃったなぁ。でも、ようやく読み終えました。
第1話「鬼女の花摘み」、2人の子どもがありながら男に狂った母親の話。現代にもよくある話ではないですか。それにしても、麻太郎・源太郎・花世は、心優しい名トリオですね。
第2話「浅草寺の絵馬」、プレイボーイが再度の罪作りをする前でよかった。お石のお手柄でした。第3話「吉松殺し」、体格と悪知恵は大人も顔負けだが分別のなさは赤ん坊だという悪餓鬼。それをけしかける知恵も力もある悪い大人。この構図は、普遍的です。
第4話「白鷺城の月」、建造中の洋式帆船の操船訓練の指導のため姫路に派遣された東吾は、造船技術の同僚の事故負傷のため、姫路城下の武家屋敷に厄介になる。隣家に嫁いだ妹が、誰かが夜更けに様子を窺う不審な者がいと訴える。事故の知らせが伝言ゲームで東吾重傷に変わり、宗太郎・るい・長助が姫路までやってくるのは、しばらくぶりに可憐なるいさん登場の場面を作るためだな。家付き娘の婆さんの話では、なんとも救いがないもの。
第5話「初春夢づくし」、津軽からるいの姪が訪ねてくる。東吾と千春とかわせみの面々に囲まれて、若々しく幸せそうな叔母を間近に見て、娘は芝居見物した役者にぽぅーっとなってしまった。頭を冷やすよう仕組んだ芝居だったが・・・津軽から来た娘のほうが役者が上でしたね。
第6話「招き猫」、火事になったら大川からタニシがぞろぞろ上がってきて一斉に水を吹くんだって?よくまぁそういう発想が出てくるもんですね。その場面を想像すると、私なら抱腹絶倒だが、るいさんは気持ちが悪いという。まったくピントがずれているとしか言いようがありませんな。
第7話「蓑虫の唄」、因幡屋への度重なる放火、色恋と因縁が絡んだ炎のような色ですなぁ。寝物語のるいさんの推理が冴えてますが、しかし寝床の中でそんな話をしますかね、るいさんの心理はちょっと不思議で、作者の都合が優先したようです。

なんと文庫全30巻を読み終えてしまいました。あとは新しい文庫が登場するのを待つことといたしましょう。
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平岩弓枝『御宿かわせみ29・初春弁才船』を読む

2005年12月13日 21時46分11秒 | -平岩弓技
青い海を行く和船の上をウミネコが飛び交う。文庫版の表紙は、明るく初春らしく見事です。カバー・デザインは蓬田やすひろ氏となっています。
第1話「宮戸川の夕景」、いや、すさまじいものですね、死体のオンパレード。
第2話「初春弁才船」、上方から物資を運ぶ弁才船が、遠州灘で遭難したという。祖父も父も船乗りだったという若者が、どうしてもと願って東吾に西洋式の操船技術を習う。和船は本質的な欠陥があり、舵をもがれてしまえば坊主船になってしまう。荒れる外海を航海するには向かない。しかし、遭難した父が生きていたことを知り、船で再び大坂に向かう。やがて、新酒を積んだ一番船が品川に着いた。生きのびた父は象限儀を、そして息子は磁石と海図を持っていた。「かわせみ」に届けられた一番酒の角樽、いい話です。
第3話「辰巳屋おしゅん」、子が親の敵を討つのは良いが、親が子の敵を討つのは御法度。そのへんが封建時代のけじめなんでしょう。しかし、それではワル餓鬼に子どもを殺された親はたまらない、というお話。
第4話「丑の刻参り」。丑の刻参りといえば、ザンバラ髪の婆さんが藁人形に五寸釘を打つ、あれですか。ははあ。他人に見られると、効き目がなくなるとか。呪いって意外に弱いのですね。化学実験に使うと言えば子どもに酢酸タリウムを売ってくれる時代の方がよっぽどこわいです。
第5話「桃の花咲く寺」、住職らを殺害しお寺に寄進された金を奪った盗人一味。生き残りの芝居を見抜く東吾の活躍。
第6話「メキシコ銀貨」、外国から洋銀を持ち込んで一分銀に変え、それを小判にして持ち出す。どこかできいた話だなあ。貨幣価値は三倍に上がったが、庶民の暮らしは二倍にも上がっていない。残りはアメリカ国債にでも化けたかな。
第7話「猫一匹」、トラ猫が孔雀小屋に忍び込み、逆に半死半生の目にあわされた事件が、えらく大事に発展しまして。笑っていいのか。

この巻では、東吾もるいも、源三郎もお千絵も、宗太郎も七重も、もちろん子どもたちも、目だって変化はありません。おてんば花世が仕舞を披露するくらいかな。表題作「初春弁才船」がなんといってもハイライトでしょう。写真は12月初旬、雪化粧の月山です。
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平岩弓枝『御宿かわせみ28・佐助の牡丹』を読む

2005年11月30日 21時10分59秒 | -平岩弓技
平岩弓枝さんの『御宿かわせみ』シリーズ、いよいよ第28巻になりました。文庫本で残るはあと二冊のみ。もうすぐ読みきってしまうのがちょっと残念です。と思いながら、また一方では、今年中に読みきる算段をしている今日この頃。

第1話「江戸の植木市」、植木や盆栽にはとんと興味がない私は、植木市も縁がなく、地元山形市の植木市にもほとんど行きませんが、松太郎の作った箸なら欲しいかも。
第2話「梅屋の兄弟」、兄弟で同じ商売などやるもんじゃないと思うが、お比佐と健太郎が夫婦になれなかった理由が姉弟だったとは。作者はしっかりと麻太郎・千春問題の伏線をしいていると見た。
第3話「佐助の牡丹」、牡丹の花の1位、2位を決めるのに不正があるという。すりかえを防ぐ方法を考えたが、不正を暴かれた悪党は子どもをさらった。しかし、牡丹の花は一晩でボタンと落ちてしまうんじゃなかったっけ。個人的には写真のような芍薬の方が好きです。
第4話「江戸の蚊帳売り」、短気は損気といいますから、あまり性急に結論を急がず、物事はじっくりかまえて取り組んだほうがよろしいようで。
第5話「三日月紋の印籠」、拝領の家宝なんてものがあると、なにかとわずわらしいものです。しかし、世襲の家でこの跡継ぎでは、ちょっとやりきれませんね。
第6話「水売り文三」、出羽の国・上の山とは、現在の山形県上山市ではないですか。なんとまぁ、世間は広いようで狭いものです。文三の優しさが光ります。
第7話「あちゃという娘」、この娘、いい子ですなぁ。こういう子は、きっと幸せになりますよ。誠意のない伊太郎なんかと一緒になってはいけません。自分を安売りしないもんです。
第8話「冬の桜」、宗太郎の弟・宗三郎がよい人生勉強をいたしました。宗太郎、さすが兄貴の貫禄です。
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平岩弓枝『御宿かわせみ27・横浜慕情』を読む

2005年11月24日 21時48分47秒 | -平岩弓技
第1話「三婆」、宝くじがあたると、疑心暗鬼が起こるんですよ、これは洋の東西、また時代を問わないようで。
第2話「鬼ごっこ」、むかし母親に投げつけた言葉が、どれほど母の心を切り裂いたか、同じような年齢になってよくわかる。親の不幸の上で子どもは幸福にはなれないものなのでは。
第3話「烏頭坂今昔」、キセルも煙草もとんと縁がありませんでしたので、羅宇屋などという職業を初めて聞きました。
第4話「浦島の妙薬」、横浜の浦島寺、観福寿寺を見物に、東吾と宗太郎、源太郎と花世に長助とお吉が旅に出るが、甘党のおかしな商人・浦島屋太郎兵衛が死ぬ。はたして真相は。
第5話「横浜慕情」、横浜についた一行が、首くくりをしようとしていたイギリス人水夫を救う。ジョンを美人局に引っかけたのは、深川で東吾を知っていた女だった。久々にるいのやきもちが全開。
第6話「鬼女の息子」、中仙道大宮宿から旅籠に奉公に出ていたはずの娘が不明に。訪ねてきた父親の彦作が殺され、その娘もまた女郎の身分から逃げようとして折檻を受け、死ぬ。安達が原、鬼婆、という言葉を残して。
第7話「有松屋の娘」、幼い東吾のために嘉吉が買ってやった古い将棋と将棋盤。二人が向かう対局は、金では買えない値打ちがある。
第8話「橋姫づくし」、薬種問屋の紀伊国屋で、大量の阿片が紛失していた。橋姫と名乗る怪しい占い師が催眠術を使って人をあやつる。東吾と源太郎、宗太郎の活躍で、ようやく一件落着。

娘・千春が生まれて母親となったるいの存在感。やきもちは迫力を増し、東吾が兄通之進からもらった虎の子の十両を黙って預かってしまうところなど、いつのまにか強くなっている。強きもの、汝の名は母親なり。
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平岩弓枝『御宿かわせみ26・長助の女房』を読む

2005年11月20日 18時18分03秒 | -平岩弓技
東吾とるいを取り巻く人々の長い長い物語、ついに第26巻に到達。
第1話は、「老いの坂道」といささかドキッとする題名。内容も、「わしでなくては」と意気盛んな老いた元同心が引き起こす困ったチャンの物語。なんとなくどこにでもありそうな話だ。隠居は隠居らしくとおとなしくしていればよいと言われるのだが、当人はまだまだお役に立てると思っているのだから、不幸なすれ違いが起こる。私も、引退したら職場の周辺ではなく、違う世界で生きるようにしましょう。
第2話「江戸の湯舟」、舟に風呂を積み込んで汗を流す商売があったなんて、初めて知りました。お色気よりも垢が浮かんでいる情景が想像されて、あまりいい感じがしません。山形育ちは、やっぱり湯量たっぷりの温泉がよろしいですね。しかもできれば有名大ホテルでなく、湯元のお風呂。
第3話「千手観音の謎」、神林家に伝わる紀州様より拝領の千手観音、香苗がうっかり取り落としてしまう。通之進に知られたくない香苗が、長助に頼んで修理に出そうとするが・・・・。こういうウィットにとんだ結末、私は大好きです。
第4話「長助の女房」、岡っ引の長助が奉行所から表彰されることになり、これに絡んだ人情話。長助の女房おえいのお手柄だが、助けられた神林通之進にぼーっとなる。神林香苗を観音様のようにあがめる長助と、夫婦そろって美男美女に弱いのですね。ほのぼのとしたところもあり、なかなか良い人情話です。
第5話「嫁入り舟」、またまた麻太郎「隠し子」説のネタ。兄夫婦に真相を話そうと出かけたが、思わず涙で絶句。だが、異母兄妹が知らずに好き合ってしまう話が背景にあり、麻太郎と千春の将来に不安をいだかせる。作者は当分の間ネタに困らないでしょう。
第6話「人魚の宝珠」、女性の見かけは若作りでだませるが手はだませないという。そんなことはないだろう。苦労せず水仕事もしなかった人の手と、苦労して水仕事に明け暮れた人の手は、ずいぶん違う。むしろ、声帯は平等に年を取るため、声はだませないというほうが正解か。若い声と中年の声は明らかに違いますからね。
第7話「玉川の鵜飼」、玉川の鵜飼見物に出かけたるいが八丁堀の鬼同心の娘らしさを発揮。
第8話「唐獅子の産着」、わが子を失った老婆の悔しさが起した事件。年老いてくると、昔のことがフラッシュバックしてくるらしい。我が家にも産着があり、宮参りに行った時の写真などを見ると、どうやら親子三代以上にわたって着ているらしいが、幸いにこういう因縁はなさそうなのでありがたい。

写真は、紅葉したドウタンツツジ。
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平岩弓枝『御宿かわせみ25・宝船まつり』を読む

2005年11月17日 20時59分52秒 | -平岩弓技
第1話「冬鳥の恋」、るいが神林家に歳暮の挨拶に行き、養子となった麻太郎と初めて対面する。巷では神林通之進が外に作った子らしいとの噂がもっぱらだが、東吾とるいの間の娘・千春と縁組させる心積もりかという憶測には心が揺らぐ。事件のほうも、兄妹とは知らず育った男と女が恋に落ち、真相を知って悲劇が生まれる、という話。
第2話「西行法師の短冊」、別人の歌を西行のつもりで書いて偽骨董を売りつける詐欺師と引っかかる人たちの間抜けなお話。
第3話は表題作「宝船まつり」。源太郎・花世のゴールデンお騒がせコンビを引き連れて、東吾と長助が祭り見物に出かけた。子どもの誘拐さわぎには古い因縁があり、姉の良心の呵責も溶け去ることだろう。
第4話「神明ノ原の血闘」、軍艦操練所の同僚といい定廻り同心といい、悪党が身近にいたものだ。
第5話「大力お石」、不器用で一途で大力の女、なんだか「かわせみ」の名物になりそうなキャラクターだ。これは昨今のテレビドラマ向けだろう。
第6話「女師匠」、自分の過去が見えるようだと、たぎる湯を顔に浴びせた娘を許す女師匠。ちょっと不自然な展開だ。こういう不自然さは、はねかえり不良娘がひそかにお百度を踏んでいるという無理な結末を導いてしまう。ちょっとありえないのではないか。
第7話「長崎から来た女」、るいがやきもちを焼く場面を作る必要があり、長崎の女の事件を作ったようですね。江戸まで350里を一人で歩いてきたり、異人の船でやってきたり、長崎の女性はそんなに強いのか、と思います。
第8話「大山まいり」、徐敬徳という薬種問屋が死んだ事件は、るいの直感と機転、宗太郎の見事な推理で、アヘン密輸を水際で防止する。

この巻では、麻太郎とるいが対面した、ということを覚えておきましょう。
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平岩弓枝『御宿かわせみ24・春の高瀬舟』を読む

2005年11月09日 21時54分53秒 | -平岩弓技
熱ニモマケズ、咳ニモマケズ、喉ノ痛ミヤ鼻水ニモマケズ、アマリ頑強デナイ体ヲイタワリナガラ、寝床の中で平岩弓枝の『御宿かわせみ24・春の高瀬舟』を読みました。
第1話「春の雨」、あな恐ろし他人事ではない老害編。しかし、東吾の息子が身近にいたら、青年期に父を越えようとして苦しむだろう。実際、何をさせても立派な父を持った息子は気の毒だ。
第2話「春の高瀬舟」、鰹のたたきを前にして、三日前に水死した男の遺体の話をする宗太郎。医学生の特徴ですね、これ。
第3話「日暮里の殺人」、日暮里と新日暮里を間違えるのがネタになっている。土地勘があれば面白さもあるんでしょうけれど。
第4話「伝通院の僧」、取り返しのつかないすれ違いの悲劇。
第5話「二軒茶屋の女」、お得意さんを集めた骨董の展示即売会で、三百両が盗まれた。骨董の売買は前の持ち主の恨みを買うからなぁ。ましてや一家が離散し娘が苦界に身を沈めたとあっては。
第6話「名月や」、子どもをほったらかして事故死させるような悪妻よりは、まだ男世帯の方が平和で幸せかもしれない。人によるけれど。
第7話「紅葉散る」、密書を託された大村琴絵とその息子・麻太郎が襲撃され、母親は殺害されるが、麻太郎は香苗の駕籠に隠れていて助かる。麻太郎は、実は刺客を倒した東吾の一人息子であった。この事実を知る者は、母琴絵が死んだ今は、友人・宗太郎のみ。京極家のお家騒動はどうでもよいが、麻太郎が神林通之進・香苗夫妻の養子となることに。待てよ、当面のところはそれでもいいかもしれないが、先々ややこしくないか?(実は異母兄妹の)麻太郎と千春が(そうとは知らずに)好きあったらどうなる?火種を抱えた解決と見る。
第8話「金波楼の姉妹」、同じように美人でも、よく気がついて働き者と、怠け者ですぐくたびれる娘では、ずいぶん違います。

第24巻、東吾の周辺に秘密が深まる、の巻でした。
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平岩弓枝『御宿かわせみ23・源太郎の初恋』を読む

2005年11月05日 19時50分23秒 | -平岩弓技
平岩弓枝の『御宿かわせみ』シリーズ、いよいよ佳境に入ってまいりました。だいぶ前に、著者の「るいさんいじめ」を予想しましたが、はたしてどうか?

第1話「虹のおもかげ」、東吾の「隠し子(?)」登場。今ならDNA判定で決着がつきますが、同心の家の相続争いなど正直どうでもよくなりますね。
第2話「笹舟流し」、大村麻太郎にこだわる東吾だが、そんなに自分の息子にこだわりますかね。ちょっと関心を持つくらいはあるでしょうが。このあたり、女性作家が描く男性像と実際の男性の意識にずれを感じるところ。るいさんおめでたのほうがよっぽどリアリティがある。
第3話「迷子の鶏」、野良犬や野良猫ならわかるが、野良鶏とはね!考えましたね。でも、鐘の盗難が頻発して、途中に窯があるというところで、行方がわかっちゃった。
第4話「月夜の雁」、大店の内儀が手代とねんごろになり・・・という例のパターンだが、働き者の娘が内儀の命を助けようとお茶椀をひっくり返すあたり、心理劇の要素があります。
第5話「狸穴坂の医者」、小野寺十兵衛は確かに火傷の名医だが、若い娘に目がないのですね。そんなものかな。私も同じ程度の年齢だと思うが、ちょっと解せない。もう一度ハイティーンの若い娘に話をあわせるなどという辛抱は、なんというか、ごめんこうむりたいところです。
第6話「冬の海」、妊産婦の運動と女スリの哀話。
第7話「源太郎の初恋」、歯が痛んでおとなしい花世に、源太郎が同情し意識してしまう話。しかし火付けの悪党の顔を切りつけたなんて、今なら小学校低学年でしょ、立派ですよ。さすが、畝源三郎の長男だ。
第7話「立春大吉」、東吾とるいの長女誕生。源三郎・千絵夫婦と宗太郎・七重夫婦の間にはもう二人の子どもがいるとはいえ、それぞれ事情ってものがあるのです、遅いなどということはありません。などと言ってはみるものの、実は最初の子は流産するのではないかと予想していた。予想が大はずれなのは残念。だが、めでたい。博打好きの母子の話などどうでもよくなる。

というわけで、著者の「るいさんいじめ」の予想は見事に外れたが、御宿かわせみの周辺は大きく変わった巻でありました。
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平岩弓枝『御宿かわせみ22・清姫おりょう』を読む

2005年11月02日 21時39分33秒 | -平岩弓技
なんだか連載シリーズのようになってきたが、『御宿かわせみ』22巻を読んだ。
第1話「横浜から出てきた男」、秋のお彼岸にるいの家の墓参に行き、生き別れた姉を探す川崎屋利兵衛という商人と出会う。手がかりと頼った柏屋は、手のひらを返したように親切になり姉と名乗る女を探し出すが、これは本物か、という話。「小さな親切大きな下心」というが、まったくですね。
第2話「蝦蟇の油売り」、秩父の山里から毎年長寿庵にそば粉を運んでくる吾助が殺された。娘がたった一人で江戸に来て、父の下手人を探す。黒紋付が決め手となり、犯人がわかる、という話。秋の新そばはうまいんですよねぇ。特に、轢きたての一番粉で打ちたて・茹でたてのそば。あ~、食べたい。
第3話「穴八幡の虫封じ」、畝源三郎の二人目の赤子のために、長助と虫封じのお守りを求めに行くが、途中芸者の駒吉と一緒になり、まだ子どもを授からないるいには話しそびれてしまう。大川端のはるかむこうにるいが一人ぽつんと立っている。東吾と一緒になり幸せを感じながらも、一抹の寂しさを禁じえない、という情景だ。あぁやっぱりね、平岩弓枝さん。これも作者のるいさんいじめの伏線と見たが、いかに。
第4話「阿蘭陀正月」、宗太郎の長崎時代の医者仲間が集まり、東吾も一緒についていく。「男前だが仁徳にかける」とお吉が評した依田貴一郎は宗太郎を嫉妬し、鮟鱇の肝にふぐの肝を混ぜ、宗太郎毒殺を図るが、東吾の機転で自分が食ってしまう。
第5話「月と狸」、備前屋の火災に隠された姉婿新兵衛の悪計、実は盗賊たちの一味とは。第6話「春の雪」、クレー射撃なら皿が飛ぶが、茶店の前で皿を投げるのに飽き足らず、石を投げて女を失明させるとは。そんな奴には天罰が下るのですよ。
第7話「清姫おりょう」、女祈祷師にはそういう過去があったのですね。第8話「猿若町の殺人」、どうも私には、こういう芝居にのめりこむ心理がよくわかりません。

ところで、ふぐの毒は有毒プランクトンが作るテトロドトキシンという物質が正体(*)。
実はこのプランクトンには、ある種の細菌が共生していて、どうもそいつが毒を産生するらしいとか。米産のイモリにも皮膚の表面にこの細菌が共存していて、強烈なテトロドトキシンを出す奴がいるのだそうです。ペット屋さんではご注意ください。
(*): フグ毒の正体とイモリにも有毒種が
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平岩弓枝『御宿かわせみ21・犬張子の謎』を読む

2005年10月24日 21時05分33秒 | -平岩弓技
第1話「独楽と羽子板」、「かわせみ」に泊まった客をあやうく盗人夫婦と勘違いするところだった。あぶないあぶない。客商売ですからね。第2話「柿の木の下」は、乱暴者のために若死にした兄の仇をとる娘の話。その昔、祖父に「桜折る馬鹿、柿折らぬ馬鹿」という言葉を教えてもらった。柿の枝は、折ると新しい枝に翌年実がなるのだそうな。確かに柿の枝は折れやすくできており、木登りには向かないだろう。
第3話、表題作「犬張子の謎」、るいが気に入って求めた犬張子を、職人が注文品なので別のものと交換してほしいと頼みに来た。だが、老職人と母となったが幸うすい娘は無残にも殺害される。危難は息子にも及びそうになるが、元締め文吾兵衛らの活躍もあり、かわせみの玄関前の大捕物となる。真っ二つにされた犬張子の中に隠されたこよりの中には、孫を思う祖父の周到な心配りがあった。
第4話「鯉魚の仇討ち」、人前では決して描かない人気の高い絵師が、実は父親の絵を横取りした男だった。第5話「十軒店人形市」は、一種のどたばたコメディだ。東吾が仙五郎の孫に祝いに与えた旗を、正吉にも買ってやったら深川の長寿庵の長吉にも、源三郎の息子の源太郎にも、ついには七重に無心されて小太郎にも、という具合で、あちらでもこちらでも買わされる。事件はもう記憶にないが、東吾の苦笑が目に見えるようだ。なかなか愉快な話です。
第6話「愛宕まいり」、材木問屋の甲州屋に長年奉公したのに、暇を願ったら引き留めもされない。だが、馬に蹴られてケガをしたのが幸いして、火付け犯人にされずに済んだ。永年勤続の社員が窓際族にされ、なくなく辞職願を書くようなものですな。
第7話「蓮の花」、たしかお釈迦様が乗っている花ではなかったか。蓮沼に三十年間遺体が埋まっていたなんて、あまりぞっとしません。
第8話「富貴蘭の殺人」、預った花を枯らしたとして女が自殺したと言う。だが、女には自殺する理由がなかった。しかも、飼い犬は知っている人には吠えない。奥方の密通に気づいた殿様は、蘭のために詰腹を切らされている。神林東吾の推理が冴え、犯人があがる。

麻生宗太郎と七重の夫婦は、なんともとぼけた味があり、幸せを感じさせる。七重さんを見ていると、ほれた人に嫁ぐばかりが幸せではない、言い替えれば、恋愛が幸福への唯一の道ではないのだ、と感じる。
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平岩弓枝『御宿かわせみ20・お吉の茶碗』を読む

2005年10月16日 09時02分34秒 | -平岩弓技
夜の宴席のために、昨日はマイカー通勤ではなく電車を利用。休日、電車はあまり混雑せず、座って本を読めるのがありがたい。平岩弓枝著『御宿かわせみ20・お吉の茶碗』を読む。
第1話「花嫁の仇討」は、金目当てで仲人をする不誠実な医者に、なんとかして仇討ちをしようとする母娘の話。第2話は表題作「お吉の茶碗」、1箱いくらでまとめて売る骨董屋なんてあるのか、よく考えればわかりそうなものだが、まさか盗品売買だったとは。しかし、ネットオークションでだまされる現代の私たちも、あまりお吉を笑えないかも。第3話「池の端七軒町」は、息子が人にだまされて店を失った善良な祖母と勝気な孫娘が、喧嘩をしながらも二人そろって焼死してしまう、哀れな話だ。
第4話「汐浜の殺人」、塩谷のお内儀が長襦袢を誂えて「かわせみ」で誰かを待っていた。旦那がやってきて内儀は水死する。弟が横浜からやってきて、お内儀の死を知る。血のつながらない姉と弟、嫉妬する旦那の凶行、そして仇討ち。なんとも救いのない話だ。
第5話「春桃院門前」、双子のようにうり二つの娘が出会い、許婚が帰ってくると知って企んだ殺人。「二年ぶりに会って・・・あの人、あたしが変わったって・・・別の女のように見えるって」「変わりますよ、二人も人を殺しているんですから・・・」。自首したものの、牢内で喀血して息を引き取る。
第6話「さかい屋万助の犬」、子牛のような大型犬、狂犬病だったのですね。酔ってかまれた侍が娘を切り、自分も発病して死ぬ。だけど、切り殺されて犬が死んだことにされた娘は、かわいそうだよなぁ。
第7話「怪盗みずたがらし」、新たに雇われた女中だけが助かっている奇妙な偶然。るいの一言が、長助にはピンときた。源三郎の妻お千絵の実家に押し入ろうとした盗賊団の大捕物にようやく東吾も参加。第8話「夢殺人」、またも悪い娘とかわいそうな娘の対比。原因を作った父親が罪をかぶって悪い母娘を道連れに無理心中。春之助とお銀は幸福になれるか。

やれやれ。少々気が滅入る話が続く。途中にもう少しユーモアがほしい気がします、平岩弓枝さん。花世ちゃんの天真爛漫・無邪気な大活躍を期待いたします。
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