「おや! もーさん大きな眼帯をしちゃって、交通事故?」
「いやいや、白内障の手術をして、いま帰って来たばかり・・・」
「白内障の手術って痛くないの?」
「後頭部が少し痛かったけど、大したことはなかった」
「後頭部・・・・?」
「うン、飯盒のフタみたいな容器を目の下あたりに押し付けるように持たされるんだ」
「飯盒って、キャンプで飯を炊くやつかい?」
「そうそう、それを顔にあてがっていると、看護婦さんが左手で私の頭を動かないように押さえ付けたと思ったら、右手に持っていた木槌で後頭部をコーンとひと叩き・・・」
「そりゃあ痛かったろうな」
「すると、その勢いでポンと右の目玉が飛び出して容器の中に転げ落ちたね。
目玉の方は点眼薬の麻酔が効いているから痛くはないが、後頭部は麻酔をしていないから痛かったね」
「そりゃあ凄いね」
それから先は何しろこちらに目玉がないから、どんな手術をしているのか見えなかったが、何やら水道の蛇口でザバザバ洗っているような音が聞こえ、医者と看護婦があまり洗い過ぎるとふやけて元に納まらなくなるだの、何だか不安を呼び起こすような会話が聞こえて来て心配だったが、どうやら眼内レンズを入れる所まで手術が進んで、そこでレンズはキャノン製とレンズ付きフィルムのレンズとどちらにしますか?と聞くから、保険が効くならキャノン製にして下さいと頼んだら、次に保険は効かないがズームレンズは如何がですか?っていうからズームまでは要らないと断った。
「へー! 眼内レンズにズームがあるんですか?」
「そればかりか、天体望遠鏡用のレンズなんかもあって、職業によっては便利らしいね」
「も-さんの場合は天体望遠鏡でなくて、変態望遠鏡用じゃあないンですか?」
「品行方正の見本のような私を変態などとは、知らない人が聞いたら本当かと思うだろう!」
「知ってる人が聞いたら、やっぱり・・・と思うけどね」
「で、それから・・・」
眼内レンズの取り替えも終わって、目玉を元の位置に戻す段になって、看護婦の「あっ、落としてしまった」という声が聞こえたと思ったら「あ あ 白衣の裾で目玉のゴミを拭いちゃあダメだ」なんて医者の声が聞こえたりして・・・。
いろいろ不安もあったけど、ま、とにかく目玉も元の位置に治まって30分くらいで手術は完了!
「お前のジョークは妙にリアリティーがあって、どこまでが本当の話で、どこからが冗談かが判らないからなァ」
「このところ、ジョーク抜きのブログが続いたので、ここまでの話はその埋め合わせで書いているから、白内障の手術をしたのは本当だが、あとは全部冗談!」
白内障は、誰もがこんなに簡単に出来るのだったら、もっと早く手術をすれば良かったなどと聞くが、ここからはいろいろな不安もあるという本当の話
<2000人に1人くらいの確率で極めて稀だが手術後感染症をおこすことがある>という。
これまで1999人の手術はうまくいって、あなたがちょうど2000人めです・・・なんてのは嫌ですよ。
手術は日帰りだが、術後のケアで1週間は顔を洗らうのも、風呂に入るのもいけないという。
術後に眼内に水が入ると感染症を引き起こす原因になるというから、もちろん汗をかく野良仕事などもってのほかだ。
別に安静にしていなければいけないわけではないが、風呂にも入れないようでは外出もままならず、しばらくの間軟禁状態だ。
毎食後の抗生物質の他に、4種類もの点眼薬を5分おきに1日4回間違えることなくさし、寝る前には軟膏を塗る。
点眼に際しては石鹸で手を洗い、滅菌綿で目の回りを拭くなど術後のケアがけっこう年寄りには煩わしいから、事情が許せば1週間くらい入院して、術後のケアを任せた方が気楽かも知れない。
そして最後の不安は、手術を終えた人たちは一様にものがきれいに見えて嬉しいというが、私はこれが心配のタネでもある。
「どうして? 結構なことじゃあないか」
これまで曇った目玉できれいに見えていた93才を筆頭に茶飲み友達の美女たちが、明日になって眼帯をはずしてもきれいに見えるのかどうかがとても不安だ。
「勝手に不安がってろ!!」