ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

関税撤廃で注目度アップ必至?!「コンテ」チーズ@フランス

2019-01-28 18:01:33 | おいしい食べもん
先日も書きましたが、2019年2月1日に欧州連合(EU)と日本との間の経済連携協定(EPA)が発効する予定です。

EUと日本間の関税撤廃などの取り決めですが、関税撤廃となる中には、「チーズ」も含まれます。
ただし、関税撤廃対象となるのは「ハード系チーズ」で、それもすぐにはゼロにならず、段階的に16年目に撤廃(ゼロ)となります。

対象のハード系チーズは…
○ナチュラルチーズ(乳脂肪分45%未満のクリームチーズ/熟成ハードチーズ)
ナチュラルチーズを加工したチーズ(おろしチーズ/粉チーズなど)

“熟成ハードチーズ”には、チェダーチーズ、ゴーダチーズなどが入ります。
(平成29年12月に農水省が出した交渉結果概要による)

フランスで一番多く生産されているAOPチーズ「コンテ」、イタリアを代表するチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」なども熟成ハードチーズですから、段階的関税撤廃の対象になっているはず。

カマンベールやモッツアレッラなどのソフトチーズは関税維持、ソフト系の中でも、クリームチーズとブルーチーズは関税削減で合意されています。

であれば、私たち消費者が注目したいのは、当然、熟成系ハードチーズです。



フランス生産量No.1のAOPチーズ「コンテ」は日本でも多く流通し、ファンも多いかと思います。



コンテチーズの産地は、スイスに近いフランス東部のジュラ山脈一帯です。

おなじみのコンテチーズですが、昨年秋、コンテ用のミルクを生産している酪農家ジャン・フランソワ・マルミエ氏が来日した際に、私も初めて知るテイスティング方法を教えてくれたので、紹介したいと思います。


コンテ用ミルク生産酪農家 ジャン・フランソワ・マルミエ氏

ジャン・フランソワさんは、約2500軒あるコンテ用ミルクの酪農家の一人です。
彼らは単なる酪農家ではなく、チーズの所有権も持つ「コンテ生産者」です。

酪農家たちがミルクを持ち込む「フリュイテール」と呼ばれる協同組合が150あり、ここでチーズ職人が毎日チーズを作ります。

出来上がったチーズは、「アフィヌール」と呼ばれるチーズ熟成士の元に移されます。
ジュラには熟成、選別、出荷を専門とする企業が16あるそうです。

酪農家、チーズ職人、熟成士、この3者のひとつでも欠けると、コンテチーズは作れません。

「3者の協力がコンテチーズの成功の鍵。この連携がずっと続いていくことを願っている」と、ジャン・フランソワさん。





コンテチーズ用のミルクを生産するのは、モンペリアード牛に限定されています。
肉牛と乳牛を掛け合わせた品種で、フランスで最初の牛だとか。

牛1頭あたり最低1ヘクタールの牧草地が必要です。
4月から9月までは牧草地で、10月から3月までは牛舎の中で牧草を食べて育ちます。




秋から冬は、それまでに刈り取った牧草を干し草にして保管したものを食べます。
春の牧草、夏の牧草、保管用牧草はそれぞれ成分が異なりますので、乳牛が出すミルクの質も変わってきます。

チーズ工房から25km以内の酪農家で搾乳されたミルク(朝晩2回)は、24時間以内にチーズに加工しなければなりません。

ジャン・フランソワさんいわく、
「同じ品質を保つため、“カイエ・デ・シャルジュ”と呼ばれるAOPの仕様書がある。これがあることで、コンテ作りは次世代にも伝えていくことができる」



さて、コンテチーズと聞くと、私たちは“熟成期間”を考えると思います。

コンテの熟成は、最低4カ月、12カ月、18カ月、24カ月…と、さまざまですが、ジャン・フランソワさんは、とっておきのコンテを紹介してくれました。

それは、「6時間後のチーズ」です。


左)6時間後のコンテチーズ  右)製品のコンテチーズ

コンテチーズは、平均450リットルのミルクを銅の大鍋で加熱しながら作っていきます。
いくつかの工程を経て、圧搾後、型に入れられ、型はその日の晩か翌朝に外され、取り出されたチーズ(ホワイトチーズ)は熟成室に運ばれます。

「6時間後のチーズ」は、取り出した「ホワイトチーズ」の端っこ(エッジ、切り落とし)だそうです。

通称「赤ちゃんのチーズ」。当然、生産者しか口にできないものですが、ジャン・フランソワさんは、子供の頃はこれをおやつによく食べていたそうですよ。羨ましい~!

外観は白っぽく、バターのようです。
バターの香りがあり、味わいはヨーグルトやサワークリームのようなフレッシュさがあり、塩味はありません。
しっとりやわらかく、ゴムのような弾力があり、キュッキュという食感で、完成形のコンテチーズとはまったく違いました。

この赤ちゃんチーズが熟成を経て、コンテとして私たちのところにやってきます。




さまざまな熟成のコンテチーズ

ジャン・フランソワさんが、コンテチーズのテイスティング方法を教えてくれました。

チーズをテイスティングするのに最適な温度は14℃。
冷蔵庫から30分前に出しておきます。
少し冷えた状態の温度で、口の中でどんどん温めながらテイスティングします。



最初は、チーズ本体や外皮の色や状態などの“見た目”のテイスティングです。
フレッシュな牧草を食べた季節のミルクで作ったチーズの色は、草のカロテンの色で濃くなり、冬の干し草の時季のチーズは白っぽくなります。

次は“触る”です。
若い時期はむっちりとし、熟成が進むと水分が抜けてアミノ酸の白い結晶が見られ、ホロホロッとしてきます。



“香りを嗅ぐ”のも大事なテイスティングのひとつ。
片鼻ずつ嗅ぐやり方も教えてくれました。

この後、“味わう”があります。
でも、これで終わりではありません。

“聴く”もあります。
適当にカットしたコンテを耳元に持ってきて、二つに折ります。
すると、チーズの中の結晶が音を立てるというのです。

スパークリングワインの音を聴く、のはよくやりますが、チーズの音を聴くのは初体験でした!
皆さんも、ぜひやってみてください。

♪♪♪♪♪



気を付けたいのが、コンテの熟成についてです。
日本では、熟成期間が長い物を珍重しますが、コンテチーズの90%が7~17カ月熟成のもので、2年以上熟成したものは珍しいそうです。
コンテのチーズ玉そのものが長い熟成に耐えるものではなく、お金にもならないとか。

いくつかを比較テイスティングすると、熟成期間の長さの違いよりも、製造時期(いつのミルクか)や、チーズ職人(メーカー)、熟成士の違いの方が、より個性を出していると感じました。

ですから、「XXカ月熟成」の表示だけを見て買うのはもったいないです。



コンテは、そのまま食べるほか、料理にも使いやすいチーズです。


コンテチーズのグジェール (シュー生地のスナック)


コンテチーズのリゾット


コンテチーズのアイスクリーム



ジュラのチーズであるコンテには、同じ産地のジュラのワインがお勧め。



ジャン・フランソワさんの今回のセレクトは、サヴァニャン種のブドウを使ったアルボワの白ワイン。




チーズとワインがあれば皆が笑顔になりますよね~

冒頭に戻りますが、この魅力的なコンテチーズの関税がゼロになったら、なんて素晴らしいんでしょう~


[参考]

これさえあれば!コンテチーズ
https://blog.goo.ne.jp/may_w/e/d2adab0b0d98c6b029c0506b24f2c975

コンテチーズ【前編】世界最優秀フロマジェが語るコンテの魅力
https://blog.goo.ne.jp/may_w/e/81bfcf464f0c98e47c5a5466289cdb40

コンテチーズ【後編】コンテチーズを料理で楽しむ
https://blog.goo.ne.jp/may_w/e/74774ed23dc916d87bb4bb44848b4fc5

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