今年の3月の話で恐縮ですが、ワインにおける最高の資格であるマスターオブワイン(Master of Wine, MW)を持つイギリスのワインライター、ジャンシス・ロビンソン氏が来日し、都内でセミナーが開催されました。
ジャンシス氏は1950年にイギリスに生まれ、オックスフォード大学を卒業し、「ワイン&スピリッツ」誌を経て独立。
1984年にはジャーナリストとして初めてMWを取得。
多くの著書があり、公式サイトも持ち、世界のワイン界でも大きな影響力のある人物です。
Jancis Robinson's “Guide To Wine Grapes” 毎日のようにお世話になっています
(ウォンズ パプリッシング リミテッド刊)
日本に来るのは4回目という彼女の話を聴こうと、大きな会場に溢れんばかりの人の山!
セミナーの定員は700名だったはずですが、かなり会場を広げたようです。
「この10年のワイン産地の変化、この後10年の予想」が、今回のメインテーマ。
その中で出た話を、話題ごとにまとめて紹介していきます。
甲州ワイン
彼女がまず触れたのは、日本の“甲州ワイン”についてでした。
山梨のワイン生産者が2009年から始めた、日本の甲州ワインを世界にアピールするプロジェクト「KOJ」(Koshu of Japan)が、ロンドン市場を中心にプロモーション活動を行なってきたことで、イギリスのワインライターが甲州ワインへを理解するようになったといいます。
しかも、イギリスの有名小売業「マークス&スペンサー Marks & Spencer」が、甲州のPB商品をつくるまでになったとか。
調べてみると、「くらむぼんワイン」(山梨)の“Sol Lucet Koshu”という商品で、1本13ポンド(約2000円)でした。
※くらむぼんの当主の野沢さんに聞いたKOJに関するインタビュー記事(2014年4月)がありますので、そちらも参考にしてください → コチラ
http://blog.goo.ne.jp/may_w/e/5fcedde27fc1a24e33007f182d5a8379
甲州種は、2010年に国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に日本のブドウ品種として初めて登録されました。
OIVのブドウ品種リストに登録されると、EU諸国へ輸出・販売するワインのラベルにブドウ品種名を表示することができます。
ここ数年、日本では日本ワインが大変なブームですが、KOJプロジェクトの成功やOIV品種登録など、国外からの影響も刺激となったように思います。
※甲州以外では、2013年にMuscat BaileyA がOIV にブドウ品種登録されています
急速な変化の10年
「ワインのことを書いてきた40年の中で、この10年は最も急速な動きがあった」、とジャンシス氏。
20世紀のワイン生産は“量”が大事、つまり、いかに効率よく大量のワインをつくれるか?
ヨーロッパの伝統産地に、チリ、ハンターヴァレーをはじめとしたニューワールドが加わり、オーク風味の強いものが出てきました。
評価方法にブラインドテイスティングが始まり ビッグで大柄なワインが高い評価を受けるようになってきました。
温暖化でブドウがよく熟すようになり、アルコールの高いワイン、より凝縮感があり、オークの風味があるワインが注目され、高い評価を受けるようになりました。
ひとつのアクションが目立つと、反対のリアクションが出てくる。
今、強いリアクション出てきた、とジャンシス氏は言います。
畑、自然への回帰
これまでは醸造テクニックが重視されてきました。
それが、畑に注目が集まるようになり、小さな産地でも畑に変化が起きています。
新しい世代の生産者は、父と違うものを目指すようになっています。
父の世代は、ケミカルなものをたくさん使ってきました。
その反動で、祖父の時代の自然なものを目指す若い世代が増え、特に畑にその傾向が見られます。
今後は、オーガニック、ビオディナミ、より一層ナチュラルなものに積極的に向かって行く。
こうした“自然への回帰”はほとんどの人が感じていると思う、と彼女が語っていましたが、
次の世代、そのまた次の世代…に今の美しい環境を残すために、地球にやさしいワインづくりをする生産者が増えてきているのを私も実感してます。
また、バラエタルよりも地理名、単一畑、シングルプロットという捉え方への変化がどんどん進み、畑の中のパーセルごとに仕込むなど、それらがハッキリとボトルに反映されているワインが増えてくる、といいます。
よって、アペレーションがより重要になってくるけれど、逆のこともある。
例えば、フランスでは、特に若い人は、細かいアペレーションに従わず、違う方向に進むこともあります。DOCのルールに従わず、単なるVin de Franceだけれど高品質、というような。
この後、ジャンシス氏はさまざまな国の例を挙げられましたが、例が多いので細かい部分は割愛し、いくつかピックアップします。
仏ブルゴーニュ
涼しい村でも安定したワインができるようになっている。
サン・トーバン、サン・ロマン、ペルナン=ヴェルジュレスなど。
スペイン
人々は今までのDOに飽き飽きしている。
例えばカヴァなどは規制が緩いので、自分たちのルールでワインをつくるようになっている。
米ナパ・ヴァレー
変化していない。昔からいいワインがつくられ、リッチな人に販売されている地域。
英国
今、誇りを持って語れる。特にスパークリングワイン。
昨年、スパークリングのブラインド8つのうち上位2つが英国産だった。
中国
平均的な品質は高くないが、ワイン生産量がものすごく増えている。あと5~10年くらいでいいものが出てきて輸出されるだろう。30以上のボルドーのシャトーが中国を支配している。チャイニーズバブルは下火になってきたとはいえ、影響は続く。
消費国としても発展しており、特にギフト需要が多い。
ローカル品種への高まり
1995年、ジャンシス氏は、ブドウ品種はシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンが主役と見做していました。
当時は、限られた有名国際品種が多かったが、消費者はだんだんとこれらに飽きるようになり、ローカル品種に注目するようになってきた、と言います。
彼女が2012年に出版したブドウ品種の本には1368種を載せていますが、今は1500種あるのでは?と言っていました。
※この本は来年日本語版でも出版されるそうです
例えば、オーストラリアでは、今まではカベルネ、シラーシャルドネといった品種が中心でしたが、今は、イタリア品種、スペイン品種、さらにはギリシャ品種、ポルトガル品種もすでに植えられるようになっています。
ローカルブドウ品種に関しては、私もまったく同感です。
世界各国、その土地のブドウ品種があるのに、日本のワイン売り場に並ぶのは、カベルネやシャルドネばかり。もっとその土地らしい、造り手の個性が表現されたワインが飲みたいのに、っていつも思います。
ワインの民主化
「すでにワインは限られたエリートのものだけでではない」とジャンシス氏。
世界の若者もワインを飲み始めています。
これにはソーシャルメディアの発展が大きく関わってきており、SNSで世界中の人と共感をシェアできるようになってきました。
彼らは友人から情報を得ることができ、すぐにアンサーバックもあります。
また、ワインのラベルを検索するツールも登場しました。
WSETのディプロマを取得して有頂天になった人が、今や時代に取り残されるほど、ワインの世界は毎日変化しています。
ブランドは、より重要性が低くなっています。
マーケットの細分化が進んできています。
ワイン文化は成熟していない時代は、よく知られたブランド名が信用を築いてきました。
現代人は好奇心が高く、知りたいと思ったら、尋ねることに迷いがありません。
生産の現場では、労働力は機械化が進み、望むような仕事をしてくれるツールもありますが、考え方としては、先述したような、祖父の時代の伝統への回帰が見られます。
これからの10年
赤ワインは頭打ちになり、白ワインが増えていくのではないか?
地球温暖化の影響で、気温が高くなると重たい赤ワインを飲みたくなくなるから。
また、トップレストランでフードペアリングをする際、色々な料理に合わせやすい白ワインが提供されることが多く、赤は少ない。中国でさえも白ワインの消費が増えている(中国のワイン消費の中心は赤)。
ロゼは英国では人気があり、特に辛口のプロヴァンススタイル。
サステナビリティ
地球全体としてワインを捉えるべき
アクセラレーション
すべてがどんどんスピードアップしている
といったことが語られました。
大きな流れについては、日頃から自分でも感じていることでしたので、驚きはありませんでしたが、世界のトップジャーナリストの考えを聞きながら、色々再認識できたいい機会となりました。
もう一度この本を読み直してみようかなと思っています。
ジャンシス氏は1950年にイギリスに生まれ、オックスフォード大学を卒業し、「ワイン&スピリッツ」誌を経て独立。
1984年にはジャーナリストとして初めてMWを取得。
多くの著書があり、公式サイトも持ち、世界のワイン界でも大きな影響力のある人物です。
Jancis Robinson's “Guide To Wine Grapes” 毎日のようにお世話になっています
(ウォンズ パプリッシング リミテッド刊)
日本に来るのは4回目という彼女の話を聴こうと、大きな会場に溢れんばかりの人の山!
セミナーの定員は700名だったはずですが、かなり会場を広げたようです。
「この10年のワイン産地の変化、この後10年の予想」が、今回のメインテーマ。
その中で出た話を、話題ごとにまとめて紹介していきます。
甲州ワイン
彼女がまず触れたのは、日本の“甲州ワイン”についてでした。
山梨のワイン生産者が2009年から始めた、日本の甲州ワインを世界にアピールするプロジェクト「KOJ」(Koshu of Japan)が、ロンドン市場を中心にプロモーション活動を行なってきたことで、イギリスのワインライターが甲州ワインへを理解するようになったといいます。
しかも、イギリスの有名小売業「マークス&スペンサー Marks & Spencer」が、甲州のPB商品をつくるまでになったとか。
調べてみると、「くらむぼんワイン」(山梨)の“Sol Lucet Koshu”という商品で、1本13ポンド(約2000円)でした。
※くらむぼんの当主の野沢さんに聞いたKOJに関するインタビュー記事(2014年4月)がありますので、そちらも参考にしてください → コチラ
http://blog.goo.ne.jp/may_w/e/5fcedde27fc1a24e33007f182d5a8379
甲州種は、2010年に国際ブドウ・ワイン機構(OIV)に日本のブドウ品種として初めて登録されました。
OIVのブドウ品種リストに登録されると、EU諸国へ輸出・販売するワインのラベルにブドウ品種名を表示することができます。
ここ数年、日本では日本ワインが大変なブームですが、KOJプロジェクトの成功やOIV品種登録など、国外からの影響も刺激となったように思います。
※甲州以外では、2013年にMuscat BaileyA がOIV にブドウ品種登録されています
急速な変化の10年
「ワインのことを書いてきた40年の中で、この10年は最も急速な動きがあった」、とジャンシス氏。
20世紀のワイン生産は“量”が大事、つまり、いかに効率よく大量のワインをつくれるか?
ヨーロッパの伝統産地に、チリ、ハンターヴァレーをはじめとしたニューワールドが加わり、オーク風味の強いものが出てきました。
評価方法にブラインドテイスティングが始まり ビッグで大柄なワインが高い評価を受けるようになってきました。
温暖化でブドウがよく熟すようになり、アルコールの高いワイン、より凝縮感があり、オークの風味があるワインが注目され、高い評価を受けるようになりました。
ひとつのアクションが目立つと、反対のリアクションが出てくる。
今、強いリアクション出てきた、とジャンシス氏は言います。
畑、自然への回帰
これまでは醸造テクニックが重視されてきました。
それが、畑に注目が集まるようになり、小さな産地でも畑に変化が起きています。
新しい世代の生産者は、父と違うものを目指すようになっています。
父の世代は、ケミカルなものをたくさん使ってきました。
その反動で、祖父の時代の自然なものを目指す若い世代が増え、特に畑にその傾向が見られます。
今後は、オーガニック、ビオディナミ、より一層ナチュラルなものに積極的に向かって行く。
こうした“自然への回帰”はほとんどの人が感じていると思う、と彼女が語っていましたが、
次の世代、そのまた次の世代…に今の美しい環境を残すために、地球にやさしいワインづくりをする生産者が増えてきているのを私も実感してます。
また、バラエタルよりも地理名、単一畑、シングルプロットという捉え方への変化がどんどん進み、畑の中のパーセルごとに仕込むなど、それらがハッキリとボトルに反映されているワインが増えてくる、といいます。
よって、アペレーションがより重要になってくるけれど、逆のこともある。
例えば、フランスでは、特に若い人は、細かいアペレーションに従わず、違う方向に進むこともあります。DOCのルールに従わず、単なるVin de Franceだけれど高品質、というような。
この後、ジャンシス氏はさまざまな国の例を挙げられましたが、例が多いので細かい部分は割愛し、いくつかピックアップします。
仏ブルゴーニュ
涼しい村でも安定したワインができるようになっている。
サン・トーバン、サン・ロマン、ペルナン=ヴェルジュレスなど。
スペイン
人々は今までのDOに飽き飽きしている。
例えばカヴァなどは規制が緩いので、自分たちのルールでワインをつくるようになっている。
米ナパ・ヴァレー
変化していない。昔からいいワインがつくられ、リッチな人に販売されている地域。
英国
今、誇りを持って語れる。特にスパークリングワイン。
昨年、スパークリングのブラインド8つのうち上位2つが英国産だった。
中国
平均的な品質は高くないが、ワイン生産量がものすごく増えている。あと5~10年くらいでいいものが出てきて輸出されるだろう。30以上のボルドーのシャトーが中国を支配している。チャイニーズバブルは下火になってきたとはいえ、影響は続く。
消費国としても発展しており、特にギフト需要が多い。
ローカル品種への高まり
1995年、ジャンシス氏は、ブドウ品種はシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンが主役と見做していました。
当時は、限られた有名国際品種が多かったが、消費者はだんだんとこれらに飽きるようになり、ローカル品種に注目するようになってきた、と言います。
彼女が2012年に出版したブドウ品種の本には1368種を載せていますが、今は1500種あるのでは?と言っていました。
※この本は来年日本語版でも出版されるそうです
例えば、オーストラリアでは、今まではカベルネ、シラーシャルドネといった品種が中心でしたが、今は、イタリア品種、スペイン品種、さらにはギリシャ品種、ポルトガル品種もすでに植えられるようになっています。
ローカルブドウ品種に関しては、私もまったく同感です。
世界各国、その土地のブドウ品種があるのに、日本のワイン売り場に並ぶのは、カベルネやシャルドネばかり。もっとその土地らしい、造り手の個性が表現されたワインが飲みたいのに、っていつも思います。
ワインの民主化
「すでにワインは限られたエリートのものだけでではない」とジャンシス氏。
世界の若者もワインを飲み始めています。
これにはソーシャルメディアの発展が大きく関わってきており、SNSで世界中の人と共感をシェアできるようになってきました。
彼らは友人から情報を得ることができ、すぐにアンサーバックもあります。
また、ワインのラベルを検索するツールも登場しました。
WSETのディプロマを取得して有頂天になった人が、今や時代に取り残されるほど、ワインの世界は毎日変化しています。
ブランドは、より重要性が低くなっています。
マーケットの細分化が進んできています。
ワイン文化は成熟していない時代は、よく知られたブランド名が信用を築いてきました。
現代人は好奇心が高く、知りたいと思ったら、尋ねることに迷いがありません。
生産の現場では、労働力は機械化が進み、望むような仕事をしてくれるツールもありますが、考え方としては、先述したような、祖父の時代の伝統への回帰が見られます。
これからの10年
赤ワインは頭打ちになり、白ワインが増えていくのではないか?
地球温暖化の影響で、気温が高くなると重たい赤ワインを飲みたくなくなるから。
また、トップレストランでフードペアリングをする際、色々な料理に合わせやすい白ワインが提供されることが多く、赤は少ない。中国でさえも白ワインの消費が増えている(中国のワイン消費の中心は赤)。
ロゼは英国では人気があり、特に辛口のプロヴァンススタイル。
サステナビリティ
地球全体としてワインを捉えるべき
アクセラレーション
すべてがどんどんスピードアップしている
といったことが語られました。
大きな流れについては、日頃から自分でも感じていることでしたので、驚きはありませんでしたが、世界のトップジャーナリストの考えを聞きながら、色々再認識できたいい機会となりました。
もう一度この本を読み直してみようかなと思っています。