「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2008年12月21日)
第53回 Laurence Brun <Chateau Dassault>
今回のゲストは、仏ボルドーはシャトー・ダッソーのディレクターである
ローランス・ブリュン さんです。
<Laurence Brun> (ローランス・ブリュン)
1958年10月9日生まれ。
4人兄妹の末っ子。
1995年からシャトー・ダッソーのディレクターに就任。
サン・テミリオンで活躍する女性ディレクター
― Chateau Dassault ―
ボルドーの中でも人気が高いのが、右岸地区のサン・テミリオンです。
中世の雰囲気がたっぷりと残る街は世界遺産に指定されており、メルロ主体のしなやかなワインがつくられています。
シャトー・シュヴァル・ブランやオーゾンヌといった格付け最上級ワインのほか、シンデレラワインと呼ばれる超プレミアムなガレージワインもあり、非常に魅力あるワインが軒を並べている地域です。
そんな中、シャトーのディレクターとしてバリバリ活躍している女性がいると聞きました。
それが、ローランス・ブリュンさんです。
彼女は一体どんな人物なのでしょう。
ドキドキしながら約束の場所に向かうと…
Q.シャトー・ダッソーは、サン・テミリオンではどういう存在ですか?
A.所有する畑は24haあり、シャトーとしては、サン・テミリオンの中では大きい方です。
1955年にマルセル・ダッソー・グループが取得して今の名前になりましたが、その前はシャトー・クープリ(Couperie)という名でした。
とても美しいシャトーで、庭園も素晴らしいのが自慢です。
Q.格付けは?
A.グラン・クリュ・クラッセになります。
メルロが中心で70%をつくり、カベルネ・フランが20%、カベルネ・ソーヴィニヨンが10%です。つくっているのは赤ワインだけです。
Q.サン・テミリオンで白ワインをつくるシャトーがあったような?
A.シャトー・モンブスケやヴァランドローが白ワインをつくっています。しかし、サン・テミリオンのAOCで認められているのは赤だけなので、彼らの白ワインは“AOCサン・テミリオン”とは呼べず、単なる“AOCボルドー”になってしまいます。とはいえ、ものすごく高価なAOCボルドーですけどね(笑)
ローランスさんが描いてくれたサン・テミリオンの地図(上が南)
シャトー・ダッソーの位置は赤い×のところ
Q.ダッソーのワインのスタイルは?
A.まろやかで、フルーティーで、フィネスがあり、エレガントなワインです。
きれいさを保ちながら、芯は力強いワインを目指しています。
Q.そのためになにか特別なことをしていますか?
A.醸造技術を駆使するのではなく、まずはきれいに熟したブドウをつくることが大事と考え、栽培に力を入れています。といっても、収穫量にこだわるのではなく、ちゃんと太陽が当たり、風通しをよく、といった環境を整えることを重視しています。そうすると、ブドウはきれいに熟してくれるからです。
例えば、2008年の収穫は10月9日(ローランスさんの記念すべき50回目の誕生日でした)に始まり、24日に終えましたが、ここまで熟すのを待てるのは、ブドウをきれいに(=健全に)つくっているからです。
なお、栽培はリュット・レゾネ(減農薬)です。
Q.ワインづくりと“ラタトゥイユ”(ナス、トマト、ズッキーニ等の野菜をオリーブオイルとハーブで煮込んでつくるフランスの家庭料理)づくりは同じという考えなのだとか?
A.ダッソーでは、それぞれの品種は別々に小さいタンクで発酵させ、後でブレンドします。その方が品質のよいワインに仕上がるからです。
ラタトゥイユも同じで、それぞれの野菜を別々に煮てから後で合わせる方が、ずっと美味しく仕上がります。次はぜひこの方法でラタトゥイユをつくってみてくださいね(笑)
Q.なぜダッソーのディレクターになろうと思ったのですか?
A.父(Andre Vergriette)が長年ダッソーのディレクターをしていたことが大きなきっかけです。
私はダッソーのシャトーで育ちましたので、父が仕事をするのを近くで見てきました。また、小さい頃から収穫の手伝いなどをしてきましたので、自然と父の跡を継ごうと思ったのです。でも、単純に世襲したのではなく、きちんと面接を受け、その結果ディレクターに採用されました。
私は醸造のディプロムは持っていませんが、ボルドー大学のテイスティングコースは修了しています。
Q.あなたの他に兄弟姉妹はいないのでしょうか?
A.実は兄が3人います。が、兄たちはさっさと家を出て、ワインとは関係ない他の仕事に就いてしまいました(笑)
Q.ボルドーは男性社会ですよね?
サン・テミリオンでも女性ディレクターは珍しいのではないですか?
A.確かにボルドーは封建的でマッチョな世界です。しかし、オーゾンヌ、ボーセジュール・ベコーなどでも女性ディレクターが活躍しています。
ボルドーも少しずつ変化してきているかもしれません。
<テイスティングしたワイン>
Chateau Merissac 2002
「ダッソーのセカンドワイン“Le D de Dassault”を、日本では“シャトー・メリサック”という名で販売しています。
2002年のセカンドワインは、メルロ60%、カベルネ・フラン40%というセパージュです」(ローランスさん)
縁がオレンジ色がかり、熟成しつつある外観です。口にすると、とてもなめらかで、ベルベットのような舌触りです。よい飲み頃になってきていると感じます。
Chateau Dassault 2004
「2004年は、メルロ75%、カベルネ・フラン15%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%です。ダッソーのセパージュは年によって変わります」(ローランスさん)
メリサックよりもしっかりした構成のタンニンを感じました。ファーストワインであるせいかと思いましたが、ローランスさんによると
「2002年はそんなに良い年ではありませんでしたが、2004年はまあまあの年なので、ヴィンテージによる差が出ています」とのことでした。
Chateau Dassault 2005
評判の高い2005年ということもあり、果実味もタンニンもきっちりと凝縮し、ボディは非常に緻密。舌触りはゴツゴツせず、なめらかな丸みを感じます。パワーがあり、これは長い熟成が期待できそうです。
「これは本当に素晴らしいでしょう?やっぱり2005年は偉大な年だったことがわかると思います」(ローランスさん)
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■ インタビューを終えて
ボルドーのシャトーの女性ディレクターだから、ちょっと知的でクールなピリピリした雰囲気な人かも…と身構えていたのですが、ローランスさんが気さくな人柄だということを事前に聞き、まずはほっと一安心しつつ臨んだところ…
本当に明るくユーモアにあふれた活発な女性でした!
話をしていて楽しいのはもちろん、シャトー・ダッソーへの深い愛情がビンビンと伝わってきました。
ローランスさんは子供の頃からのシャトー・ダッソー育ち。前任のディレクターだった父アンドレさんがシャトーと娘に深い愛情を注いできた結果、父と同じ思いを持つ娘に育ったように思いました。
インタビューの翌日にも再会!
その思いはローランスさんの娘さんにも引き継がれているようで、23歳になる双子の娘さんの1人がワインの道に進み、海外で研修を重ねているとのこと。
もしや、ローランスさんの家系は女性の方がワイン好き?(笑)
娘さんの時代になる頃には、ボルドーは大きな変化を遂げているかもしれませんね。
これもまた、将来が楽しみな話です。
(取材協力)大榮産業株式会社
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2008年12月21日)
第53回 Laurence Brun <Chateau Dassault>
今回のゲストは、仏ボルドーはシャトー・ダッソーのディレクターである
ローランス・ブリュン さんです。
<Laurence Brun> (ローランス・ブリュン)
1958年10月9日生まれ。
4人兄妹の末っ子。
1995年からシャトー・ダッソーのディレクターに就任。
サン・テミリオンで活躍する女性ディレクター
― Chateau Dassault ―
ボルドーの中でも人気が高いのが、右岸地区のサン・テミリオンです。
中世の雰囲気がたっぷりと残る街は世界遺産に指定されており、メルロ主体のしなやかなワインがつくられています。
シャトー・シュヴァル・ブランやオーゾンヌといった格付け最上級ワインのほか、シンデレラワインと呼ばれる超プレミアムなガレージワインもあり、非常に魅力あるワインが軒を並べている地域です。
そんな中、シャトーのディレクターとしてバリバリ活躍している女性がいると聞きました。
それが、ローランス・ブリュンさんです。
彼女は一体どんな人物なのでしょう。
ドキドキしながら約束の場所に向かうと…
Q.シャトー・ダッソーは、サン・テミリオンではどういう存在ですか?
A.所有する畑は24haあり、シャトーとしては、サン・テミリオンの中では大きい方です。
1955年にマルセル・ダッソー・グループが取得して今の名前になりましたが、その前はシャトー・クープリ(Couperie)という名でした。
とても美しいシャトーで、庭園も素晴らしいのが自慢です。
Q.格付けは?
A.グラン・クリュ・クラッセになります。
メルロが中心で70%をつくり、カベルネ・フランが20%、カベルネ・ソーヴィニヨンが10%です。つくっているのは赤ワインだけです。
Q.サン・テミリオンで白ワインをつくるシャトーがあったような?
A.シャトー・モンブスケやヴァランドローが白ワインをつくっています。しかし、サン・テミリオンのAOCで認められているのは赤だけなので、彼らの白ワインは“AOCサン・テミリオン”とは呼べず、単なる“AOCボルドー”になってしまいます。とはいえ、ものすごく高価なAOCボルドーですけどね(笑)
ローランスさんが描いてくれたサン・テミリオンの地図(上が南)
シャトー・ダッソーの位置は赤い×のところ
Q.ダッソーのワインのスタイルは?
A.まろやかで、フルーティーで、フィネスがあり、エレガントなワインです。
きれいさを保ちながら、芯は力強いワインを目指しています。
Q.そのためになにか特別なことをしていますか?
A.醸造技術を駆使するのではなく、まずはきれいに熟したブドウをつくることが大事と考え、栽培に力を入れています。といっても、収穫量にこだわるのではなく、ちゃんと太陽が当たり、風通しをよく、といった環境を整えることを重視しています。そうすると、ブドウはきれいに熟してくれるからです。
例えば、2008年の収穫は10月9日(ローランスさんの記念すべき50回目の誕生日でした)に始まり、24日に終えましたが、ここまで熟すのを待てるのは、ブドウをきれいに(=健全に)つくっているからです。
なお、栽培はリュット・レゾネ(減農薬)です。
Q.ワインづくりと“ラタトゥイユ”(ナス、トマト、ズッキーニ等の野菜をオリーブオイルとハーブで煮込んでつくるフランスの家庭料理)づくりは同じという考えなのだとか?
A.ダッソーでは、それぞれの品種は別々に小さいタンクで発酵させ、後でブレンドします。その方が品質のよいワインに仕上がるからです。
ラタトゥイユも同じで、それぞれの野菜を別々に煮てから後で合わせる方が、ずっと美味しく仕上がります。次はぜひこの方法でラタトゥイユをつくってみてくださいね(笑)
Q.なぜダッソーのディレクターになろうと思ったのですか?
A.父(Andre Vergriette)が長年ダッソーのディレクターをしていたことが大きなきっかけです。
私はダッソーのシャトーで育ちましたので、父が仕事をするのを近くで見てきました。また、小さい頃から収穫の手伝いなどをしてきましたので、自然と父の跡を継ごうと思ったのです。でも、単純に世襲したのではなく、きちんと面接を受け、その結果ディレクターに採用されました。
私は醸造のディプロムは持っていませんが、ボルドー大学のテイスティングコースは修了しています。
Q.あなたの他に兄弟姉妹はいないのでしょうか?
A.実は兄が3人います。が、兄たちはさっさと家を出て、ワインとは関係ない他の仕事に就いてしまいました(笑)
Q.ボルドーは男性社会ですよね?
サン・テミリオンでも女性ディレクターは珍しいのではないですか?
A.確かにボルドーは封建的でマッチョな世界です。しかし、オーゾンヌ、ボーセジュール・ベコーなどでも女性ディレクターが活躍しています。
ボルドーも少しずつ変化してきているかもしれません。
<テイスティングしたワイン>
Chateau Merissac 2002
「ダッソーのセカンドワイン“Le D de Dassault”を、日本では“シャトー・メリサック”という名で販売しています。
2002年のセカンドワインは、メルロ60%、カベルネ・フラン40%というセパージュです」(ローランスさん)
縁がオレンジ色がかり、熟成しつつある外観です。口にすると、とてもなめらかで、ベルベットのような舌触りです。よい飲み頃になってきていると感じます。
Chateau Dassault 2004
「2004年は、メルロ75%、カベルネ・フラン15%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%です。ダッソーのセパージュは年によって変わります」(ローランスさん)
メリサックよりもしっかりした構成のタンニンを感じました。ファーストワインであるせいかと思いましたが、ローランスさんによると
「2002年はそんなに良い年ではありませんでしたが、2004年はまあまあの年なので、ヴィンテージによる差が出ています」とのことでした。
Chateau Dassault 2005
評判の高い2005年ということもあり、果実味もタンニンもきっちりと凝縮し、ボディは非常に緻密。舌触りはゴツゴツせず、なめらかな丸みを感じます。パワーがあり、これは長い熟成が期待できそうです。
「これは本当に素晴らしいでしょう?やっぱり2005年は偉大な年だったことがわかると思います」(ローランスさん)
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■ インタビューを終えて
ボルドーのシャトーの女性ディレクターだから、ちょっと知的でクールなピリピリした雰囲気な人かも…と身構えていたのですが、ローランスさんが気さくな人柄だということを事前に聞き、まずはほっと一安心しつつ臨んだところ…
本当に明るくユーモアにあふれた活発な女性でした!
話をしていて楽しいのはもちろん、シャトー・ダッソーへの深い愛情がビンビンと伝わってきました。
ローランスさんは子供の頃からのシャトー・ダッソー育ち。前任のディレクターだった父アンドレさんがシャトーと娘に深い愛情を注いできた結果、父と同じ思いを持つ娘に育ったように思いました。
インタビューの翌日にも再会!
その思いはローランスさんの娘さんにも引き継がれているようで、23歳になる双子の娘さんの1人がワインの道に進み、海外で研修を重ねているとのこと。
もしや、ローランスさんの家系は女性の方がワイン好き?(笑)
娘さんの時代になる頃には、ボルドーは大きな変化を遂げているかもしれませんね。
これもまた、将来が楽しみな話です。
(取材協力)大榮産業株式会社